※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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突入

 早朝に徳島支部へと集合した俺達は、自衛隊によって港湾ダンジョンへと護送されていった。当然ながら全員むさ苦しい男ども、フリル探索服を嗤われないようしっかりローブを羽織っている。

 俺の乗った車両が最後の便で、配置も自衛隊の後ろも後ろ、連隊規模の最後尾に配置された。低身長の俺では開口部の影すら見えない。400m位は離れているのではないか。尚、朱美や詩央、生徒会長達女性陣は、月代主任直属で、探索者サイドとしては最前列にいる。俺もここでのハーレムを希望したのだが、全員から迷惑だと却下された。

 そんな訳で俺達は最後尾でだらけて、もといリラックスしていた。会談の予定時間まで30分程はある。スクラッチをする人、音楽を聴く人、雑談を交わす人と様々だ。この場で、緊張でガチガチになるような人は選ばれていない。俺はと言えば、むさいおっさん連中に囲まれていた。ダンジョンの姫と戦って戻ってこれた男性という噂が広がっていたのだ。他にも遭遇して帰還した男性探索者はいるが、弱すぎて見逃されたにすぎない。

 

「御上といったか、お前どうやって姫の魅了を躱したんだ」

「僕には魔力視の魔眼がありますからね。魅了の魔力が視えるんですよ」

「全く役に立たん情報だ。それより姫について教えてくれ。出回っている写真、合成じゃないのか」

 

 沙織の画像は美しすぎて、一部では加工を疑われてた。

 

「本物は画像以上です。スレンダー体型で四肢も長い女の子でした。世界一の美少女の噂は本物です。胸が控えめで清純そのものです。まさにダンジョンの巫女姫様でした」

「よし、よくやった」

 

 沙織の顔写真は合っても、全身や上半身写真は出回っていない。全員で彼女の胸のサイズで盛り上がって時間を潰した。もちろん俺は知っているが教えない。やがて予定時間の10分前となる。代表のベテラン探索者から号令がかかった。

 

「確認するぞ、俺達の目標は第一がダンジョンに突入にしての制圧、次がモンスターとの戦闘だ。人命救助は最小限としろ。恐らくは混戦となる。イレギュラーも発生するかもしれん。常に指示を受けられると思うな。非常事態には各々の自主判断も許されている」

 

 ここにいるのは全員が一騎当千だ。ほとんどの人が初対面で、連携など取るのはコストパフォーマンスが落ちる。代表の人も取りまとめ役であって、リーダーではない。もっとも白兵戦の最中では、細かい指示など出しようないが。弾道弾による攻撃を伏せている上層部の意向は、余計な事は考えずに、とにかく突入してスタンピードを阻止しろだろう。

 自衛隊のほとんどはシールドと小銃しか携行を許されていない。武器を扱うのが本分の彼らには、思う処があるだろう。だからこそ、いざという時には俺達が前に出なければならない。時が迫るにつれ、周囲の空気が張りつめた。各々から殺気が充満してくる。戦闘特化の探索者の本気だ。付き添いの隊員の人は当てられて苦しそうだ。

 

「開口部よりモンスター出現、ハイゴブリンとハイオーク多数、会談予定まで残り5分を切りました」

 

 通信科の隊員より報告がある。沙織達はモンスターで肉壁を作るつもりだろう。

 

「オーガおよびギガス出現、春凪沙織と星堂篤彦確認しました。2分前」

 

 緊迫した声で状況を伝えてくる。目視では外に出てきた魔物は200匹程だそうだ。それに沙織に魅了された男性探索者も全員揃っている。もっとも低身長の俺に見えるのはギガスだけだが。ここでサイレンが鳴り響いた。会談が始まる。

 奏子さんの合図からミサイル着弾までは5分と聞いている。流果さんの話では、開始より1分以内に合図がなされる。弾道弾に合わせるだけならもう魔法を発動させても良かったが、時間差で発射される巡航ミサイルもある。俺は魔道具化したスマホを握りしめ、自分を落ち着かせる。一分を経過したところで開口部に向けて、フレアの魔法を発動させた。

 俺とシーナの戯言から生まれた、俺達にはかけがえのない魔法。その一方で、通信を遮断し、電子機器をマヒさせる、周囲にははた迷惑な魔法でもあった。師匠の魔法がどうか世界を救いますよう。

 

「司令部との連絡取れません、通信遮断!」

 

 隊員から驚きの声が上がるも、気に留める者はいない。俺達は他に意識を持っていかれた。

 懐かしい風が吹き抜けた。ダンジョンの匂いを運んでくる。探索者なら間違うはずもない。ダンジョンの魔力に当てられて、俺達は超常の世界にいる事を思い知る。

 

「上だ、なんでオーロラが出ている!」

 

