陰キャ配信者の罰ゲーム配信 作:sg
『やだぁ〜、ほんとにやるのー?』
『罰ゲーム! 罰ゲーム!』
『というわけなので、おしりぷりぷり体操やりまーす!』
スマホの画面に映るのは、SNS「NEX」に投稿された動画。その中では下半身裸にされた少女がわざとらしく嫌がりながらも楽しそうに、丸出しのお尻を滑稽に振って歌って踊っていた。
そう珍しい事でもない。テレビでもバラエティの罰ゲームで可愛らしいアイドルの裸がお茶の間に流れる昨今、罰ゲームとして恥ずかしい所を晒して踊るような動画をSNSにアップするのはひとつの流行りになっている。
「はっず、よくできるなー。パリピ怖っ」
もっとも、そんな様子を冷めた目で見ている女もここにいるわけだが。
しばらく美容院にも行っていないせいでボサボサの長い髪に、「しらす」と書かれたダサTシャツに強烈な負担を与える大きな胸。身長は150もなく、UVカットのメガネ越しに見える目の下には寝不足であることを語るクマがくっきりとできている。
「みんなお待たせー。朱音のゲーム配信始めるよー」
彼女の名は朱音。と言ってもこれはハンドルネームなのだが……彼女は動画サイトでゲームをプレイしている様子を配信する、所謂ゲーム配信者だ。
「前口上はないのかって? 私を何だと思ってるんだアイドル系とは真逆のド陰キャ配信者だぞー」
顔出しはせず、流行りのVのような可愛らしいアバターや立ち絵もない。ただ単にコメントとゲーム画面が映し出されるだけの無機質な画面。それでも同時接続が今100にも達しているのには理由があった。
《声はめちゃくちゃ可愛いのに》
《萌え声って訳でもない自然な可愛さ》
《稀に見るカワボ》
「声は可愛いって、褒めても何も……ふひひ」
《オタク特有の気持ち悪い笑い》
《ふひひいただきました》
《かわいい》
「だから可愛いって言うな!」
そう、彼女の声はとても可愛らしい。別に可愛く声を作っているわけでもない。演技するまでもなく、普通に声を出すだけで人を惹き付ける美声の持ち主。
朱音は、地声に恵まれていた。
「今日は告知通りガデファ……ガーデンファイター5をやってくよー」
《ガデファキター!》
《私より強いお姉様に会いに行くゲーム》
《神ゲーじゃん》
配信開始したところで、朱音は早速ゲームを起動する。雑談から入るようなトーク力は陰キャである彼女にはないのだ。
ガーデンファイターというのは、所謂2D対戦格闘ゲーム。百合の花咲き乱れる白亜のお城のような女子校を舞台に、お嬢様たちが理想のお姉様を求め戦う……というストーリーである。
物腰柔らかな淑女たちが拳や脚を武器に激闘を繰り広げる絵面もさることながら、全てのキャラが一長一短。誰を使ってもまるで感覚が違う個性的な性能のキャラクターたちと、それだけの個性を出していながら強いキャラ、弱いキャラというのが存在しない絶妙なゲームバランスから対戦ゲームとしては最高傑作とも言われ、世界中で人気を博しているゲームだ。
家庭版のストーリーモードではさらに恋愛ゲーム要素もあり、様々な理想のカップルを作ることもできるのだが……今回プレイするのはオンライン対戦モードである。
「固定ルームでパスワードは0319。ご存知私の誕生日だ。早い者勝ちねー」
《今日こそは倒す!》
《誰でもいいからこの子を倒して!》
「お、最初のお嬢様は……「たらこスパしか勝たん」さん。対戦よろしく」
早速現れた最初の挑戦者。彼女が使うのは、長いブロンドヘアーの王道お嬢様。このゲームの主人公であり、初心者にも使いやすい上に上級者が使えば世界大会で優勝したこともある強さを持つスタンダードなキャラ。
対する朱音が使うのは、三つ編みの内気なメガネっ娘。相手の攻撃を受け流してのカウンターを得意として、何も考えずに攻めると見た目通りの非力さになってしまうものの上手く決まった時の爆発力は最高峰という上級者向けのキャラである。
《え、この地味子ってこんな火力出るのwww》
《相変わらずの変態プレイングwww》
《そんなヤバイの?》
《普通に使えば最弱。ガデファ唯一の弱キャラって言われてたけど、研究の結果特殊仕様のさばきからの高難度コンボで最強レベルの火力出せるのが判明した。朱音はそのほぼ理論値出してる》
《100時間は使い込まないと安定しない》
「っしゃ見たか!」
そして難なく圧勝。彼女は対戦ゲームがとてつもなく上手いのだ。
