「みよう本」では主人公のギルドの担当職員は、綺麗な年上のお姉さんと相場が決まっている。半端な主人公の専属となって、親身になって尽くすも、ヒロインの座はぽっと出の女の子に奪われる。受付のお姉さんは、捨てられる事前提の糟糠の妻である。
翻ってここ協会四国支部、通称四国ギルドにも、俺の担当職員の年上のお姉さんはいる。ただし職員はそれぞれ数十人を担当しているため、専属とかの制度はない。俺の担当は月代雪音さんといい、母の元部下だった人だ。年齢は教えてくれないが、20代後半のきつめの美人だ。くびれた腰と制服のタイトスカートのおりなす曲線美が素晴らしいが、見ないようにしている。彼女は協会の内勤の選抜者の職員である。嫌らしい視線はすぐ感づかれるに違いない。なお人妻でもある。
ちなみに担当と言っても、話をするのは今回で2回目になる。前に話したのは入院中の聴収の時だ。この時は母が一緒だったので、二人きりで話すのは初めてだ。少しドキドキする。俺が到着した時には幹之輔爺さんからの報告書は上がっていて、部屋が用意されていた。俺は獲得した魔石を差し出した。彼女は『鑑定』が使える。
「間違いなく、ゴブリンブレイブの魔石ね、石ゴーレム、ダイヤウルフ、スケルトン、報告書通りだわ。ちょっと待って、狂骨とか餓鬼とか出たわよ、思い当たることない?」
そう言えば、和風の骸骨とかゾンビがちらほら居た。狂骨とか餓鬼は、昔飢饉の多かった地域のダンジョンで見られるレアモンスターだ。四国地区では確認させていない。
「参ったわね。ダンジョンが拡張されたのは確定かしら。それにスタンピードの兆候まで、取り敢えずお疲れ様」
月代さんは鑑定を済ませると、内線で上司に報告する。お偉いさんが現れて挨拶された。
「次長の鹿島という。御上君、先日の救難の件と合わせてお礼を言わせてもらうよ。ところで明日の予定は?」
「今から中層へ潜って明日までオークを狩る予定です」
流れからもう徴集される事は明らかだ。
「すまない、協力してもらう。それと今回の件は内々に頼む。報告書通りなら影響が大きすぎる、詳しくは月代主任に聞いてくれ」
鹿島次長は挨拶もそこそこに出ていった。彼もこの件で忙殺されているらしい。
「御上君ごめんね、法律関係の詳しい説明いる?」
「いいですよ。大人しく言うこと聞いて、黙っていたらいいだけでしょ」
「物わかりのいい子は好きよ。それと私が明日現場で指揮取るから。ちゃんと働いてね」
ちょうど探索者たちが引き上げてくる時間だ。募集をかけているらしい。明日の調査は職員10名、中級以上の探索者20名程を予定してるという。いきなり日曜出勤は嫌われそうだが、今回は職員も含めて希望者多数。神秘の異空間を一度は見たいのは誰も同じだ。念の為待機してほしいと言う事で、報告書には書かれていない、ブレイブや石ゴーレムの体感的な強さや異空間の印象等雑談して時間をつぶした。ついでに今日得たスキルについても報告しておく。
。
「戦斧術のダブルなんて初めて見るわ。明日見せてちょうだい。いい機会だからスキルについて質問受け付けるわよ」
彼女は俺の担当なだけあって、公開予定のスキルだけではなく、非公開や保留にしているスキルも把握している。俺はすごく迷ったが、前からの疑問をぶつけてみた。母や詩央には聞きづらかったのだ。
「あのぉ、性豪とか性技にはダブルとかあります? それとこんなスキルは女性も持ってるんですか」
「さすがにお母さんには聞きにくいかな。この系統にダブルはないわ。『性技』は激レアだけど女の子も持っているわ。あそこがよくなって男性は早漏になるのよ。御上君なんかイチコロだわ。女性に『性豪』はいない。代わりに『絶倫』かしら。これは私持ってるから」
月代さんはあっけらかんと言い放つ。
「私も性豪と性技両方持ってる子は初めてみたわ。独身だったら試してあげたのに」
「残念です」
