中身ははーちゃんがみらリコにウェデイングドレスを着せようとする話です
「良いよねぇ、ウェデイングドレス…………」
お休みの日の昼下がり。
私とみらいとはーちゃんとモフルンと四人、何をするでもなく各々のんびりとしていると、みらいがしみじみとした声で、そんな事を言い出した。
みらいのその言葉が気になって読んでいた本から顔を上げると、みらいが流していた映画が、丁度エンディングを迎えていた。
荘厳な鐘の鳴る中、綺麗なウェデイングドレスに身を包んだ花嫁が誓いのキスを交わすという、エンディングを。
本に夢中になってたから細かい流れはわからないけど、察するにキスを交わしている二人が困難の果てに遂に結ばれた、という流れらしい。
「はー! 感動もんだったね、みらい! 私もウェデイングドレス、着てみたくなっちゃった!」
さっきの言葉はそういう事ね、と一人みらいの言葉に納得していると、どうやらはーちゃんも一緒に映画を見ていた様で、元気な感想が聞こえてくる。
しかし。
「駄目よ、はーちゃん。はーちゃんにはまだ、ウェデイングドレスは早いわ」
「そうだよ! はーちゃんにはまだ早いよ!」
はーちゃんのその感想は、私的にはちょっと聞き逃せない内容だった。
みらいも同じ気持ちな様で、二人揃ってはーちゃんに反対する。
「はー⁉︎なんで⁉︎私もウェデイングドレス、着てみたい!」
私達二人の反対に、はーちゃんが当然不満そうな顔をする。
だけど、私達的にもこれは譲れない。
何故なら。
「だって、その…………はーちゃんがウェデイングドレスを着るって事は…………その、私達以外の好きな人と結ばれるって事でしょう? そんなの、私はまだ嫌だわ。はーちゃんが遠くに行っちゃうみたいで」
はーちゃんの親として、はーちゃんが結婚するなんて事、簡単に認められる訳が無いからだ。
親バカ的な思考なのはわかってるけど、何だか寂しいし。
…………まあ、頭の冷静な部分はそれははーちゃんの不満を深めるだけ、と言ってるんだけど。
それでも、譲れないものは譲れない。
だけど。
「そうなの?」
そんな私の予想とは反対に、はーちゃんはきょとんとした顔を見せるだけだった。
「そうなのって…………あのねはーちゃん、ウェデイングドレスっていうのは、好きな人と結ばれる時に着るものなのよ。さっき流していた映画でも、そうだったでしょう?」
はーちゃんのその態度はまるで無邪気に憧れる子供の様で、反対というより諭す様な言葉が出るくらいにさっきの勢いが削がてしまう。
更に。
「ふーん、そうなんだ。ウェデイングドレスは、好きな人と結ばれる時に着るものなんだね!」
「え、ええ」
「それなら、確かに私にはまだ早いね! だって、私はこの世界にいる皆の事が大好きだけど…………みらいとリコ、モフルン、それにみらいとリコの家族の皆を超えるくらい大好きな人は、まだいないし!」
「そ、そうなんだね、はーちゃん…………はーちゃんがわかってくれたのは嬉しいけど、こうもあっさり受け入れられると、ちょっと不安になる様な…………」
はーちゃんがあっさりと私の言葉を受け入れたことで、余計に勢いが削がれていく。
むしろ、はーちゃんの勢いに押されてる感じすらする。
みらいもそれは同じな様で、さっきまで私の言葉にウンウン頷いてたのは何処へやら、少し引き気味になっていた。
そして。
「でもそれなら…………みらいとリコは、ウェデイングドレス、着ないの?」
「「へ?」」
押されに押されて引き気味になった私達の隙を突くように、はーちゃんがいきなり度肝を抜く様な事を言ってきた。
「だって、ウェデイングドレスって好きな人と結ばれる時に着るものなんでしょ? それなら…………みらいとリコはお互いの事が大好きだから、ウェデイングドレス、とっても似合うと思う! だから私、みらいとリコのウェデイングドレス、見たい!」
爆弾発言に固まった私達に、とびっきりの笑顔になったはーちゃんが私達のウェデイングドレスを見たい、という更なる爆弾発言を投げてくる。
「ちょ、ちょっとはーちゃん⁉︎」
