※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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太陽フレア

 ギルドを後に、再びシーナを訪ねた。彼女が興味を示したのがスマホとネット網だ。俺はスマホとノートパソコンの購入を早急に約束させられていた。本来は俺の年齢なら、保護者の同意が必要だが、俺には中級ギルトカードの威光がある。問題なく購入出来た。やっと妹に追いついてきた。最近俺は、スマホに連絡先を自分で登録できるようになったのだ。鮮やかな白銀のスマホを大事そうに抱きかかえて、シーナはご満悦だ。シーナの銀髪に一番近い色の機種を選んだ。どうせシーナは俺にしか連絡しない、俺のお古の携帯で十分とも思ったが、金属板で絵が動いたり、キラキラ光ったりするのがお気に召したらしい。彼女はマニュアルの文字が読めないし、俺は読んでも理解できない。重課金されないか心配だ。

 俺はシーナに取り扱いを説明してあげる。といっても画面を何回がタップするだけなのだが。その最中、目ざとく俺の待受け画面にいる「新人ちゃん」を見つけてしまう。彼女は途端に不機嫌になった。

 

「サヨはこんな女がいいんだ。ダメダメ、師匠に対する愛が足りない」

 

 俺は待受け画面の「新人ちゃん」について説明した。彼女はランダムに姿を変えて、着信があると声を出して教えてくれるのだ。ファンクラブの特典だったが、流石に詩央には頼めない。クラスの男子どもに頼んで、俺のスマホの待受け画面とした。男子が電話してくると、その度に「新人ちゃん」がきゃーとか、負けないとか、ピンチの時の声を出して大好評だった。側で理生院達が軽蔑しきっていた。

 ところが何故かシーナが「新人ちゃん」に対抗心を燃やす。

 

「任せてよ、ボクならもっと可愛く出来る」

 

 止める暇なく、師匠は二つのスマホに魔法をかける。後で聞いたら、幻惑魔法と投影魔法の応用との事。今は待ち受け画面にシーナが舞い踊っている。何回視ても幽玄の世界の美しさだ。彼女は異界渡りしたからその通りなのだが。だけど「新人ちゃん」の待受けも惜しい。俺は大切な人からの着信は師匠が、それ以外は「新人ちゃん」が担当するよう提案してみた。師匠も納得してくれた。有象無象は雑魚に任せるそうだ。

 

「師匠、ありがとう。いつでも師匠と一緒にいられる気がする」

「百通りのポーズ、百通りの声を埋め込んだよ。激レアなやつもあるから探してね。ちゃんとヴァージョンアップもするよ」

 

 シーナがコールする。

 

「ボクだけの想夜ぁ……」

 

 蕩ける声、悩ましいポーズで、画面のシーナが呼び掛けてくる。素晴らしい、R18にならないギリギリの線だと思う。俺のスマホは世界で唯一の魔道具になったのだ。スマホ嫌いの俺がスマホ魔道具の所有者とか諧謔が効いている。

「みよう本」にはスマホを持って異世界転移するお話がある。何故かスマホが魔道具になっていて、こちらの世界の情報を引き出して知識チートしたりする。普段「みよう本」を馬鹿にする友人達も、このジャンルは読めると言う奴が多い。思うのだが、スマホで情報確認しながら作業するなど、今と代わり映えがしないではないか。せっかくの異世界だ、創意工夫で再現してこそ喜びも大きいというもの。

 それに「みよう本」では異世界転生が何といっても王道だ。転移では幼年期をメイドさんにかしずかれるという俺の憧れを実現できない。俺がもし異世界に転生するなら、メイドさんと一緒にコーラとポテチを発明するナイセイごっごをしたい。

 

 

 シーナが建造中のマイダンジョンについては、その扱いを保留とした。今のままでは法の定めるダンジョンの定義を満たしていない。だが届け出をずっとしないのも、俺や義母の立場上無しだ。そこで最低限のE級ダンジョンまで成長した時点で、俺が申請して管理することにした。これで何かのはずみで第三者が発見しても、シーナの存在が露呈するのも防ぐことが出来る。後はシーナが深く密やかに潜って、悪しき神々から隠れればいい。

 

