ちなみに2025年の今日は十六夜らしいです
追記しました
「う〜ん…………」
梅雨…………というほどでもないけど、春の色が段々と消えて、雨の色が濃くなってきた頃。
出張授業もお休みで、『助けて魔法つかい』も見当たらない平和な、ある日。
そんな平和な日に、私は…………アパートの中で、ある重大な問題に対して頭を抱えていた(因みに、みらいはレポートが忙しいらしく休日の今日もモフルンと一緒に大学に行っている。大学生も中々大変なのね)。
「リコ〜、どうしたの〜?」
特に大事の無い平和な日にうんうんと悩んでいる私に、後ろで掃除をしていたはーちゃんが不思議そうな声を出す。
振り返ると、はーちゃんが可愛らしく首を傾げていた。
頭に疑問符が見えるくらいに。
どうやら、私が悩んでいる問題が結構気になっているらしい。
まあ、重大な問題とはいえはーちゃんに隠す程のものでもない。
むしろはーちゃんにも相談に乗ってもらいたいと思ってたくらいだし。
ずっと袋小路にいるみたいで、先が見えなかったから。
そう思って、口を開く。
「どうしたって程じゃないけど…………その、もうすぐみらいの誕生日でしょ? だから、プレゼントに迷っていて。はーちゃんは何か、いいアイデアとか無い?」
そう。
今は春の終わり際。
つまり、みらいの誕生日が足音を立てて近づいている時期だ。
だから、悩んでいる。
みらいに渡す、誕生日プレゼントに。
なので、はーちゃんから何かプレゼントのアイデアを掴めないかと思って相談してみる。
しかし。
「う〜ん…………みらいはリコから心を込めて贈られたものなら、何でも喜ぶと思うけどなぁ。私もそうだし、リコだってそうでしょ?」
「確かに、そうなんだけどね…………」
返ってきたのは、私達にとってはある意味当たり前の答えだった。
実際、はーちゃんの言う通りみらいやはーちゃん、モフルンが心を込めて贈ってきたものなら、私は何でも嬉しいし。
でも。
多分、私はそこで止まりたくないんだと思う。
だって。
「…………その、今回のみらいの誕生日って、私達がまた一緒に暮らす様になってから、初めてのみらいの誕生日でしょ? だから、何か特別な事をしたくて」
もうすぐ来るみらいの誕生日は、また皆で暮らす様になってから、初めての日だから。
きっと、多くの人にとっては何て事のない、普通の一日。
だけど、私達にとっては…………とても、大切な一日だ。
だから…………初めて迎えるこの誕生日が、みらいにとって宝石の様な煌めく記憶になれる様な、とびっきりのプレゼントを贈りたい。
それに、私が二十歳になった誕生日の時、みらいはとても素敵なプレゼントを贈ってくれた。
だから、お返ししたい。
貴女のプレゼントが私に笑顔をくれた様に、私も貴女を笑顔にしたい。
「…………本当、リコはみらいにそっくりだね」
「え?」
そこまで考えた時、はーちゃんが呆れた様な顔で笑った。
「リコの誕生日の時、みらいも同じ事を言ってた」
「そうなの?」
はーちゃんの言葉に驚いて訊き返すと、うん! と勢いよくはーちゃんが頷く。
「あの時のみらい、リコのために〜って悩んで、色々なとこを走り回ってたよ!」
「みらい…………」
あの誕生日の裏に、そんな事があったなんて。
そして私も、同じ事を考えていたなんて。
それが嬉しくておかしくって、思わず笑いが漏れる。
その時。
「わっ⁉︎」
「はーちゃん⁉︎」
はーちゃんが驚いた様な声を上げると同時に、ガシャン! と何かが落ちて散らばる音がした。
「わ〜、リンクルストーンが落ちちゃった! なんで〜⁉︎私、触ってないのに〜!」
「本当ね…………何でかしら?」
どうやら、リンクルストーンを収めているケースが床に落ちたらしい。
部屋を見回すと、あちらこちらにリンクルストーンが散らばっている。
しかし、少し奇妙な状況だった。
何故なら、はーちゃんが言った通り、誰もリンクルストーンに触っていなかったからだ。
ケースだって、簡単に落ちる様な場所に置いてない筈だし。
まるで、何かに引っ張られたかの様な不自然な落ち方だった。
誰か魔法でも使ったのかしら?
