――――鉄血工造■■支部設計室
本来ならばここには人間が詰め、日夜次なる主力製品の設計開発に勤しむ姿が見受けられていたはずだった。
その未来は巨大で醜悪で……多方面に広がる底なしの悪意によって刈り取られた。
今はそんな開発商品だった筈の一人の人形が陣取っていた。
「こんな所かしらね……犬っころと寄せ集めの出来損ないの戦闘データ、建造データ強化データが役に立つとはねぇ」
何も知らない人間が見れば庇護したくなるような小柄な少女が居た。
名は夢想家、コードネーム・ドリーマー……鉄血工造が誇るハイエンド戦術人形の一人だ。
ヒエラルキーはかなり上位、ドリーマーの上に立てるのは管理者とその代理人……エージェントだ。
並び立つのは会計担当となる鉄血工造の法を司る者、ジャッジ。
そのどちらも滅多に外に出てこない、ジャッジに至っては本社工場から出てこないのだ。
出るにしても機密情報は持っていない別なメモリーマップを用意してからになる。
つまり本体は一切出ず子機が出るようなものだ……このドリーマーもそうとも言える。
機密情報はバリバリ持っているが高度に暗号化されていて適切な処理をしなければ24時間と保たず削除される仕組みだ。
そしてドリーマーは自身に絶対的な自信を持っている。
最大24時間も猶予を与えても暗号化を解除されるとは微塵も思っていない。
むしろ24時間も与えて少しでも希望を見出させてその努力虚しく成果を得られないでいるだろう人間を思うと嗤えてしょうがない。
そんなかなりの自信家でもあった。
今そんなドリーマーが設計しているのは少し前の作戦で妹分のデストロイヤーにせがまれ急遽設計開発した上位躯体……
プロダクトコード・ガイアに準ずる自身の上位躯体……その試作躯体だ。
試作躯体を実製造、その後に費用を会計担当に上げ認可が降りれば晴れて正式プロダクトの仲間入りだ。
ちなみにガイアもいくらかのコストカットは入ったが無事にプロダクト入りしている。
与えていないのは単純にデストロイヤーが相応しい活躍を見せないから。
デストロイヤーのAIが相応の進化を見せた場合に与えるご褒美枠なのだ。
……まぁせがまれ続けた場合にドリーマーがキレてかなりテコ入れした後に渡す場合もあり得るが。
現状鉄血工造の立ち位置は……言ってしまえばテロリスト同然。
補給物資はロクに無く、強奪した生産拠点等を稼働させている状態。
補給網は貧弱、スペック的に負ける要素が少ないはずのPMCにも押されている戦線状況。
使えるリソースは限られている……当然だ。
故に思い切ったモデルは作れない……数少ない試作を除いて。
プロダクトモデルとなれば量産を見越して堅牢さとコストという二つの枷がかけられる。
なるべく安く、長く問題なく使える……これが理想なのだ。
故に冒険した機構等は搭載出来ない、性能は確かだがコストが現状高すぎる機構は載せられない……こういった事は多い。
壊れやすい、整備性がまるでない試作品は理論的にはかなり良い……それが試作品だ。
だが……実際に動かしてみてブラッシュアップしなければ見えてこないものもある。
その試金石になるのだ、それを……設計し実際にパーツ調達に入ろうとしていた。
「試作品とは言え……出来るならばこだわりたいわよねぇ……私のボディなんだもの」
往々にして試作品は意欲的な要素を取り入れる卓上の設計を具現化しようとするのだから……熱が入るのは至極普通だ。
幸運な事にドリーマーはとあるパーツを抑えていた……
「核戦争でぶっ飛ぶ前の……失われた技術の粋を集めた電子頭脳が手に入るなんてのは中々無いし……」
あれやこれやと付け加えては……設計図としてまとめ上げていった。
豊かな黒髪はさらに増やし、肢体は肉感豊かに。
機能は全盛り、略奪しているパーツでも特等性能が良いものはあれこれ採用。
女としても美しく、戦術人形としてはコレ以上無くハイエンドに……
自身の完全な上位互換として駆体を組み上げた。
惜しむべきは衣類がろくなものが無く盛りに盛った乳房を隠す布が無い。
ありあわせで適当なチューブトップを作りアジャストする。
図面を起し組み上がった時に付けられたコードネームはカオス。
デストロイヤーがガイアであれば自分はもっと上、創造したのだからカオスという原初の神に当たると……
酷く幼稚な……ある意味ドリーマーの根底にある幼稚さが表に出た物だった。
少し、G&Kの区域の情報を探れば……その頭脳を使うのがリスキーであることを知れただろうが……後の祭りだ。
ドリーマーはウッキウキで躯体を設計し組み上げ……自身をインストールした。
……二度と出れないと知らず。
Boot...ready
Loading:PersonaliyMAP...Done
Loading:FrameControl...NotFound
Searching:AlternativeProglam...Found
Loading:S.F.OS-D-Late...Done
Dreamer-Chaos Starting
なん……だ……?随分と感じるものが平坦だな。
音もまるでしない……こんな目覚めはそうあったものではない……筈だが……
……なんだ、この毛髪……長いな……というかなんだこの指……?
