家に帰り、パレマクリアと一緒に対策を考えることにする。
『問題はあの精神操作だ。パレス内であれば我のバックアップがある故防げる公算は高いが、日常生活で喰らうと再び正気を失う可能性が高い』
また今日の帰りの様に思い出すことは出来るのだろうが、その間は致命的な隙を晒すことになる。
芳澤以外の人間はレイプされた記憶があることも問題だ。
俺が隙を晒せばどうなる事やら。
目標は丸喜の殺害または、ペルソナの剥奪。
どちらにせよ難しい。
流石に現実世界で殺して埋めるのはリスクが高い。
そうなると自ずとパレスの中でということになるが、その場合間違いなくペルソナとの戦いになるだろう、経験が不足している。
どうやって誘い込むかも問題だ。
鴨志田のパレスは既に崩壊した。
他のパレスに入ったとしても中にいる、主人やシャドウに邪魔される可能性が高い。
『メメントスがあるであろう』
確かにそうか、あそこなら邪魔が入らず始末できる。
そういえば、メメントスで死んだ人間はどうなるんだろうか?
『我にもわからん。メメントスに吸収されるか、ゴミとして排出されるかだろうな』
排出されるのは不味いな。
足がつく可能性がある。
生かして尚且つ、ペルソナを剥奪しないといけない。
不意打ちで後ろからナイフでブスリとはできないようだ。
そもそも、丸喜はパレスやメメントスについて知っているのだろうか。
知らないのだとしたら、面食らっているうちに先制攻撃ができそうだが。
『おそらく入ったことは無いであろうな。ペルソナ使いとして認知世界についての知識がある可能性は否定できないが』
知っているのなら入ることもできるんじゃないだろうか?
『あの世界に入るには、管理者や統制の神から力を授からねばならぬ。我らは例外だがな』
『故に、我の力で汝とマルキをメメントスに連れて行くこともできよう』
現実世界では敵わないため、異世界で戦う他ないが問題はどうやって勝てる可能性を上げるかだ。
パレスやメメントスに入ったことがないなら、戦闘自体は丸喜も素人なはずだ。
身体能力のブーストがある分、俺たちに分があるだろう。
そして丸喜のペルソナ能力、あの力はパレマクリアによるとメメントスに入ってしまえば防げる可能性はかなり高いらしい。
保健室でもパレマクリアは被害を受けていない。
ここまでが優っている点として、劣っているのは、
まず、丸喜のペルソナについて全くの情報がないこと。
精神に干渉してくるタイプなら、物理には弱そうだがそんなのはただのイメージでしかない。
パレマクリアが力負けしてしまえば、敗北は必至だ。
『我がたかだか人が生み出したペルソナ一体に負けるわけが無かろう。契約者のお陰でそのぐらいの力は戻っておる』
本当だろうか?
不安だなぁ。
次に、誘い出す難易度の高さ。
丸喜が俺の頭にどの様な人格を植え付けたのかは分からない。
場合によっては不審に感じ、もう一度掛け直されるかもしれない。
それだけで済めば良いが、次は殺される可能性だってある。
『案ずるな契約者よ、只人など我にとって恐るるに足らんわ』
その自信が今は頼もしく思えた。
5/30
悩んでいても自体は好転しない。
俺は行動に起こすことにした。
第一の関門は丸喜に能力が解けていることを悟らせないこと。
これは決行当日まで、丸喜や芳澤との接触を控える事で対策する。
この日を決行日に選んだのは、学校行事の清掃活動があり、そこに丸喜も参加しているため、保健室以外で自然に接触できると考えたためだ。
今日は清掃場所からの直帰のため丸喜を駅へと誘導もしやすい。
清掃が終わり、後片付けが始まる。
しばらくの間そこに参加し、解散になったタイミングで気を伺う。
教員はしばらく雑談と片付けなどをして一時間ほどたったあたりで各々帰り支度を始めた。
俺はまるきが一人になったタイミングを見計らい声をかける。
「丸喜先生、折行ってご相談が」
できるだけ深刻そうな表情を作る。
「この時間まで残ってたって事は、他に聞かれたくない話かな」
「はい、駅までの道すがらで良いので」
「良いよ、じゃあ歩きながら話そっか」
丸喜を連れ出すことに成功する。
俺は丸喜の隣に並び、駅に向かって歩き始めた。
「それで話ってなにかな?」
「はい、実は母から一緒に暮らさないかって言われてて」
全くの嘘だが、立場上真剣に聞かなければならない類の話のはずだ。
「なるほど、君はどうしたいんだい」
「わからないんです、母は今、再婚してその人と二人で住んでるんですが、その人とは顔も合わせたことはないし、また母に邪険に扱われるんじゃないかって思うと...」
母は現在独身である。
丸喜は神妙な顔をして話を聞いている。
「そうだね。月並みだけどやっぱり会って話してみるのが一番だと思うよ。君のお母さんにどんな心境の変化があったのか電話やメッセージだけじゃ分からないと思うし」
「でも、母に会ってしまうと酷い言葉を言っちゃう気がするんです」
「なおさら、会って話すべきだと思うな。僕に相談しにきてくれたってことは君にも会いたい気持ちはあるんじゃないかな」
そんな話をしていると、駅に着いた。
心臓が早鐘を打つ。
ここで、生きるか死ぬかが決まる。
「もう駅についちゃったね、結果はまた学校で聞かせてくれるとうれ」
「やれ、パレマクリア」
『了解した。契約者よ』
周りの景色が変わって行く。
