川上との行為が終わった後、身支度を整えて教室に向かう。
教室に入ると、生徒たちは各々怪盗団についての考察を友人と語っていた。
学園の怪盗団メンバーに雨宮の安否についても確認しておかなければならない。
生きているんだろうが、心配しているフリをしておかないと不自然だろう。
チャイムが鳴り、昼休みになる。
生徒たちが忙しく動き出す中、雨宮たちのクラスに向かった。
教室の窓から中の様子を伺う。
流石に雨宮の姿は見えない。
代わりに、机に弁当を広げる高巻と目があった。
高巻は俺の姿を見て察したようで、正面に座っていた友人であろう女生徒に一声かけてからコチラに向かってきた。
「悪いね、高巻さん」
「いえ、それで何か」
意図には気づいているだろうが、あえてシラを切っているようだ。
大方、どこに明智やそれに連なる者の目があるか分からないので、惚けて見せているのだろう。
「雨宮くんに用事があったんだけど、今日は休みかい?」
「ええ、なんでも実家に帰ってるとかで」
実家。留置場か?
「実家か。雨宮くんやご家族に何かあったとか?」
「詳しくは分かりませんけど、問題ないって本人は言ってましたね」
何かしらの負傷はしているかもしれないが、問題ない程度という事か?
明智は公安の取り調べと言っていたが、KGBや特高警察じゃあるまいしそこまで手荒な事をするのだろうか。
「そう、ありがとう。雨宮くんが学校に来たらよろしく言っといてね」
「はい。絶対に伝えときます」
高巻は力強くうなづいた。
怪盗団から信頼を受けているようで何よりだ。
授業が終わり、放課後になる。
今日もまた芳澤に能力をかけた後、帰宅する。
今日あたりに動きがあると思っていたが奥村、佐倉からの連絡はまだない。
時計は夜を回り、そろそろ寝ようかと思っていたところに、携帯が震えた。
例の報告だ。
佐倉の盗聴データを再生する。
話によると、雨宮は公安からの拷問とも呼べるような暴力やクスリを使用した取り調べを受けていたようで、大怪我とまでは行かないまでも負傷しているらしい。
お互いの無事を確かめ合った怪盗団と新島冴は次のターゲットについても選定を始めた。
明智はどうやらパレス内の雨宮を殺害した後、気が緩んだのかシドウという名前を電話で呼んでいた。
そのシドウという名前に色々と情報が集まっていく。
おそらく、明智の裏にいるのは政治家の獅童正義。
精神暴走事件で得をした人間の一人。
怪盗団を批判し一時は支持が低迷したものの一連の騒ぎでV字回復し、次期総理は目前となった。
一色若葉の研究資料を押収した人物。
情報が集まり、疑惑を補強していく。
怪盗団は次のターゲットを獅童正義に定めた。
獅童を総理にしないためにも、総選挙の前日、12/17までがタイムリミットとなった。
11/24
報告が届く。
『獅童のパレスを特定した』
流石のリサーチ能力だ。
雨宮が帰ってきてから一日二日で特定できるとは。
『どこだ』
『国会議事堂、認知は船だ』
怪盗団は獅童のパレスの攻略を始めた。
直に明智も死体の偽装について気づくだろう。
その時は怪盗団を消すために国会議事堂まで来るはずだ。
そして、その場には俺がいる。
明智は疑わずにはいられないだろう。
自分を嵌めたのは怪盗団単独の力なのか、それともコイツが協力したのか。
明智は確かめずにはいられない。
同じ轍を踏むわけにはいかないだろうからな。
明日から怪盗団の動きを追い、国会議事堂の前で待機する必要がある。
『怪盗団がパレスに潜入する日は事前に連絡しろ』
『わかった』
下準備が必要だ。
幸い駒は多少ある。
11/25
怪盗団は早速パレス攻略に乗り出した。
俺は議事堂が見渡せる場所にバッグを片手に腰掛けて待っていた。
バッグにはスタンガンが入っている。
座ったまま、ただ時間が過ぎていく。
流れていく人を眺める。
やがて、議事堂から怪盗団が現れた。
今日の探索は終了ということだろう。
怪盗団を見送った後、待機している駒に連絡しようとしたところで、隣に誰かが座る。
「何時間もこんなところでじっとしていて、ここがそんなに気に入ったのかい」
「ああ、意外と悪くないな。明日にはテレビのケーブルを引こうと思っていたところだ」
明智の皮肉に軽口で返す。
明智がこちらに身を寄せ、自身のコート越しから何か固いものを俺の脇腹に押し付けた。
「アレは君が仕組んだのか?」
「何の事か分からんな」
「僕は今ここで君を殺せるぞ」
「雨宮を殺した時のようにか?」
脇腹に当たるものの感触が強くなる。
ブラフなのか本物の拳銃なのかは分からない。
「減らず口を。本当に殺されたいのか?」
「お前はもう少し、自分の有名さを知った方が良い」
今の時間は退勤ラッシュだ。
人の目は多い。
「もしかして、探偵王子の明智さんですか!ファンなんです、握手してください!」
唐突に立ち上がり、できるだけ大きな声で、尚且つ不審がられない音量で周りに喧伝する。
道ゆく人の目がこちらに向く。
何人かは足を止めている。
また、何人かは明智に一目触れようと近づいてくる。
明智の手を取り、握手をする。
顔を耳元に近づけ囁いた。
「メメントスの前で落ち合おう。邪魔は入れたくないだろう?」
明智から離れる。
通行人たちは野次馬へと姿を変えた。
明智に群がり、自分にもファンサービスをとねだり始める。
これで俺を追いかけることは出来ない。
ここまでは計画通り。
後は詰めろの本番一発勝負。
俺の最も得意とするところ。
丸喜も新島も、奥村も佐倉もそうやって手中に収めてきた。
明智は明らかに準備不足、そして焦っている。
物事が崩壊していく時、特有の加速のついた転がり方で勝負の急坂を下っている。
下り切るまではあと一押しだ。