青白い月光が仄かに差し込む薄暗い別荘の一室で、一つのベッドに並んで腰掛ける、一組の男女。出流と蒼は手を重ね、これからする
涼しい格好はしているし、空調だって効かせている。なのに出流の身体は汗ばんで、喉がカラカラに乾いていた。
握り込んだ蒼の手に、つい力がこもる。心臓がバクバクと危ない鼓動を鳴らし、頭の中でとりとめない思考がぐるぐるとから回る。ひどく強張った顔を蒼に見せたくなくて、顔を俯けてしまっていた。
一方の蒼はドキドキが止まらず、太ももをもじもじと擦り合わせる。出流の誘いをきっかけに表出した蒼の中の『女』が、出流を性交相手として、番として明確に意識していた。
口をぎゅっと引き結んで、出流の一挙手一投足を観察する。ポロシャツの襟元から覗いた出流の鎖骨に喉を鳴らし、蒼の右手に加わる力に下腹部がじゅく、と疼いた。
両方の性を知る身として出流をリードしたい気持ちはあったが、何から始めれば良いのかまではわからなかった。このまま出流を眺めているだけでも何時間でも過ごせそうだったのもある。
『え? 彼氏とそういう雰囲気になったら? そんなのもう押し倒してキスして、後は流れよ流れ』
蒼は、男慣れしたクラスメイトが戯れに語った内容を思い出す。今、参考にできるものはそれしかなかった。
「イズル」
「ア、アオ――わっ」
蒼が出流に覆いかぶさるように体重をかける。完全に油断していた出流はされるがまま、背中からベッドに倒れ込む。スプリングが軋む音が、やけに耳に残った。
出流が左右に突いた手にちらりと視線を送ってから、正面を――真上を見れば、蒼の紺色の瞳と視線が絡む。さらりと垂れ下がった銀の髪はカーテンのように、二人の横顔に伸びる月光をわずかに遮る。
「……キス、しようぜ」
「っ」
蒼の表情は、暗くて良くわからない。けれど、微かに震えた声に出流は『蒼も緊張しているんだ』と思った。
ゆっくり、蒼の顔が近づいてくる。出流は拒まず、蒼の肩を下から支えるように手をかけ待ち受けた。
数秒の時間をかけて、二人の距離がゼロになり。
唇を重ねた瞬間、爆発するような歓びが二人の背中で迸った。
「「………っ!!」」
蒼の腰骨から首の裏までを甘い痺れが駆け上り、下腹部が疼いて何かを求めている。
出流の逸物に急速に血が集まって、下着の中で存在を強く主張し始めた。
「んふっ、ふうっ……んうっ」
「っ、ふ……んんっ」
ぞくぞくぞわぞわと出流の身体が震え、手が勝手に蒼の腰に回る。出流の手が布越しに蒼に触れる度、そこから走る電流が蒼の吐息を乱れさせた。
蒼は上体を支える肘を曲げて、出流の上に身体を重ねる。出流を感じる面積が増えるほどに、蒼のドキドキは更に高まっていた。
(アオイの身体、服越しでも柔らかい。細くて、脆そうで、触れるだけでも壊れそうなのに、もっと強く抱きしめたい…!)
(イズルのからだ、大きくて、温かいな…。前の俺よりはそりゃ細いけど、今の俺にとっちゃ逞しくて、安心する……っ)
「っ、う、ぁ……!」
出流の腕が蒼の腰と背中に動き、自分の身体に蒼を押し付けるように抱きしめる。蒼の身体で出流の牡棒が押し潰され、性感が出流の脳内でパチパチと弾けた。
そして、出流の浅ましい行為が理解できぬ蒼ではない。己の下腹部にぐりぐりと押し付けられる剛直の感触に、蒼の眼が細まり弧を描く。
愉悦の予感を感じ取った蒼は唇を離し、少しだけ上体を反らせてニマニマと出流を見下ろし。
「ぷあっ。おいおいイズル。俺に黙ってそーゆーのは――」
出流の股間に手のひらをべたりと添えた。
「――良くないんじゃねーか?」
「あッ、待ってアオイ……っ!」
蒼の手が、ズボン越しに出流の逸物をすりすりと撫でる。野郎のペニスなんて普段なら気持ち悪いだけのはず。だけど出流の余裕のない顔を、その長い前髪の奥で見開かれた紅の瞳を見ていると、むしろ触ってやりたくてしょうがないくらいだった。昼間の日焼け止め塗りでさんざん触られた仕返しをしたいところもある。
ただ、数度上下した蒼に確かな違和感。
(アレ? これ……んん??)
