※この作品はR-18です。

グレーゾーン   作:ヤン・デ・レェ

8 / 9
口説き文句

 

 

 

 

 

 

過ぎし日、我は死なり。世界の破壊者なり。

 

今や、我は生なり。世界の再生者なり。

 

罪を規定するのは自分自身だ。

 

罪悪感からは逃れられない。

 

君は犬ではない。

 

一度裁きを受けてみるのも悪くない。

 

でも、一度死んで、生まれ変わったとして、それでどうする。

 

君は君のままだ。君が君のことを赦さない。

 

赦せなければ、他のどんな赦しと許しを得たところで、それらはつぐない得ない。

 

矛盾を飲み干すんだ。

 

罪は消えない。だが赦しもまた存在する。

 

罪を肩からおろすことはできない。自分自身がそれを拒むんだ。

 

ならば、罪と共に歩むしかないだろう。

 

たまに忘れてしまえ。そして、たまに思い出すんだ。

 

人間など複雑なようでいて単純にできている。

 

救いは単純でなければ。

 

どんなものでもいい。逃げていい。

 

君は弱いのだから。

 

君は自分を強いと錯覚している。

 

その錯覚に身を任せて、社会に、現実に甘えているだけだ。革命ごっこは終わりにしよう。

 

君がどんなに暴れたところで、現実は小揺るぎもしない。

 

そもそも、君は弱い。

 

ほかの人よりほんの少しだけ力が強いだけだ。

 

君は弱い。教養があっても、生まれが良くても、それでも、革命の道に走った。思想を信じて。理想に縋って。

 

君の青春は君だけのものだ。

 

だが、言っておく。青春など錯覚に過ぎない。

 

その錯覚を無視することはできないが。

 

君は自分の青春を大事にしているね。みんな自分の青春が大事だ。

 

皆んな、あの時間には価値があるものだと思っていたいんだね。

 

けれど、それを否定する現実と向き合わなければならなかったわけだ。

 

誰だってそうだ。みんな同じさ。君だけが同じ悩みを持ってるわけじゃない。

 

君は神に選ばれた使徒でもなければ、殉教者でもない。

 

そんなものには、ならなくてよろしい。

 

まだ生きているんだろ。なら、折角だから楽しいことをしよう。

 

哲学は病気だ。思想も、幸福も、全部病気だ。

 

君は弱々しい病人だ。

 

僕が君の主治医になろう。

 

そのかわり、僕のことも見て居て欲しい。

 

なに、たいしたことは必要ない。ただ、隣にいてくれればいいんだ。

 

動物だって、寒さに耐えかねて身を寄せ合うことがあるだろう。食う側も食われる側も関係なく。

 

それと同じだ。一対の狼が身を寄せ合うのとそう変わらない。

 

だから、もうそこにとどまるのはやめにしなさい。

 

答えは出ないよ。だって、答えはもう出ているんだから。

 

君の望む答えは出ないよ。君が誰よりもそのことを知っているはずだ。その答えを導き出したのは、昔の自分自身なのだから。

 

君がこれまで苦しんできた時間は無駄じゃない。全ては降り積もり、君でさえ手出しができないものだ。

 

今の君を形作り、今の君に繋がっている。引き千切ることも、振り払うこともできないものだ。不可分のものだ。

 

確かに積み上げられた過去は、過去のまま、一歩引いて眺めて見るもんだよ。飛び込んで、掻き乱して、書き換えたりはできないんだよ。

 

君が犯した罪になど興味がない。

 

僕は君の顔が好みで、君の体が好みで、君の目つきが好みで、君の声が好みで、君の匂いが好みなんだ。それだけだ。

 

それ以外の理由は、本当によくわからないんだけど、とにかく酷い執着があるんだ。どうでもいいから、黙って僕の隣に居ろっ、てね。心底そう思うんだ。そうすれば、ストンとおさまる気がするんだ。ピッタリだと思うんだ。

 

だから、戦うとか、守るとか、そういう余計な心配はしなくていい。君にとっての君自身の存在価値は君が決めるものだけれど、僕にとっては今の君だけが価値あるものなんだ。僕の目の前の君には価値がある。久しぶりに背筋がゾクゾクするみたいな衝動が抑えられないんだ。

 