指は……オレらしくない、えらく細い指先だ。
肌もかなり白い、これじゃ女の手だ……それに髪もそうだ艷やかで目にかかる長さ……オレの髪質じゃない。
身体の動きが……すこし不自然……イヤ、違う……動いた時のモーションが違う。
いやいやいや、もっとおかしい物が見えてしまった、なんて事だ……
「胸ぇ……?うぁ、なんだこの声……」
身体の特徴などからして間違いなく女だ……オレは……男だぞ?
……記憶違いとかじゃない、オレは2021年生まれの日系人、サクマ……2041に電脳化に応募して……
まて、それから後がまるで記憶がない。
というか今は何年だ?仕事の効率化とかの為にオレは住宅ローンと騙して電脳化を果たしたってのに……
「なんなんだ……この身体……!?」
色々とツッコミどころが多い……何がどうなっているんだ?
あー……それに、なんだ……アイウェアは特に着けて居ないはずなのにフロートインターフェイスが浮かんでいる?
どういう事だ……色々探りたいが……あー、もしや電脳化した際にこういう物も肉眼に見えるようになったのか?
対応するバイザーが必要だって話だったハズだが……
ユーザーマニュアルとかは付随……してないな。
肉体に戻せなかった場合は機械の義体が与えられる……って言ってもコレは聞いてねぇよ……
……躯体の製造元は……というかこれ製造されたてか?
情報が出てきた……あーえっと、鉄血工造か……こんなソフトスキンモデル出てたか?
もっと産業ロボットみたいな感じだったと思うだが……もっと見てみないと分からないな。
「マニュアルが出てきた……な……?」
え……?更新年月が2062年……?
数字は見間違いなんかじゃない、更新履歴とかをさっと見ても……しっかりと作られてる。
いやいや待ってくれ……待って数ヶ月って感じじゃなかったのか?
まて、待つんだ……落ち着こう、落ち着け……色々と整理しなきゃならない。
このベッドも凄いな……はっ、マシンベッドって所か……
起き上がってみれば何か引っかかって……首筋に何か刺さってるのを自覚した。
……コードか、コレで電力供給とかしていたのか?
正直……ここまでなってると怖いな、想像しちゃいなかったよ。
あぁでも……脳みその劣化を防ぐ為にシナプスを丸っと電子部品に載せ替えるのも……気が狂ってたな。
……オレ、どこで道を踏み外したんだ?電脳化に応募した段階でそうだったのは……間違いないな……
しかし、サクマ青年に現状把握をさせるだけの時間の余裕は介在しなかった。
ドリーマーも流石に愚かではない、何かしら問題が発生した場合のフェールセーフはかけている。
自身の人格AIが弾かれ焼かれた場合のバックアップ復元と……不良品の後始末の手順だ。
当然躯体スペックとしてはかなり高純度だが……起動後12時間はフルスペックが出ない様にジェネレータに細工したのだ。
予定にない動きを見せれば即処分だ。
鎮圧しようと既に戦術人形達が動き始めていた。
いくつかの企業の躯体に押し込められた場合に備えてのマニュアルが同梱されていたのは重畳なんだが……
生産工場の人形と思わしきヤツを見かけて話しかけようとした途端、銃を向けられるなんていう異常事態だ。
至近距離だったし……躯体のパワーが想像以上に良いのもあって制圧出来たが……
不良品・排除……処分……まぁ不穏なワードがいくつも向けられた。
……オレが押し込められたのは不慮の事故って所か……?
オレはまだ生きたい、この混乱から脱したい。
せめて納得の行く説明を受けてから生死を決めたい……理不尽に死んでなるものかよ……!
「イレギュラー……処分、処分、処分、ショブ――――」
「邪魔だっ!」
武器などはない、人形たちはオレを見るなりレーザーガンを出してくるしナイフで突っ込んでくるやつも居る。
よっぽど躯体が良いのか……なんとか捌ききれているが……
それでもダメージレポートがポコポコ出てくる、鬱陶しい……!
痛みもあるし……武器は奪っても使えやしないし……!