とはいえ、考えても答えは出なかった。
なので思考を打ち切り、とりあえずはーちゃんを手伝うと、立ち上がる。
その時。
「あら…………? これは、ムーンストーン?」
白いリンクルストーン…………ムーンストーンが、足元に転がっていたのに気づいた。
ムーンストーン。
みらいが苦手な数学の再テストを、はーちゃんが花丸の練習を頑張った結果、天からやってきたリンクルストーン。
「はー! 懐かしいね、リコ! みらいが沢山バツ取ってた時のだ!」
「そうね、はーちゃん。今のみらいは苦手なものでも頑張って取り組むから、あの時のみらいはかなり懐かしいわ」
みらいの話をしている時に、丁度みらいに関係するリンクルストーンが出てきたのもあって、会話が弾む。
「リコがナシマホウ界の文字の練習してたおかげだったよね! みらいって、リコが沢山書いてるのを見て、頑張る様になったってみらいから聞いたよ!」
「そ、そうね…………」
みらい、はーちゃんに話していたのね…………少し恥ずかしいわ。
そりゃ一番に書くのが上手くなりたかったのはみらいの名前なのは事実だけど。
面と向かって言われると、ちょっと照れるというか。
そういえば、あの頃から文字の練習にみらいとの交換日記を始めたんだっけ。
色々な事を書いたわね。
今日あった事とか、はーちゃんの誕生日パーティとか。
後は…………海水浴とか、宝石の話とか…………本当に、色々な事を書いたわね。
今は私の字も上手くなったし、一つ屋根の下どころか、同じ部屋の下に住んでるのもあって、やってないけど。
こうして思い返してみると、とても楽しかったし、またやってみようかしら。
そんな事を考えていると。
「あれ…………?」
「リコ?」
「何か、みらいとムーンストーンにテスト以外で関係があった気がするんだけど…………何だったかしら?」
脳裏にふと、何かの記憶が過った。
だけどその記憶は曖昧で、みらいとムーンストーンに何かの関係がある以外、何もわからなかった。
「もしかして、交換日記かしら?」
交換日記を思い返した時に謎の記憶が過った事から、みらいが実家から持ってきた交換日記に手がかりを求めて、リンクルストーンを仕舞い直してから日記を手に取る。
そのままパラパラとめくると…………確かに、その情報があった。
「なるほどね」
「何がなるほどなの、リコ?」
はーちゃんが私にも教えて、と興味津々の目を向けてくるので、日記のページを見せる。
すると。
「はー! なるほどね、リコ! みらいとムーンストーンに、こんな繋がりがあったんだ!」
はーちゃんが疑問は晴れた! と言わんばかりのにっこり笑顔でしきりと頷いた。
実際、私も思い出して驚いた。
みらいとムーンストーンの意外な繋がりに。
そして、決まった。
迷い続けていた、みらいへのプレゼントが。
「はーちゃん」
「んー?」
「私、今からちょっと魔法界に行ってくるわ。もしかしたら明日まで帰ってこないかもだから、後はよろしく!」
「…………わかった! 行ってらっしゃい、リコ!」
なので、今から魔法界へ行くことにした。
みらいへのプレゼントを作る為に。
誕生日までの期間を考えたら、残された時間はかなり少ない。
だから、急がないと。
はーちゃんもそれを察した様で、笑顔で私を送り出す。
その優しさに感謝しながら、急いで出掛ける準備を終わらせる。
そしてその勢いのまま、私は津成木駅に向かって駆け出した。
…………そして、六月十二日。
「はへ〜、疲れた〜…………」
「疲れたモフ〜…………」
日が沈み、夜の帷が少しずつ落ちてくる、黄昏時。
私とモフルン、箒に乗りながら二人、疲れから一緒に大きな溜息を吐いた。
今日は、私の誕生日。
私が生まれて、モフルンと出会ったとても大切な日。
