8/31
夏休み最終日。
情報が集まったそうなので、新島と学校で落ち合う。
「それで、集まった情報は?」
「はい。最初は双葉の事から」
新島は自分が知り得た情報について、淡々と話し出した。
その様子からは特に躊躇や罪悪感を感じてるいる様には思えなかった。
「先ずは彼女の性格について。頭脳の面においてはまさに天才ですが、その性質故か対人関係に難があり、現在学校には通っておらず、改心の前は家に引きこもっていたようです」
新島が天才と言うのだから、かなりのモノなのだろう。
だが、対人能力の低さは明確な弱点になる部分の筈だ。
「好きなものは、インターネットやアニメ、特撮、SFなどの所謂オタク趣味というような物を好んでいます。反対に嫌いなもの、苦手なものは運動やコミュニケーションです」
そういう人間と関係を気づくのはなかなか根気が入りそうだな。
しかし、一度信頼を得ることができれば、対人関係の経験不足から何処までも信頼を預ける様な人間になりそうな気がする。
「次に生い立ちについて、母親はシングルマザーで父親は不明。その母親は認知訶学の研究者をしていた様ですが、育児ノイローゼにより自殺とされていましたが、何者かに殺害された可能性が高いです」
何者かに殺害か。新しい情報が出てきたな。
しかもこの先に関わってきそうだ。
「殺害された件は後に回して、先に佐倉について教えてくれ」
情報が錯綜しそうなので先に佐倉の方を片付けておこう。
「はい。その時自殺の根拠になった遺書から双葉は自分のせいで母親を自殺させたと思い込み、それから精神に不調をきたして引きこもりになったようです」
その後に改心を怪盗団に頼み、その結果引きこもりを脱したと言うわけか。
改心を頼んだ理由は、母親を殺した自分を罰したかった為だろう。
そうなると、精神はかなり脆そうだな。
「次は、母親について話せ」
「母親の名前は一色若葉。認知訶学の研究者でした」
そういえば、さっきも出てきたが認知訶学と言うものを理解していない。
新島に聞いてみるか。
「その認知訶学とはなんだ」
「私の方も詳しくは知りませんが、双葉から聞く限り、異世界を通して人間の心を入れ替えるメカニズムの研究の様です」
異世界を通して人間の心を入れ替える。
怪盗団のやっている改心と関係がありそうだ。
「双葉の母親はその研究成果を奪われた、口封じの為に殺害された疑いがあります」
「その根拠は?」
穏やかじゃないワードがいくつも飛び出してくる。
怪盗団もとんでもない奴をメンバーに入れたものだ。
「根拠としては自殺する理由がない事、そして自殺するにしても状況が不可解なことです」
黙って続きを話す様に促す。
「双葉の母親は知人が見ていた感じ、仕事も育児も充実している風に見えたと言っています。その最中に突然、双葉の前で車の目の前に飛び込み死亡しました。自殺の方法としては不自然です」
「まだ根拠が弱い。ノイローゼなんかで精神に異常をきたしていたんなら突飛な行動もあり得るんじゃないか?それに殺害したのだとしたら、どんな方法を使ったんだ。背中を押したわけでもないだろう?」
実際、佐倉の母親が殺されたのだとしたらかなり面倒な相手を敵に回したことになりはしないか。
一人の人間を証拠を残さず殺害し、研究を奪い、自殺した事にした。
ただの人間が出来ることではない。
何かしら大きな権力や後ろ盾がある人間の所業になる。
怪盗団と統制の神の共倒れを狙いたい俺には、厄介な敵だ。
どうか、佐倉の勘違いであってくれと思いながら、新島に尋ねてみる。
「認知訶学の研究には改心の他にも、世間で起こっている廃人事件にも関連があり、廃人化が起こり始めたのも双葉の母親が亡くなってすぐです。殺害にはその廃人化をさせる手法が使われたと考えています」
勘弁してくれ。
となると、相手は権力や強い後ろ盾を持っていて、かつデスノートみたいな好きに人を殺せる能力まで持っているわけか。
「相手の目星はついているのか」
「いえ、ただ次回のターゲットは廃人化事件で大きな利益を得た人間になるかと思います」
そいつの口から吐かせるというわけか。
しかし、相手はおそらく怪盗団よりも改心や廃人化、異世界の事について詳しい事を知っているはずだ。
何かの対策を立てられているんではないか。
怪盗団の処理とまでは行かなくても、ターゲットを改心の前に殺害したりなんかが出来るはずだ。
そもそも、相手が異世界のことについて詳細に理解しているなら、既に対策が打たれているかもしれない。
怪盗団に対する対策か。
例えば、顔や名前を見せないとか。
最近、そんな奴がいたな。
メジエドは独立した組織ではなく、そっち側にいるのか?
「あ、あの。どうかしましたか」
新島はずっと黙っている俺に恐る恐ると言った感じで話しかける。
それを無視して考察を続けた。
相手は改心事件から異世界に行ける人間が現れた事を、早い段階で掴んでいた可能性が高い。
いつからだ。
メジエドの前は、カネシロ、斑目、鴨志田の順番で改心が行われた。
そういえば、鴨志田の改心の後、校長はほぼ確信を持って怪盗団を探していた。
普通なら心の怪盗なんて、鼻で笑う様なイタズラにしか思えないだろうが、あの校長はしつこく、半ば脅迫をしてでも怪盗団について俺たちに探らせた。
校長の裏にいる人間か。
辻褄が合ってくる。
校長やメジエドに命令を下せる権力を持っており、改心について何かを知っていた。
鴨志田事件から改心の情報を掴み校長に探らせるも結果が出ず、次の手としてメジエドを動かした。
校長のあの必死さは、もしかしたら殺されるかも知れないという恐怖からか。
放っておくとなんらかのアクションをとってくると思っていたが、こんな手段をとってくるとは。
怪盗団が追っている人物は、俺が思うよりもずっと大きな人物かもしれない。