十六夜の月を迎えた朝の目覚めは、いつだって憂鬱だ。
嫌でも、認めざるを得ないから。
また、リコに会うことが出来なかったって。
それを認めたく無い私はもしかしたらリコはもう帰ってて、疲れたからリコの部屋で眠ってるだけなのかもしれない、と都合の良い願望に縋り付く。
だけど、何度十六夜の月を迎えても、その結果が変わる事は無かった。
「…………」
リコの部屋を覗き見る。
部屋の中は当然無人で、時折手入れの為に入っている私以外の痕跡は、どこにも無かった。
つまり、私以外は誰もこの部屋に入っていないと言う事だ。
あの日から変わらないその事実に、胸が寂寥で埋め尽くされる。
このまま主のいない空っぽの部屋を見ていたらどうにかなってしまいそうで急いで自分の部屋に戻るけど、寂しさが収まる事は無かった。
だって私の机には、モフルンがいるから。
机の上のモフルンは、あの頃の様に喋る事もなく、ただ座っているだけだ。
あの日、リコと出会った運命の日を境に喋れる様になったモフルンは、リコとの別れで物言わぬぬいぐるみに戻ってしまった。
だから今のモフルンを見ると、あの時の別れを思い出してどうしても胸が痛くなってしまう。
リコと会えなかった、寂寥の痛みに。
もう何度、同じ事を繰り返したかわからないのに。
「…………ごめんね、モフルン」
そして一番の親友にまたそんな事を思ってしまった事に、言いようの無い罪悪感が噴き出してくる。
だけど胸の痛みは治らず、むしろモフルンへの罪悪感と合わせて更に酷くなる。
「…………あ、れ」
気づけば、痛みに耐えきれなくなった心が涙を溢していた。
熱いものが、頬を濡らして落ちていく。
もう何度目かわからない涙。
十六夜の月を迎えた朝は、いつもこうだ。
心がリコに会えなかった寂寥に埋め尽くされて、決壊してしまう。
何度迎えたかわからない十六夜。
重ねたその数だけ、私も時を重ねて変わってきた筈なのに。
この痛みだけは、リコと別れたあの日から何も変わっていなかった。
「…………ごめんね、モフルン…………駄目、なのに…………こんな事、してたら、リコに、笑われちゃうのに…………止まら、ないや…………」
本当はわかっている。
こんな事をしていても、リコを傷つけるだけだって。
リコだって、頑張ってるんだから。
だから、泣いてなんかいられない筈なのに。
寂寥に埋め尽くされた心は言う事を聞かず、ただ涙を流し続ける。
「リコ…………会いたいよぉ…………」
縋るようにリコの名前を呼ぶが、返事が帰ってくる事は無く。
その事実にまた胸を締め付けられながら独り、部屋の中で泣き続けた。
「…………っ⁉︎」
ズキン、と刺すような痛みに胸を突かれて、意識が微睡と覚醒の境界に引き上げられる。
「…………っ、はっ…………」
余りの痛みに半分微睡んだままの意識が混乱して鼓動が荒れ狂い、五月蝿く騒ぎ立てる胸の痛みに反応した身体が痛みから逃げる為に空気を求め始める。
だけど、私の身体は意図に反して浅い呼吸を繰り返すだけだった。
まるで、呼吸の仕方を忘れてしまった様に。
そのせいで更に胸が五月蝿くなり、ズキズキと痛みが強くなる。
ますます強くなる痛みから逃げようと、身体がベッドの上をのたうち回る。
そして。
「…………あいたっ」
ゴン、と鈍い音と共に私はベッドから落ちた。
全身を打ったせいか、鈍い痛みがあちこちから響いてくる。
その代わり意識は完全に覚醒していて、さっきまでの鋭い痛みは泡の様に消え去っていた。
「…………また、あの夢」
床に倒れたまま天井を見上げて、一人嘆息する。
思い出すのは、痛みの原因…………私が見ていた、悪夢の事だ。
あの十六夜の月にリコと再会してから、十六夜の月を迎えた朝が憂鬱になる事は無くなった。
その代わり、時折夢を見る様になった。
十六夜の月を迎えた朝の夢…………リコも、はーちゃんも、モフルンも、誰もいない悪夢を。
いや、記憶という方が正しいだろうか。
何故なら夢の私は…………この五年間、十六夜の月を迎えた朝の度に泣いていた、過去の私なのだから。
…………今日はリコとはーちゃんがお泊まりに来ているから、モフルンがはーちゃんと一緒に寝ていて良かった。
モフルンの事だから私が時折悪夢を見ている事に気づいてるんだろうけど、ベッドから落ちるなんて、初めてだから。
更に心配をかけたくない。
「…………」
