※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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女神教孤児院2 罪と罰

 俺は司祭室でお茶をいただいていた。二人から女神教の縁起について説明を受ける。

 今から四十年と少し前、一人の探索者がここ徳島ダンジョンの深層で遭難した。瀕死の彼女は臨死体験をする。只人など及びも尽きぬ、絶世の女人に抱きしめられた。神の愛に包まれたのだ。ダンジョンの女神さまは命じられた。

 

 いきなさい、命の灯を絶やさないで

 

 気づけは宝箱があり、ポーションがあった。同時にダンジョンアイテムが、夢で見た女神さまの像も入っていた。その後幸運にも迷宮を突破し、奇跡の生還を果たす。慈善活動に熱心であった彼女は、ダンジョンの女神さまの教えを伝道し、御恩に報いようとした。しかし、ダンジョンクリエーションの影響で文明は後退し、巷には探索やスタンピードで親を亡くした子供たちが溢れていた。国庫にも支援するだけの余裕がない。

 幼き命の灯を絶やしてはならない、件の探索者は、私財を投げ打って教会と孤児院を設立する。ここで恵まれない子供たちを救済し、神の愛を説いた。彼女は孤児達から慕われ崇められ、やがて教祖となった。その無償の行為は、信仰とは関係なく、人々の善性に響いた。国内でも国外でも、志を同じくする人々はいた。世界中で孤児院が設立され、子供たちを救おうという運動が起きた。教祖様にとって、信仰とは実践であった。お隠れになった後は教え子たちがこれを引き継ぎ、今に至る。

 

 何ていい話なんだ。権威を押しつける訳でもない、ただ恵まれない子供達を救う事で、ダンジョンの女神さまの愛を説いて、生涯を捧げた。身が引き締まるのを感じた。これからは、孤児達の私生活に踏み込むかもしれない。また部外者が触れてはいけない、信仰の核心もあるだろう。留意すべき点を事前に聞いておこう。フィリア・デアのミドルネームについて尋ねたら、女神さまに身も心も捧げた女性聖職者の呼称だそうだ。女神の娘を意味するという。そして失礼とは思ったが、一番の疑問を口にした。

 

「どうして探索者に限って募集をしたんです。子供たちに奉仕するだけなら、一般の方からの希望者も多かったと思います」

 

 シスターと司祭様の答は明快だった。

 

「それは君がダンジョンに潜れるからだわ」

「私たちは、微力ながらも娘達を支えていると自負しています。ですがダンジョンへ入る事が出来ません。心に傷を負った娘達がダンジョンを嫌いにならないよう、あなたにはダンジョンの素晴らしさを伝えて欲しいのです。女神さまのお側へ行けるのは、あなた方、探索者だけです。お願いします、娘達を女神さまの元へ導いてください」

 

 心が洗われるようだった。俺達探索者はダンジョンと共に生きて死ぬ。それがダンジョンの意思であるかのように。その気持ちが伝えられるなら、どんな苦労も厭うまい。

 

「望むところです。僕もダンジョンが大好きですから。ダンジョンで冒険をしてスキルを得て、僕は強くなりました。優しい気持ちも芽生えました。ですがダンジョンは時に残酷で醜く、人の命は軽くなります。どこまで伝えていいものか」

「それを含めてダンジョンの女神様です。ありのままを伝えてください」

 

 俺だって、選ばれる前からずっとダンジョンを想っていたのだ。微力ながら全力を尽くそう。ゴブリンやオークの話をしてあげる。身振り手振りで実演しよう。いずれ彼女達の誰かがダンジョンに選ばれたら、付き添って案内しよう。司祭様の言葉に感激して、注意が疎かになっていた。後ろから憤懣やるかたのない言葉を浴びる。

 

「それは力を貰ったあなただから言える事よ。妹達を誑かさないで。あの子たち、ピクニックに行くみたいにダンジョンに行きたいって大騒ぎしているのよ。変に期待させると、また泣く事になるわ。それとも、わたしたちを嗤いにきたの。強い人には弱者の痛みは分からない。スキルを得ると人は変わる」

 

 俺の言葉が軽かったのか、背後には、不機嫌なセーラー服の女生徒がいた。童顔だが、黒髪赤目のきつい感じの女子高生、彼女がシスター見習いの最年長の子なのだろう。ダンジョンというより、選抜者が嫌いらしい。柳内や涸川のように、確かにクラスメイトに嫌な奴もいた。彼らもスキルを得るまでは、皆と変わらない普通の中学生だったという。シスター ミシアが取りなしてくれる。