おまけに、今年は皆とまた一緒に暮らせる様になってから迎える初めての誕生日で、色々合わさってとても大切な日だ。
だけど、大体の人にとってはなんて事の無い、ありふれた普通の一日で。
今日も『助けて魔法つかい』の声は止まらなかった。
だから私とモフルンも、いつもの様に魔法ガールとして動いていたんだけど…………
誕生日の今日はとりわけ、疲れる魔法ガール活動だった。
具体的には、あの前期テストの頃を思い出す様な忙しさだった。
いやまあ、困ってる人がいつもいるのはわかるんだけど。
今日くらい、ちょっと少なくても良いのになぁ。
一人だった事もあって、この日に限ってやたらと忙しかった魔法ガール活動に、思わずそんな愚痴が溢れる。
おまけに最近大事なレポートが大詰めだった事もあって、リコやはーちゃんが起きる前から大学に行ってたから、顔も見れてないし。
まあ、まゆみやかな、れなにさらが祝ってくれたのは嬉しかったけど。
「は〜…………」
とはいえ、疲れたのは変わらない訳で。
アパートに向かって安全運転で箒に乗りながら今日の事を思い返して、今年はちょっと誕生日ぽくないなぁ、とテンションが下がっていく。
大人になるってこういう事なのかなぁ、とれなやさらが聞いたら吹き出しそうな事を考えるくらいには。
その時。
「あ…………」
夜の帷が落ちて、夕暮れというより夜に染まった空に、綺麗に光る、月が見えた。
「今日は、十六夜なんだ…………」
「綺麗モフ〜…………」
それは、満月から少し欠けた、十六夜の月だった。
十六夜の月。
リコが初めてこの世界に来た、私達の始まりの月。
それが…………今日、私の前に現れた。
「…………よし!」
その事実に、さっきまで私の中で淀んでいた疲れが吹き飛んでいく。
そんな事よりも、今日が十六夜である事が、何よりも嬉しかった。
まるで、星が祝ってくれているみたいに思えて。
「みらい、何だか元気になったモフ?」
「うん! だから、急いで帰っちゃおう! リコ達も待ってるだろうし!」
「モフ!」
十六夜の月を見て気力の湧いた私に、モフルンが嬉しそうな顔をする。
どうやら、モフルンも疲れが吹き飛んだみたいだ。
お互いに笑い合い、箒に力を込める。
そして。
「キュアップ・ラパパ! 箒よ、高く飛びなさい!」
さっきとは桁違いのスピードで、箒をアパートに走らせた。
アパートに着くと、既に用意を終えていたリコとはーちゃんが玄関で待ち構えていた。
それに驚いた私の隙をついて、二人があれよあれよという間に私を飾り付けていく。
気づけば、私はいつのまにか着替えさせられていて、パーティ帽と『今日の主役』と描かれたタスキを付けていた。
そして、すっかりパーティの主役になった私がご馳走の用意されたリビングに座った時。
「みらい、誕生日おめでとう!」
「おめでとうモフ!」
「おめでとう、みらい!」
パンパン、とクラッカーの弾ける音が響いて、三人が私を祝った。
「ありがとう、リコ! はーちゃん! モフルン! こんな日が来るなんて、とってもワクワクもんだぁ!」
それがとっても嬉しくて、感情のままに口癖が溢れる。
「はー! 今日はみらい、朝から忙しかったみたいだから、その分沢山祝っちゃうね!」
「ええ、今日のみらい、とっても大変だったみたいだし、たっぷり祝っちゃうわ!」
それを受けてか、リコとはーちゃんがテンション高く笑い合う。
その勢いのまま、私の誕生日パーティが始まった。
ご馳走にケーキ、それにお酒と、色々食べて飲んで、パーティがひと段落した頃。
「はー! それではここで、私からみらいにプレゼントを贈りまーす!」
はーちゃんがいきなり立ち上がって、何処からか小さな箱を取り出した。
