6/23
放課後、屋上に芳澤を呼び出す。
先に行って待っていると、扉が開き芳澤が入ってくる。
俺とは決して視線を合わせようとせず、俯いたまま扉の前に立ち尽くしている。
俺が屋上の鍵を閉めようと芳澤の方へ向かうと、肩をビクッと跳ねさせ、後ずさる。
「そんなビビんなくてもいいだろ」
鍵を閉めながら、芳澤に語りかける。
「...」
会話をする気はないようだ。
「お前を呼んだのはやって貰うことがあるからだ。それによっては暫く、お前を犯すのはやめてやる」
「本当...ですか...」
芳澤は疑うような目で此方を見る。
まあ、普通は信じられないだろう。
「ああ、本当だ。やって貰うのはなにも難しい事じゃない。ただ手紙を書いてもらうだけだ」
「手紙、ですか?」
芳澤は事態を飲み込めていないのか、キョトンとしている。
俺は、スクールバックから封筒と便箋を取り出す。
「これに、俺にレイプされて脅されているから助けて欲しいって、内容の手紙を書いてもらう」
「なにを...するつもりなんですか...」
不安そうな表情で便箋へと目を向ける。
言ったところで分からないだろうけどな。
その時、ちょっと面白いことが思い浮かんだので試してみることにした。
「簡単に言うと、人を貶める為に必要なモノだ」
ここでコイツが人を害する共犯になりたくないと断るのか、それともレイプされる恐怖から了承するのか気になった。
コイツが断るのなら奥村にやらせれば良いし、了承するなら脅迫する手段が増える。
「わ、私は」
言葉に詰まる芳澤。
一応葛藤はしているらしい。
「お前がやらないなら、今からお前を犯す。前みたく優しくはできないぞ」
「...」
芳澤は俯き押し黙っている。
きっと脳内で天使と悪魔が戦ってんだろうなぁ。
「早く決めろよ」
「...」
未だ答えは出ないようだ。
少し背中を押してやろう。
「これで不利益を被る人間はお前とは、なーんにも関係ない他人だ。なら別に良いじゃないか、見捨てることになっても」
芳澤の瞳が揺れる。
「そいつが不幸になってもお前には何の関係もない。テレビや新聞で人の訃報を見るのと何も変わらない。だって自分には何も関わりのない人達なのだから」
誘惑に耐えようとしているのか、はたまた恐怖に耐えようとしているか、芳澤は目を瞑り、唇をキュッと噛み締める。
「お前とは関係のないところで不幸になるんだ、お前はソイツが不幸になったことさえ分からないだろうさ。ソイツだってお前がレイプされた事なんて知らずに今まで幸せに生きてるんだ」
芳澤がおもむろに手を伸ばし、便箋の端を掴む。
俺が手を離すと、芳澤は便箋を胸の前へと持って行った。
「やるって事で良いんだな」
「はい...」
芳澤は選び取った。
おそらく、もっと苦しい方を。
背中は押したが、最後は自分の意思で人を毒牙にかける手伝いをする事を選んだのだ。
きっとこれからの人生で何度も思い出す事だろう。
自分の選んだ事は間違いだったのではないか、自分が一時の苦しみから逃れる為に他人を生贄に捧げても良かったのか、と。
そこを少し突いてやれば、芳澤は俺には逆らえない。
屋上に放置されている椅子に座らせ、手紙の作成をさせる。
「なにを書けば...」
「さっき言ったろ。俺にレイプされ、脅されていること。なんとか助けてほしいと言う嘆願。お前の今の状況をそのまま書けば良い。簡単だろう」
芳澤は俺の命令通りに、便箋の空白を埋めていく。
俺に生徒会室へと連れていかれ、殴られ無理矢理犯されたこと。
その後、裸の写真を撮られそれをネタにまたレイプされたこと。
もう限界でありなんとか助けて欲しい旨。
「相談に乗ってもらえるのなら放課後、渋谷駅まで来てくださいってのを最後に加えろ」
あらかた書き終わったとこで、最後に注文を付ける。
芳澤は少し躊躇いながらも、言った通りの文章を最後に付け加えた。
「よし、これは預かっておく。もう行って良いぞ」
芳澤が書いた手紙を封筒に仕舞いながら、帰るように促す。
コイツが心変わりでもして、この手紙を誰かに渡す事を防止するため、時が来るまで俺の方で保管しておくことにした。
芳澤は不安げな表情をしながらも、俺が促すと足早に屋上を去っていった。
これで準備は整った。
後は、怪盗団待ちだ。
6/25
夜、自宅でSNSを巡回していると、渋谷で怪盗団の予告状とおぼしきカードが街中に大量に貼り付けられていたという情報を得た。
そのカードには、以下の文が印刷されている。
『金を貪る暴食の大罪人、カネシロジュンヤ殿
詐欺に明け暮れ、未成年だけを狙う卑劣な手口
我々は全ての罪を、お前の口から告白させることにした
その歪んだ欲望を頂戴する 心の怪盗団より』
怪盗団で間違いないだろう。
遂に動き出した。
今日、貼り付けられたという事は、明日が決行日ということだろう。
思ったより早かったが、問題ない。
こちらの準備もすでに整っている。
最後に勝つのは、俺だ。