※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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魔眼vs魔眼5 事後★

 わたしを犯した少年の裸体がこの眼に焼きつく。思わず息を呑んでしまった。女の子を泣かすために悪魔が造った、天使の美貌。優し気で儚げで護りたい笑顔、それでいて魔性の陰影を漂わせた悪の化身だ。こいつの容姿は女性を辱める為だけに与えられたものだ。妹もこいつに夢中になっている。わたしには分かる。わたしとのどかは子供の頃から女装の似合いそうな美少年が大好きだった。そんな理想の男の子に、のどかは命を救われた。しかも彼だけが呪われた躰を抱くことが出来る。

 アイツがのどかを凌辱する光景を何度も想像してまう。妹は呪いのせいで男性に抗体がない。崇拝する男に襲われたら為す術もない。酷い目に会わされても、嫌より好きの気持ちが勝る。わざと抵抗させておいて、堕ちていく様をアイツは愉しんで嗤うのだ。

 

 負けないんだから。少しでも怯んでしまうと、こいつに圧倒される。屈辱を怒りに変えて、娼婦ように憎い男を誘った。浅ましいこの躰はアイツの味を覚えてしまった。女の子の恥ずかしい声が漏れてしまう。嬉しそうなアイツの顔が忘れられない。もう、死んでも魅了してやるんだから。

 

 洗脳系の魔眼を無効化するにはいくつかの手段がある。一つ目はレベル差、二つ目は強固な意志、最後は所有者の集中を邪魔する事だ。そびえ立ったアイツの男がわたしの中で暴れている。こうやって沢山の女の子を泣かせたんだ、気持ちいいのが腹立たしい。卑劣な、わたしを無理やり悦ばせて魔眼を封じようなんて。お願い、『精神異常耐性』、仕事して。あいつの欲情が魔眼の意思を上回ってしまう。

 

 アイツに嬲られて体が蕩けそう、漆黒の瞳に魂が吸い寄せられる。そこには絶望しながら期待する哀れな仔犬が映っていた。早くわたしを蹂躙して、そうしたら生まれ変わって幸せになれる。アイツは狂乱するわたしを焦らして嗤う。何て言ったかは覚えていない、もう声を限りに心の底をぶちまけた。

 

 突然アイツが倒れてきた。願いが叶う。ただアイツを抱き締めて泣いた。ほんの一瞬、世界一幸福だと思ってしまった。

 無邪気に眠るこいつは満足気だった。今なら楽に殺せる。このまま首を絞めるだけでいい。ここで恐ろしい事実に気づいてしまう。こいつは犯した罪も知らず、天国に行ってしまうのだ。しかもわたしに勝ったと勘違いしたまま昇天してしまう。罰さえも受けない。それに引き換え、わたしは地獄落ちが決定している。余りにも不公平ではないか。今、殺してしまったら二度と恥辱をそそげない。罪の重さを教えてやらねば。二人して地獄へ堕ちて永遠に憎み合いたい。

 

「引き分けなんだから」

 

 

 

 どうやら俺は射精の快感で寝落ちしたらしい。魔眼の少女にまた逃げられてしまった。殺されなかった事には、特段感謝するでもなく不思議と受け入れられた。俺をあっさり殺してしまえば、恨みが晴れない。俺が彼女を性奴隷に望んだように、彼女も俺を奴隷にして虐待の限りを尽くしたいはずだ。そうしないと恥を注げない。

 相手の魂を蹂躙して支配下に置く、俺達は同じ事を考えている似た者同士だ。射精の瞬間、世界の半分を支配したような満足感があった。次こそはこの手に握る。俺は討伐の証明の魔石を拾い集めて帰還した。

 

 戻ってみるとエントランスはちょっとした騒ぎになっていた。中層の浅い処での戦闘音が鳴り止まず、上層の初級冒険者達は全員退避したそうだ。トレインに巻き込まれるのを恐れたのであろう、懸命な判断と思う。全員がその原因を作った俺を恨めしげに見ている。小梢ちゃんと尋さんは港湾ダンジョンに行ったままだ。受付で年配の男性職員の前に並んで、月代主任への取次ぎを頼む。積み上げた魔石の山を前にして、エントランスは騒然とした。普段彼らが見慣れたスライムや雑魚ゴブリンとは別物の、様々な輝きのしかも何倍も大きな魔石だらけだったのだ。彼らは中層に自分達の手に負えないモンスターが集結していたのを知る。なお、俺が敢えて魔石を見せつけたのは、女々しい外観から彼らに絡まれない為でもあった。