「どうぞ、みらい!」
そして、私に手渡してくる。
「ありがとう、はーちゃん! 開けても良いかな?」
渡された小箱は花の様なふんわりした良い匂いがして、何処か神秘的な雰囲気を醸し出していた。
その中身が気になって、はーちゃんに訊いてみる。
すると。
「勿論! って言いたいけど、ちょっと待って! はいリコ! モフルンにも!」
「え?」
「モフ?」
はーちゃんが私を手で制して、同じ小箱をリコとモフルンに渡した。
リコとモフルンもこうなるとは思って無かったみたいで、不思議な顔をしている。
「では、どーぞ! これが私からのプレゼントだよ!」
私達三人に配り終わったのを確認して、はーちゃんが手でマルを作る。
三人顔を見合わせながら、とりあえずはーちゃんのプレゼントだし開けてみようと蓋を開ける。
そこには。
「これは…………ブローチ?」
太いハートの様な形をした、ブローチが入っていた。
しかも。
「もしかしてこれ…………アレキサンドライト⁉︎」
そのブローチには、ある意味で見慣れた宝石…………アレキサンドライトが嵌っていた。
「うん! 皆、お揃いだよ!」
はーちゃんが頷くいて、私と同じハートの様なブローチを取り出す。
更にリコとモフルンも、同じブローチを持っていた。
しかも、他のブローチにもアレキサンドライトが嵌っている。
「えっと…………はーちゃん、どういう事?」
四人一緒のブローチがプレゼントという状況に、不思議に思ったのかリコが質問する。
「ふふん、見てて見てて!」
すると、はーちゃんが自信たっぷりと言った表情で、私達のブローチを集めて、並べていく。
「こういう事だよ!」
そこには、ハートが四つ重なった、四葉のクローバーが出来ていた。
それを見て、はーちゃんの意図を理解する。
きっとこれは、皆一緒で幸せに、って事なんだ。
四葉のクローバーは、幸せのしるしだから。
だから皆に、ブローチを贈った。
これからも、ずっと一緒だって、言うために。
「はーちゃん…………ありがとう!」
「えへへ〜…………どういたしまして!」
はーちゃんのその想いに感極まって、思わず抱きつく。
こんな素敵なプレゼントを貰えるなんて、私はとっても幸せだ。
だけど。
「…………あれ? でも、何でアレキサンドライトなの?」
嬉しいと思うと同時に、もう一つ疑問を思い出した。
何でアレキサンドライトなんだろう?
確かに、私達の絆のリンクルストーンといえばアレキサンドライトだけど…………
「それはね、それはね! アレキサンドライトが、みらいの誕生石だからだよ!」
「そうなの⁉︎」
「うん!」
すると、はーちゃんが嬉しそうな声で答える。
それは、私にとっては衝撃の事実だった。
だって、私の記憶じゃ、アレキサンドライトは誕生石じゃなかった筈だからだ。
昔リコと交換日記してる時に、誕生石について調べた事があるけど、その中にアレキサンドライトは入って無かった筈。
そう思ってスマホで調べてみると、なるほど確かにアレキサンドライトが私の誕生石に入っていた。
更に調べてみると、どうやら一昨年くらいに誕生石に入ったらしい事を知る。
「はーちゃん、物知りだね! 私、知らなかったよ!」
「ふふん、勉強したんだ! それに…………アレキサンドライトは、私達にとって、また繋がれた絆のリンクルストーンだから。みらいの誕生日に贈るには、これ以外無いと思ったの!」
「はーちゃん…………!」
「みらいが喜んでくれたなら、良かった!」
はーちゃんがアレキサンドライトを選んだ意図にまた感極まって、たまらずはーちゃんを抱きしめる。
リコもモフルンも気持ちは同じな様で、皆で一緒にはーちゃんを抱きしめる。