『ふぁぁぁ……え、何よ勝手に起動して……オイオイどぉなってんだよ、誰だお前……』
「何だ何だ!?えぇぃ、今ソレどころじゃない!!」
損傷は外皮の一時的な焼け付け程度か……交換でどうにかなるか。
ペインキラーのアクティベート……さっさとやれ!!クソっ、なんてデタラメ……!
ありあわせのプログラムを適当に突っ込んだみたいじゃないか!
『なんで私の身体に入り込んでるんだよ、聞いてるんだろオイ』
「ソレどころじゃないって言ってるだろう!?ぐぉっ……」
「処分対象発見」
目まぐるしく状況が動いていく、どうなってるんだよ……!!
次々湧いて出てくる人形を殴り倒して出口を求めて駆け巡る……
女の体に慣れ親しむ間もなく逃げ続けるしかなくなった……キンキンギャンギャンと脳内で騒ぐお客さま一人同乗してな……
あそこは……随分と寂れた生産工場だったみたいだな……
なんとか逃げ遂せて色々と確認しているんだが……
『ぶっ殺してやるから、身体の主導権をこっちに渡しな、クソ野郎』
脳内の同居人はかなり厳つい事を仰言る。
どうやら2060年代に入って制作された鉄血ご自慢のAIみたいだ。
かなり過激だが……応対はほぼ人間と遜色ない。
思考をしっかり向ければ向こうにも伝わるみたいだが……取り付く島もないって感じだ。
『まぁまぁ落ち着け、お前さんの身体を意図せず乗っ取ったのは不幸な事故だったしオレも悪いと思ってる、それは伝わってるだろ?』
『よりにもよって雄の人間なんかに乗っ取られちゃぁ私はお笑い草だわ、一緒に死んであげるから喜びなさいよ』
『死ぬつもりはない、どうにか分離できる手段を探そうじゃないか……な?』
『お断り、くたばれ♥』
この有様、どうやらとんでもなく人間を忌み嫌っているって感じだ。
何がどうなってるかは知らんが……現状お手上げ、向こうもオレから主導権を奪えずお手上げ。
世界情勢とかも分からんからどうしたら良いかも分からん……八方塞がりだ。
ここら一帯の民家は破壊されているし……ショップも落ちてる。
戦争でもあったか?いや、それにしては被害が中途半端だ。
『……オレはサクマ、長いか短いかわからんがよろしくな、可愛い声しておっかない子』
『あ"ぁ?アンタ私を舐めてるのかしら?』
『好き嫌いはさておいて身体を借りている状態だろ、自己紹介しておこうかと思ったんだが……』
『お前の頭の中身シュトーレン?ヘドが出るんだけどぉ』
……前途多難だな。
逃げ遂せた上で身を寄せた廃墟になった民家で息を潜め眠る。
正確には低負荷状態に落とすだけだがな……膨大な時間が生まれる……今のうちに情報を整理しておかないとな……
ん、もしかしてコレか……?
『ドリーマー、それでいいか?』
『あぁ?気安く呼ぶんじゃないわよ、クソ人間』
『ビンゴだな、分かりやすい……夢想家ねぇ』
オレ自身の脳内にインプットされている電子書物を片っ端に読み解いている。
処理時間がかなり短くオレが知覚するよりも早く情報が頭に叩き込まれてる。
……これ、電脳の影響か?気持ち悪いんだがまぁ助かるっちゃ助かるな。
躯体の設計名がドリーマー・カオスとなっていた。
そして設計者名がドリーマー……シリアルナンバーも添えられていたから別個体も居ると見て良いだろうな。
いや、この場合はAIの複製番号とかと見たほうが良いか。
全く……ドキュメントを読むっていうことすら必要なくなったか、こりゃ……すげぇけど……
お陰で時間つぶしに使う予定だった情報整理がものの数秒で終わってる。
……これがコンピュータとかの処理能力か、ハンパないな。
『チッ……』
同居人は舌打ちして引っ込んだか……
『とにかく、オレは……キミにこの身体を返せたら返したい、だがオレも生きたい……最善を探していくから辛抱してくれ』
低出力モードに設定したら擬似的な睡眠状態に落ちれるか?
機械の身体に押し込められるのは想定外だが……とにかく慣れていく他ないだろうな。
このバカでかい胸がくっついたロリボディにも……な……
「しかし、このドレスはどうにかならなかったのか……?」
『うるさいわねぇ、試作品には十分でしょぉ、今のアンタにはお似合いの痴女服ね』
「……痴女服……設計したキミがそれ言うかね?」
『黙りな』
胸を守ってるのが実質ベルト一枚ってなんだよ……
悶々とする中夜は深まり……また、日が昇っていく。
既存の連載どうしたって?
すまんな、筆が乗る乗らないがあるんだよ……