※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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疑似ダンジョン1 チュートリアル

 ダンジョンの試練。一般人が疑似ダンジョンに引き込まれ、脱出を強要される。ダンジョン災害の中でも最悪のもので、生還率は5割を切る。特に深い階層まで落ちると生還率は数パーセント。12歳から40歳の1パーセントが巻き込まれる。

初年齢が10歳でなく12歳なのは、試練が過酷なためだろう。外部からは合流できないので、単独で出口を目指すしかない。地表に空いた穴からは他人は入れない。そして招待者が亡くなると穴は消滅する。逆説的に招待者が生きている限り、穴は開いたままである。

 

 突然宙に浮遊した感覚から目を開けると、洞窟の大広間を思わせる空間に立っていた。確認できるだけで三つ横に伸びる通路がある。空間内の明るさは曇天位だ。俺は即座に自分がダンジョンに招かれた事を理解する。素早く周辺を確認してから特殊警棒の金属バットモドキを取り出す。次に初期スキルの確認。胸に手を当てて念じてみる。ここまではマニュアル通りだ。授業で何度も実習してきた。

 

『身体強化』……定番の共通スキル。

『美声』……声楽家や役者さんの垂涎のスキル 稀少とされるが何故にこれ? コンビニでのお姉さん会話を引きずったか。今回は全くの役立たず。

 魔眼『透視』……これも稀少。宝箱の中身や壁の向こうを見通せる。霧の中でも使える。探査系スキルとして優秀。

 

 一つ死にスキルがあるが、三つでよかった。試練で与えられる初期スキルは三つか四つ、三つの場合は浅い階層からスタートなので助かりやすく、生還率8割以上と推定されている。四つの場合は深層からのスタートで、生存確率は5パーセント以下。初手で強力な攻撃魔法を習得した人のみ、運よく生還できると推測されている。だが生き残った招待者は稀少なスキルを多数所持している上に、大量の経験値を獲得しているため、トップランカーに躍り出るケースも多い。

 

 俺の場合は食料と水分は確保しているので、焦らず探索しながら脱出ルートを探すことに決定した。試練では素人に命を賭けさせるためか、スキルを得る機会が多い。生還者の手記でもスキルを得て先に進み、そこで得たスキルで更に進むというパターンが記されている。俺の場合も攻撃魔法のスキルを得るまで無理に先には進まない。

 母からのバットモドキでスライムを探して何匹か倒してみるが、ダンジョン内の身体強化とはこんなにも凄いのかという驚きだった。片手で軽くスイングしても、スライムが千切れて飛んでいくのはちょっとした恐怖だ。心に余裕の出来た俺は改めて状況を整理してみる。まず母には感謝だ。母の贈り物の金属バットモドキと防災用キットがなかったら、こんなに落ち着けなかっただろう。

 次に朱美と先輩、こちらは御免なさいかな。大人しく「みよう本」を読んでいれば良かった。キリ香の方はまずい。不急の買い食いに出歩いた、充電中のスマホを家に置いてきた、しかも明日は入学式。俺があの場所にいた事は、コンビニの防犯カメラからいずれ特定されるだろう。ダンジョン内は電波が届かないから、該当時間に位置情報が途切れると、招かれた人間が俺だと特定しやすい。だがスマホが生きたままなら招待候補には上がっても特定までには時間がかかると思う。可能なら、明朝までには脱出して安心させたい。

 スライム退治をしながら、広場の岩陰で宝箱を、壁の一角で隠し部屋を見つける。どちらも『透視』の魔眼が大活躍だ。隠し部屋の壁は金属バットモドキがないと壊せなかっただろう。宝箱も中を透視してから開けている。残念ながら得たスキルはどちらも外れだった。

 

『容姿』……突然変わるわけではなく徐々に変化する。若い時に習得した方が効果的。これも先のコンビニのお姉さん会話を引きずったか

『話術』……交渉人や営業職に望まれるスキル。妹への言い訳を考えていたせいか。

 

 両方とも社会生活では有用なスキルだろうが、ダンジョン内では不要のスキルだ。甘い声と甘いマスクで話が巧み、将来がタレントとか思ってもみなかった。『演技』スキルまで入手したら、俳優決定だろう。

 最初に見つけた通路のうち、1本目は100m程緩い上り坂を進んだ所で終点。2本目と3本目は繋がっていて、元の広間に戻ってきてしまう。「透視」でも確認しているが何もなし。新たに見つけた通路のうち1本は行き止まりだったが、魔眼で確認し隠し部屋を発見した。5メートル四方の広さだが問題は部屋いっぱいの大きさのスライムらしき魔物がいる事だ。体高も4mほどある。バットモドギで穴を開け、覗こうとするも半透明の触手が飛んできた。身体強化のスキルがなければ躱せなかったであろう、地面が穿たれ酸の溶ける臭いがした。俺は即座に遁走を選択した。

 

 大広間に駆け戻った俺は水分補給しながら、心を落ち着ける。何かおかしくないか? あれはボス級だ。ここが浅い階層ならいきなり倒せないような魔物は出ないと聞く。1mもない特殊警棒では、ボススライムに通用しないだろう。挑んでも酸の巨体に押しつぶされて終わりだ。それに中を確認したのは一瞬だったが、半透明のスライムを挟んだ奥の壁に階段らしきものがあった。ボススライムを倒すことがここのクリアの条件なら、現時点では詰んでいる。