少し痛む身体を押さえてベッドに戻り、布団を被り直す。
だけど、眠る事は出来なかった。
この夢を見た時は、いつもそうだ。
目を閉じる事が怖くて、眠れない。
…………閉じてしまえば、この現実が泡の様に消えてしまうかもしれないと、不安になるから。
勿論、そんな事がありえない事なのはわかってる。
だけど、夢をみるとどうしても脳裏によぎってしまう。
あの幸せだった時間も、今の幸せな時間も、本当は夢だったんじゃないかって、馬鹿げた考えが。
リコも、はーちゃんも、モフルンも、魔法も…………全部私の夢で、リコのいなかったあの五年間こそが現実だったんじゃないかって弱気な考えが。
心の冷静な部分が、それは離れた世界を繋げるために頑張って来たリコやはーちゃんへの冒涜だ、と叱るけど、夢で弱った心はそれを受け入れられる程前向きじゃなかった。
むしろ、夢だった方が苦しくない、とまで思ってしまっている節がある。
リコ達のおかげで、世界は再び繋がった。
…………だけど、また世界が離れない、なんて保証はない。
世界が離れないとしても、この五年間で私もリコもはーちゃんも随分と変わった。
私は大学生になったし、リコは魔法学校の先生で、はーちゃんに至っては神様だ。
お互いに忙しくて、中学の時の様にずっと一緒、という訳にはいかない。
もしかしたら、このままお互いの進む道が離れて、私が初めて魔法界に来た時の様に、離れ離れになってしまうかもしれない。
そうなってしまった時の事を考えると、胸が張り裂けそうになる。
補習授業の終わりに、闇の魔法つかいとの決戦に、大魔法フェスティバルに、混沌の世界。
リコも、はーちゃんも、モフルンも…………皆、私と離れてしまった。
幸い、再び巡り会う事が出来たけど…………三度目の別離は、もう味わいたくない。
だから、夢だった方が辛くない、と弱気になった心が考えてしまう。
そして眠れないまま天井を眺めていると、夢の光景…………あるいは、心に刻まれた記憶が脳裏に浮かんでくる。
その時の感情を思い出して胸が締め付けられる様な気分になり、思わず息が詰まる。
「…………だい、じょう、ぶ。リコはちゃんと、ここにいる…………いなくなったりなんて、しない…………」
すぐ近くの自室で眠っているだろうリコの事を考えて無理矢理息を整えるけど、頭に浮かんだ光景は中々消えてはくれず、弱気な心を更に責め立てる。
「…………いや、だ…………リコたちが夢、なんて…………いや、だよ…………」
気づけば、夢の様に涙が溢れていた。
本当は大好きなリコ達が夢だったなんて、考えたくもない。
でも胸に巣食う不安は消えず、絶えず弱った心を苛む。
それに涙を溢すしか、今の私には出来なかった。
「みらい、起きなさい! もう朝よ! 今日はお休みだけど、本当なら起きる時間でしょ!」
「ん、ん〜〜…………」
微睡の中、リコの声が頭に響く。
それに目を開くと、いつかの様に私の部屋の扉を開けたリコが目の前に立っていた。
どうやら、気づかない内にまた眠りに落ちていたらしい。
時計を見ると、なるほどリコの言う通り普段起きる時より遅い時刻を指し示している。
最近はお休みの日でもいつも通り起きてたから、リコに起こされるなんて随分と久しぶりだ。
「…………おはよう、リコ」
「おはよう、みらい。もうすぐ朝ごはん出来るみたいだから、みらいも早く…………みらい?」
「な、なに? リコ」
なんだか懐かしいなぁと思っていると、言葉の途中で怪訝そうな顔になったリコが私を見つめてきた。
五年経ってあの時よりも綺麗になったリコの顔に見つめられて、思わずドキン、と胸が跳ねる。
だけどリコはそんな私の心情にお構いなしで、どんどん距離を詰めてくる。
「…………何か、嫌な事でもあった?」
そして何かあれば顔同士がくっついちゃうんじゃないかと思うくらいに距離が近づいた時、心配そうな顔をしたリコがそんな事を言い出した。
「へ?」
「目、腫れてるわよ」
言われて目の周りを触ってみると、確かにちょっと違和感がある。
リコの言う通り、腫れてる様な手触りだ。
まるで、涙が溢れた跡の様な。
「…………みらい、大丈夫?」
「へ、あ、いやなんでもないよ? リコが起こしに来たの久しぶりだなぁって思っただけで。腫れてるのはほら、花粉症とかじゃないかな! 今年は酷いらしいし!」
それに気づくと同時に、リコがますます心配そうな顔をするので慌てて誤魔化す。
