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どうやら奥村は学校に復帰したようだ。
たまたま、教室を覗く機会があり、その際に席に座っている奥村を見かけた。
表情は依然として暗いままであり、そこから推察するにオクムラフーズをどうするかは未だ決まっていないのだろう。
このままどうでも良いことに頭を悩ませているようなら、本来の役目に支障を来たす可能性もある。
かと言って、俺がどうにかできるものでもない。
まあ、奥村に命令すれば、その通りにできるのだろうが。
取り敢えず今は、奥村の事は後回しにしておこう。
何しろ、それよりも重大な事が判明した。
これは川上から聞いた話だが、どうやら文化祭は延期になった。
それ自体はどうでも良いのだが、延期の理由に警察からの聴取があるらしい。
わざわざ、学校へ来て個別に生徒に怪盗団のことを聴取する予定のようだ。
それも、実施される日は明日、対策の立て用もないし、その場しのぎの言い訳が本職に通じるとも思えない。
俺は怪盗団との関わりなんてほとんどないが、新島だけは別だ。
仲は特別よくなかったが、生徒会での関わりがある。
警察が新島の失踪をただの家出では無く、怪盗団繋がりだと当たりをつけていれば、何かしらの追求を受けるかもしれない。
どうする?
新島を一度解放して、姉に顔を見せるか?
いや、あいつの姉は検事で、しかも廃人化事件を追っているらしい。
警察の動きを知っている可能性がある。
学校へ警察が聴取に来たタイミングで、解放すれば怪しまれるんじゃないか。
そうじゃないとしても、新島の監視の目は強くなるだろう。
そうなれば、今まで通りの働きは期待できない。
仮に、新島が家出ではなく怪盗団関連の事件に巻き込まれたと、警察が判断していた場合、俺に辿り着く可能性はどれほどだろうか。
新島の失踪から二週間と少し、監視カメラの映像の保存期間は特別な事情がないなら、だいたい一、二ヶ月程だろう。
まだ全てが消えるまでには時間がある、しかし、新島がどこで姿を消したのかが、分かっているのなら警察が働きかけて保存期間を延長しているはずだ。
水道料金から特定される場合もあるみたいだが、死体を解体しているわけではないし、一人分の水道料金が増えたところで誤差の範囲だろう。
トイレも制限しており、風呂もシャワーで済ませているので、そこまで増加はないはずだ。
最有力の容疑者は怪盗団のため、俺が疑われる可能性は少ないにしても幾らか保険をかけておく必要がある。
保険と言っても、疑いを逃れるものではなく、新島が発見された時の口裏合わせになるだろうが。
学校から帰り、いつも通りマヨネーズを塗ったパンを差し出しながら、明日からの事を話す。
少し新島がやつれてきた気がするが、まあ、死にはしないだろう。
「明日、全校生徒に向けて、警察からの事情聴取がある」
「え、まさか、怪盗団は...」
新島は俺のいきなりの発言に驚いているようだ。
「いや、怪盗団が逮捕されるわけじゃない。ただ、アイツらが少ししくじってな、改心するはずだった人間を殺しちゃったんだよ」
「そ、そんなはず...」
ここにいる間、新島には一切の情報を遮断していた。
そのため、奥村邦和の改心がどうなったかなどの事も知る由はなかった。
「ほら、これを見ろ」
そう言って、俺はネットに上がっていたあの記者会見の映像を見せる。
前半部分はカットされて、いきなり奥村が苦しんでいるところから始まる、親切なことだ。
「そんな...嘘よ...」
新島は信じられない、という風に両手で顔を覆った。
「そう、黒い仮面の男。黒い仮面の男が怪盗団を嵌めるために...」
流石に気づくか。
ただ、現場を見ていないんだ、幾らでも言い様はある。
「俺もそう考えたんだが、これは本当に怪盗団がやった事なんだよ。幾らかの不運が重なって、パレスの中で奥村のシャドウを殺してしまったらしい。なんでも、銃弾がぶつかり合ってあらぬ方向へ飛んで行ったんだと」
「...」
「跳弾の方向なんて誰も予想できないだろう?それは、奥村のシャドウも同じだったみたいだ。銃弾は奥村配下のロボット達を掻い潜って、眉間へとクリティカルヒット。そのままシャドウは消えて、本体は死亡って訳だ」
新島は怪盗団が過失とはいえ、人を殺した事がショックなようで、口が聞けなくなっている。
「その事があって、怪盗団は一気に指名手配だ。当然だよな、人が死んでるんだから」
「それを私に聞かせて、何の意味があるんですか」
恨めしそうな目で此方を見上げ、投げやりに質問してくる。
「ここからが本題だ。警察が本腰を入れて怪盗団を捜索し始めた。その過程でお前の失踪についても聞かれることだろうし、お前がここにいる事に気づかれるかもしれない。そこで保険をかけておきたいんだ」
「保険ですか?」
「ああ、要は警察に保護された際の口裏合わせだ。お前としては不本意だろうが、指示に従ってもらう。棺桶で姉に会いたくはないだろう?」
そう言えば、新島は断れない。
新島姉妹の生殺与奪を握っているのは、俺だと思っているからだ。
実際のところ、姉の方をどうにかするのはかなり難しいが。
「で、その内容だが。失踪した理由は怪盗団の正体に気づいた事が勘づかれ、命を狙われるんじゃないかと不安になったので、逃げた。俺を頼った理由は俺も怪盗団の正体に気づいており、秘密を共有できるから、だ」
これで筋は通るだろう。
できれば、こんな話を警察の前でする機会はない方が良いが。
「わ、分かりました。警察はここまでくるんですか」
「今の所、その兆候も見られない。怪盗団に消されたぐらいに思われてるんじゃないか。ああ、後そうだ、ここでの生活は不自由なかったとも言っておけ。とても、良くしてくれたってな」
新島は静かにうなづいた。
俺が虐待のような生活を強いていた、と言われれば俺の立場は不味くなるし、そこも必要だろう。
栄養失調気味なのは、命を狙われているかもしれないストレスで痩せたとか勝手な理由で向こうが納得するだろう。
明日は、いよいよ警察とのご対面だ。
柄にもなく少し緊張していた。