※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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スタンピード3 奥義「村雨」

 正門前で自治会主力と合流した俺は、散々弄られていた。避難民の誘導が終わったところで、皆一息ついていたのだ。

 

「モンスターの代わりに校舎を壊すなんて、馬鹿じゃないの」

「あなたをモンスターミカミと命名するわ」

「御上よぉ、どうせなら職員室をめちゃくちゃにしてくれよ」

 

 言葉とは裏腹に主力メンバーの顔は明るい。今は強力な火力を持つ探索者が何より必要だ。主力はオーク程度なら個人で対処できるであろう。だが更に大型のハイオークやトロールクラスには分が悪そうだ。正門前にはモンスターどもが集結して数を増している。ゴブリンを前方に押し出して、後方にオークを揃えて陣形らしきものを組んでいる。総数では千に迫っている。

 

「よくやった、お前の馬鹿のお蔭で、いい意味で緊張が取れた」

 

 褒められたのか皮肉なのか分からない。俺は風紀委員長、いや今は自治会トップだから剣風姫か、に説明を受ける。

 

「強力な指導個体がいるな。普通に攻めてもらった方が、個別撃破が出来て楽なんだが、避難民が襲われずに助かった面もある。そしてこちらの方ももう少しで、探索者と自衛隊の合同部隊が到着する。この方面から横殴りして、可能なら導線を協会への直行コースに変えるつもりらしい」

 

 剣風姫が市街の地図の一角を示す。川沿いの道路に誘導してから、後に対岸から砲火。陣を張る徳島ギルドに追い立てて殲滅するのが、協会と自衛隊の作戦のようだ。それに神戸の西日本支部や隣県からも、先発隊が応援に出発している。まさに後2時間の辛抱だ。防災無線が設置されている。スマホの繋がりにくい今、これで連絡を取り合っているのだろう。

 

 警報ランプが点滅し、学園を囲む外壁全体に高圧電流が流れる。獣除けならぬ、対モンスター用の電気柵だ。人間なら一瞬で黒焦げになるレベルで、通常種のオークまでなら防げる。ただし、正門前だけは敢えて流していない。モンスターの導線を正門に誘導して、一度に侵入してくる数を制限するのだ。そうすれば防衛側も少人数で火力を集中できる。

 こちらの布陣は前衛に選抜者50名程。脇を警察、自衛隊志望の上級生が小銃を持って同数で固める。後方支援の一般生徒が100名。3人一組で行動し、警棒か金属バットを持っている。雑魚ゴブリンなら充分対応できる。このメンバーは兵站、伝令、救護を担当する。加えて屋上には生徒会長率いる魔法職が20名程。他に斥侯が散兵を兼ねて10名程、周辺を警戒しているという。

 人間側が圧倒的に少ないように思える。だが雑魚ゴブリンにオークが混じる位なら、俺と剣風姫と魔女姫様の生徒会長なら、一時間で一人百匹は楽勝だ。現状なら充分押し切れる。ただ魔女姫様は飛行タイプの魔物担当で、どれだけ援護が出来るか分からない。それに上位個体やボス級の特殊個体がいた場合は、俺か剣風姫が主に相手をする事になる。既に指揮個体が推測されている。ゴブリンかオークのジェネラル以上がいるのは確定だろう。更に問題なのが、中層、深層のエリアボスが現れた場合だ。

 

 合同部隊の配置が終わったとの連絡と同時に、モンスター部隊も動き出した。正門の柵に大量のゴブリンが押し寄せ、押し倒そうとする。

 

「一番槍行きます」

 

 俺の全力は周囲を巻き込む。ボッチ確定の俺は格好つけて塀を乗り越え、正門前の広場の左手に陣取る。同様に風剣姫も右側に陣取った。大将が最前線はアレだが、モンスターの進入路を正門に集中させるにはこれが一番だろう。戦いの時間だ。

『魔力視』で指揮系統を持っていると思わしきゴブリンを確認する。『鎌鼬』で真空刃を起す。先日、人狩りにあった俺は、『鎌鼬』は対人用に秘密にしておきたかった。だが状況が許さない。通常の『鎌鼬』は真空刃が一枚でゴブリンを一匹切り裂くが、俺は三枚、威力も一枚で数匹切り刻む。生まれついての高魔力に、『風魔法』と『魔力強化』がダブル、『魔力視』で魔力を認識、それに『器用』が補正、【魔道】が全体の底上げをする。威力は3×3の9倍だ。一度の発動で10匹ほどのゴブリンを仕留め、同数のゴブリンに傷を負わせる。だが足りない、ここまでお膳立てされて、俺はこの程度なのか。