…………リコがいない時の夢を見て泣いてた、なんてリコに言える訳が無いから。
モフルンやはーちゃんならまだ良い。
モフルンは私の恥ずかしい秘密なんて沢山知ってるから今更だし、はーちゃんは今やナシマホウ界も魔法界も含めて全部を見守っている神様で、どっちも、ある意味でもう筒抜けだから。
でも、リコは別だ。
リコも他の二人と同じ家族の様なものだけど…………私がリコに向ける感情は、モフルンやはーちゃんと違っている。
きっとこれは、恋に近い感情だ、
初めて出会ったあの時から、今の今まで…………ずっと、私はリコに恋している。
…………この気持ちをはっきりと自覚したのは皮肉にも、あの別離を味わってしまってからの話だけど…………だからこそ、リコにだけは今の弱気な私を知られたくなかった。
「…………そう。確かに、今のみらいは私が起こさなくてもちゃんと起きれるものね。私もなんだか懐かしいわ」
「だよね! じゃあほら、朝ごはんいこ! 今日は何かな!」
「ちょっと、押さないでよ」
果たして、誤魔化しはどうやら上手くいったみたい。
花粉症はこの時期ちょっと厳しいんじゃないかと思ったけど、リコが今のナシマホウ界に疎くて良かった。
そう胸を内心撫で下ろしながら、リコを半ば追い出す様にしてリビングに向かう。
…………少し目を細めた、リコの顔に気づかずに。
夕方、リコ達を津成木駅のカタツムリニアターミナルで見送って、自宅に戻った後。
「はぁ…………」
私はモフルンと二人、自分の部屋で軽く落ち込んでいた。
まあ落ち込んでいるのは私だけだけども。
「みらい、どうしたモフ?」
私の様子が気になったのか、モフルンが不思議そうな顔をする。
「んー、ちょっと…………このままじゃいけないかなって」
今日はリコに、泣いていた跡を見られてしまった。
幸い何とか誤魔化せたけど、次も誤魔化せるとは思えない。
リコに変な心配させたくないから、どうにかしないといけないとは思うんだけど、どうすれば良いのかわからない。
思考の袋小路に入ったみたいだ。
「何がいけないモフ? …………もしかして、最近みらいが寝てる時に辛そうな事と関係があるモフ?」
「やっぱりモフルンは気づいてたかー…………まあ、そういう事になるのかな」
「モフ! みらいの事なら、何でもお見通しモフ! …………それで、何がいけないモフ?」
「んー…………なんて言えば良いのかな…………」
やっぱりというか何というか、モフルンは私の事に気づいていたらしく、もふ、と自分の胸を叩いて胸を張る。
昼にリコ達と色々遊んだおかげか私の心は少し軽くなっていて、モフルンになら話してみるのも良いかもしれない、と思えるくらいにはなっていた。
だからお言葉に甘えようと、モフルンを抱えた時。
「あら、そういう事なら私にも教えてくれないかしら、みらい?」
「へ?」
する筈のない声が、扉の方から聞こえてきた。
「リ、リコ⁉︎何でここに⁉︎さっき帰ったんじゃ⁉︎」
慌てて扉の方に視線を向けると、そこにはさっき津成木駅で見送った筈のリコがいた。
更に。
「私もいるよ! はー!」
「はーちゃんまで⁉︎」
同じく帰った筈のはーちゃんまで、リコの背中からひょっこりと現れた。
「ど、どういう事? 何で二人がここに?」
「それ、さっきも聞いたから。…………全く、あの程度で私を誤魔化せると思ったのかしら、み・ら・い?」
予想外の事態すぎて混乱していると、リコが若干怒った様な顔をして私の部屋に入ってくる。
「いや学校は⁉︎さっきのが最終だったよね、リコ⁉︎」
「ご心配なく。校長先生に連絡して、有給を取りましたから。みらいのご両親にも、許可は貰ったわ。…………はーちゃん、お願い!」
「はー! モフルン、一緒に遊ぼー!」
「モフ? …………わかったモフ! モフルンははーちゃんと一緒に遊ぶモフ!」
訂正。
これ若干どころか、かなり怒ってる。
ちょっとツンとしたとこが、喧嘩した時のリコそのものだ。
頼みの綱のモフルンも、リコやはーちゃんと何やらアイコンタクトした後、はーちゃんについていってしまった。
そのままバタン、と扉が閉まり部屋には私とリコだけが残される。
「…………」
「…………えーと、その。あ、お茶をとってくるね!」
何やら怒っているらしいリコの剣幕に耐えきれず、飲み物を建前に一回体勢を立て直そうとする。