 初手でボス級ならスキル4つでもいいじゃないかと、恨めし気に見直してみる。これまで一番活躍したのが『透視』の魔眼。『洗脳』や『催眠』のレッドスキルの魔眼じゃなくて本当に良かった。他者を思うままに操るこれらの魔眼は使用が制限されていて、それ以前に周囲より警戒される。こうした魔眼の保持者は警察や国防で縁の下から国民を守っていると聞く。

 

『透視』の魔眼についてのもう一度情報を整理してみる。長所として使用しても気付かれにくい事。短所として、それ故に誤解を受けやすい事。そう言えば保持者の手記を流し読みした事があったけ。女性とは仲良くなった事がないと。裸を覗かれたとか何度も言いがかりをつけられたと。その理由も、いやらしい目をしていたとか、目が合ったとか、背けたとか、大して根拠のないものばかりと書かれていた。学校でも、席は一番前、教師は全て男性教諭、女子からは蛇蝎のごとく嫌われ、口も聞いてもらえない。エッチな事に能力を使用した事はないと言っても信用されなかったと。

 自分ならどうだろう。いずれ我慢できずにこっそり使う。そして勘のいい朱美達に暴かれ、本気の目潰しを食らうだろう。女子からは蔑まれ、妹は口も聞いてくれない。登校禁止を言い渡されて、リモート授業で3年間を過す事になるのだ。独り暮らしの高校生が一人ぼっちの高校生になってしまう。エッチな目的で使用しなかった手記の人は偉いと思う。このスキルは秘密にする事に決めた。

『身体強化』予想より、はるかに強い。朱美がダブルになった時に聞いた威力に近い気がする。先ほどの逃走も100m走で5秒位だろうか。障害物を避けながらでだ。再度、身体強化のスキルを頭に浮かべて集中してみる。他のものより色が濃いというか、強く感じる。ひょっとしてダブルか? 妹の例をすっかり忘れていた。選抜者が初期スキルを確認する際は立会人がいるので、こんなうっかりはないのだろう。これで俺は深層に落ちている事がほぼ確定した。生還率5%以下。少し泣きたくなった。

 

 

 

 神戸ダンジョン付属研究所の職員専用居住地区の一角、薫子とキリ香は寝衣に着替え、明日の入学式に備えて休む事にしていた。

 

「ママ、お兄ちゃんからメール来たわよ。たったこれだけの文面で40分もかかったんですって。だめだめだね」

「で、想夜さんはどこにいるのかしら」

「ちゃんとお家にいるわよ、よしよし」

 

 キリ香が位置情報を確認して満足げに答える。そして分厚い封筒を差し出した。50万円入っていると説明する。疑念を浮かべる母に、

 

「お兄ちゃんとおじいちゃんたちから、入学のお祝いだって。装備費用の足しにしなさいって言われたわ。早めに渡すとママが遠慮しそうだから、こっちに着いてから話すように言われたの。ごめんなさい。お兄ちゃんは自分が稼いだお金だから遠慮はするなって」

 

 月に2度程、想夜が祖父母の家に泊まり込んで農作業を手伝っていたのは知っている。植え付けや収穫の手伝いや、トラクタを乗り回して畑を耕運しているようだ。公道や駐車場を走らなければ、中学生が田畑でトラクタを操作しても違法ではないらしい。

 

「それにしても多すぎない。お駄賃の範疇を超えているわ。想夜さん何でこんなにお金もっていたの」

「去年おじいちゃんから畑を1区画任されたみたいよ。水やりや収穫は手伝うから、好きなものを植えていいって。そこに植えたお花や野菜ですごく儲けたって言ってたわ」

 

 キリ香は祖父母の近くに住む農家の娘である選抜者からの話として、祖父達の野菜が道の駅で売れ行きが好調で評判になった事を聞いていた。経費50万で100万売れば利益50万だが、200万だと150万。要は100円を200円で売ればよいのだ。労力は変わらない。彼女よ父親が祖父に尋ねると、開発された新しい品種を利用して時期をずらした出荷を狙う、それに見合った最新の農薬や肥料を取り寄せる、栽培する時期が違うのだから、地元の資材は地元の野菜に最適になっているので有効とは限らない。そう家族からアドバイスされたと。

 

「それじゃあ想夜さんはまだお金もっているの? 税金とかどうしたのかしら」

 

 薫子が自分の知らない息子の姿に顔を顰めていると、

 

「おじいちゃんと残りのお金で機械を買うよう話し合ったみたいよ。野菜を自動で植えるやつとか、農薬撒くやつ。補助金が出るらしいから200万近く買わせたらしいわ。進学すると今までのように手伝えないかもしれないからその代わりだって」

「想夜さんは将来なんになりたいのかしら。お爺様の後を継ぐつもりかしら?」

 

 母も妹も彼の本当になりたいものは知っていたが、口にはしなかった。

 

「どうかしら。天気予報から積算温度とかいうのを割り出して、それに沿って肥料をやったり、農薬を撒くだけって言っていた。後はおじいちゃんに水やりをお願いしたって。思い入れをなくして理科の実験みたいにするのがコツだって。味気ないよね」

 

 




農業を始める人はダンジョンを発見します。

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