君が僕より強くても、君が僕より弱くても、そんなことは関係ないんだ。君は君なんだ。そして、僕はどうにも、そういう君を欲している。よくわからないけれど、欲しているんだ。

 

まあ、こういう話はここまでにしよう。

 

どうでもいいんだ、本当にさ。

 

そんなことよりも、今日、これからどうしようか。

 

今日は一日、ゆっくり休もうか。何かするのは明日からにしようか。それとも、今日から何かしてみようか。

 

とりあえず一緒にご飯を食べようよ。食欲がないなら無理にとは言わないけど。

 

あぁ、あと、風呂には入ってもらうからね。お互い汗でベトベトだ。臭いもひどいことになってる。泥とか埃の匂いは好きじゃないんだ。僕もさっさと手を洗いたいんだ。

 

さあ、近場の街まで歩いて行こう。なんだったら僕が君のことをおんぶしてもいい。抱っこしてもいい。

 

歩くの?なら…そう、大丈夫。

 

僕が君の歩幅に合わせるから。

 

苦しいなら、辛いなら、ゆっくり行こう。

 

それでもいいんだよ、ずっと頑張ってきたんだから。

 

別に頑張ってこなかったとしても、人間は毎日生きることだけで精一杯なんだから。そういうもんなんだよ

 

自分のことを責めて君の気が済むんなら、好きなだけ責めたらいいよ。でも、無理に責めなくていい。必要な時に必要な分だけ責めて、気が済んだら僕の隣においでよ。

 

それの繰り返しなんだ。それでいいんだよ。君は、それでいいんだよ。

 

情緒不安定なのはよくあることさ。たまに狂っちゃうやつ、そういうことはしょっちゅうさ。真面目に、必死に、一生懸命に生きていればいるほどに、そういうふうになっちゃうんだよ。

 

だから、君は何も悪くないんだ。

 

そのままでいいんだよ。それでもいいんだよ。

 

僕は君が欲しいから、だからいい加減なことを、滅茶苦茶に言ってる自覚がある。きっと後から罪悪感に苛まれたりもするだろう。まるで盗んだみたいだから。

 

でも、君が手に入ればそんなことは過去のことになってしまう。どうでもいいことになってしまうんだ。君が僕の内側に入ってくれただけで、僕の嘘八百には取り替え難い価値が生まれるんだ。

 

それでいいんだ。どうでもよくなるほどに、僕は君を欲しているんだ。このままだと、何かの拍子に奪ってしまいそうなんだ。何もかもを。

 

…閑話休題。

 

さ、続けるよ?

 

ずっとそこで止まっているようじゃ、変化を拒んでいるのと一緒だよ。結局のところ、他人に責められるのが怖いから、自分で自分を責めてるんだろう。

 

実際さ…僕も、君も…反省とか、実はあんまりしてなかったり…するよね?

 

最初っから壊れてるのかもしれないね。そういう人間だっただけさ。

 

人を殺しても、腹が減るんだもの。ご飯を食べてから、それから人を殺したりできるんだもの。

 

僕たちはちゃんとおかしいんだ。ちょっとココがおかしいんだよ。

 

でも、そういう人だって生きているんだよ。生まれてきちゃったもんは仕方がない。

 

君なんか大したことない。僕を観てごらん。自分がちっぽけに思えるでしょう?

 

だから、そのまま進んでいいんだよ。一歩一歩、ゆっくりでも、進んでいくんだ。越えていくんだよ。悩んだり苦しんだり、はたまた楽しんだり喜んだりを繰り返しながらね。

 

怖くなったら、いつでも僕の方を見てよ。そうすれば想い出せるはずだから。

 

生きてる以上は食べていかなくちゃならないし、そのためには仕事をしなくちゃならない。

 

糧を得るために、何でもやってきたんだ。嫌なこと、やりたくないこと、不本意だけど、我慢してやってる。そういう人の方がずっと多いと思うけどな。

 

君はどうだった?

 

ご飯とか食べてなかったの?