しかし。
「いらないわ。みらいの分も持って来たから。…………それに、逃さないわよ。キュアップ・ラパパ、鍵よかかりなさい!」
扉に手をかけた瞬間、カチャンと鍵のかかる音がした。
まさか、と思って試しに扉を引いてみるけど、びくともしない。
どうやらリコは私を逃す気はないらしい、と遅まきながら理解する。
諦めてベッドに腰掛けると、リコも隣に座ってきた。
「…………ふぅ。やっと捕まえた。さあキリキリ話してもらうわよ、みらい!」
私の手を握りながら、リコが詰めてくる。
「…………話すって、何の事?」
その剣幕からリコの聞きたい事は何となく察しがついたけど、私は惚けた振りをした。
…………リコにだけは、知られたくなかったから。
「決まってるじゃない。今朝の事よ」
「…………あれは、花粉症だって」
私の態度にリコが苛立った様子を見せるけど、やる事は変わらない。
リコにだけは、話したくない。
「嘘ね。あまり私を見くびらないで頂戴。ナシマホウ界の花粉症の時期がとっくに過ぎてるなんて、もう知ってるんだから!」
「…………」
「そう。意地でも答えたくないのね。ならこっちにも、考えがあるわ」
「…………考えって?」
だけどリコは諦めるつもりがないらしく、私から手を離さない。
そして。
「貴女が答えるまでこの部屋から出さないわ。勿論、私もね」
「はい?」
私の顔を見つめたまま、とんでもない事を言い出した。
「今、この部屋から出さないって言いました?」
「ええ。みらいが一度決めたら曲げないのは、よ〜く知ってるもの。だから、私もとことん付き合うわ。安心して。その分の食料は用意してきたし、校長先生にもみらいのご両親にも話は通してあるから。…………だから、教えてみらい。貴女が、何に苦しんでいるのかを。怒ったりなんて、しないから」
覚悟を決めた瞳をしながら、リコが私を見つめる。
どうやら、私が逃げられない様に外堀を徹底的に埋めてきた様だ。
「…………わかったよ、リコ」
そのリコの徹底振りに、私は折れた。
このまま意地を張って黙っていても、リコに迷惑がかかるだけだと悟ったからだ。
観念して、少しずつ話し始める。
心に巣食う、知られたくなかった弱い自分を。
「…………これで、全部だよ、リコ」
夕焼けの太陽が沈みきって、完全に夜の帷が落ちた頃。
ようやく私は、胸の内を吐き出しきった。
「…………なるほど。そういう事だったのね」
それに対応する様にずっと私の話を聞いていたリコが、深く深く、息を吐く。
そして、強く私の手を握りしめた。
「…………え?」
「…………先に謝っておくわね。今からちょっと、乱暴な事をするから」
次の瞬間、リコが私の身体を抱きしめ、ベッドに押し倒した。
柔らかいベッドだから痛みはなかったけど、代わりに脳が混乱でフリーズする。
リコの柔らかい身体の感触や甘い匂い、体温が伝わって来て興奮したのもあるけど…………それ以上に、リコの言葉の意味がわからなかった。
その時。
「…………っ⁉︎」
私の唇を、柔らかい何かが塞いだ。
それは、リコの唇だった。
少し湿ったその感触はただ触れただけにも関わらず噂に聞く甘いなんて言葉では言い表せないくらい濃厚な味をしていて、触れた瞬間に脳が沸騰しそうになった。
そんな私の様子を知ってか知らずか、リコがそっと唇を離す。
時間にして、数秒程だろうか。
だけどその数秒は、私の中に巣食っていた弱気をどこかに吹き飛ばすのに、十分な時間だった。
「…………リコ、何、え、今、私達、キスした…………?」
「…………言ったでしょ、乱暴な事をするって。それで、私達が夢かもしれない、だっけ? ならそんな事思えない様に、たっぷり刻んであげる」
「へ…………? んむ、んっ⁉︎」
唇を解放されたのでリコに問いかけるも、リコは強気な目で訳の分からない事を言うだけだった。
そして、再び唇を塞がれる。
さっきと同じ濃厚な味がまた私を支配して、脳を沸騰させる。
しかも今度はさっきよりも激しく、貪る様なキスだった。
突然の不意打ちに私が耐えられる筈もなく、リコのなすがままにされていく。
そのまま、私が音を上げるまでリコに唇を奪われ続けた。
「これで、私達が現実だって事、わかったかしら」
「うん…………」
ようやくリコの唇から解放された私は、ヘロヘロになっていた。
というかリコ、上手すぎ…………!