 もう一度ゴブリンの肉壁に『鎌鼬』をぶつけて、指揮個体への道を造る。ハルバードの一振りで数体が千切れ飛ぶ、突進で何匹か貫き、その倍以上を薙ぎ倒す。続いて肉壁を跳び越え、背後から撫で切りにする。剣も槍も戦斧の前では蟷螂の斧だ。盾も紙のように切り裂いていく。はた目からは、俺の周囲のゴブリンが吹き飛んでいるように見えるだろう。だが、まだ弱い、『身体強化』と『戦斧術』がダブルなのだ。『風衣』、『強靭』まである。魔物を屠った経験値はどこへ行った。もっと強くなれるはずだ。

 ならばもっと足掻いてみよう。足りない部分はせめて手数で埋めてやる。俺は全力で斧を振り、走って跳ぶ。機会を窺い魔法も放つ。もう何度繰り返したか分からない。やがて俺の背後にはモンスターの屍が広がり、ついに指揮個体のゴブリンロードへとたどり着いた。一枚で造った巨大な『鎌鼬』とロードの堅牢な『障壁』が激突する。『障壁』を砕き、ロードに傷を負わすも、仕留めるには至らなかった。だが親衛隊と思しき上位種も、もう俺の敵ではない。たちまちのうちに切り伏せ、ロードの首も簡単に落とす。ちょっとだけ強くなったかな? 統率を失ったゴブリン達は浮足立ち、自治会メンバーにたちまちのうちに狩られていく。

 俺は剣風姫を目で追った。ちょうどゴブリンブレイブ数体を、同時に切り伏せたところだ。倒したゴブリンの数は俺より多く、疲労も少ないようだ。彼女は少なくとも対人戦においては、俺より圧倒的に強い。

 

 

 

 古武術、神瞑流魔法剣「水の型」正統後継者、剣風姫こと神瞑弥生。彼女は父親から奥義「村雨」を伝承された。「村雨」の名称は、獣姦した姫様が生んだ剣士の愛刀から取られている。刃先からは玉露が滴り、炎を払う。鋼鉄を斬り、岩を穿つ。その正体は水魔法である。剣の才能に加えて、『給水』と『洗浄』が必須となる。

 刀を『給水』で覆うことで、血糊を落とし切れ味を保ち、摩擦を減らす。炎には水をかけてこれを鎮める。ハルバードの血糊を『給水』で流す位は俺もやる。焚火に『給水』で水を落とせば火も消える。ここまではいい。そして『洗浄』、刃で斬ると同時に、血肉を汚れとして認識して、瞬時に滅却させるのだ。分厚い肉塊も頑丈な骨も、ほとんど抵抗もなく切り裂くと言う。便利だが戦闘で使えないスキルの代表格『給水』と『洗浄』、これを極限にまで洗練させて必殺剣とした奥義「村雨」。神瞑流は頭おかしい。剣風姫はこれに風魔法を加えて神速の剣を振るう。そうでなくても彼女は『剣術』がトリプルだ。

 

 対モンスター戦を想定した神瞑流の中興の祖、神瞑無三氏は高名な探索者でもあり、毀誉褒貶の激しい人物でもあった。ダンジョンクリエーション以前、古武術はスポーツ化していたが、神瞑流はこれを嫌い、殺法に拘った。そのためスマホ全盛時代のダイヤル電話の如く、風前の灯となる。

 若き無三青年は、ある日、違法に所持していた日本刀を持ち出し悦に入っていたが、そのままダンジョンの深層へ招かれてしまう。嬉々として斬り結んだ無三青年は当然のように生還し、その後魔法剣士に憧れてダンジョンに入り浸った。そして開眼した対モンスター用魔法剣「焔の型」と「水の型」。「焔の型」は火魔法のうち、『炎弾』や『爆炎』等幾つかの候補の内一つを覚えれば事足りるため、継承者は何人もいるが、「水の型」を継承できたのは無三氏の末娘の神瞑弥生、唯一人。

 無三氏は探索で築いた巨万の富を資本として、沢山のお妾さんを囲い、数多くの子を成した。子息、子女には選抜者を引き当てる事を前提として、幼少より過酷な修行と独自の精神修養が施される。彼の子供たちは「事故死」や「廃人」が異常に多い。

 

「肉塊は塵芥の寄せ集めにすぎず。汚れし命を斬り浄めよ……」

 

 徹底的な刷り込みを物心ついた頃より行う。歪んだ潔癖症が対象を「汚れ」として認識して『洗浄』スキルを暴走させる。飲み水とクリーニングの魔法を極めて、最強の剣技を獲得させるには、果たして何人の子供が必要であったのか。ちなみに「焔の型」は主に門弟が継承し、選に漏れた無三氏の子供と婚姻関係になるという。