組みかえる月代さんの美脚が艶めかしい。『性豪』vs『絶倫』とか夢の対決だろう。人妻キャリアウーマンの黒タイツをビリビリしたい。太腿を頬に擦りつける許されざる振る舞い、勝利の栄誉は寝取る事だ。そしていつの日か『性技』の女の子を探し出して、手合わせをお願いしたい。女の子を何人抱けば巡り合えるのだろうか。
翌日俺は先行して調査隊を待った。露払いを仰せつかっていたからだ。
「お爺さん腕はいいんですか」
幹之輔爺さんは三角巾をつけていなかった。『自己回復』のお蔭で骨のひびは一晩で直り、古傷も痛まなくなった。素振りを見学しても、様式美の極致で参考になる。手にしているのはブレイブの刀だ。生涯現役の言葉が頭によぎった。俺の考えを察したのか、
「儂も引き際は弁えとるわい。ダンジョンはのう、調子に乗った奴から呑んでいくんじゃ。ところで御上君は25年周期説をどう思う」
ダンジョン25年周期説、50数年前に発生したダンジョンクリエーション、50年前に小さな変革があり、25年後に大きな変革が起きた。いくつかのダンジョンの規模が急拡大し、新しいスキルも観測された。ダンジョンの神秘といわれる異空間が確認されたのもこの時だ。当然多くの探索者が犠牲になった。今年は大変革から25年目に当たる。巷ではダンジョン25年周期説がささやかれている。最初の数年はチュートリアル、ダンジョンは25年毎に進化するというものだ。
「人知を超えたダンジョンを観測できるとは思えません。ダンジョンでは人は高みを目指し、かつ謙虚であれと思っています。もし変革があれば粛々と受け入れるまでです。生き死には僕の隣にありますから」
俺は疑似ダンジョンを始め、先日の中層で戦った強敵を思い出していた。運命の天秤がほんの少し向こうに傾いただけで、俺は死んでいただろう。
「良い心掛けじゃ。これは儂の繰り言になるが、昨日の体験は25年前を思い出してのう。ダンジョンの空気が似ておった。あの時は多くの友人を亡くした」
50年生き抜いた探索者の経験則だ。疎かにすまいと俺は誓った。
職員と探索者三十余名が揃ったのは10時前になる。大海さん達見知った顔もあって安心した。朱美と詩央は上級実習の遠征中で、一緒に調査出来ないのが残念だ。俺は探索者組の先導、幹之輔爺さんは、事務方と権利関係の確認に入った。
「月代さん、ここの異空間、朝がありますよ」
俺は事前の打ち合わせで、1時間ごとに異空間をチェックしていた。ここの異空間の明るさは外と連動している。ざわつくメンバーと全員で異空間を見学する。今回のメンバーは異空間に入るのは初体験だろう。全員が息を飲んで声も出ない。
ダンジョンの異空間は上級者が命懸けで辿り着くものとされる。それが地表から20分程で、ほぼノーリスクで見られるのだ。
「御上君だったか、半信半疑だったが来てよかったよ。いい思い出になった」
大海さんが笑顔で話しかけてくる。
「俺は、金は要らないから参加したいと頼んだぞ」
「そんなわけないでしょ」
「でもこのダンジョンこれから大変よね、探索者が殺到するわよ」
「馬鹿、非公開だろ。契約書かかされたし」
緊張から解かれた探索者達が、思い思いに語り始めた。誰もが表情が明るい。
かつての行き止まりの大広間が拠点となった。俺は遺憾ながらゾンビ探索班に組み込まれた。『洗浄』スキルの保持者がメンバーで俺だけだったからだ。長柄武器で叩き潰す俺の戦斧が、モンスターに相性が良かったのもある。魔法職は飛行系モンスターがいる異空間班に優先的に回された。俺は恨めし気に月代さんを見た。