最後の方なんて、舌まで入れられてたし!
そもそも、なんでこうなったんだっけ…………?
思わぬリコの一面に翻弄されたせいか、私の頭の中はそんな思考で一杯で、キスされる前にリコに話した事なんかは記憶の彼方に飛び去っていた。
「それでね、みらい。私達が現実だってみらいがわかったとこで、話したい事があるんだけど」
「…………どうしたの、リコ?」
リコのキスに思考を占領されていると、ベッドに倒れ込んだ私の顔を見つめる様にリコが倒れ込む。
…………私はさっきのキスが忘れられなくて、リコの顔はまともに見れていないんだけど。
そして。
「貴女が好きよ、みらい」
「…………へ?」
本日何度目かの、爆弾発言が飛び出して来た。
「初めて会った時から、ずっとみらいの事が好き。モフルンやはーちゃんみたいに家族として好き、って意味じゃないわよ? 勿論そういう面もあるけど…………人として、私はみらいが好き。恋してると言っても良いわ」
「え…………リコ…………え?」
これは、幻聴だろうか。
聞き間違えでなければ、リコも私と同じ気持ちだ、と告白されている様な。
いきなり爆弾を投げ込まれて混乱する私に追い討ちをかける様に、リコがまた私の事を抱き締める。
「…………だから、みらい。私達が夢かもしれないなんて悲しい事、もう言わないで。例えまた離れ離れになったとしても…………私は絶対にみらいを追いかけて、捕まえるから。ずっと、一緒よ」
「…………っ!」
二度ある事は三度あるって言うでしょ? と笑いながら、リコが囁く。
だけどその声はとても悲しい声で、私がリコを傷つけてしまった事を直感的に理解する。
そしてリコがその傷を我慢して、私に手を伸ばし続けた事も。
それに気づいてしまえば、私の取る道は、一つしかなかった。
「…………ごめん、リコ。酷い事、言っちゃって。リコに嫌われたくなくて、リコを傷つけちゃった。…………そして、ありがとう。私に、手を伸ばしてくれて」
…………本当は、まだ怖い。
また離れ離れになるかもしれない事が、別離の苦しさをまた味わうかもしれない事が。
…………だけど。
リコは、私を捕まえると言ってくれた。
そして宣言通り、夢に逃げようとしていた私の心を捕まえて、どうしようもないくらい現実を刻みつけてきた。
だから今の私にはもう、リコやはーちゃん、モフルンが夢だなんて思う気持ちは、何処にもなかった。
「いいわよ、別に。私だって、似た様な事を考えた事がなかったかって言えば、嘘になるもの。…………ところで、私に告白させておいて、みらいは何も無いの?」
「…………もう殆ど言ってない?」
リコに胸の内を吐き出した時に、殆ど答えの様なものを言ってしまった気がする。
だけど、リコはそれじゃ不満らしい。
「ちゃんと自分の言葉で言って。ほら、校長先生も言ってるでしょ?」
言われて、校長先生の言葉を思い出す。
素直な言の葉は、時に魔法となって、心を動かす。
確かにそうだ。
リコの素直な言葉が、魔法になって、私の心を動かした。
なら、私もリコに魔法をかけちゃおう。
私達、伝説の魔法つかいなんだから。
「────私も大好きだよ、リコ! 初めて会った時から、ずーっと大好き! だから、ずっと、ずーっと一緒にいたい!」
「ええ。私もよ、みらい!」
キュアップ・ラパパ、と合図をするでもなくお互いの声が重なる。
それが嬉しくて、今度は私がリコを抱きしめる。
お互いの顔の距離がさっきよりも近くなって、気を抜けば唇が触れてしまいそうなくらいになる。
すると、リコが何かを期待するかの様に目を閉じた。
だからちょっとだけ、顔を前に出す。
リコの唇の味は、さっきよりもずっと甘くて、蕩けそうだった。
みらリコは良いぞ