 時刻は午前10時、ありえない時間のオーロラに全員が空を見上げて呆けた。一般に低緯度のオーロラはぼんやりと赤く見える。古来、赤気と呼ばれてきた。だけどこれは違う。雲一つない空に、極光が七変化しながら降り注ぐ、もちろんこれはシーナが妖精の鱗粉から作ったパチモンだ。だけど映像で見た本物より遥かに美しい。空を覆う光の天幕がまさに神々の降臨に相応しい光景と言えた。果して天空にシーナの幻影が浮かぶ。相変わらずの人外の美しさだが、いつもの蠱惑的な雰囲気とは異なり、孤高の処女神を思わせる神々しさがあった。

 

「師匠、美化しすぎじゃね」

 

 俺はこっそりと笑った。お蔭で余分な力が抜けた。師匠が道を作ってくれた。後は進むだけだ。前方でパシッ、パシッ、と小銃音が散発的に聞こえ始めた。『風衣』を使って、5m程跳び上がる。自衛隊の前衛が牽制しながら後退し、月代主任達と入れ替わっている。一部ではモンスターとの戦闘が始まっていた。

 

「先頭、モンスターと接敵しました。緊急事態です。出ます」

「ちょっと待て。仕方ない、俺達も進むか」

 

 通信が遮断された今、ここで待っていても命令は何時になるか分からない。他の人達も取り敢えず前に出るみたいだ。俺は自分の仕出かしに心の中で手を合わせた。

 先の跳躍で、部隊の配置は確認している。ローブを脱ぎ捨てると、俺は天馬の如く駆けた。肩摩轂撃、隊員の人達を掠めながら疾走する。怒号を遥か後方に置き去りにする。御免なさい、発砲しないで、俺は心の中で何度も謝った。装甲車の屋根に跳び移って、八艘飛びをかます。自衛隊の隊列を抜けようという時、鳴戸海峡に白煙をたなびかせて落下する何かがあった。一番対処に困った弾道弾は何とかなったようだ。だがこれで終わりではない。要人暗殺用の巡航ミサイルが残っている。

 

 月代主任達は開口部正面から200mで戦闘中だ。奏子さんと沙織達は、会場から動いていないように思える。異常事態に判断がつきかねているのだろう。奏子さん達も無事のようだ。あるいは沙織は本気で交渉の終結を目指していたのかもしれない。

 俺は左側面から単騎で突進した。混戦となれは、誤射を避けるため攻撃魔法は放ちにくい。ここぞとばかりに『石槍』と『鎌鼬』を目一杯撃ち込む。上手い具合にモンスター側の陣形が崩れ、探索者側が一気に優勢となる。なまじっかモンスターをレギオン化したのが仇となった。こいつらが力押ししか出来なかったらこう簡単にはいかなかった。

 俺は沙織へと一気に目差す。いち早くこちらに気づいた彼女がいい顔で笑う。だが俺を認めたのは彼女だけではない。ド派手な登場に、左翼にいた魔女姫様と剣風姫にも気づかれてしまう。

 

「ちょっと御上君、どうしてここにいるの」

「こら、御上、待たんか」

 

 突出する俺を二人が追いかける形になった。今の俺は戦斧を持っていない。速度を優先したので、武器は警棒だけだ。ちょっとだけモンスターを相手に手間取ってしまう。この間に二人が追い付いてきた。魔女姫様が本気で叱りつけてきた。

 

「下がりなさい、こんな無茶をやったら本当に死ぬわよ」

「交渉団を助けます。市長も議員も人民の託宣を受けています。二人の命は僕より重い」

 

 市長も水崎議員の考えも俺とは相容れない。それでも彼らは世のために尽くしている。彼らが間違うとすれば、それは国民が間違う時だ。責任だけを押しつけて知らん顔という考えは俺には取れなかった。

 

「ありがとう、私も行くわ」

「こら、摘花。ほだされるな」

 

 結局お人好しの剣風姫もついてきた。沙織と星堂さんはもうダンジョン内へと避難を始めている。それを追うように俺達三人は雪崩れ込んだ。

 

「退避!」

 

 叫びながら、俺は水崎議員と奏子さんを抱えて数メーター飛ぶ。そして転がるように地に伏した。市長も剣風姫が抱えて避難させた。やや遅れて魔女姫様が『障壁』を張る。直後、暗殺用の巡航ミサイルが三発着弾した。ブレードは展開していない。だけど、破片が激しく『障壁』にぶち当たる。魔女姫様がいなかったら危なかったかもしれない。後は援軍が来るまで、三人を護るだけだ。月代主任に引き継いだら、そのままダンジョンに突入しよう。

 

「先生、謀ったのですね」

 

 引き攣った顔の市長が水崎議員を問い詰めるが、本人は知らん顔だ。代わりに議員は厳しい顔で俺を睨んでいる。

 

「御上、知っていたのか」

 

 剣風姫の詰問には答えず、空を見上げた。天空ではシーナが俺に向かって微笑んでいる。師匠はずっと見守ってくれたのだ。

 