ゾンビ探索班では俺がメインアタッカーになって、魔物を薙ぎ払っていく。『戦斧術』がダブルになった俺の前では、さすがに雑魚は相手にならない。倒れたゾンビやスケルトンをサブアタッカー達が止めを刺す、これが一番効率がいい。時折戦闘に参加しない職員さんが俺に倒して欲しい魔物を指さす。『鑑定』を持っているのだろう。その中からアイテムを落とすものがあった。小さな壺で中身は兵糧丸という、高機能携帯食品だった。ビー玉大の丸薬一つで一食分という。長距離遠征の必需品だ。それが餓鬼や狂骨から落ちるとは。俺たちの班は一番にノルマを達成した。全員が悪臭から逃れたかったのだ。
空気が美味い、俺達が『洗浄』を使って休憩してると、月代さんが現れた。
「御上君、お姉さんに戦斧術ダブルの実力を見せてちょうだい。石人形をなぎ倒して欲しいのよ」
ゴーレム班の進捗がはかばかしくないという。石ゴーレムまでは持ち込んだハンマーでタコ殴りして何とかなったが、その先の金属系で苦戦しているらしい。金属系のゴーレムはその色から、アイアンとコッパーだろう。硬いのと動きが速いので取り囲めないらしい。これらを倒して落ちてくるアイテムを確認するのが目的となる。
金属系ゴーレムはハイオーク位の身長とスピードがあった。そしてパワーと強度はけた違いだ。しかし、いくらゴーレムが素早いと言っても俺の方が早い。『魔力視』でゴーレムの魔核の位置を確認する。腹にある個体は一撃で、胸から上のものは膝を砕いての二撃で倒していく。さすがに体を撃ち抜く事は出来ないが、ハルバードの衝撃で魔核共々、大きく抉り取っていく。俺の『戦斧術』はこのタイプの魔物と相性がいいのだろう。余裕をもって20体以上一掃した。月代さん達が唖然としている。落としたアイテムは魔鉄と魔銅が一つずつ、俺はここでもスキルを拾った。二日続けてだ。
『強靭』……強くしなやかな筋肉
「これは武闘派の人は欲しがるわよ。力も強くなるけど体が滑らかに動いて、怪我をしにくくなるの。あなたみたいに重量武器を扱う人には必須かしら、よかったわね。それからスキルは異空間班でも3人会得しているわ、気にしないで」
ダンジョンが拡張した際は、スキルがよく落ちるらしい。飛行タイプの魔物に魔法職が張り切って、射撃系のスキルを会得したという。
月代さんはベテランの探索者や職員から冷やかされていた。今回の調査が無事に終われば、昇進が確実となる。話題の矛先を変えたいのか、例によって俺をからかってくる。
「御上君どうしよう、忙しくて家に帰れそうにないわ、離婚されるかも。そうなったら御上君のせいだからちゃんと責任取るのよ。わたしの絶倫で満足させてあげるから」
俺が異空間を発見したせいで、家庭が疎かになり離婚されるから責任取れという。彼女は猥談が趣味なのか、周りも笑っている。言われっぱなしも癪なので、
「いいですよ、僕の性豪と勝負です。泣かせてあげますから」
「お子様が強がってもダメよ。返り討ちにしてあげる」
全員で調査の成功を祝った。新米の女性職員だけはノリについて来れず、真っ赤になっていた。
後日、街角から一つのE級ダンジョンが消え、C級ダンジョンが新しく誕生した。ここがC級に収まったのはあくまで採算面の判断からで、付加価値を加味したものではない。ほぼノーリスクかつ短時間で異空間に行けるこのダンジョンは、研究や観光面とダンジョンの資源以外からも収益が期待できる。当面は非公開にして様子見だそうだ。
蛇妖精はとある場所で地下に潜って、ダンジョンの作成に勤しんでいた。と言っても、小さなダンジョンでも完成までには数十年かかる。その作業は遅々として進んでいない。
「どこかに美味しそうな魔力はないかな。あの子供捕まえておけばよかったよ」
蛇妖精は自分に懐いていた人間の子供を想っていた。彼を僕にすれば、仕事も捗ったであろう。早くボクを探しに来てくれるといいな。
突然、懐かしい数百年ぶりの魔力の波動が頬を撫でる。決して忘れられない神々しい魔力、いや神力だ。
「女神さまが来る。女神さまが異界渡りされた」
蛇妖精が狂喜乱舞する。漆黒の翼が闇に輝く。変革の時は近い。
地球に溢れるダンジョンは妖精の作ったものではありません。