 

「泉澄ちゃん、今のは流石に言い過ぎよ。いい加減あの子のことはもう忘れて。彼女は女神さまに導かれて去ったのよ」

「彼女とは永遠の姉妹で友達だって約束したのに。ダンジョンに選ばれると、すぐさまわたしたちを見捨てた。その日のうちに消えてしまい、今も音信不通なの。自分より大切な人だった。己に厳しく、人に優しい公明正大な清い心の持ち主だった。誰よりも尊敬していたのに。そんな人でもスキルを持つと変わるのよ。あなたなんかうちのクラスの男子みたいに卑しくて軽薄だわ。妹達に悪い遊びを教えるに決まっている」

 

 シスター候補だけあって真実を見抜いている。軽薄でイヤらしいとか、俺の本質を的確に指摘した。このままでは言い負かされてしまう。

 

「僕を悪く言うのはかまわない。だけど君の親友を悪く言うのは許さない。聞いた事がある。特別なスキルを引いた人は家族から隔離されて、尉官待遇で暮らせるって。お金と地位は保障される。その代償に名前を捨て、自由を失い、親しい人とは二度と会えなくなると。何故ならそれが弱みになるから。君の親友は別離の悲しさを知っていたはず。それでも君を思って身を引いた。大切な人はそこにいる、でも遇う事も、名乗る事も、消息すらも伝えられない。それがどんなに悔しいか」

 

 親友が彼女の言う通りの人物ならば、率先してダンジョンに潜り、孤児院の経営を助けるはずだ。それをせずに消えてしまい、連絡もよこさない理由は唯一つ、とんでもなく有望で稀少なスキルを引き当てたからだ。国かどこかの機関に囲われてしまった。

 憤慨して自分の事のように怒ってしまった。俺も沙織も菫先輩も、そうなる未来はあった。彼女の友人は皆の幸せを願いながら、今もどこかで危険な任務に就いていると思う。なのに一番の親友は理解してくれない。彼女に代わって、悔しくて涙が出てきた。侮辱するなんてあんまりだ。

 そして何故か理生院の事を思い出した。彼女も選抜者となって浮かれていた俺を、皆に代わって諫めてくれたのだ。

 

 突然怒り、泣き出した俺に、泉澄は唖然としている。司祭様が取りなしてくれた。

 

「あの子は女神さまから特別な力を授けられたの。神罰を代行できる力よ。悪い人はそれを恐れて、あなたや姉妹に危害を及ぼす。私達は引き留めた。でもあの子の決意は固かった。自分のように泣く人を少しでも減らせるようにと。彼女は今もどこかで女神さまの御業を振るって、世の為に尽くしているはずです」

「あの子、みんなを巻き込まないようにって願ったのよ。その気持ちを汲んで今まで黙っていたの」

 

 シスター ミシアも頷いている。今生の別れがあったのだろう。俺も冷静になれた。それにしても人の身で神罰を降せるとか凄い。もしその子が孤児院に残っていたら、俺の悪行も暴かれて、酷い目に合わされたに違いない。

 

「怒鳴って御免、脅してすまない。だけど僕もみんなと同じだよ。母は僕を産んですぐに亡くなった。父はスタンピードで殉職した。僕は本来、孤児院にお世話になる人間だったんだ。幸い義理の母ができた人で、自分の子供と同じように大切にしてくれた。それでも疎外感は拭えなかった。僕はいらない子供だと、心のどこかで思っていた。出て行くと言っては、何度も母を困らせた」

 

 こんな話は今まで誰にもした事はない。でも言葉が止まらない。女神さまが続きを話せと催促される。

 

「僕がここに来たのは、他人事ではなかったから。妹達の力になるのはおかしい事? 君との遣り取りも兄弟喧嘩さ。約束しよう、優しい司祭様とシスターのためならどこまでも頑張れる。家族のために寄り添いたい」

 

 僕の真心が伝わりますように。

 

「僕は偽善者かもしれない。軽蔑されても構わない。本当に立派なのは人の世に尽くしている君の親友だよ」

 

 どうやら俺の弁明が功を奏したようだ。泉澄ちゃんは逸らす事なく俺を見詰めた。もう敵意は消えている。瞳からは感謝と尊敬の涙が溢れた。そして吐き出したのは慚愧の言葉だ。

 