 後方に控えていた野郎どもも押し上がって、こちらは益々優勢になった。攻撃魔法の使いづらい白兵戦では、身体強化特化の男性探索者に一日の長がある。『魅了』された探索者も全員が捕縛されたみたいだ。モンスターも開口部前へ集結している。明かに沙織達を逃がす捨て石だろう。

 ダンジョン突入の命令は沙織の排除を前提としたものだ。普通なら男性探索者が突入するのは自殺行為だが、今は沙織と星堂さんの二人きりだ。配下の魔物もほぼ使い切っているはず。当然補充には時間がかかる。これなら女性探索者を先導させて、男性探索者が後方でモンスターの排除、もしくは『魅了』の届かない遠距離からの攻撃や、星堂さんへの牽制と、色々手も打てるはず。

 そう考えていたら、朱美と詩央が抜けてきた。ここは任せて、止められないうちに先駆けしよう。

 

「想夜様、あれを」

 

 水崎議員を庇うよう立っていた奏子さんが指し示した。モンスターに隠れて気づけなかったが、港湾ダンジョンの開口部が閉じ始めている。最悪の事態になった。かつて東京ダンジョンは度重なる重火器での攻撃に怒り、スタンピードを新宿都庁内で恣意的に発生させた。この未曾有の大惨事とその教訓は、散々教科書で教え込まれている。恐らく港湾ダンジョンは、俺達に最悪な場所を選んで報復を開始する。俺はデモで頑張っている祖父、学校の先生や皆、部屋で待機しているだろうのどかや瀬里奈達を思い描いた。誰一人、この手から零す訳にはいかない。

 

「御上君、生きよ。適うなら、次の世代を導いてほしい」

「摘花、行きなさい。救える命は救いなさい」

 

 万策尽きた二人は次代に後を託すつもりだ。ここからは俺が引き継ぐ。ダンジョンの中の事は探索者の領分だ。

 

「任せてください。僕が決着をつけます」

 

 あほの子のように思われた。当然だろう。この状態からスタンピードを阻止した事例は過去にない。ここにいる人は全員命を賭けている。探索者、名前を知らない自衛隊の隊員達、俺の発言を聴けば、全員が顰蹙どころか罵倒するはずだ。血気に逸る人からは殴られたかもしれない。

 俺がその先に進むなら覚悟を示さねばならなかった。ここまで多くの人の想いが交差している。それを受け、あるいは断ち切り、俺の勝手に紡いでいくのだ。

 人とダンジョンがより良い関係を続けるため、俺と沙織の意地を通すため、全てを手中に握ってやる。眠るスキルが唆す。血反吐を吐く思いで、禁忌の言葉を吐き出した。

 

「ダンジョンコアを破壊する」

 

 俺だけが可能だった。普通なら世迷言だろう、だが非常時に、平然と嘯く馬鹿の言葉は、何故か説得力があるものだ。いち早く俺の意図に気づいた朱美と詩央が蒼ざめる。魔女姫様と剣風姫が顔を見合わせた。身内にこれをやらかした大馬鹿が一人いる。

 

「成し遂げるのか、神殺しを」

「不可能だ、そんな暴挙は許されない。ここで被害が甚大でも、百年で見れば収支はプラスだ。ダンジョンは残します」

 

 議員が俺の覚悟を受け取る。俺は黙って頷いた。ご武運を、奏子さんが俺にだけに囁きかける。市長は冷静な判断をしているのだろう。だけど有権者は我儘だ。あなたにその先を期待している。どうか叶えて欲しい。俺の決意を察したのか、急速にダンジョンの開口部が狭まっていく。やはりコアは拒むのか。

 万感の想いを込めて、俺は名を呼ぶ。

 

「朱美! 詩央!」

「想夜のバカ!」

 

 朱美が泣きながら『斬撃波』を振るう。進路の魔物が吹き飛んで、開口部までの道が通った。俺は『俊足』を跳ばす。襲い来るモンスターを払う余裕はもうなかった。

 

「させない!」

 

 詩央が悲鳴交じりに叫ぶ。彼女の曲射が冴えわたる。『炎弾』が左右、そして正面の敵まで正確に撃ち抜いていく。俺の進路を塞ごうとしたアサシンどもが消し飛んだ。俺の突入と同時に開口部は完全に閉じてしまう。

 

 

 

 巡れ、運命操作

 

 ここで禁じ手のスキルを発動させた。『運命操作』はいかなる魔石やアイテムでも、従来の確率に加えて、プラス百分の一で引き当てる運命系のスキルだ。千分の一、万分の一の稀少アイテムでも、1%プラスアルファで引き当てる。別次元に存在すると言われるダンジョンコアは、通常は引き当てる事は出来ない。ゼロに何を掛けてもゼロだからだ。だがダンジョン改変の今、コアはこちらに顕現している。本来の確率が数十万分の一であっても、百分の一で探し当てるのが可能だ。

 奇跡をこの手で掴みたい。

 

 

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