12/23
獅童に関するニュースはいまだに盛り上がっておらず、それどころか怪盗団の存在はないものとして扱われていた。
獅童の立件も遠のき、民衆も怪盗団に興味を失っている。
一部、熱心なものもいるが、結局それも怪盗団を吊し上げろという意見ばかりが見受けられる。
その時勢によって怪盗団達は、大衆のパレスであるメメントスの最奥へと向かい大衆の歪みの元を盗み出す計画を立てた。
それによって多くの人間に影響を与え、情勢を変える。
しかし、パレスの核となる物を盗み出すとなれば、その後の異世界はどうなるかはわからない。
場合によっては異世界そのものがなくなる可能性もあるそうだ。
怪盗団は今後オタカラを盗んでの強制的な改心が出来なくなるリスクを承知で作戦を決行することに決めた。
かくして追い詰められた怪盗団による決死の作戦が開始される事になった、というのが奥村、佐倉の報告だった。
「たしかメメントスの最奥には、聖杯だか、統制の神だとかがいるんだったな」
『ああ、そうだ』
「そいつが怪盗団に出会ったらどうなるんだ?」
『戦いとなるだろうな。元より怪盗団とは相容れぬ存在だ』
「戦ったらどっちが勝つと思う?」
『十中八九、聖杯側だろうな』
ならそこら辺りが雨宮を仕留める狙い目になるだろう。
「俺たちはそいつに勝てるのか?」
『当たり前だ。種はもう蒔かれている』
なんだ、種って。
『彼奴は現実とメメントスとを融合させようとするだろう、そこに間隙ができるはずだ、それが付け入る隙となるだろう。まあ、我に任せておけ』
現実とメメントスの融合ね。
いまいちイメージできないが、本当にそうなった場合日本中は大混乱に陥るだろう。
「そんな意味のわからない存在に、勝算もなく雨宮は挑むことになるわけか。馬鹿げてるな」
俺は皮肉めいた笑みを浮かべる。
自分たちの信じた正義のために命をかける姿は滑稽でもあり、感心させられる部分もある。
だが、それが報われるとは限らないのがこの世界だ。
「衝突はいつ頃起こると思う?」
『順調にいけば明日だろうな。小僧どもはすぐに動くだろうからな』
随分急だな。
クリスマスイブだというのに結構な事だ。
高巻だの、佐倉だの、奥村だの、新島冴だのと乳繰りあってあれば良いものを。
お陰で準備もままならない。
『そうだな、カワカミとサクラに伝言を伝えておくと良い。内容はそうだな...』
意味のあることなのかは分からないが、取り敢えずパレマクリアの言う通りにしておく。
これが"種"なのだろう。
12/24
パレマクリアに促されるまま、渋谷で待機する。
行き交う人々の顔を眺めては、時間を確認しため息を吐く。
いつまで待てばいいんだ全く。
様子が変わったのは、ぼちぼち正午に差し掛かろうかという時だった。
「うわっ」
地面から古代生物を思わせる骨が生えてきたと思ったら、赤い雨が降り始め、あっという間に足首が浸かるくらいの深さまで増水した。
さらに驚くべきは、周りの人間は一切その事に気づいていないことだった。
「これが、現実とメメントスの融合か」
『ああ、そうだ。愚かな大衆の願いを抽出し、人間を管理しようとする愚かな願望器が作り出した歪んだ世界だ』
辺りはメメントスを思わせる赤黒い風景へ変貌し、ビルには骨が絡み付いており地獄の様相を呈していた。
『さあ、中心へ向かうぞ。怪盗団も聖杯もそこにいる』
パレマクリアが指す方向へ進み始める。
やがて開けた場所に出ると、地面から突き出した巨大な骨が道を示すように天上へと伸びていた。
「この上か」
『ああ、そうだ』
誘われるように上へと歩いていく。
進んだ先には戦闘の痕跡が残っており、怪盗団の存在を知らせていた。
数分歩き最上階へと到達する。
しかし、その先は赤く光る幾何学模様の壁が連なっており、先には進まなそうだった。
「捕まっていろ」
いつのまにか実体化していたパレマクリアが触手を壁の頂点へと引っ掛け、伸縮の勢いで壁の上へと上がる。
壁の内側を覗き込むと、怪盗団と巨大な金色の杯が戦いを繰り広げていた。
怪盗団のメンバーは雨宮、坂本、高巻、喜多川、化け猫だ。
流石に奥村、佐倉は連れてきていないらしい。
聖杯の中からはチューブが伸びており、何かしらを吸い上げているようだった。
「奴はあの管を通して大衆の願いを吸い上げているのだ。誰かに全てを任せて、自分は特に何もせず何も考えず生きていきたい、という愚かな願いをな」
それは人間が誰しも持っているものだろう、とも思うが。
「もっと愚かなのは、その願いは人間の一側面に過ぎないという事に気付いておりながら認めようとしない、あの支配者気取りの木偶だ。人間がそれだけを願っているのならパレスなぞ出来るものか」
パレマクリアはそう吐き捨てる。
「なるほどな」
俺はパレマクリアに同意しながら、聖杯を見下ろす。
巨大な盃から無数のチューブが伸び、大衆の願いを吸い上げている光景は異様だった。
「奴は人間という生物をそも、認めてはいないのだろう。だからこそ怠惰という側面だけにこだわる。見たいようにしか見ない、捉えたいようにしか捉えない。奴が愚かと断じた大衆のようにな」
下では怪盗団と聖杯との戦いが激化する。
坂本が聖杯の隙を突き、チューブを切断する。
願いが聖杯に届かなくなった事により、戦況は怪盗団の優勢となり、雨宮の攻撃により聖杯は沈黙した。
「おい、怪盗団は負けるんじゃなかったのか」
「まだまだこれからだ」
その瞬間、壁が揺れ、崩壊が始まる。
怪盗団がいる場所を中心として地面が隆起し、他のものは崩れ去る。
俺はパレマクリアにしがみつき、隆起した地面の影に身を潜める。
『我は人間の無意識によりいでし管理者。統制の神ヤルダバオト』
巨大な金属でできた三枚の翼を持つ天使のような姿をしたものが聖杯より現れた。
大きさは想像を絶するものであり、尺度を超越した巨大さであった。
「あれが統制の神か」
「ああそうだ、だが大きさなど虚仮威しにすぎん。所詮、人から生まれたものよ」
いよいよ最終決戦らしくなってきた。
さあ、どうする怪盗団。