そしてはーちゃんのプレゼントで上がりきったテンションは下がる事はなく、そのまま二次会に移行した。
誕生日パーティもすっかり落ち着いて、夜も更けた頃。
はーちゃんとモフルンは満足しきったのかすっかり眠ってしまっていて、起きているのは私と、後片付けをしているリコだけだった。
「ねえリコ、やっぱり手伝おうか?」
「このくらい一人で大丈夫よ。それよりみらいは今日の主役なんだから、ゆっくりしてなさい。今日も忙しかったんでしょ?」
リコが大量の洗い物をしてるのを一人眺めているのが何か居心地悪いので、手伝おうとするが、リコにダメと言われてしまう。
「まあそりゃそうだけどさ…………忙しいのはリコもじゃ…………」
「私は良いのよ。今日は魔法ガール活動、全部みらいがやってくれたんだし、これくらいはしないと」
「でも…………」
それでも居心地が悪いのは変わらないので、何とかリコを手伝おうと食い下がるけど、結果は全然で、少し落ち込む。
すると。
「そんなに手伝いたいのなら、後で付き合って欲しい事があるんだけど、頼んでも良い?」
「そうなの? うん、わかった! やるやる!」
そんな私に呆れたのか、リコが溜息をついて折れた。
それに喜んで、ワクワクしながらリコが頼み事をするのを待つ。
そして、リコが洗い物を終わらせた時。
「何で、こうなるの⁉︎」
「言ったでしょ、付き合って欲しいって。夜の散歩に行くから、一緒に来て欲しかったのよ」
私は何故か、リコの箒に相乗りして夜の空を飛んでいた。
「散歩なら、私も自分のを使ったのに…………」
「ダメよ。私は飲んでないけど、みらいは飲んだんだから。飲酒箒運転は厳禁です」
「はぁい…………」
「じゃあ、飛ばすわよ」
思ってたのと違う展開に、少し不満が漏れるけど、リコの正論に黙る事しか出来なくなる。
しょうがないのでリコを背中から抱きしめて加速に備えると、リコが箒に力を入れて、加速した。
リコの箒が、どんどん上に登っていく。
そして雲を突き抜けて、覆うものもない空に辿り着く。
「ここって…………」
その夜空は、雲も、地上の灯りも、星の光を邪魔するものは何も無くて、とても綺麗な星の光に満ちていた。
そして。
満点の星に飾られた夜空の中心に鎮座する様に、大きな十六夜の月が私達を照らしていた。
「今日は十六夜でしょ? だから、みらいと一緒に来たくて。十六夜の夜がみらいの誕生日なんて、とっても素敵じゃない」
リコが箒に腰掛けながら、十六夜の月を眺めて私に笑いかける。
どうやら、リコも私と同じ考えだったらしい。
「うん…………」
リコも同じだったのが嬉しくて、でもそれをこの月の前で言葉にするのが何だか勿体無い気がして、リコと同じ様に十六夜の月を眺める。
時々、凄く寒々しい印象を覚える月の光だけど、リコと一緒だからか、今日の月はとても暖かかった。
…………どれくらい、そうして一緒に月を眺めていただろうか。
「…………ねえ、みらい」
「リコ?」
突然、リコが私に呼びかけた。
言われてリコの方を向くと、リコが私に手を差し出している。
そして…………その手の中にはいつのまにか、小さな箱があった。
「それ…………もしかして、プレゼント?」
「ええ」
その箱にもしかして、と聞いてみると、リコが頷く。
開けても良い、と聞いたらまたリコが頷いたので受け取って開けてみる。
そこには。
「…………綺麗」
綺麗な白い石の嵌められた指輪が、二つ納められていた。
「リコ、これは…………?」
「魔法界で作って貰った、指輪よ。…………その、はーちゃんと被っちゃったけど、みらいとお揃いの、魔法の指輪を作って貰ったの」
「魔法の、指輪…………」
「ええ。私達のダイヤみたいに、他にお揃いのものがあっても良いんじゃないかなって、思って」