 

例え君が給油とかで動く機械だったとしても、給油するためには色々なことが必要だったはずだ。

 

君が君でいるためにも。だから、何も悪くないんだよ。

 

やったことが悪かったとして、やってしまったことはどうしようもないんだ。そのことで君は自分が幸せになってはいけないと思うかもしれない。

 

けれど、幸せなんてものは望んで手に入れたり、逆に望まなければ手に入らないような、都合が効くものでもないんだ。

 

君の事情なんか知ったことかと、不幸と幸福が降りかかるものが人生なんだ。

 

そういう、論理的に悩み過ぎるとこ?だけは玉に瑕だね。思想家っていうか、革命を志す理論家らしいや。

 

願ったって手に入らない幸せもあれば、ふとした瞬間に手に入る幸せもあるんだよ。

 

自分の感覚に嘘はつけないんだ。幸福は感覚でしかないから。

 

だから、君が望むと望むまいと、君の人生の中では色々な幸福が成り立ってしまうんだ。

 

不幸も然り。

 

命が続く限り、お腹が減る。

 

温度も感じれば、眩しくも感じる、匂いも感じる、幸福を感じることもあれば、不幸を感じることもある。

 

君が悩んだくらいで、その軛から逃れられるわけがないんだよ。

 

だって君、結局のところ革命は達成したのかい?

 

君の先人たちだって、偉そうにしてる連中だって、未だに、何を成し遂げられたっていうんだい?

 

何かを成し遂げたって言い張るばかりで、僕たちが生きる世界の本質は何も変わっちゃいないじゃないか。ゆっくりとだけど、変わっていってはいるけどね。でも、何でもかんでも変わってきてるとは、口が裂けても言えないよ。それは嘘だ。変わるものもあれば、戻ってしまうモノだってあるから。

 

お陰様で、僕も君もこの体たらくだ。でも、そのお陰で君とも出逢えたんだけどね。連中に感謝はしない。君が生まれてきてくれたことには感謝してる。心からね。

 

表面的なものが目まぐるしく変わるから、それに翻弄されてしまうようじゃまだまだだよ。

 

でも、翻弄されてしまう君の気持ちも痛いほどよくわかるよ。だから、君は悪くない。君が悪いやつでいたいなら、その方が安心するなら、僕は別にそれでもいいんだけど。

 

君だってさ、ぶっちゃければ、自分がやったことが正確に評価されなかったことに腹を立てて駄々を捏ねてるんだろ。自分の思った通りに現実の方が動いてくれなかったことを、あれこれ飾り立てた難しい言葉で表現してる。

 

理解して欲しいんだね。苦しいんだって。悔しいんだって。悲しいんだって。なんで、どうして、ってさ。

 

あんなに頑張ったのに。あんなに色々なものを犠牲にしたのに。自分の身を削って、必死にやったのにって。

 

どうして報われないんだろう。そう、思っちゃうんだ。

 

うん。わかるよ。

 

辛いよね。

 

今度こそって、思って。次こそはって、思って。

 

だから、また何度でも人を殺すんだよ。殺せるんだよ。

 

あんまり、悪いと思ってないだろ?

 

悪いって、何のことなのか、あんまり、理解できてないだろ?

 

漠然と、みんなが言うから、あぁ、自分は悪いんだって思ってるだけ。悪ぶってるだけなのさ。もしくは、自分の中の帳尻が合わなくて、あっぷあっぷ、としてるんだ。溺れそうでパニックなのさ。

 

みんなの視線が気になってしょうがないんだよ。目立ちたくてしょうがなくて。自分の力が何かすごいものを成し遂げることに期待してたんだ。小さな歯車が、大きな機械を動かす日を。

 

でも、案外そう言うものは上手くいかないもんでさ。

 

失敗して、取り繕って、責任を果たすとか言って…。

 

責任なんて、誰も果たせるわけがないのに。

 

命には命を。

 

それだって、本当は全く同じ命を用意しなくちゃならないのに、出来ないからって、誠意だ、とか言って金を払ったり物で済ませたり。

 

そんなんばっかりだよ。そんなもんで、どうやって責任が果たせたことになるんだよ。

 

結局、これも同じさ。誰も責任なんて言葉の意味も、責任がどう言うことなのかも、考えたこともないんだ。

 

考えても答えなんか出なくて、そう言うあやふやなものに、色々と大事なものを載っけちゃってまぁ。

 

最初からあり得ないことだと割り切ってるから、責任を取る瞬間のことを全く考えずに、責任って言葉を使ってる。割り切ってるから、責任とかいう無責任な言葉が簡単に口をついて出るんだ。