《強過ぎわろ》
《私かわいいからこの子使おうとしたけど諦めてた。活躍見れたのほんと嬉しい》
《地味子は難しいからなぁ》
「どやぁ」
その後も次々と現れるお嬢様たちを蹴散らしていくこと20分ほど。次の対戦のキャラ選択で再び地味子を選ぼうとした時、あるコメントが朱音の目についた。
《朱音ちゃんの顔見てみたいなー》
「顔!?」
それは、これまで誰も思っていても言わなかった一言。
《わたしも見たい!》
《顔出しすると聞いて》
《朱音の素顔配信!?》
朱音自身はまさか自分の顔に皆がそんな興味を持っているなんて思ってもいなかったが、リスナーはそうではなかった。皆が気になっていた美声の持ち主の素顔、一度顔出しという話が出てきたら留まることなく顔出しのコメントが流れ出して朱音も流石に戸惑っていた。
「マスク取ってくるから……ちょっと待ってて」
結局押し負けて、マスクをつけて顔出しすることに。棚からマスクを一枚取り出して鼻から下を隠すと、モニター内蔵のカメラを起動してリスナーたちへ姿を見せた。
《ボサボサwww》
《ダサTwww》
《しらすwww》
《てか乳でっかwww》
「あーもう見せるんじゃなかった!」
そのだらしない姿にコメント欄は笑いに包まれ、朱音は姿を見せた事を少し後悔する。
《でも目元めちゃくちゃ綺麗じゃない?》
《ほんとだ、まつ毛すご。まさかノーメイク?》
《えっ、もしかして超美少女?》
「えっ、何。誰の話?」
《お前や!》
《まさかこの子自覚ない……?》
しかし瞳は宝石のように透き通り、長いまつ毛は目を大きく見せてその魅力をさらに引き立て、目元だけでもリスナーに美少女と思わせるには充分だった。
《マスク取って!》
《顔見せろ美少女!》
「マスク取ったら見れたもんじゃないよ。すっぴんだし」
そしてマスクを取って欲しいというリクエストは流しながら、再びゲーム配信に戻る朱音。けれど彼女は、ツメが甘かった。
《ちょっ、今の見た!?》
《は??? すっぴん????》
「……あっ」
顔出し配信していることを忘れて、いつもの癖で普通にエナジードリンクを飲んでしまった。顔を隠す為のマスクを外して。
《えっ、これすっぴん?》
《美少女過ぎる》
《顔面偏差値99》
《天然記念物》
《これで髪が雑なのもったいない》
《この顔でボサボサヘアーだからいいんでしょうが》
「えっ、ちょっと待って、えっ……?」
引きこもりかつ二次元にしか興味がない、さらには容姿にも無頓着なせいで自覚がなかったが、朱音は実はとてつもない美少女だった。それも髪さえ整えればノーメイクも外に出た途端に誰もが振り向くであろう程の、超一級の。要するにとても勿体無い美少女である。
「私って美少女だったのか……ふへへ」
《はい台無し》
《これがええんやろがい!》
《ギャップ萌え》
これまで自身の美貌を自覚することのなかった朱音だが、次々と流れてくる称賛のコメント、そして拡散されて聞きつけてきたのか続々と増えて1000に達した同接で、承認欲求に火がついてしまった。
そもそもゲーム配信なんてことを始めたのも、胸の内に秘めていた承認欲求の為なのだが。
「最近NEXとかで流行ってんじゃん、あれ。罰ゲーム動画ってやつ」
《まさか……》
《えっ、まじ?》
急に始まった、SNSで流行りの罰ゲーム動画の話。ここに来るような
「配信前にNEXでたまたま見かけたんだけど……あんな恥ずかしいことよくやるよねー」
《朱音ちゃんやって!》
《朱音ちゃんのやつ見たい!》
《いやいや、流石にそんなキャラじゃないでしょwww》
《キャラじゃないから萌えるんだよ!》
やるとは一度も言ってない。けれどコメント欄ではもう流れが出来上がってしまっている。その催促のコメントの数々を見て、朱音はにやりと口角を上げた。
「わかった、わかったから! やりますよ、罰ゲーム配信!」
朱音は、自分からは言い出せない小心者だった。
「でもあくまで罰ゲームだからねー。みんなの中の誰かが勝てたら罰ゲーム配信やりまーす」
《無理ゲーwww》
《誰かこいつの地味子を止めてくれ》
《陰キャ巨乳美少女が罰ゲーム配信やると聞いて》
《騙して悪いがそんなものはない》
そして言っておいて、やる気はなかった。ガデファの腕前には自信があり、撮れ高の為に負けてやる気など朱音には微塵もないのだ。
「パスは変わらず0319で。死にたい奴からかかってきな」