「なあイズル。ズボン脱がすぞ」
「えッ、な、ちょっ待って……!」
「どうせそのうち出すんだから諦めろっつー……のッ!」
出流の抗議を無視し、膝立ちになった蒼は出流の半ズボンとパンツに手をかけ一気に下ろす。確かめるには直に見るしかなかったから。
そして、その違和感の正体は―――
ずろお、という
「う、お……え、マジ?」
「ううぅ……」
両手で顔を隠してめそめそと恥ずかしがる出流だが、その男性器は恥じいるどころではない威容を誇っていた。
(いやいや……何十センチあるんだよ、これ)
太さこそまだ標準の範疇に収まるだろうが、長さがとんでもない。二十センチは優にあるその長さは、ちょうど腰に座り込んだ蒼の肋の下まで届いている。
緩やかにカーブした形状、重力に逆らって屹立する様、一瞬『返し』かと思わせるような傘を開いた雁首は、雄々しいというよりも。
(ちょっと、これは……エグくね?)
処女の蒼をして、女を殺すための形だと直感的に感じさせる出流の魔槍の有り様に、蒼は息を呑んで頬を引きつらせた。
「こ、こんなの……俺に挿れる気、かよ。鬼畜にもほどが、あんだろ……」
さっきまでの威勢はどこへやら。すっかり気圧された蒼は気迫の足りない悪態を吐きつつも、両手でやわやわと出流の長竿や玉袋を愛撫する。
なぜそうしているのか、蒼自身わかっていない。かつて自分にもあったものを懐かしんでいるのかもしれないし、内なる牝が愛する牡の猛々しいシンボルに膝を屈したのかもしれない。
「ん……っ」
改めて見れば見るほど異様なペニスだ。これが本当に出流の股から生えているのか、今こうして見ていても尚疑わしいほどに。
包皮はズル剥けで赤黒い亀頭がむき出し、風呂に入ったばかりだから汚れたりはしていないが、それでもほのかな臭気が上る。竿幹の色素が薄く、使い込まれてないことだけが、出流らしさを感じられた。
とぷとぷと鈴口から溢れる先走りが竿の表面を垂れ下がり、やがて蒼の手を汚していく。幹を扱く動きに粘ついた音が混ざる頃には、蒼は雄棒への奉仕に夢中になっていた。
いつしか蒼は身体を屈めて、亀頭に鼻先が触れそうなほどに顔を近づけていた。
「ふうっ、ふぁ……っ」
鼻を突き刺すようなオスの臭いが、手にこびりつく剛棒の熱さと感触が、どこか懐かしくて不思議と心地よい。皺寄った精巣はずしりと重く、この中で自分に射精す為のミルクを造っているのかと思うと、どうしてか愛しさがこみ上げてくる。
(あれ……? 俺、何やってんだろ……? 頭くらくらして、よくわかんね……)
心臓の鼓動が遠く聞こえて、目前に迫った陰茎の威容に魅入られるのがたまらない。もっと、このオスの象徴を気持ちよくしてあげたい。
蒼は自分の変化に気付いていない。そんなことに意識を向ける暇も無いほど、出流の男芯に心を奪われていた。
「あっ、あ、アオイっ、触るの待って、止めて……っ!」
蒼の左手が子種をもっと作れとばかりに睾丸を揉み込み、蒼の右手が優しく肉棒の下部を上下に擦り奉仕してくる。
理由もわからず下を脱がされ、柔らかい両手で巧みに玉と竿を弄ばれる。出流は蒼の態度に混乱しつつも、全身を駆け巡る未知の快感に目を見開いて涎を垂らす。快感を逃がそうと膝が跳ねようとするが、膝の上に腰を下ろした蒼が重石になってうまく逃がせない。
既に限界が近く、いつ達してもおかしくない。出流は蒼の顔へ視線を向ける。
青白い光が、蒼の顔を照らして―――。
「っ」
見たことのない、顔だった。頬を微かに赤く染め、蕩けた瞳は真下に、出流の逸物の先端に向けられている。細く息を吐く口先は僅かに尖り、まるで、口淋しいかのような。
上の空のような、意識のおぼろげな蒼の表情に出流が束の間見惚れていたその時。
蒼が、そっと。唇を近づけて。
「ふうっ」
「っ!!」
裏筋に息を吹きかける。