 

 月代主任は自ら魔石を鑑定して難しい顔をしている。深層でも稀なオーガメイジに加えて、ガーゴイルやトロール、ゴブリンライダーの上位種の魔石がデスクにずらりと並べられていた。

 

「戦闘音が上層まで聞こえるって通報があって、心配していたのよ。お願いした私が言うのも何だけど、無事でよかったわ」

 

 調査に向かった職員が帰還して裏付けが取れたらしい。俺がモンスターの戦術に嵌って死にかけたと言えば、ここ徳島ダンジョン以外では笑われるだけだろう。

 

 

 

「これまでの、一連のモンスターの異常行動、弱者が強者を狩るための予行演習ではないかって」

 

 徳島ダンジョンの魔物軍団の件は、本部でも由々しき事態として自衛隊も交えて分析された。明かに人類の中世レベルの戦術を真似ている。強力な探索者に対抗するためか、他のエリアボスとの縄張り争いを制するの訓練だと推測された。このまま指揮個体に知恵をつけられて、ダンジョン占領から意図的なスタンピートでも起こされると、人類の社会生活が脅かされる。本部から上級冒険者を含む調査隊が数日中に派遣されるらしい。要は威力偵察で一気に片付けるつもりだ。

 

「交戦した魔物の練度は高かったですよ。あそこまで鍛えるには相当な時間と手間がかかったはずです。指揮個体が生き残っているにせよ、脅威度は下がったのでは」

「港湾ダンジョンでもモンスター軍団は目撃されているのよ。こちらの殲滅も急務だわ」

 

 魔眼の少女とはこの手で決着を受けるつもりなので邪魔をしてほしくない。それにしても向こうでもレギオンを育成して俺に備えていたのか。ここで話題は魔眼の少女の事に移った。

 

「それは隠匿を発動させて、漁夫の利を狙ったんじゃないかしら。それともモンスターを使役出来ると思わせて、ミスリードを誘導したのかも。恨まれているようね。いくら犯罪者だからって、セクハラしては駄目よ」

 

 予想通り、魔眼の少女がモンスターの指揮官と伝えても信じてもらえなかった。最弱のスライム一匹でさえ使役された例はない。主任の権限で閲覧できる協会の「魔物辞典」で確認できないなら、テイム系のスキルはまだないと言う事になる。自分としては報告の義務を果たした。今日、該当する美少女がダンジョンに行った記録はないそうだ。

 俺の方も、今回も、そして前回も、軽く可愛がったら逃げて行ったと報告してある。嘘は言わない。尚、前回の報告で、彼女の身体的特徴と暗器について伝えてある。対人戦闘の経験者からは、俺が彼女の服を脱がして身体検査したのが丸分かりだ。

 

「でも黒髪紫目はちょっと気になるわね。御上君、事情は聴いてる?」

 

 主任はそう言って映像を示した。ボッサとした黒髪と暗い瞳、紫目に見えなくもない地味子がいた。以前理性院から見せられた、のどかの姉の春凪沙織の画像だった。

 

「面識はありません。だけど彼女の妹さんは知っています。呪物の件で応急処置をした事がありますから」

 

 のどかの事は躰の隅々まで知っている。だが、姉とは会った事がなかったはずだ。港湾ダンジョン関係の調査で写真を見せられた事を伝える。

 

「疑いが晴れて良かったわ。この子、防衛戦では大活躍してね、石化の魔眼が凄いのよ、一度に何匹もオークやゴブリンを拘束できるの、連続で使用しても問題なし。疲労困憊していた筋肉馬鹿も、彼女のおかげで持ち直したのよ。派手さはなくても気配り上手で、野郎どものアイドルになったわ」

 

 のどかの姉が石化の魔眼で複数のモンスターを一瞬で拘束し、身体強化特化の前衛職が一撃で屠る。これを安全確実、しかも迅速に反復出来たため、崩れかけた前線が持ち直したという。のどかは姉の事を美人だと言った。なるほど、性格美人か。男としては内面の綺麗な地味子も、おやつ代わりに食べてみたい。だけど俺がのどかを愛人にしたと知ったら、殺し合い必至だろう、世の中はままならない。

 