隣の丸喜は唖然として辺りを見渡している。
「なんだ...これは...」
呆けている丸喜の顔面に体重を乗せた拳を叩き込む。
賽は投げられた。
後は野となれ山となれ、だ。
「がっ、ぐっ」
丸喜は吹き飛ばされ、姿を変えた駅のホームを転がって行く。
追撃を叩き込もうとした時、丸喜から何かが現れ、丸喜の姿も変わって行く。
「あれがペルソナか」
無機質な青い眼が覗く、脳髄の様な形をした異形の生物がそこにはいた。
キモさでいえばパレマクリアとタメを張っている。
丸喜の姿は黄金のボディースーツに白いマント、無機質な仮面といった普段のイメージからは遠い格好をしている。
「行くぞ、パレマクリア」
「ああ」
短く返事を返すパレマクリア。
コイツも意外と緊張しているのかもしれない。
「なんだこれは、なんなんだ君たちは」
丸喜はいまだに混乱している様だ。
しかしペルソナはそうでは無いようで、幾何学模様の触手をこちらに伸ばしてくる。
「チッ」
触手に触れた瞬間、脳が揺れる感覚に陥るがなんとか耐える。
これが記憶の書き換えの正体か。
なんとか防げたが、これも賭けの部分が大きかった。
天運はこちらにあると言うことだろう。
「我がやろう」
パレマクリアが蛹の様な体の側面から触手を伸ばし、丸喜のペルソナに括りつける。
触手使い同士の触手プレイが始まった。
見ていると何かの数値が削られていきそうだ。
「神の力というのを見せてやる」
パレマクリアの触手が光りだし、丸喜とそのペルソナが苦しみ出す。
なにかしらの苦痛を与えているようだ。
「あっがぁぁ、アザ、トース」
アザトースと呼ばれた丸喜のペルソナは主人の呼びかけに答えようとしたが、パレマクリアの触手に阻まれて身動きが取れない。
「ああぁっ、る、み、ぼく、は、あああ、すまない」
丸喜は懺悔するように膝をつき、涙を流し始めた。
「存外、精神は脆いみたいだな」
パレマクリアが呟く。
「今、コイツの恐怖を増大させトラウマを想起させておる。ペルソナとは叛逆の心、心が折れれば当然その力も弱まる」
パレマクリアの言った通り、アザトースの抵抗は大分弱まっている。
「丸喜は今なにを見ているんだ?」
「此奴の恋人の家族が強盗に殺され、恋人が廃人となる様を目の前で何度も見せておる。あとは此奴が勝手に頭の中で補正し、より心に響くものに変化しているであろうな」
恋人本人が殺されたわけではないのか。
何があったんだろうか?
「詳しいことはよく知らんが、此奴が一番恐怖を感じるものがそれなのだ。少し見せてやろう」
そういって触手の一つを取り出し、俺に触れてきた。
その瞬間頭の中に映像が流れる、
20代くらいの女性が床に倒れ伏し、両親と思わしき二人の男女が、殺される様を眺めていた。
殺害方法は凄惨で、わざと苦しめるに急所を外しながら刃渡20cmはあるナイフで刺していく。
最初は眼球をナイフで突き刺し、生きたまま抉り出しそのまま口に詰められ、顎を掴まれて無理やり咀嚼させられる。
その次は耳、鼻と言う様に生命に致命的な危険を与えない部位を選んで引き裂いては遊ばれて行く。
刃が通るたびに悲鳴を上げるが、むしろそれを引き出す様に嬲っているようだった。
あらかた、顔を陵辱し終えたら次は指の爪を一つ一つ剥がして行く。
ナイフを爪と肉の間に入れ込み、テコで引き剥がす。
ナイフは肉をえぐり、赤い血肉と一緒に爪を持ち上げて行った。
剥がした爪は、入れるものがなくなった眼窩へと捨てられて行く。
やがて全身に傷を刻まれた被害者に最後の拷問を施す工程に変わる。
顎の下から耳の付け根あたりに切れ込みを入れ、そこから皮膚をメリメリと引き剥がす、そうすると意外なほど鮮やかなピンクの繊維が露わになり人間の内側を教えてくれる。
人間の内側を教えてくれる。
場面が切り替わり、先程の倒れ伏していた女が俺の足に縋っている。
「ねぇ、あなたのせいよ。痛いの、変わって、変わってよぉ」
その女には全身の皮がなくピンク色の人体をこちらに見せつけてくる。
眼窩にはあるべきものがなく、黒い空洞からは血が涙の様に流れてマゼンタ色の顔を伝っている。
「はっ」
意識が戻る。
激烈に気分が悪くなった。
なんてものを見せるんだこの野郎は。
「気になっておる様な顔をしていただろう」
楽しげに言うパレマクリア。
「そろそろ仕上げだ」
そういうと、パレマクリアは蛹のような体を開き、アザトースを捕食し始めた。
そこが口なのかよ。
「やはり、ペルソナは良い。力が漲るのを感じるぞ!」
えらい喜び様だ。
まあ、蓋を開けてみればそれほど苦戦はしなかった。
運が良かったのか、相性が良かったのか、とにかく勝った。
これで当面の悩みは解決した。
「喜べ、契約者。コイツの能力だが、ある程度我も使える様になった」
捕食を終えたパレマクリアが心底嬉しそうに話しかけてくる。
「マジか」
記憶の書き換えが出来るとなると、これからかなりやり易くなる。
ある程度というのが気になるが。
やはり相性がよかったんだろうか。
同じ触手だし。
そろそろ帰ることにしよう。
丸喜はいまだに涙を流しながら、何事かをぶつぶつ言っている。
「あれはもうダメだ。放っておくぞ。シャドウに食われるなり現実世界に戻るなり勝手にするだろう」
まあいいいか。
良心が痛む気がするが、死んでもらった方が都合が良いし。
現実世界に戻ってもあの調子じゃ、病院行きだろうしな。