「はーちゃん…………良いねそれ! 私もウェデイングドレス、着てみたいし! それに、リコのウェデイングドレスも見てみたい! 絶対素敵だもん!」
「だよね!」
「みらい⁉︎」
はーちゃんのその言葉に、私は驚く事しか出来なかったけど、みらいにとってはどうやら違った意味を持っていたらしく、目をキラキラさせながらみらいも爆弾発言を投げてきた。
「ちょっと、しっかりしなさいみらい! ウェデイングドレスなんて高すぎるわ! 給料何ヶ月分かかると思うのよ!」
「はっ…………そ、そうだねリコ!」
みらいのその発言に面喰らいつつも、このまま放置したらとんでもない事になりそうだったので、慌ててみらいの肩を揺さぶる。
するとみらいが正気に戻った様な雰囲気を出したけど、言葉とは裏腹にみらいはまだ浮かれた様な顔をし続けていて、思わず溜息が漏れる。
多分、ウェデイングドレスの事を考えているのだろう。
そんな様子のみらいをどうしたものか、と頭を抱えそうになったその時。
「大丈夫だよ、リコ! みらいと一緒に、ウェデイングドレス着れるよ!」
「はい⁉︎」
はーちゃんがさっきの私の言葉をガン無視した様な提案をかましてきた。
「だって…………リコは、お金がかかるからダメって言ってるんだよね?」
「え、ええ」
「つまり、ウェデイングドレスを着たくないって事じゃないんだよね?」
「それは…………そう、だけど…………」
はーちゃんの言葉に驚いて思わず聞き返すと、はーちゃんが痛いところを突いてきて言葉に詰まってしまう。
…………そう。
はーちゃんの言うとおり、本当は私もみらいとはーちゃんと同じくらい、ウェデイングドレスに興味はある。
ウェデイングドレスを着たみらいは絶対素敵だし、やっぱりドレスっていうのは少し憧れるし。
でも、ウェデイングドレスは高い。
それこそ、魔法学校教師の給料と出張費をどれだけ注ぎ込めば良いかわからないくらいに。
いやまあ写真を撮るだけとかならまだ手が出せると思うけど、きっとそれじゃ私達は満足出来ないだろうし。
だから、私としては反対するしかない。
もう少し余裕が出来たら、話は別だと思うけど。
しかし。
「そういう事なら大丈夫! 全部、私が用意するから!」
「「はい? 今、用意するって言いました?」」
「言いました!」
続くはーちゃんの言葉が、色々なものに縛られた私の頭の中を、綺麗に吹き飛ばしてしまった。
それはみらいも同じだった様で、お互いに目を合わせたまま固まってしまう。
なるほど、はーちゃんの魔法なら確かにウェデイングドレスを費用ゼロで用意出来るだろうと、固まりながらも頭の冷静な部分が告げる。
だけど、何故はーちゃんがそこまでウェデイングドレスに拘るのかは、謎のままだった。
今思えばさっきのウェデイングドレスを着たいってはーちゃんの態度も、何だか妙に思えるくらいに。
「えっと…………はーちゃん、どうして…………?」
同じ事をみらいも思った様で、みらいが戸惑いがちにはーちゃんに訊ねる。
すると、はーちゃんがさっきまでの楽しそうな笑顔とは違った、女神の様な優しい笑みを浮かべた。
そして。
「…………私が世界を見守る様になってから、ずっと、思ってたんだ。結婚式って…………皆がキラキラしていて、とても幸せそうだって。だから、思ったの。みらいとリコが結婚式を挙げたら、二人がもっと幸せになれるかもって」
「はーちゃん…………」
続くはーちゃんの言葉は、純粋に私達の幸せを願う気持ちに溢れた、祈りだった。
思いがけないその祈りに、思わず言葉が詰まる。
はーちゃんのその祈りが嬉しすぎて、何を言えば良いのかわからなくなってしまったから。
その時ふと、みらいと目が合った。
すると何故だろうか、言葉が喉から出ない筈なのにお互いの考えが手に取る様にはっきりとわかる。
気づけば二人、合図を交わすように頷いていた。
「「はーちゃん」」
「…………みらい? リコ?」
合図の通り、二人で一緒にはーちゃんを抱きしめる。
答えはもう、決まった。
だって私達は、はーちゃんの親だから。
凄い力を持ってて、本当は神様でも…………それ以前にはーちゃんは私達の大切な子供だ。