「今日の戦闘結果は報告書に纏められて、調査隊にも共通されます。もちろん人狩りの少女の事も。彼女は指揮個体について情報を待っている可能性があるわ。法を犯している可能性も濃厚だし、確保する必要があります」

 

 洗脳系の魔眼を会得して届けないのは重罪である。俺は露骨に嫌な顔をした。彼女を誰にも渡したくなかったのだ。勘違いをしてくれた主任が配慮してくれる。

 

「大丈夫よ、あなたの名前は伏せるから。ゴブリンに騙されたとかちょっと恥ずかしいよね」

 

 今日、小梢ちゃんが向こうのダンジョンの配属で本当によかった。もし彼女がこちらの受付だったら、俺は雑魚ゴブリンに騙された中級探索者として、明日にはここの探索者連中の噂になったに違いない。

 

 

 

 沙織が自宅に戻るのは十日ぶりになる。のどかには、ダンジョン深層への遠征と捜査協力で留守にすると伝えておいた。何回かメールでやり取りしたが、何も知らない妹には迷惑を掛けたと思う。顔を合わせ辛かった。でも吉報もあるのだ。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、もう会えないかと思ったよ」

 

 姉を見るなり妹がじゃれつくように跳びかかってきた。以前の快活な妹に戻っている。幸せに溢れた家族団欒の想い出が蘇る。のどかは反社組織と付き合いのあった姉を咎めたりはしない。童心に還って甘えてくれる。その優しさに沙織は救われるのだ。優しく頭を撫でる。その尊い有り様は、はた目からは誰もが認める美姉妹であった。

 

「のどか、その、本当に良くなったの?」

「うん、協会からの帰りに具合が悪くなって親切な人に助けてもらったの。そしたら急に治っちゃった。病院の先生も奇蹟だって。お姉ちゃん、今まで心配かけてごめんなさい。そしてありがとう」

 

 一年は持たない、沙織は医師からのどかの余命を宣告されていた。目頭が熱くなる。自分には微笑まなかったが、妹には神様はいたのだ。

 

「二人で神様に感謝しましょ」

 

 久しぶりに神に祈った。妹を助けてくれた神様には感謝してもし切れない。この身を捧げても構わないと思った。

 

「のどかを助けてくれた人にも御礼をしたいわ。詳しく教えて、どんな方なの」

「そのぉ……」

 

 たちまちに妹が挙動不審になった。胸騒ぎがする。災いを招く、悪魔の美少年の顔が思い浮かんだ。

 

「わたし毎日協会に行ってあの人を探していたの。自分でも長くないって分かっていたから、お姉ちゃんとペアを組んでもらおうと思って。会ってお話したら安心しちゃって……」

 

 言い澱むが、姉の厳しい視線には耐えることが出来ない。

 

「呪いが進んで、もう駄目だと思ったの。だけどあの人が助けてくれた。危ないからって言ったのに、無理やり脱がされての。想夜さん、優しいの。穢れたわたしをギュッとしてくれた。自分が死にそうになっても離さないでいてくれた。わたし、もう嬉しくって。そしたら躰がポカポカして気持ちよくなって……。そのぉ、気がついたら全部終わっていたの」

 

 姉の気迫に怯えて白状するも、のどかには誇りと言うか、新妻の余裕が感じられた。

 

 専門家も匙を投げた妹の体調が回復したのは喜ばしい。だけどそれは本来、自分がやりたかった。よりによって解呪したのがアイツとは。思い当たる事があり過ぎる。アイツに侵入されてしまうと嫌がっていた躰が嘘のように反応する。悔しくて死にたいと思ったのが、嬉しくて死にそうになってしまう。

 呪いも死にたい程の幸福感に耐えかねて退散したに違いない。だけど想夜が治療法を知っていたかは疑わしい。単に性欲を満たしたかったのでは? アイツは女の子を悦ばすだけの獣だから。

 

 最初に沙織に湧き起った感情は嫉妬だった。妹にアイツを盗られてしまう、幼気なのどかはアイツに尽くすだろう、絆されるのではないか。

 

「私をあんなに熱烈に求めておいて、イヤって言っても激しくするばかり。あそこまで辱めてなんであなたは満足しないのよ」

 

 次にどす黒い怒りがこみあげてくる。わたしを喘がせたあそこが、今度は妹の奥深く侵入して優しくしていていた。男の子はのどかみたいに素直で言いなりになる子が好きらしい。もう気が狂いそうだ。最低最悪のクズ男、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせる。