それは、出流が意志でせき止めていたダムを決壊させるには十分な破壊力だった。
「あ、うあ、アオイ―――」
「へ?」
名前を呼ばれて蒼がようやく上の空から戻って来るが、既に分水嶺は越えている。自分が何をしていたのかを理解する前に、出流がぎゅっと目を瞑り、シーツを握りしめる手に力が入った瞬間。
「あぁあっ!!」
「んわっぷ!?」
蒼の手の中の肉筒から、夥しい量の精液が飛び出す。眉間にぶち当たった熱の塊に思わず蒼が頭を引いたことで真上に打ち上がった雄のたぎりは、やがて蒼の髪や手にもしとどに降り注ぐ。出流の雄槍が解き放ったザーメンは、彼の中性的であどけない顔立ちには似つかわしくない――しかしその魔羅には似つかわしい――雄臭く、ぼってりと濃厚な、女を孕ませる力強さに満ちた欲望のマグマだった。
それが、怒張した剛直が震える度に何度も放たれる。蒼の顔を再び汚し、髪にぶっかけ、シーツに飛び散り、服に染みつき、手に纏わりつく。顔の周り全部が出流の精液塗れになった蒼は、完全に思考が停止していた。
「は、あぁぁ……っ」
一方の出流は、全身が爆発するかのような射精の快感に体力を奪われベッドにばたりと倒れ込む。欲望を吐き出しきった陰茎も、今はくたりと萎れて勢いの弱まった白濁をとろりと零れさせていた。
出流とて年頃の男子、自慰の経験も多くはないがある。だが、蒼の手によって導かれた絶頂は、過去の数度の経験などとは比肩できないほどの極上だった。
蒼がどうしてこうまで積極的だったのかはわからないし、考えられない。今の出流の知能指数は植物レベルに落ちており、射精の余韻に浸ることしかできなかった。
「っ、くぅ………アオイ、大丈――うわっ」
息を整えた出流が気怠い身体を無理やり起こすと、まだ放心状態の蒼の顔があった。力を失った肉棒を握ったまま、焦点の合わない目で前をぼうっと見ている。顔に飛び散った精液はナメクジのような遅さで垂れて、顎を伝ってシーツに落ちていた。
出流は自分の精液が蒼の麗しい
「んぶっ……ちょっ痛、イズ……っ、コラァ!!」
「ご、ごめん……」
力加減を誤った。
「ったく……。タオル貸せ、自分でやる」
「う、うん。ハイ」
「あーあー、せっかく風呂入って綺麗にしたのに、べっとべとじゃねーかよ全く……」
蒼は出流に背を向け、文句をこぼしながら精液を拭っていく。それを正座でぼうっと眺めていた出流は。
(なんか……なんでだろ。すごく……
自分が出した精液の後始末をしている姿を見て、出流の中でまだ夢か何かに思えていたさっきまでの出来事が現実味という輪郭を得る。
『今僕はアオイとエッチなことをしている』という自覚を強めるほどに、出流の男根は再び力を取り戻し、出流の意識下で獣欲がむくむくと育っていた。
そして、背後で何が起きているかなど露知らずの蒼は。
(クソ……拭いても拭いても息吸うたびにイズルの精液の臭いがする……ッ!)
鼻腔を犯す雄の臭いがまったく取れずに苛立ちを募らせていた。しかもどういうわけか、臭いを脳が受け取る度に下腹部でずぐずぐと熱が育っているのも腹立たしい。
(これじゃまるでイズルの――
まるでも何も蒼の肉体はその通りなのだが、彼女のプライドとしてそのような男を忘れたかのような態度は容易に認め難いものがあった。
だからこそ、今一度出流の手綱を握らねばならない。そう考えた蒼は一通り精液を拭って多少は臭いがマシになったと判断してから出流に向き直った。
「………」
「アオイ、その――」
「いや、いい。それはもう気にしてない」
人の顔面に好き勝手に欲望ぶちまけたことを謝ろうとしていたのだろう出流を、蒼は手で制した。その手をくるりと捻って出流に向ける。何かを差し出させようとするように。
「出せ」
「え、何を」
「決まってんだろ」
蒼はジト目を出流に向けて、気持ち圧を強めて言い放つ。
「ゴムだよゴム。俺がつけてやる」
「………!!」