 先年、無三総帥は逝去された。生涯現役の座右の銘の如く、死因は腹上死であったと噂されている。風剣姫と父親の無三総帥の歳の差に言及すると殺されそうだ。

 

 ゴブリン軍団はほぼ殲滅されたが、捨て石にするのはオーク達には予定調和であるのだろう、動揺はない。群れの中には上位種や特異種らしきものも散見される。俺はオークに何かと縁があったが、数百匹のオークに取り囲まれたのは初めてだ。

 

「先輩、背中は預けます」

 

 一度は言ってみたかったカッコいい台詞だ。俺は叱られると思ったが、剣風姫は黙って俺と背中を合わせてくれた。認めてくれたのだ。強い雌の匂いがする。俺は再び漲ってきた。それはオークどもも同様で、奴らは興奮のるつぼと化している。

 真っ先に動いたのは剣風姫だ。『縮地』からの居合、神速の抜刀で上位種三体を同時に切り裂く。血煙の中に立つ剣風姫は、いつもの3倍美しい。鞭の如くしなる肢体、舞い踊る白刃、刃先より滴る雫は霧となり、日の光で虹を描く。彩虹の中の剣風姫の演武は、見る者全ての心を奪った。俺はもちろん、オークさえも我を忘れてしばらく見惚れた。こんなにも強く美しい雌を欲さずして、雄に生まれた意味はあろうか。

 オーク達は剣風姫に怒涛の如く押し寄せる。彼女は分厚い肉壁も苦も無く断ち切り、大将首へと迫っていく。奥義「村雨」に斬れぬものなし。

 

 俺も強く美しい剣風姫のせいでたぎっている。彼女を欲している俺はオークと同類だ。彼女に挑む事の出来る雄は唯一匹のみ。彼女への肉欲が戦意へ代替されて、闘争本能が漲っていく。

 

「剣風姫を僕だけのものにする」

 

 俺は彼女の背後に回り、オークどもを叩き潰す。剣風姫を守っているのではない。強い雄の座を賭けて、ライバルを蹴散らしているだけ。化物達をぼろ屑のように葬っていく。俺の性欲はオークの獣欲より強いのだろう。それにこいつらは「オークの王子様」はおろか「お姫様ズ」より格下だ。上位種も多数混じっているが、もう苦にならない。俺には当面の目標が出来たのだ。いつの日か剣風姫を組み伏せてやる。

 

 最後に俺と対峙したのはクレイモアをかざす巨躯のオーク。あの「オークの王子様」より更に大きく、以前やり合ったタンクより筋肉質だ。オークの聖騎士、いや暗黒騎士と言ったところか。速さは俺が上だが、力とタフネスは向こうが勝った。『金剛』、魔力コーティングされた鋼鉄の皮膚は、俺の渾身の撃ち込みにも浅い傷がつくだけだ。

 探索者の強化された身体であっても、疲労は溜まる。戦斧が急に重くなった。ポーションで回復する暇もない。一合、二合と打ち合う毎に、俺はどんどん押されていった。死へのゴールが視えてきた。後数合で俺の命運は尽きるのか。それでも俺は前へ出る、可愛らしい師匠の言葉を胸に秘めて。

 これが最後の一振りだ。

 

「負けないで、進んで、常に強くありなさい。止まってしまうとスキルはキミを助けないよ」

 

 息をする様に風魔法がハルバードに乗る。神速の一撃を繰り出せば、暗黒騎士の鉄壁の胸板を見事に打ち破った。だが止めを刺すには至らない。硬質の筋肉が戦斧を受け止め、内臓へのダメージを和らげた。暗黒騎士は大剣を捨て、肉弾戦に持ち込もうとする。圧倒的な体格差で俺を鯖折りにしてへし折る気だ。その瞬間、暗黒騎士に、食いこんだ戦斧の刃の先からいくつもの『鎌鼬』がほとばしる。奴の体内で内臓を、筋肉をズタズタに切り裂いていく。オークの暗黒騎士は全身から血を噴き出して死んだ。オークエンペラーを屠った剣風姫が、険しい顔でこちらを見ている。

 

 オークを殲滅し終わるとモンスターの進軍は途絶えた。だが終わりではない。迫撃砲の音と硝煙の臭いが迫ってくる。雲が湧き、日が陰る。風が吠え、気圧が下がって耳鳴りがした。大物が残っている。

 

 




神瞑無三氏は武蔵のお父さん、新免無二がモデルです。
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