『ごめん。ずっと見てた。水着とか、日焼け止め塗る時とか、本当に大変だったんだから。その……我慢、するの』
蒼は、少し前の出流の言葉を思い出していた。
(イズル、俺のことちゃんと女として、性的な対象として見てたんだよな。たぶん……かなり前から)
蒼は出流がバッグから取り出した箱の封を切り、四辺がギザギザになっているショッキングピンクの個包装を一つ取り出す。
(……
蒼の本心だった。心のどこかで期待していた、出流の女になれる瞬間が、目前に迫っている。蒼の股間は高まり続ける興奮に雌蜜を垂らし、出流を受け入れる準備をとっくに終えていた。
ぴり、と個包装を開けて、中から円形のゴムを取り出す。蒼はベッドの上で振り返り、正座の姿勢でガチガチに固まっている出流に向き直った。
着ているのはシャツ一枚のみ。股ぐらを隠すものは何もなく、規格外の長竿をビンビンに勃ち上がらせていた。
(上も下もがちがち……ふっ)
しょうもない思考を鼻で笑い、蒼はまず自分のシャツを脱いだ。適当に床に放り捨て、下着だけになった上半身を出流に晒す。
出流は、思わず声を上げた。
「あ、アオイ。その下着って……」
「もちろん、あの日イズルが選んでくれたヤツだよ」
蒼が服の下に纏っていたのは、ピンクのレースアップフロントのブラジャー。二人の初めてのデートで出流が蒼の為に選んだものだった。
「丁度いいだろ? イズルも――気に入ってくれてるみたいだし?」
「あう……」
出流の股間が蒼の装いに反応して震えたのを、蒼は見逃さなかった。大神さんという保護者はいたが、出流との一泊二日旅行。万が一の為に持ち込んでいた一着が無駄にならなかったことは、喜ぶべきか少々迷う所。
だが出流が喜んでくれているのだから、それが全てだと蒼は結論付けた。
「じゃあ、着けるぞ」
「お、お願いします」
蒼は箱の裏の説明書きに目を通してから出流の正面に腰を下ろし、取り出したコンドームを出流の鈴口にあてがう。液溜まりを押し込んで空気を抜いてから、両手を使い巻いてある部分を転がしながら被せれば、程なく装着が完了した。
出流自身が選んだものなので、太さに対してはピッタリなのだが。
「半分くらいしか届いてねーじゃねーか」
「その、お店に行ってもそれしかなかったから……」
薄ピンクのカバーを全部被せきっても尚、出流の肉棒は下半分が露出されていた。改めて顔に似合わぬ凶悪な牡槍に蒼は喉を鳴らす。
「まあ、仕事はしてくれるだろ……ほら、寝転がれよイズル」
「う、うん」
蒼に言われるまま、出流はベッドに仰向けになる。蒼は短パンとショーツ――当然上下揃えている――をシャツ同様に脱ぎ捨てた。
そのまま出流の腰を跨ぐために一度立ち上がれば、寝そべった出流からは蒼の秘所が丸見えになるわけで。
「あッ、あ、アオイっそれはちょっと……!」
「いや今更照れんなよ」
耳まで真っ赤になった出流に顔を背けながら、耳まで真っ赤になった蒼が反り返り屹立する肉の塔の真上に膝立ちになる。
「え、あ。アオイが挿れる……の?」
「嫌か?」
「い、嫌じゃないけど。こういうのってなんかその、僕の方からするものなのかなって……」
「まあ気持ちはわかるけどよ」
蒼(男の頃に女性経験無し)は出流の気持ちを汲むが、それでもこれは譲れなかった。
「でもさ、女の身体は俺の方がわかってるわけだし。それに、この体勢ならさ……」
「! わ、わかった。アオイに任せる」
「悪いな」
蒼が言葉を濁した部分を、出流はすぐに察した。夏休み前の一件は、蒼の中で今も影を残していた。だから、自分から挿れることで余計なフラッシュバックを避けたいのだと。
「ふう……」
蒼は、自分のすぐ真下で待ち構える肉棒を握って固定する。恐怖はある。正直、未経験の自分がこんな長大な逸物を受け入れられるか不安で仕方ない。ただ、それは寧ろ誇るべきなのだと自分に言い聞かせる。