 

 

「ところでサヨ、ちょっといい匂いがするけど、何かあったの」

 

 シーナが俺のわずかな変化に気づいてくれた。流石は呪いと恨みの専門家だ。俺はダンジョン中層での人狩りの事を、不思議な魔眼の美少女の事、懲らしめてやったが逃げられたことを話した。師匠のシーナが弟子の俺に指導をしてくれる。俺が彼女を辱めて返り討ちにした事は、師匠的には大変良いらしい。

 

「サヨえらい、いつも女を泣かしているから強くなった」

 

 日頃の行いを褒められた。確かに童貞だったら確実に負けていた。女を泣かすと強くなるのか。

 

「殺さず犯して恨まれる。ちゃんと正しい選択をしているね。相手の子の恨みは深いよ。何度でもサヨを狙ってくる。だけど殺さないでね。ちゃんと相手をしてあげて、もっと屈辱に沈めるんだ。そうすると魂を賭けてキミを呪う。その心を折る事が輝かしい勝利の条件になるよ」

 

 呪った相手の心を折る事で呪いを返す、流石は呪いの専門家だ。面白い、全身全霊をかけて俺を恨む相手を正面からねじ伏せるのか。遺恨を重ねて盛り上がるプロレスファイトみたいだ。「新人ちゃん」はいつも悪の女幹部風レスラーにやられている。俺は「新人ちゃん」を今度こそと応援しているが、もっと酷い目に合えとも、ほんのちょっと思っている。返り討ちにするとか、なんだか「新人ちゃん」とファイトするような気分だ。

 

「精神を操る魔眼は、恨みや憎しみでも強化される。気をつけてね」

 

 当然だろう、弱い彼女に勝っても面白くない。強くなった彼女のその上を行って何度でも踏みにじる、勝利の美酒はかくあるべきだ。異世界の作法ではこれが正義なのだろう。更にアクティブスキルであるはずの『運命操作』が勝手に発動した事については、

 

「相手も運命系の魔法、スキルだね、を持っている場合は互いに、干渉したり、反発したりする。時には予想だにしない事象が引き起こったりもする。お邪魔虫のトロールが出現したのも、因果が改変された結果かもしれない。もしそうなら注意して、次に女神さまが微笑むのは彼女かもしれない」

 

 師匠がいつになく深刻な顔をしている。彼女も俺と同じ運命系のスキルを持っていたのか。流石に師匠は博識だ。興味の湧いた俺は他にも色々聞いてみた。

 

 最近悩ましいのが俺の勧誘問題だ。先日などは支度金と称する、トランクいっぱいの現金を見せびらかして、俺を釣ろうとするクランがあった。現金払いしかしない俺の事を、お金が大好きな奴と思われたのか。これは流石に不快だった。お姉さんたちから食事に誘われたり、デートを申し込まれる事もある。パーティーの勧誘をほのめかしたりするが、こちらは不快にはならない。恐らく純粋な厚意から声をかけてくれる人もいるだろう。残念ながら釘を刺されているので、全部断っている。特に妹と朱美の怒りが怖いからな。

 

「ここはサヨが間違ってるよ。真っ当なのは対価を示して契約を求めた最初のクランだけ。後はボクのサヨを騙そうとしている、許せないよ。お姉さんたちを食い散らかして泣かせようよ。嘘吐きに報復を、サヨなら出来るよね」

 

 師匠が我が事のようにプンプン起こっている。専守防衛という言葉がある。国でも個人でも殴られるのを防御するだけでは、舐められることがある。こちらからの反撃がなければ、相手は失うものが極めて少ない。それ故に撃退しても何度でも手を出してくる。最近では悪しき前時代の思想として解釈される事も多くなった。三倍返しという言葉があるように、徹底的に反撃して相手に大打撃を与える方が、トータルでは相互の犠牲を減らせたりする。

 勧誘も同じだ。俺が断るだけなら、相手は何のダメージも受けない。ダメもとで声を掛け続けるだけでいい。笑顔だけならタダなのだから。

 異世界の作法はいささか過激だ。だけど騙そうとした相手から、接待だけ受けて後は知らん顔、相手は経済的にも女の子のメンタルにも大被害で、こちらはいい思いが出来る。俺に本当に厚意をもって接してくれる女性が心配だったが、こういう人はひどい目に合わせても許してくれる。師匠と話すと俺が如何に古い常識に囚われていたかが分かる、いや俺が異世界の作法に染まってきたのだろうか。