ほら、とリコが指輪を手に取る。
言われて指輪を見てみると、リコが持つ指輪と、箱に収められたもう一つの指輪が、まるで互いを求めるかの様に、引き合っていた。
「リンクルストーン・ダイヤが、お互いに引き合う様に…………この指輪も、お互いに引き合うの。どれだけ離れても、たった一つの片割れを探して、導いてくれる」
「…………それって」
「ええ。例え私達がまた離れても、この指輪が導いてくれるわ。…………まあ、これはおまけみたいなものだけど」
「そうなの?」
てっきり私は魔法の指輪がリコのプレゼントだと思ってたけど、どうやら違うらしい。
「そうよ。私達は、ずっと一緒だもの。だから指輪は、ちょっとしたお呪いみたいなものね。どちらかといえば、本命は石の方よ」
「石…………?」
言われて、指輪の石を見つめてみる。
指輪に嵌められた白い石はとて綺麗で、何処か見覚えのある光を放っていた。
それはまるで、目の前にある月の様な…………
「…………もしかしてこれ、ムーンストーン?」
そこまで考えて、石の正体がムーンストーンである事に気づいた。
私の考えを肯定する様に、こくり、と目の前のリコが私の言葉に頷く。
「ムーンストーンは、みらいが苦手な事でも頑張る様になった事で手に入った、リンクルストーンだから。今の、何でも頑張るみらいにぴったりだと思って、お父様と一緒に探してきたの。それに、ムーンストーンは…………」
「…………私の、誕生石だから?」
「ええ」
「そっか…………」
そう。
ムーンストーンは、私の誕生石だ。
だからリコと交換日記をしてる時にこの事を知った時は、びっくりした。
まさか私が苦手な事でも挑戦する事を決めた時に現れたこのリンクルストーンが、誕生石だったなんて。
リコもそれを、覚えていてくれたんだ。
その事実に、心が抑えきれない歓びに満たされる。
「…………もしかして、嫌だった?」
「え? ううん! そんな事ないよ! ただ…………」
黙っている私の様子に、リコが不安そうな顔をする。
当然、嫌なわけがないので否定するけど、言葉は続かなかった。
だって。
「ただ?」
「…………嬉しすぎて、どうやって言えばわかんなくなって」
この気持ちを、歓びの余りどうやってリコに言えば良いのか、わからなくなってしまったからだ。
「…………そう。それなら用意した甲斐があったわ」
私の言葉に、リコがホッとした様な顔をする。
そして。
「…………本当はね、指輪の予定じゃ無かったの。ムーンストーンを使ったアクセサリーにする事は、決めてたんだけどね」
「そうなの?」
ちょっとばつの悪そうな顔をしながら、リコが指輪をプレゼントにした理由を喋り出した。
「ええ。ネックレスはダイヤと被っちゃうからダメとか、イヤリングとか良いんじゃ無いかしらとか、色々考えてたんだけど…………魔法商店街の細工屋さんで指輪を見たら、もうそれ以外考えられなくなっちゃったのよね」
「…………そう、なんだ」
リコが少し顔を赤くしながら話した指輪の理由に、また胸が歓びで膨らんで、言葉が詰まる。
だって…………あの色々と慎重なリコが、それ以外考えられなくなるくらいに、指輪が良いって、思ってくれたって事だもん。
嬉しくならない訳がない。
「だから…………ちょっと不安だったけど、みらいが喜んでくれて、本当に良かったわ」
そんな私の内心を知ってか知らずか、リコが優しく笑う。
月に照らされたその笑顔はとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。
そしてその笑顔が、私だけに向けられていると実感して、胸が歓びではち切れそうになる。
だからだろうか、リコの笑顔を見ていると、不思議とリコにやって欲しい事が思い浮かんでくる。
