絶対に許さない、許さないんだから」
春凪沙織は憎い少年の事を想い続けた。
妹の呪い対策でハーピーを狩ろうとしたが、なかなか上手くいかない。そんな時、ソロの想夜と遭遇した。彼は沙織の好みど真ん中の少年だった。心がときめく。何しろ沙織が出会う男はきも男か、ちんぴらばかりだ。少年は中性的な美貌に加えて、庇護欲をそそりながらも、不思議に強くて命の溢れる雰囲気を漂わせている。目の保養だ。だけどアイツは悪魔だった。悪魔は美しい人の姿となり誑かすと言う。わたしを卑怯な罠に嵌めて散々に凌辱した。亡き両親の唯一の形見のこの恵体を、思いきりいいようにされてしまった、悔しい。少年は強姦魔のクズ野郎だ。実に手慣れていたと思う。いつも多くの女性を泣かせているのね。世界一残酷な少年に、この恨み、如何にして晴らそう。
最初、沙織は想夜を殺すつもりなど全くなかった。下心で近づいてきた男性探索者を操り、貴婦人の羽根を奪ってから全員の記憶を消す、それで上手くいくはずだった。妹の為に羽根を獲って来てくれたのだ、罪滅ぼしでいい夢を見せてあげよう、優しい気持ちで接してあげたのに。だけど少年は自分と同じ魔眼持ちで好戦的だった。逆に自分の正体にまで感づいてしまう。妹の為だ、彼女の『知力強化』が最適解を導き、『精神異常耐性』で冷酷に実行に移す。だけど悪い奴ほど強い。痛恨の反撃を受けてしまう。
自分の秘密、未登録ダンジョンの事を打ち明けよう、彼が協会に報告すれば報奨金と栄誉を得られる。おいしい取引のはずだ。だけどエロガキは頭も悪かった。聞く耳なんて持たないで、わたしの躰に獣のように齧りついた。人の心はないの、もしあいつに妹がいるなら、妹にも手を出す鬼畜に違いない。
「痛い、痛い、痛いんだから」
時折襲ってくる激しい幻痛に沙織は声を上げて悶絶する。破瓜の激痛が繰り返し少女を襲う。股の奥が焼け付くように痛い。経験のない少女でも分かった、アイツはわざと痛くしている。痛くして、僕を忘れるなと嗤っているのだ。辱められた時、彼の顔は見えなかった。だから想像が止めらない。どんな風に興奮しているの、笑っているの、楽しんでいるの。
「いやよぉ、あはぁ~~~」
強制的なエクスタシーに耐えられず、忘我に落ちる。
スキル『精神耐性』が解かれた今、恐るべき快感が少女を襲う。激痛の後のエクスタシーは効果が何倍にもなる。沙織は股間から蜜を滴らせてその場に崩れ落ちた。犯されてイカされる屈辱に胸が張り裂けそうになる。
「駄目ぇ~、欲しくなんかないんだから」
お腹の中で大きな蟲がピクピク蠢く。少年の子種がまっさらな子宮に撒き散らされた。自分は悪魔の子を孕むかもしれない。絶望に頭を抱える。なのに子宮は赤ちゃん欲しいと疼いてやまない。アイツにこんな浅ましい躰にされた。
トロールの不自然な登場で、唐突にレイプは終わる。
「何で出てくるのよ」
驚く事に沙織に沸き上がった感情は失望だった。仰向けにされて組み伏せられた。あの子が凝視してくる、もう魔眼を使う気力もない。彼の瞳が眩しく、眼を閉じて待った。沙織には予感があった。今度の挿入でわたしはおかしくなる。辛い事、全部忘れられる。もうあの子に縋りついて思い切り泣きたい。そうなったら奉仕を、服従を強要される。わたしは狂喜して応えるのね。
傾城の美貌が恥辱に歪む。何が許せないって、自分が一番許せない、恥ずかしいんだから。最低の子供に最悪より酷い目に合わされた、心が挫けて悦びを欲した。このままでは、永劫に想夜に辱められる。アイツとわたし、もう同じ世界で生きてはいけない。
犯されて嘆き悲しむ美少女の姿は尊い。それでも奈落の底から這いあがり、仇を討とうとする有様は、健気であり、凄絶であり、気高いどころか神々しくもあった。もう魔眼など使わなくても、沙織は全ての男を惹きつける。魂を賭けて想夜を憎む。世界で一番強い恨みが沙織の美貌を傾城、傾国の域に押し上げた。歴史に残る伝説の女性達と比べても遜色がない。地表なら、想夜は全男性の敵となったであろう。
ここはダンジョン、あまたの命がしのぎを削る神の箱庭。ダンジョンに染まりつつある二人には、もはや殺す、殺されかけたといった人の理は些事となる。想夜が沙織の魂を汚した。思う存分食い散らかした。いずれ沙織は取り込まれて、想夜の玩具と定義される。報復せねば、想夜という存在を抹消して、自己を回復するしか救済の道はない。そして想夜も沙織の想いを受け止めて、返り討ちにするという抑えがたき欲望に囚われた。強い命、強い魂、強い想い、一人だけが生き残る。二人はダンジョンの流儀で戦う事を選んだ。
残酷な少年の事を想いながら、沙織はあてどもなく彷徨う。その胸の内は男の事で一杯だ。最愛の妹の事も、社会への恨みも頭から抜け落ちていた。日頃は怠らない周辺への警戒も疎かになり、先日惨事のあったオークの巣へフラフラ迷い出てしまう。そこで同胞を想夜達に殺されて気が立っているオークに接近を許した。