「私こそゴメン、きっとあなたを妬んでいた。あなたみたいな正義の人を侮辱した。自分が恥ずかしくて浅ましくて、そして悔しい」

「僕も人の事は言えない。家族や友人が選ばれる度に祝福した。だけど妬みはいつも燻っていた。そして力を得ても間違うばかり。大切な人や尊敬すべき人を救えなかった。蔑まれて当然だよ」

 

 司祭様もシスターも手を合わせて祈りを捧げる。

 

「今日の善き出会いに感謝を。私達は女神さまから素晴らしい息子を授かりました。御上さん、あなたも私たちを母と、姉と思って」

「泉澄ちゃん良かったわね。これも女神さまの思し召しよ。彼が馴染めるよう指導するのよ。これを請願とするわ」

 

 だが泉澄の懺悔は終わらなかった。彼女は俗世を捨て、その身を神に捧げるつもりだ。ゴメンで済ます俺達とは覚悟が違う。トランスというのだろうか、容姿がおかしい。

 

「女神さま、わたしは罪を犯しました。お願い、誰かわたしを罰して。そして罪を償わせて。ああ、誰かわたしを助けてよ。あぁー、あぁー、重い罰を、辛苦の鞭を賜りたい」

 

 ここで気にするなというのは簡単だ。事実俺は気にしていない。だけどそれでは泉澄は救えない。救世の道は茨の道だ。その道を進む尊き親友を軽蔑し、蔑んでしまった。道は分かたれていまい、会う事は叶わない。贖罪の言葉は永遠に届かないのだ。このままでは、ユダの後悔に捕われる。ならば俺が罰を与える。

 

「それなら迷える僕を導いてほしい。何が正しいのか霧中で迷っている。持っている力が大きいだけに、知らないうちに人を傷つけないか心配だ。強いスキルを授けられると、本人も周りの人も苦しい思いをする時がある。君はその悲しみを知っている。僕と友達になってよ。スキルに悩む僕を受け止め、身も心も救ってほしい。これを君への罰とする」

 

 もし俺がスキルに溺れるなら、躰を張って止めてほしいと暗にお願いする。果して泉澄は俺の手を取った。

 

「約束する、正しいあなたの弱い心、この身をもって慰める。これを贖罪とするわ。女神さまに誓うわよ」

「心から感謝するよ。僕はみんなから想夜と気軽に呼ばれたい。君の事も泉澄と呼ぶよ。そして応援させてほしい。君が立派なシスターになるよう、親友として微力を尽くすよ。その暁には、敬意を込めてもう一度名を呼ぶ」

 

 泉澄は泣き崩れた。それを支えるシスター ミシアも、もらい泣きしている。二人はひしと抱き合った。ちょっと前の少女文学、エスに出てくる尊い姉妹がそこにいた。大団円に心の中で拍手すれば、司祭様から抱きしめられた。爆乳に俺の顔が埋まる。締まった腰骨と一気に広がる豊かな臀部、むっちりと挟まれたい太もも、修道服でも隠し切れないその豊満な肉体が、俺の身体を包み込む。いやらしい気持ちは起きない。彼女にも異性の俺を抱く事への照れはない。司祭様はどこまでも母であった。

 

「私も想夜さんを愛おしく思います。高潔な志を尊敬します。悩めるときはおっしゃって。私たちで慰めます。ミシアだって同じ気持ちよ。私たちも名前で呼んで。母と、姉と思って思い切り甘えて。遠慮なんかしないで頂戴」

 

 ミシアも力強く頷いている。涼し気な顔が燃えるように赤い。我が身を捧げる殉教者のようであった。流す涙も、聖なる血だ。

 

「誰よりも強くなって、皆を護る盾となりたい。でも大きな力は恐ろしい。いつも悩んで心が苦しい。僕を助けて。話を聞いてくれる人がいたら、楽になりそう」

「ああぁ~~~~、想夜さん。あなたの懺悔を受け入れます」

 

 照子司祭が感激のあまり、法悦に喘ぐ。俺を抱く腕にもいっそうの力が籠った。涙が流れる。だけど今俺は泣いていない。司祭の流す清き涙が伝わり落ちて、俺の頬を濡らしていたのだ。

 

 

 

 面談は無事に終わった。教会の人達から最大限の好意を受け取った。いつか報いたいものだ。

 この後は、鍛錬を兼ねて、祖父の元へジョギングする。最も会うのはシーナではあるが。入院中、何度もメールで急かされた。彼女は艶めかしい音声と待ち受けで意地悪をする。発散できない俺を煽るのだ。もう堪らない。こそこそとベッドの中で閲覧していたら看護婦さんに見つかった。若いのね、生温かい目で見られてしまう。入院した男どもはこうやってスマホを弄っているに違いない。

