5/16
放課後、意を決して丸喜のいる保健室へと足を運ぶことにする。
ペルソナは現実世界では使えないらしいので、すぐに命の危険はないだろう。
向こうが俺に宿る、パレマクリアの存在を探知できるとは限らないし。
『確かにペルソナは現実世界では実体化できないが、強力なペルソナであればその力の一部を現実世界に適応することが出来るモノもいるだろう』
マジかよ。
丸喜が強力なペルソナを持っていれば、パレスやメメントスに入らなくても俺を害することができるのか。
そう思うと途端に怖くなってくる。
『その場ですぐに殺されることはないだろう、その場合はこちらも力を持っていることに気づいているはずだ、おいそれと手は出せまい』
そんなことを考えているともう保健室の前まで来てしまった。
とりあえずノックをしてみると、中から、
「はい、どうぞ」
と返事があった。
どうやら丸喜はいるらしく、現在手が空いているらしい。
戸を開け、保健室に入室する。
「いらっしゃい、もしかしてカウンセリングかな」
丸喜は優しげに微笑みかけてくる。
「ええ、今から大丈夫ですか?」
「ああ、いつでも大歓迎だよ!さあ、そこに座って。今飲み物を出すから」
急な来訪だったが、丸喜は快く引き受けてくれた。
この優しげな人間を今から害するために探って行くと思うと、少し罪悪感がある。
『幾人もレイプしてきた人間が言うことではないな』
うるさいな。
人には色々な側面があるんだよ。
「楽にしてもらって構わないよ。取り敢えず話したいことを聞かせてくれれば」
不味い、なにも考えていなかった。
相談したいことならいくらでもあるが、話せることは全くない。
「はい、実は先の鴨志田先生の事件で、校長に生徒会長の新島さんと一緒に怪盗団の噂について調べるように言われてまして」
取り敢えず苦し紛れに話題を広げる。
「生徒会長と一緒にって事は、君も生徒会の役員なのかい?」
話の内容とはあまり関係なさそうな所を付いてくる。
これもカウンセリングの手法なのだろうか。
「ええ、副会長をやっています」
「会長や副会長ともなると、色々頼られることがあるんだろうね」
「はい。それで、その話をされた時に校長から、断るようなら大学への推薦を考える、と脅す様なことを言われて、なにか変なことをさせられてるじゃないかと不安なんです」
嘘は言っていない。
それほど深刻に考えていないことは確かだが。
「確かにそれはやりすぎだね。頼む側が脅す様なことをするなんて」
「校長は、鴨志田先生が『何か』をされて、自白を始めたとある程度、確信を持っているようで。僕が期待にそぐわない働きをすればどうなるか」
実際は怪盗団について知っているのでヤバそうなら情報を出せば良いだけの話なのだが。
「それは不安だね。進路は選択次第でこの先の人生を大きく変えるものになるだろう、それを盾にされると君たち学生はあまりに無力だ」
丸喜は真剣に俺の悩み相談を聞いてくれている。
「僕の方から校長先生に掛け合ってみることもできるけど、君はどうしたい?」
「いえ、丸喜先生の立場もあるでしょうし、何よりそれを理由に推薦を取り消されることもあるかもしれないので...」
面倒なことにならそうなので折角だが断ることにする。
「確かにそうだね。僕の配慮が足りなかった。ごめんよ」
丸喜は申し訳なさそうに謝ってくる。
「そうだ!なら、僕も協力しよう」
丸喜は明るげに言葉を発した。
「協力、ですか?」
「ああ、僕がここに呼ばれたのも鴨志田先生の事があったからだ。事件の収束の為に僕が協力するのは何も不自然じゃない。だろう?」
丸喜はウインクしながら此方を見てくる。
顔立ちが整っていると、こんなキザな所作も妙に様になるから羨ましい。
「ありがたいんですが、いいんですか?」
「当然さ。その為のスクールカウンセラーさ」
「ありがとうございます」
それはちょっと違う気がするが。
正直、協力なんてあってもなくても変わらないが、断るのも不自然だろうし丸喜を探る目的もあるためここは受け入れておく。
「他に、困っていることはないかい?君は大きなプレッシャーを受けているはずだからね。ストレスによって心身の健康を損なっていてもおかしくない」
「そうですね、最近少し、衝動的というか自暴自棄になっているかもしれないです」
ここは乗っておこう。
全くの嘘というわけではない。
川上をレイプしたのは、校長の裏にいる人物を探ると言う課題に、簡単な解決策に見える川上を脅して探らせる策をとったためである。
いつもより準備もしておらず、早く楽になりたいが故の衝動的な犯行だった。
「それは良くないね。君は今年受験だし、君の精神の乱れが取り返しのつかない失敗を誘発するかもしれない」
「そのためにも早く解決しないとね」
丸喜は最後にそう締めくくり、今日はお開きとなった。
怪盗団の進捗を聞きに近々また来ることになるだろう。