「…………ね、リコ」
「どうしたの、みらい?」
「リコのプレゼント、とっても嬉しかったからさ。指輪、私に嵌めてくれない? 私も、リコに指輪嵌めるから」
「なっ…………どうして、そうなるのかしら」
それは、どうせならリコに指輪を嵌めてもらおう、という企みだった。
予想通り、リコの顔が赤くなって言葉が詰まる。
多分想定してなかったんだろう。
でもやめる気はない。
「だって、私達はずっと一緒なんでしょ? だったら、ここはリコが嵌めないと! それにほら、私って今日の主役だし、リコに嵌めて貰えたら、もっと嬉しいし」
だって、リコに嵌めて欲しいって思ったから。
「答えになってないじゃない…………」
私の完全無欠の答えに、リコが頭を抱える。
だけど、しばらくしたらリコの唇がフッ、と笑うのが見えた。
「…………まあ、それもそうね。ずっと一緒なんだから、別に私がしても問題無いわね。それに、今日は特別な日だし、みらいは主役だしね。ほら、手出しなさい」
まるで私に折れた様にリコが言うけど、その顔は渋々とはとても思えない、ノリノリの笑顔だった。
それに釣られて私も笑って、左手を出す。
そして。
「ありがとう、リコ!」
「…………まあ、このくらいはね。みらいは今日の主役だし」
私の薬指に、ムーンストーンの指輪が綺麗に嵌められた。
流石魔法の指輪という言うべきか、サイズはピッタリだった。
「ほら、指輪ばっか見てないでみらいも」
「わかった!」
そのまま左手を眺めていると、リコが左手を出してきたのでもう一つの指輪を手に取る。
…………ねえ、リコ。
ムーンストーンは、愛を伝える石って言われてるんだって。
そんな石をリコの方から薬指に嵌めたって事は、そういうことで良いんだよね?
勿論、私はそういうつもりだよ?
どんな月よりも、貴女は綺麗なんだから。
ずっと、リコの側にいたい。
十六夜の月が私達を照らす中、リコへの愛を込めて、リコの左手の薬指にそっと、もう一つの指輪を嵌めた。
キュアップ・ラパパ。
私達は、ずっと、一緒。
…………本当は、迷ってた。
この指輪を、みらいに渡して良いものか。
みらいには言わなかったけど、お揃いの指輪ってちょっと重くないかしらとか、これってもう結婚指輪じゃない? とか、色々悩んでた。
だけど、代わりのプレゼントを探そうにもこれ以上のものは思いつかなくて。
結局ギリギリまで悩んで、渡す事にした。
だから…………みらいが喜んでくれて、本当に良かった。
まさかお互いに嵌める事になるとは思わなかったけど。
もう完全に結婚指輪じゃない。
…………正直、みらいに指輪を嵌めてって言われた時はちょっと予想外というか、みらいが指輪で喜んでくれた事が嬉しすぎて全く考えていなかったからちょっと狼狽えたちゃったけど。
よく考えてみたら、もう結婚してる様なものだし、むしろしない方がおかしいんじゃないかって思い直したわ。
だから、思い切ってみらいの薬指に嵌めた。
ムーンストーンは。愛を伝える石らしいから。
薬指以外に、考えられなかった。
どんな太陽よりも、貴女は眩しくて、綺麗だから。
ずっと、私の側にいて欲しい。
十六夜の月が照らす中、お互いの左手に嵌められた指輪を眺めながら、そっと、魔法をかける。
キュアップ・ラパパ。
私達は、ずっと、一緒。
六月十二日。
みらいの誕生日。
私達は、これから季節が巡る度、何度もこの日を一緒に迎えるだろう。
そしてその日が来るたびに、私はみらいの喜ぶ顔を思い描きながら、悩みに悩んで選んだプレゼントをみらいに贈る。
そうしたら、その全部がかけがえのない、特別な一日になっていく。
そんな未来を、私は夢見ている。
後夜祭朗読劇台本ありがとう!