(あんな目にあっても、俺はちゃんと……この初めてをイズルに捧げられるんだ)
心が砕けかけた蒼が立ち直るきっかけになったのは、出流。実際の窮地から救ってくれたのも、出流。だったら今自分がやるべきなのは、ビビって尻込みすることではない。
膣口に、亀頭が触れる。蒼も、出流も、接触部に視線が釘付けだった。
そして。
遂に。
肉棒の先端が―――恥裂へと潜り込む。
「―――ッ!!」
瞬間、蒼の目がカッと見開かれ、額にぶわりと脂汗が滲む。すぐに理解した。こんなの挿れるものじゃないと。
いくら身体が準備を整えていたつもりでも、慣れても、ほぐされてもいない膣肉が雄の逸物をすんなり飲み込めるほど、人体は都合良くできていない。
殴る蹴るの痛みとは明確に違う、皮膚の下の肉を裂かれる痛みは、蒼の腰をびたりと止めさせた。
「ふッ、くぅ……ッ!」
腰がうまく動かせない。これ以上はもっととんでもない激痛に苛まれるのが容易に想像できる。だが、それでも蒼は。
「見てろよ……イズル。俺の、気持ち。俺の……覚悟!」
「アオイ……っ」
出流の気遣わしげな視線も声も意に介さず、蒼は気合で腰を沈めていく。ほんの少し受け入れる度に尋常ではない痛みと圧迫感が身体の内側から広がった。ぴたりと閉じた肉の溝を、肉槍が強引に割り裂いているのが感覚で分かる。
全身の毛穴が開いて肌が粟立つ。股から身体を切断されているかのような衝撃に涙腺が動いて涙を滲ませる。
だが、だが。
蒼は激痛と恐怖と苦しさの中に、確かな喜びを感じていた。
この痛みは、戦利品なのだから。己の初物の膣穴を大好きな雄へ、愛しい出流へと捧げられている証左なのだから。
「ふッ…ふうぐッ」
浅く早くなる呼吸。どうにか亀頭までは入ったが、その先に進めようとすると、異物を押し返そうとする膣肉の抵抗が一際強くなる。蒼は直感的に、
(ここさえ、越えれば――!)
蒼は目尻に涙を浮かべながら、なけなしの気合で腰に力を込めて下ろす。
ぶつ、ぶち、と。蒼の中で音が響いた。
「ヅ、ぅ。~~~~~~~~ッ!!!」
身体の中で痛みが爆発するが、それすら無視して己の胎の全てで出流の熱した鉄槍を飲み込んだ。結合部からは透明な液体に混じった朱い線が、入り切らなかった竿の表面を伝い落ちる。
「ぅ、ぐ……」
「あ、アオイ、大丈夫!?」
蒼は体を支えられず出流に伸し掛かるように倒れ伏す。
途方もない激痛に確かな達成感が交じり、脳が混乱に陥っている。蒼は震えながら顔を上げた。
「アオイ……?」
「イ、イズル」
にへら、と。引き攣り歪んだ笑みを浮かべていた。
「俺……ちゃんと。イズルの、女に。なれた……?」
「―――っ!」
うるうると潤み、ふらふらと揺れる。涙を溜めた焦点の合わない紺色の瞳と共に吐いた言葉は儚く、まるで末期のうわ言のよう。出流は瞬時に振り切れた感情のままに、蒼を力いっぱい抱きしめた。
「うん…、うん……っ! 絶対、絶対離さないからっ! アオイのこと、一生かけて幸せにするっ!」
「あは、うれし――んむっ」
プロポーズじみた言葉とともに、出流は蒼の唇を奪う。過去も未来もどうでもいい。今だけは、
(アオイが欲しい。アオイの全部が欲しい! 心も体も、僕だけのモノにしたい……!)
顔を伝って頬を濡らす温かい雫も。重ねた唇から伝わる熱も。腕の中に包めてしまう細い胴も。自分のシャツと蒼のブラ越しに感じ取れる胸の柔らかさと、身体を通して鼓膜を揺する心臓の鼓動も。深く繋がった身体の奥の、ひたすらぎゅうぎゅうと締め付けてくる膣肉も。絡めた脚――腿やふくらはぎの滑らかな感触も。
全てが愛おしくて、全てが欲しい。蒼の全部を受け取って、自分の全部でお返ししたい。
それほどまでに、蒼が大切で。
(だから……我慢、しなきゃ……っ!)
