10/12
今日も今日とて、生徒会の仕事をこなして学校を後にする。
日中、雨宮に接触しようかとも考えたが、今は機を伺う事にした。
今接触した所で有益な情報が得れるとは思えないからだ。
俺と怪盗団の間で、黒い仮面の男についての情報量に大差はないはずだ。
では、いつが好機かと問われると回答に困るのだが、少なくとも今ではないのは確かだろう。
どうしたもんか。
そんな事を考えていると携帯から着信を知らせる音楽がなり始めた。
電話がかかってくるなんて珍しいこともあるもんだ。
誰だ、と思いつつ画面を見ると、奥村からだった。
さらに珍しい、奥村が俺に電話をかけるなんてよっぽどの事だろう。
オクムラフーズの社長が死に、葬儀や諸々の手続き、更には会社の後を誰が継ぐかなどで忙しくしているはずだ。
取り敢えず電話に出ることにした。
「もしもし、何の用だ?」
『お父様を殺したのは貴方なんですか...』
奥村の声は震えている。
きっと、真実が知りたいがため、片思い中の相手に電話をかける生娘のように、勇気を振り絞って通話ボタンを押したに違いない。
そう思うと笑えてくるが、今笑うと俺が犯人にされかねない。
真実を告げるか、誤魔化すか、どちらが良いだろうか。
『ど、どうなんですか...』
俺が悩んでいると、奥村が解答をせかしてくる。
悩んだ末に俺は真実を告げることにした。
奥村にも黒幕について探してもらう方が、俺の利益になると思ったからだ。
なにしろ親を殺されたわけだからな。
雨宮より必死こいて探すかもしれない。
「あれは俺にとっても予想外だ。俺はお前らのペルソナを奪った後、さっさとパレスから脱出した、お前の父親のシャドウを殺す時間などない」
『貴方はいきなり現れて、いきなり消えました。私達がオタカラを盗んだ後、戻ってきたりはできるんじゃないですか?』
「バカを言え、俺は新島を攫ってるんだぞ、そんな時間なんて無い」
実際は新島は俺の指示された通りの動きをしたため、俺があの場で何かする必要はなかったが。
「それに、俺がお前の父親を殺してなんになる。お前に対しての人質にしておいた方が便利だろ」
『それは、お父様が何か重大な事を知っていて、口封じのために』
「俺はそれを目的にあの日にお前達を襲撃したんだ。お前の父親が黒い仮面の男について重大な手掛かりを喋れば、お前達はそれを元に調査を始めるだろう。そうやってお前達が本物の黒い仮面の男に辿り着けば、俺がやった事もソイツに全て被らすことができるって訳だ」
全てご破算になったが。
完璧だと思ったんだが、ままならんものだな。
『じゃあ、ホントに貴方は...』
「そう言ってるだろ。俺にメリットがないんだよ」
そう言うと、奥村も取り敢えずは納得したようだった。
「俺からも一つ質問だ、オクムラフーズはどうするんだ?配偶者もいないようだし、一人娘なら遺産を全て相続できるだろう。オクムラフーズの株式も経営権が得られるぐらいは入ってくるはずだ」
ただの興味本位で、特に意味のない質問だが、なんとなく聞いておく。
『まだ、分かりません...』
まあ、そりゃあそうだろうな。
いきなり、そこそこの企業の社長になって下さい、無理な場合は株を売却してください、なんて言われてもすぐには決断出来ないだろう。
それに、会社は今だいぶ危ない状態だし。
「俺が相談に乗ってやろうじゃないか。先代みたく、ライバル企業や会社の邪魔な重役なんかを殺してやろうか?」
『誰が、貴方なんかに...』
「冗談だよ。だが、俺にとって大事なのはオクムラフーズではなく、怪盗団の動向だ。お前がそれにかまけて動けないんであれば、俺も手を入れざるを得ないぞ」
『分かっています...』
そこで通話は終わった。
手を入れると言っても、やれる事は少なそうだが、脅すだけならできる。
これで、さっさと解決してくれれば良いのだが。
佐倉にも連絡をしておいた方が良いか。
俺について調べるな、と言ってあるし、本物の方についても及び腰になっていると効率が悪い。
チャットアプリを開いて、佐倉へメッセージを送る。
『奥村邦和を殺した人間について調べろ』
数秒後にメッセージが返ってくる。
レスポンスが予想以上に早い。
『分かった。調べる前に聞いておきたいことがある』
『なんだ』
どの情報が俺に繋がるか分からない以上、佐倉も慎重になっているのだろう。
ある程度の情報を流しておいた方が楽そうだ。
『メジエドをけしかけたのは、お前か?』
『違う、そんなコネは持っていないし、お願いランキングについても操作はしていない』
お願いランキングについても言及し、暗にそこも調べろと匂わせる。
これで、佐倉の得意分野であろう、コンピュータ関連での活躍が見込めるはずだ。
メジエドについて聞いてくるということは、佐倉も大まかに俺と同じ結論に行きついたに違いない。
俺は校長の動きについて疑問を持っていたため、メジエドが何者かの命令で動いた事に思い当たったが、佐倉は校長について知っていたのだろうか。
知らないのだとしたら、やはり佐倉の頭脳は侮れないものがある。
『了解した。最後に一つ、お前は黒い仮面の男を見つけて何をしようとしているんだ』
『お前に言う必要はない。俺について探るなと言っただろう』
それ以降、メッセージは返ってこなかった。
佐倉は、俺が本物の黒い仮面の男ではないと気付いたのだろう。
新島が母親が廃人化で死んだと言っていたし、奥村社長が死んだ状況に心当たりがあったのかもしれない。
佐倉についても、奥村と同じく親の仇なわけだ。
これは期待できそうだな。