状況は絶望的だ。上位種の混ざったオークの群れ50匹近くに取り囲まれれば、戦闘特化の上級探索者でなければ切り抜けられないであろう。このまま嬲り殺される。彼女は希った。もう一度あいつに会いたいと。必ず殺す、会って恨みを晴らしてやる。魂だけでも辿り着く。私の魔眼で跪かせてじっくりいたぶる。犯された屈辱を何倍にもして晴らすのだ。
醜く好色なオークの顔が自分を辱めた美貌の少年の顔に見える。憎い、あの子は魔物だ。人の身は滅ぼうと、必ずアイツに会いに行く。魂だけでも辿り着く。沙織は呪わんばかりにオークを睨んだ。カチリと心のどこかで音がして、何かが外れて、何かがはまった。その瞬間、全てのオークが膝を折る。ダンジョンのお姫様の誕生に怪物どもの咆哮が上がる。そして彼女は理解する、己の魔眼が魔物にまでも届いた事を。復讐の時は来たれり。
彼女の魔眼『魅了』がモンスターを支配した瞬間であった。『魅了』は世界で過去数例しか確認されていない稀少なスキルである。異性に対してのみ有効だが、その支配は強烈だ。過去の保持者は、全て国家の厳重な管理下に置かれた。
『洗脳』等、精神を支配する魔眼は、人間にのみ有効でモンスターには効果がないとされている。果たしてそうか? 実はこの種の魔眼はモンスターにも効果がある。所有者が多くの同胞を操り、破滅させることで、魔眼は進化する。通常、社会の常識と良識に囚われてしまった魔眼保持者は、この域に到達することが出来ない。だが沙織は違った。未登録の魔眼保持者として、躊躇なく薄汚い男どもに魔眼を使った。護身のため、生活の糧を得るため、復讐のため、『魅了』は熟練していき、恨みを糧に遂にヒト種の壁を超えた。
彼女のもう一つのスキル、『魔力擬装』もこれを後押しした。一見何の役にも立たないこのスキルは、オーク特有の魔力を擬装する事で、自分をオークの支配階層と錯覚させた。
「これで殺せる、あいつを探そう。この恨み百倍にして晴らすんだから」
世界で一番強い願いだけが神様に届く。万物を慈しむダンジョンの女神さまは憐れんだ。想い人に会いたいのね、儚き命よ、幸あれと。
恨みの強さを力に変える。想夜への憎しみだけが生きる糧になった。躰の底から魔力が、生命力が怒りと共に沸々と湧き上がってくる。気力も体力も充実させて、沙織は力強く歩み始めた。如何にダンジョンが広大で複雑でも、その出入り口は一か所しかない。待ち伏せればいずれ会える。そこへ協会職員が駆け寄ってくる。こんな奥まで非戦闘職の職員が入ってくるのは珍しい。沙織は『変装』で自分の姿を地味子に偽った。
「大規模スタンピードが発生しました。協会権限にて、全探索者に招集をかけます。至急徳島支部まで戻ってください」
ああ、あのダンジョンが溢れたのね、沙織は秘密裏にダンジョンを封鎖した業突く婆の言葉を思い出した。婆さんは言っていた。C級ダンジョンだから氾濫には後半年ほどかかる、その間に目立たないよう資産を処分する。当てにならないものね、いい気味だわ、罪なき人が犠牲になる事については、何の感慨もなかった。人は罪なくても罰を受ける。
次の瞬間、沙織は出口へと駆けだした。妹がいる、伏しているのどかはモンスターに襲われれば、為すすべもなく嬲り殺しに合うだろう。それを見送る職員は感激した。法的に義務を負うとはいえ、未成年の女の子がこれほど真摯に対応してくれるのだ。地味子は協会から高評価を得た。
奇しくもギルドではスタンピードの本隊と攻防戦を繰り広げていた。混戦の最中、自分と同じ歳位の少女が大剣を振って、『斬撃』で魔物どもを消し飛ばしす。後方ではやはり同年代の少女が『回復魔法』で負傷者の治療に当たっている。状況がよく呑み込めないでいると、モンスターの群れが一人浮いている沙織に狙いを定めた。上位種も含めた数匹のオークが一斉に襲い掛かる。
「動かないで」
その一声で魔物どもが一斉に硬直する。千本で急所を突いていくが、これには少し苦労した。斥侯タイプの沙織には決め技がない。そこへ前線を仕切っていた大剣使いの女が声をかけてきた。
「見ない顔だね、他所からのお客さんかな。石化の魔眼使いでこんなに鮮やかなのは初めて見るよ。サポート要員をつけるから好きに使っておくれ」
『石化』の魔眼は『咆哮』等と同じく相手を数秒硬直させるスキルである。魔眼には珍しく、モンスターにも通じる。そしてその効果は使用者の熟練に左右される。本来は拘束の魔眼と呼ぶべきだが、神話の目つきの悪い蛇女が有名だったため、いつしかこう呼ばれるようになった。『魅了』の魔眼は『石化』の魔眼として、自然に誤認された。
沙織は身体強化の得意な屈強な探索者、有り体に言えば体力馬鹿と組まされた。だがこれが意外と上手くいく。魔眼で拘束したモンスターを、脳筋どもが一撃のもと屠っていく。彼らは沙織をよく守り、その指示によく従った。男どもの眼は爛々と輝き、彼女の『美声』に嬉々として反応する、『魅了』が発動したかと勘違いするほどに。世の中には地味子の好きな男性も多いのだ。
「この世の男は変態ばかりなんだから」
沙織は深く溜息をついた。