 

 シーナは俺を見るなり喜びを爆発させた。飛びついて、可愛らしく甘えだした。

 

「こちらの世界に認識されて、魔力が躰に馴染むようになった。サヨのおかげさ。魔力が疼いてムラっとする」

 

 オーロラより光臨したシーナの映像は、世界中に衝撃を与えた。現場からは撮影できなくても、離れた市街地からはしっかり撮れたのだ。その美しさ、神々しさは、超常の存在を人の世に認識させるに充分だった。だけど師匠はそんな事は関係ない。人類が驚愕し、自分を崇め奉れば満足なのだ。そんな師匠のおかげで俺は命を繋いだ。沢山の人の命が救われた。感謝してもし切れない。調子に乗って浮かれるシーナに聞いてみる。

 

「女神様扱いされているけど、大丈夫なの。偽神として神々の怒りに触れない?」

「平気だよ。ダンジョンの女神さまは細かい事、気にしないし。それに怒りの矛先が向くとしたら人類のほう。ボクは一度も神だなんて名乗ってない」

 

 勘違いした人間が悪いのか。ちょっと安心した。

 

「それよりサヨからは女の匂いがする。とても芳しくて懐かしい魔力の残滓、今日はどんな女を泣かせたのさ」

 

 先生を抱いたのは昨日だ。今日は女を抱いていない。関わったのはまず、孤児院のみなしご達、幼気な童女を躾けるのも興味深いが、胸が僅かに膨らんでいるのが最低条件。ぺったんこには欲情しない。司祭様とシスターは眩しすぎて、肉欲の対象にはならなかった。シスター見習いの泉澄だけは、誘惑してその信仰を揺るがせてみたいと、ちょっとだけ思った。司祭様からは抱きしめられたが、それは男女の抱擁ではない。母と子の抱擁だったのだ。

 ここから遠くない教会の孤児院でボランティア活動をする事、そこはダンジョンから出土した女神像をご本尊としている事、普段は祭壇に収められて、見る事が叶わないと、掻い摘んで話した。でもそう言えば、みんな泣かした。みなしご達は兄が出来たと感激して泣き、泉澄は俺に救済されて泣き、司祭様とシスターは俺の健全な精神に感動して泣いた。

 師匠は一転して真顔になる。

 

「弟子の神気は、やっぱりダンジョンの女神さまの残り香だったんだ。多分その女神像、異世界から時空を超えて漂着したんだと思う。異世界人の願いが詰まっていたから壊れなかったんだ。宝箱に入っていたのは、マジックアイテム化したから。邪なものを遠ざけるとかの効果はあると思う」

 

 シーナは言葉を続ける。小さな躰にそぐわない魂を縛る妖精族の力強い言葉、その音節の一つ一つに魔力が籠る。己の願いを聞いてもらえるよう、嫋やかな妖精族が編み出した高度な魔法言語だ。悪意などない、無邪気な妖精はそれを無意識で使う。

 

「女神さまの眷属を泣かせると、加護を貰えたりするよ。清らかな神の娘を沢山泣かそう。そしてサヨは雄々しくなるんだ。ボクも力が回復してきた。サヨが神気を取り込んでボクに注いでくれるなら、変身魔法を使えたりする。一時的に人化できるよ。そしたら弟子は師匠に乗っかって、無理やり魔力を注ぐんだ」

 

 幻惑魔法での性交の感触は本物と変わらない。だけど師匠が大きくなるわけではない。本番中も、実際はシーナが俺の逸物に被りついているだけだ。変身魔法で彼女が人化すれば話は違う。あらゆる体位が取り放題、師匠は俺に強引に迫られたいと熱望している。何としても叶えたい。それは俺の願いでもあるから。

 

「その願い、命に代えても叶えてみせる。僕も師匠を組み伏せてわからせたい。僕と師匠の心は一つだ。次は躰を一つにして、身も心も、師匠を僕のものにする」

「うう、嬉しいよ。三千世界でただ一人のボクの弟子。ああ、私の愛しい人」

 

 例によって肩に留まって躰を寄せる。最期だけボクっ娘でなかったのが心に染みた。

 

 

 

 情けは人の為ならず

 

 少しだけ社会で経験を積んで、諺の意味を理解した。情けをかけて女性を嬉し泣かすのだ。巡り巡って、それが俺の力になる。師匠は【魔導】を教えてくれた。今度は俺が師匠に悦びを教えて、その恩を返そう。

 

 

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