蒼の中にその長大な剛直の殆どを収めた時から、出流の本能が耐え難い勢いで出流を急かしていた。腰を動かし、蒼の雌肉を好き放題に使い倒して、滾る精を注ぎ込めと。
だが今の蒼にその行為がどれほどの負担になるのかなんて想像もつかない。『アオイの嫌がることはしたくない』などとほんの数十分前に言い切ったばかりなのに、独り善がりに事を進めて良い訳がなかった。
せめて、蒼の痛みがマシになってから。蒼の全てを欲する愛欲と、眼の前の雌を我が物にしたい獣欲に理性の綱を両端からギリギリと引かれながら、出流は必死に抑え込む。
そして出流のそんな葛藤は、四肢の不自然な震えや肺の膨らむ頻度の変化。鼻息の荒さとして―――蒼に筒抜けになっていた。
(……まったく、イズル。お前ってやつは)
蒼は唇を離し、出流の肩に顎を乗せる。疲労の浮いた顔を出流に隠しながら、口を開いた。
「動きたいんだろ? 良いよ、イズルの好きにして」
「っ、で、でも……」
「俺の身体なら、心配いらねーよ。少しは……マシになってきたしな」
全くの嘘だ。
勢いで無茶を通した代償か、股が裂かれるような痛みはまるで収まる気配が無く。規格外の長竿は蒼の臓腑を内側から圧迫し、満足に息を吸うことも出来ない。
それでも蒼は、自分の痛みや苦しみなどよりも、恋人に我慢をさせることのほうが嫌だった。
「それに、さっさと全部済ませたほうが、トータルでキツくないかもしれねーし?」
「全部、って……」
「そりゃあ、もちろん」
蒼は鼻から息を吐き、少しばかりの葛藤を乗り越えて、これから言う事の頭の悪さと恥ずかしさに耳朶まで赤く染めながら―――出流の耳に口を寄せた。
「
「―――。」
蒼のその挑発は。その後起きる事に大凡の予想が付きながらも、全ての痛みをひた隠しにして繕った甘い声色は。あたかも張力の限界まで引っ張られていた綱にナタを振り下ろすが如く―――
―――出流の理性を破断させた。
蒼の背に回っていた出流の手が、蒼の腰を鷲掴む。そのままゆっくりと腰を持ち上げれば、まだ堅い粘膜を反り返った肉鉾が引いていく度、腹の前でカリ首が擦れて痛みとも快感ともつかない多大な刺激が蒼の脳を強く揺さぶる。
「あ゛、んぎ……っ! イズ、ル……」
つい口から零れた彼の名前に、『なぜ』と意識を向ける暇もなかった。
「んぁあ゛あ゛あっ!」
どずんっ、と。砲弾でも腹に受けたかのような衝撃に、それまでの思考の全てが寸断された。腰が勝手に仰け反り、出流と重ねていた上体がぐわんと弧を描く。子宮口を穿つような深い突き上げに脳が揺れて、肩が跳ね、銀の長髪が汗を散らして踊った。
「ひッ、ひうっ、かは……っ、ァ」
(息が吸えないッ、チカチカしてるっ、何、が。起きて……)
肺腑が圧迫されて呼吸が満足に行えない。混乱の最中に正体不明の感覚が下腹部から襲い来て、蒼の頭が真っ白に染まる。
「………ッ!」
「んぐぅううっ!」
出流は再び蒼の腰を持ち上げ、抜けるギリギリまで肉槍を引き抜く。男の割には細く、しかし確と筋肉の付いた腕にビキビキと血管が浮かび上がる。腰を痛いほどに強く掴まれていた蒼だったが、その痛みを脳が受け付けない。蒼のリソースは、下腹部からせり上がる灼熱の正体を知ろうとすることに全て注がれていた。
だから、何をすることもできず。
「あぁあああッ!!」
再びその剛直を無防備に突き込まれる。
赤熱した鉄の棒でも突き込まれている気分だった。今まさに蒼の女陰は壊れていっているのではないかと思えるほどに。
だが今の出流に、蒼の事情を斟酌する優しさは無い。
「お゛っ、ひぐっ、ぁあっ、はひっ、あぁあっ!」
頭がピストンの衝撃に幾ばくか慣れて、ようやく蒼の脳は下腹部から叩き込まれる感覚の正体を考えられるようになった。息苦しさと痛みを内包した肉悦を、まだ未熟な蒼の脳は切り分けられない。
この感覚が気持ちいいのかそうでないのか。その判別もできないまま、蒼の臍の奥で何かが膨れていく。
(なにか、クる。しらない、こわい―――)
知らない感覚が腹の中で膨張して、目を回した時のような気持ちの悪い浮遊感が脳を浸していく。酸欠に動いた蒼の口が、金魚のように中空を噛む。
「アオイ……っ、アオイ、アオイっ!」
「あ゛、え゛うっ、ふぶ―――」
足の付根を掴み直した出流の抽送が、速く小刻みなものに変わる。
長槍の穂先で熟れていない子宮口を何度も突かれる痛みと、断続的に臓腑を揺さぶられてせり上がる息苦しさ、そしてカリ高のエラが子宮周りの肉襞をこそぐ快楽が、蒼の脳内でぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。
蒼は口の端から涎を垂らし、半開きの瞼と光の陰った瞳を天井に投げたまま。
「っ、ぅ……ッ!」
「お゛、あ゛……―――――」
渾身の突き上げと同時に膣内に解き放たれた熱の塊に、『何か』が爆ぜた。
脳細胞のシナプスが、ランダムな途絶と接続を繰り返している。直前の思考が忘却の彼方に飛び、四肢の制御がまるで効かない。
それでも、子宮を重く沈ませるような、歪んだ法悦はまるで焼き印のように。
蒼の脳裏に、深い爪痕を遺していった。