なら…………私達は、はーちゃんの想いに応えないといけない。
「ありがとう、はーちゃん。私達の事を、そこまで思ってくれて…………正直嬉しすぎて、言葉が出ないわ」
「でもこれだけは言えるよ、はーちゃん! …………結婚式を挙げよう、はーちゃん!」
「…………うん!」
私達の出した答えに、はーちゃんの声がいつもの調子に戻る。
そして。
「皆、大好き!」
万感の想いを込めて、はーちゃんが私達を抱きしめた。
それから、暫くして…………魔法界、最果て島にて。
何も無かった筈のその島には、いつからか小さな教会が出来ていた。
はーちゃんが、私達の為に建てた教会だ。
宣言通り、はーちゃんは結婚式の為の準備を一人で終わらせた。
校長先生になるべくバレない様にする事、と言われたから全部が全部、普通の結婚式と同じという訳にはいかなかったけど…………それでも、嬉しい。
そして、今。
私は荘厳な鐘の音が響く教会の中で、ウェデイングドレス姿で同じくウェデイングドレスのみらいと一緒に並んでいた。
ウェデイングドレスを着たみらいは、やっぱりとても素敵だった。
今更ながら、この子と今から結婚(ほぼしてるけど)するのが幸せすぎて、信じられなくなるくらいに。
「みらいとリコは、いつまでも一緒にいる事を誓うモフ?」
フェリーチェの姿になり、優しい笑顔で佇むはーちゃんの前で、神父役のモフルンが誓いの言葉を投げかける。
「「誓います」」
その誓いは、私達にとって当たり前の事。
だけど、改めて言葉にしたら少し、重さが増した気がした。
「それでは、次はリンクルストーン交換モフ」
指輪の代わりに、私達のリンクルストーン•ピンクダイヤが差し出される。
ピンクダイヤは、はーちゃんの想いが私達のリンクルストーン・ダイヤと混ざり合ったリンクルストーン。
それが意味する、ナシマホウ界の石言葉は…………完全無欠の愛。
だから指輪じゃなくて、これを選んだ。
自分で買いたかった、というのもあるけど…………はーちゃんが私達の為に用意してくれた結婚式で、これ以上に相応しいものはない、と想ったから。
みらいも同じ気持ちの様で、お互いに視線を交わして、それぞれのピンクダイヤを手に取る。
手に取ったみらいのピンクダイヤは、まるで朝日奈みらいという女の子の全てが詰まった宝石箱に見えて、私のピンクダイヤと姿形は変わらない筈なのに、とても…………とても、愛おしく見えた。
そのピンクダイヤを、みらいの首にそっと掛ける。
次いで、みらいが私のピンクダイヤを同じ様に私の首に掛けた。
そのピンクダイヤは…………何故か、とても重かった。
お互いにリンクルストーンを掛け合うなんて、これが初めてじゃない筈なのに。
でも、幸せだった。
この重さはきっと、みらいの想いがピンクダイヤに上乗せされたおかげだって、直感したから。
好きな人の想いをこうもはっきりと感じ取れて、幸せじゃない筈が無い。
そしてそれは、きっとみらいも同じだ。
だって、ヴェール越しに見えるみらいの顔が、これ以上無いくらいに幸せって色で染まってる。
…………だけど、これで終わりじゃない。
何故なら。
「最後に、誓いのキスモフ」
結婚式で一番重要な、誓いの口付けが残っているからだ。
モフルンの言葉に従ってお互いにヴェールを取り、幸福のままに、ゆっくりと唇を近づける。
唇同士の距離が近くなって、心臓がバクバクとうるさいくらいに跳ね上がる。
そして。
あの日、みらいが見ていた映画の様に、私とみらいの唇が、これ以上ないくらいに触れ合った。
その瞬間、何かが変わった、と思った。
私とみらいの中にある、何かが。
でも同時に、どうでも良いと思った。
何故なら。
「…………これからも、ずっと、ずーっとよろしくね、みらい」
「…………うん! こちらこそよろしく、リコ!」
「おめでとう、みらい! リコ!」
「モフ! おめでとうモフ!」
はーちゃんの言う通り、とってもキラキラしていて幸せだったから。
後夜祭よかった・・・
配信アーカイブはまだ買えるみたいなのでまほプリMDファンはみよう!
ちょっと加筆しました