 

申し訳ない、申し訳ない…って、散々口ではいうけどさ

 

君も、僕も。

 

それで、そういう自分の浅ましい部分に絶望して、でも死ぬ気も起きない。死にたくなるけど。死なないんだよな、なかなか、これがどうして。

 

そういうモヤモヤに囲まれて、身動き取れなくなって、どうしようもないから苦しんでいるだね。

 

悲しくて、怖くて、悔しくて、もどかしくて。

 

どうしようもなくて、もがいているんだ。

 

君は他人よりも少しばかり力が強いせいで、誰も君のことを止めてくれる人も、止められる人もなかった。例え止めることができたって、それまでには相当の苦労がかかるだろう。

 

でも、自分でも力を制御できない君は、その力に振り回されてどうにもできない。暴れるだけ暴れて、壊すだけ壊して。その都度、都合のいい理由を並べ立てるんだろう。

 

君は何者になりたかったのかな?

 

そんなものはないのかな?

 

なかったとすれば、どうだろう、幸福になりたかったのかな?

 

漠然とお祭りか何かだと思って革命とやらに参加したのかな?

 

熱狂して、壊すだけ壊して、収拾がつかなくなれば、しれっと放り出すんだ。馬鹿馬鹿しいよ、何もかも。

 

崇高な決闘も、悲劇的な結末も、全部はカタルシスで終わるんだ。気持ち悪かったものを、綺麗さっぱり吐き出してスッキリ。

 

それじゃあ、現実の死体だって映画の死体と変わらないよ。

 

映画の死に役と変わらない。そういう役割で、だから、その死に悲しむのだって涙を流してスッキリする為に感傷へ浸るためのものに過ぎない。悲しむ理由が用意されていて、筋書き通りに悲しむんだ。

 

そんなのってないよな。

 

どうしようもなく、説明できない悲しみだってあるのに そっちの方がよっぽど多いのにさ。何もやる気が起きなくなるくらいのヤツがあるのにさ。ピクリともベッドの上から動けなくなっちまうようなことがあんのにさ。

 

君にとって、殺しは一番の娯楽だったんだよ。

 

娯楽だったんだよ。だから延々と続けられたんだ。当たり前になってて。無いことが想像できなくなっていたんだ。食う寝ることと一緒だ。

 

君だけじゃない。戦争がどうして無くならないのか教えてあげる。そいつは戦争っていうものが莫大な犠牲を払って成立する娯楽だからだよ。

 

観る人か、観られる人か、はたまた作る人か。

 

もっと色々な役割があるだろう。でも、本質は同じだ。

 

録画しておいた戦争のドキュメンタリー映画を、神妙な顔で昼飯を食いながら観ることが出来るのだって、それが娯楽として成立しているからだ。

 

違うかな。違うのかな。

 

戦争は楽しいものじゃない。兵士たちは狂っていくし、暴力が全てを破壊してしまう。

 

でも、君は、自ら望んでそこに立ったんだ。兵士としてさ。

 

うつくしい人よ、君はどうしてここに立っている?

 

君は散々撃ち合った。撃ち合って、殺して、生き残った。戦場の狂気の中で生きていたんだ。

 

僕?僕は殺し屋だ。撃ち合ったりはしない。黙って撃つんだ。一方的に撃つだけさ。知ってるだろ?君だってマグダレナで目撃したじゃないか。

 

僕は撃ち合ったりしなかった。

 

割れた窓から手を突っ込んで、君以外を全員撃ち殺しただけだ。何も見ずに、一言も発しはしなかった。君の真後ろにあった、割れた窓の隙間からね。

 

舞台じゃあるまいに…仕事だったから。君は撃たれなかったけど、すぐに首を絞め落とされたでしょ?