 

「ボクのサヨ、女の子をもっと泣かせて。怨嗟を糧に強くなって。そうしたら永遠に暮らせる」

 

 蛇妖精は想夜の成長が楽しみだった。音声伝達を介さない言葉、魔力言語でこっそり想夜に語りかける。二人だけのダンジョンで永久の愛を語り合いたい。

 

 

 

 シーナは香しい俺の魔力を味わいたいと、指定席の俺の胸の中へ潜り込んだ。その間にノートパソコンを立ち上げてみる。大丈夫だ、こちらもネットにつながった。文字の読めない師匠の為に、いくつかの動画サイト、ドラマやスポーツ、ニュースサイトをお気に入りに登録する。こちらはスマホより簡単なので大丈夫だろう。当然「新人ちゃん」の女子プロレスサイトを最初に登録した。

 俺はシーナにパソコンの操作を説明している。優雅にタップダンスを舞って、キーボードをつま先で軽やかに鳴らす彼女は世界最高の踊り子だ。試しにニュースサイトに接続してみる。ちょうどニュースサイトでは太陽の黒点が大きくなって、太陽フレアの活動が活発になっていると報道している。俺には天啓が走った。

 

「太陽フレアはダンジョンに似ている」

 

 電子機器の故障や情報の消失に注意するように呼び掛けている。つまりスマホが使えなくなり、電子マネーも使えない、現金払いしか出来なくなるのだ。

 

「師匠、二人で生み出す魔法の名は、太陽フレア、フレアにしようよ」

 

 前にシーナから師弟の絆を魔法として残す話をされていた。俺は師匠からの課題、師弟の証として開発する新魔法の名称を提案した。シーナはオーロラの神秘的な輝きに心を奪われてしまっている。

 

「すごい、すごい、ボクこの光の天幕がほしい。この天幕から降臨したい。女神さまになったみたいだ。いいよ、ボクたちの子供の名はフレアだ」

 

 師匠は服から跳び出して、宙を狂喜乱舞する、余程嬉しいのであろう。師弟の愛の結晶で生まれる魔法の名前を、我が子の様に慈しんだ。

 ニュースサイトでは磁気嵐とかプラズマとか10万度とか色々解説している。さっぱり理解できないのも、女神さまの造ったダンジョンと同じだ。ただこの魔法が顕現するときのエフェクトとして、オーロラが輝き、電子機器が使えなくなる。ダンジョンクリエーションの最中、スマホに依存していた連中はパニックになって、使い物にならなかったという。その中で俺達だけが情報を制するのだ。もう俺は無敵の魔法が出来る気がした。

 

「情報を焼き尽くして、概念を、存在を滅却させる、それには闇魔法? それだとオーロラが……」

 

 師匠が過激な事をブツブツ言っている。俺達のフレアがどんな魔法になるはまださっぱりだが、名称と副次効果だけは早々と決定した。

 

「サヨぉ、サヨぉ~」

 

 シーナは俺の肩に留まって、耳に息吹を注いだり、ほおに双丘を擦りつけたりして、べたべたと甘えだした。何かおねだりをされているようでとってもかわゆい。そよ風のような吐息が鼓膜を刺激して、脳を優しくくすぐる。乳房の甘い香りでほおが、そして心も蕩けそうになる。神々の飲み物もかくの如く匂うのか? 弟子を甘やかすのではなく、自分から甘えるとは仕様のない師匠だ。

 ふと、朱美と詩央を妻にして、師匠を愛人に郊外で穏やかに暮らすスローライフを想像した。「みよう本」では主人公は、スローライフを目指すのが定石である。だが、高校生になったばかりで、社会人の経験もない俺がスローライフとは笑止千万だったのか、ダンジョンの女神さまは笑えないイベントを用意された。俺も、周囲の人達も、それぞれの立場で挑み、踊らされる事になる。

 

 






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