 

「アイツが更生したら、ほんのちょっとだけお付き合いしてもいいと思ったわたしが馬鹿だったわ」

 

 想夜の激しすぎる行為を、愛情表現の一環と、敢えて誤解しようとした自分が甘かったのだ。

 

「やっぱり絶対許さない」

 

 いつの間にか、姉を深く傷つけた事を悟ったのどかが泣いている。これ以上、妹を憎みたくない、沙織は姉を呼ぶ妹を振り切って踵を返した。

 

 

「サオリ、待ちなさい」

 

 妹の声で名前を呼ばれた。振り返る前から戦闘態勢を取る。のどかとは似ているが、いや妹の服を着ている金髪碧眼の異邦人の少女が立っていた。

 

「あなた、誰」

 

 油断なく身構える。異人の美少女は濃密な魔力を纏っていた。ヒトよりダンジョンの魔物に近い。

 

「初めましてでもないわね、私はアルドネ、異界の生まれにして、嘗て貴方が呪いと呼んだ存在。今はのどかの守護霊で、ソーヤの情婦をやっているわ」

「あの強姦魔のヒトデナシ!」

 

 浮気やレイプだけでは飽き足らず、人外にまで手を出していたのだ。

 

「貴方もソーヤのお手つきになったのね。なら話が早いわ、ソーヤの愛人になりなさい」

「誰がそんなふしだらな事を」

 

 呪いをやっていただけあって、異邦の少女は頭がおかしい。だが、彼女の言葉に揺さぶられる。恐ろしい未来が視えた。皆、一糸纏わぬ姿だった、わたしと妹がアイツに抱きついて寵愛を競っている。ご満悦なアイツは二人同時に可愛がってくれる。わたしたちは嬌声を上げた。股間が疼く程の鮮明な幻視だった。

 

「ダンジョンのある世界では、凛々しい男性から姉妹揃ってお情けを賜るのは、女として最高の名誉よ」

 

 我慢の限界だった。これ以上会話を続ければ戦闘になる。そうしたら妹の身体を傷つける事になる。立ち去る沙織にアルドネは善意から忠告するが、もう届かない。

 

「魔眼は使わないで。元呪いの私が言うのも何だけど、貴女、呪われているわよ」

 

 

 

 チャームの魔法、こちらの世界の『魅了』の魔眼は、強烈な威力に比例して、代償もけた違いだった。相手の運命を捻じ曲げて破滅させるのだ、使えば使う程、恨みが何倍にもなって還ってくる。その厄は本人のみならず、周囲にまで隈なく及ぶ。『魅了』の魔眼の持ち主が、傾国の美女と言われる所以でもあった。

 更に『魅了』の魔眼には、生涯で唯一人、運命の相手には全く通用しないという、致命的な縛りがあった。多くの場合、それは持ち主が伴侶にと望んだ相手となる。これは本当に大切な人は自身で勝ち取りなさいという、女神さまの慈悲でもある。だがその御心を推し量れる者は余りにも少ない。所有者は欲っしてやまない異性に執着し、叶わぬ想いに狂乱する。そして益々魔眼にのめり込んでいく。これはもう愛の呪いでもあった。

 愛憎入り混じった想夜への激情から、沙織の魔眼は上手く発動しなかった。想夜も魔眼を撃ち破ったと大いに己惚れている。二人はダンジョンの女神さまの掌の上だ。

 

 

 

「憎いんだから、許さないんだから」

 

 惨めだった。悔しくて、血がたぎって噴き出しそうだ。恐れていた事が現実となった。わたしが尋問をされている間に、妹は堕とされていた。それなのに怒るより妬んでしまった。全部アイツが悪い、もう監禁しよう。鞭で打って躾けてあげる。わたしだけのものにして、一生檻で飼い殺すんだから。

 思い巡らす沙織を挟んで、二台の車が急停車する。中には見知った顔もある。取り囲まれると、捜査員が令状を示した。自分を警戒している何人かは雰囲気が違う。明かに選抜者だった。こんな事は前にもあった。全てが露呈したのだ。

 

「世界を敵にしても、想いを遂げる」

 

 もう一度、想夜に会いたい。沙織は希った。一番強い願いだけを女神さまは聞き届ける。

 

 

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