 

直前までは全て見ていたはずだけど。人質を解放してから、僕は君が目覚めるのを待っていたんだ。あそこは血だらけだったから、こっちに場所を移してね。君のことをお姫様抱っこで運んだんだ。

 

…そして、今さ。

 

僕は撃ち合いなんかしないよ。そんなの、まるで映画みたいじゃないか。

 

映画ってのは、ピラミッドとか凱旋門とかの代わりなんだ。今じゃテレビも出てるけど、とにかくそう言う、どれだけ沢山の人に、権力の形を…自分がどれだけ沢山の人をこき使うことができるのかってことを…見せるのかって、そこを突き詰めるのに便利な道具なんだ。

 

ピラミッドを作るよりも低予算で済むし、持ち運びできるから遠いところの人にも見せられる。一度に沢山の人に見せることだってできる。複製だって簡単だ。映画は権力を表象するのに適した道具なんだよ。

 

だから、僕はどちらにも立たない。立つものか。観る側にも、観られる側にも、作る側にも。悟ったような目でモノを見るのも、知った風な口で高説を垂れるのも、偉そうに踏ん反り返るのもゴメンだね。

 

僕は黙って撃つだけだ。

 

僕は撃ち合いなんかするもんか。僕が黙って撃つだけだ。人の命は、人生は見せ物じゃない…その適性があり過ぎることも事実だけど。

 

観る人が悪いわけじゃない。だってほとんどの人は殺しなんかしないからね。

 

しかし、彼らは殺せと叫び、殺しの道具を用意して、殺す人が満たされることも、また飢えて自分たちに襲いかかったりもしないようにする。生かさず殺さず、中途半端に扱うんだ。

 

観られる人は、彼らの期待を背負って、派手に撃ち合って、格好良く人を殺す。決め台詞なんか吐いて。観る側が命を奪うことを娯楽にしている点は、紀元前から変わっていない。

 

でも、そう言う彼らも観られる側に甘んじるだけじゃない。観る側を引き摺り下ろして、悲劇の中に沈めてやることだってする。それを止める奴もいる。観られる側として、ね。

 

どちらでもない作る側も、観る人と観られる人が不満を抱かないように、作品に満足できるように、自分たちの作ったものに納得できるように、従順になるように、余計なことを考えないようにと頭をこねくり回す。

 

立派な言葉。素敵な思想。崇高な理想。

 

何でもいいんだよ、なんでもさ。

 

君はまんまと引っかかり、あちこちで派手な銃撃戦を演じてきたね。超有名人で、ファンが沢山いる。大御所俳優といったところか。

 

君は映画の登場人物のように、自分が不死身で、悲しい過去を持っていて、同情されるべき存在だと思ってる。それは勘違いじゃないけど、君の本質でもない。また、君だけに与えられたものでもないんだ。

 

役割をちゃんと果たしたのに報われない、そういう筋書きで葛藤し、懊悩する。見事な演技だ。迫真の演技だ。素晴らしい。きっと皆んな皆んな、大満足だったに違いない。

 

…そろそろ、醒めてきたんじゃないか。目は覚めたかい、酔いは醒めたかい。自分がどこに立っているのか、理解できたかい。

 

君は今、ここにいる。地球のどこでもいいけど、地面の上に二本の足で立ってる。義足じゃないぞ。自分の生まれ持った足で立ってる。自分の意思で立ってる。座り込むこともできず、倒れ込んで蹲る方法も知らず、知っていたとしても勇気がなくて逃げられない。だから、とりあえず、ここに立っている。

 

気がつけば、惰性だったんじゃないか。一度、一線を越えてしまったから、二度目からは何だかんだと引き金が軽くなった。

 

おかしくなってしまった。狂ってしまった。壊れてしまった。どうかしてしまった自分に、自分の力じゃどうしようもなかったんだ。

 

戻りたいわけじゃない。戻ったところで変わらないと思うから。そうじゃなくて、もっとまともで、もっとマシな何かになりたかったのかもしれない。変わりたい。でも、変われない。変われなかったんだ。

 

けど、そんなものを望んでも手に入らないことも理解してる。だから、余計に現実が冷たく硬く感じてしまう。

 

世界が残酷だった試しなんかない。残酷なのは常に世界を形作り、規定する、人間の存在だった。一人一人の人間の中に、残酷なヤツがいたってだけだ。なんだか途方もなく大きな問題に転嫁する奴、たくさん居るよな。

 

でも、世の中そんなに期待通りには出来てはいないんだ。

 

劇的なものに見えれば見えるほど、僕たちの解釈が差し込まれて、物事の本質をかき混ぜて、元がどんなものだったのかわからなくしてしまう。

 

そうやって、なんでもかんでも変わっていくものなんだ。

 

絶対に安心できるものなんて、探したって見つからないよ。今、この瞬間だけが真実だとして、その瞬間に感じた幸福や安心を信じるしかないんだ。その都度、その瞬間毎に。面倒臭いけど、そう言うものなんだと思うよ。安心したいと僕も思う。その為には君が要る。

 

でも、安心し続けられるなんて思ってない。そうだったらよかったけど、常にあちこち、安心を探し回っているんだ。

 

きっと、君も、そうなんじゃないかな。

 

君に必要なことは、今の安心をとりあえず、どこかに見つけることなんじゃないかな。ぬるま湯の中で浸かっていたっていいんだ。湯冷めする前に、新しいお湯を入れればいい。お湯がなければ探して足せばいい。探すのが億劫なら、僕が探してきてあげる。僕のものを分けてもいい。僕が注いであげる。それでも足りないなら、裸で抱き合えばいいよ。互いの体温だけを頼りにして、ピッタリくっつき合えばいい。

 

それで救われるのならば、一体なにが悪いことなんだろう。責められるべきことなど、何一つないんだよ。救われたくて、癒されたくて、その為に必要なことなんだから。

 

何にしたって、人生は必要に応じて、だよ。

 

必要に応じて内側にこもって、自分を責めて苛んで、苦しんで、悲しんで、慰めて、堪らず今度は外へと手を伸ばすんだ。抱きしめてって。今度はそう言う気分になったから。季節が巡るように、僕たちの心の景色も移り変わるんだ。

 

それが普通なんだよ。

 

それでいいんだよ。

 

君は弱い。弱いんだ。弱くて、弱いからどうしようもないことがあるんだ。助けを求めていい人間なんだ。何か特別なことができなくても、何かを成し遂げてしまった後でも、手を伸ばしていいんだよ。遅すぎることなんてないんだ。

 

君には選択肢がある。僕は君のことを愛してる。よくわからないけれど、愛してるんだよ。君が必要としてくれているのかもしれない。君に必要とされていることを、僕が感じているのかもしれない。なんにせよ、そういうあやふやなものなんだけどね。

 

ここで君を殺したら、僕の中の帳尻が合わない。

 

だから、僕は君が欲しい。君のことを愛しているんだ。

 

もどかしいよ。うまく説明できないんだ。

 

僕は、君より強い。力の話だけどね。ただの力の話だ。でも、今まで君がどうしようもなかったことを、僕なら何とかできるだろう。僕がちょっと撫でたくらいで、君は倒れてしまうくらいに、君は弱くて儚いよ。

 

君が恐れていることも、君が必要としていることも、僕は否定しない。その上で、全部受け止めることができる。

 

だから、君には選択肢がある。

 

このまま、この道を進むのか。

 

これからは、違う道を進むのか。

 

今しかないんだ。今この瞬間だけが真実だ。

 

だから、今までのことじゃなくて、これからのことじゃなくて、今の君が望んでいる方を選んでくれ。僕は君の選択を尊重しよう。

 

戦いたくないなら養ってやる。しばらくぼーっとするのもいい。何か楽しいことでも探すのはどうだろう。最近はインターネットも便利だから、コンピューターを弄るのもいいね。美味しいご飯を食べようか。

 

僕は寂しがり屋でね、誰かと一緒じゃないと安心して外食一つできないんだ。だから、君が一緒にご飯を食べてくれるのなら安心だ。

 

どうかな。ずっとじゃなくてもいいよ。少しの間だけでもいいから。お試しだと思って、一緒に歩いてみない?

 

途中でやめたっていい。投げ出して、逃げ出して、それをまた拾ってもいい。諦めても、妥協しても、悲しくなって泣いてもいい。僕が君のすべてを肯定する。僕が君のすべてを受け入れる。

 

君が望むなら追いかけるし、君が望むならいつまでだって帰りを待つよ。

 

君は弱い。だから、君の弱さごと、僕が君を受け入れる。

 

君はもう兵士じゃない。

 

国家も。上官も。思想も。誰にも邪魔はさせないと誓うよ。だって僕の方が強いから。

 

だから、僕は君に、僕の手を取って欲しい。

 

君が欲しい。そこから先は、何とかする。

 

すべて、僕がなんとかするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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