学園祭の目玉イベント、明智吾郎の講演会も終わり学園は徐々に後夜祭へと切替わりつつあった。
後夜祭の催しに向かう生徒たちを尻目に俺は携帯を開き、奥村と佐倉から送られた、今日の明智との話し合いの内容について確認した。
どうやら明智は大方の予想通りに怪盗団内部へと入り込むつもりらしい。
奥村と佐倉の話をまとめると、明智の言い分はこうだ。
明智には怪盗団と同じくペルソナ能力があり、目覚めたのはつい最近。
きっかけは、異世界へと消える怪盗団を追いかけていた際に自身も知らぬ間に異世界へと侵入し、怪盗団以外の人間を発見、その人間に襲われたことがきっかけでペルソナ能力に目覚める。
そして、その人間を黒幕として捕まえることに怪盗団へ協力を要請。
断った場合は、怪盗団が異世界へと行ける証拠を警察に提出する。
なお、協力した場合も怪盗団としての活動はコレで最後にする事を条件として、取引を持ちかけてきた。
奥村と佐倉に
『明智吾郎が廃人化事件の犯人だ。ヤツの話を信用するな』
と、送った所で件の明智からチャットが入った。
『明日、19時に吉祥寺のジャズバー、Jazz Jinで待っている』
昨日の今日で忙しい事だ。
了承の返信はあえて送らなかった。
主導権を握るのは俺でなくてはならない。
明日に備えてとっとと帰ることにしよう。
自宅につき、明日明智が取るであろう行動について考えていく。
明智も俺も、お互いの事を邪魔だと思っている事は違いないだろう。
明智にとっては折角、手を尽くして怪盗団に王手をかけたのにそれを盤ごとひっくり返される可能性があるわけだ。
明智の策がなる間、俺の事を殺害ないしは何かで足止めしておこうと思うはずだろう。
そう考える明智に対して俺に危害を加えることについて二の足を踏ませる必要がある。
コイツに手を出すとめんどくさい、自分もダメージを負うと思わせる、そんな風な評価に持っていかなければならない。
どうするのが良いだろうか。
一番は明智に主導権を握らせない事だろうが、相手はふざけた呼び名とはいえあの探偵王子だ。
そう易々とは行かないだろう。
何かで明智に衝撃を与えて流れを掴むのが上策か?
だとしたら、何をすれば良い。
明智が知らない情報、例えば丸喜の能力なんかを見せれば意表を突く事ができるだろうが、俺に対しての危険度を上げすぎる恐れがある。
それで、明智が二の足を踏んでくれれば良いが、怪盗団より優先度を高くされれば厄介だ。
丁度良い塩梅に納めなければいけない。
誰かを連れて行くか?
そうすれば、明智に対して衝撃を与えられ、尚且つヘイトを分散させられる。
俺が怪盗団以外で動かせるのは、御船、芳澤、川上、それから少しリスクはあるが新島。
簡単に呼び出せるのは芳澤だな。
いまだにスケジュールを付けさせており、誰とどのような会話をいつしたか、そして会話の内容を一言一句まで詳細に書かせて不備がありそうなところを徹底的に責めた事で学校や家でも会話が出来なくなり孤立気味になっている。
芳澤は連れて行くには丁度良い存在だろう。
打ち合わせをする時間は明日しかないが、そこはしょうがない。
最悪俺の身代わりになって死ぬなり、拷問を受けるなりしてくれれば良い。
10/27
翌日、昼休みに芳澤を屋上へと呼び出す。
「お前に新しくやってもらうことが出来た」
「はい。分かりました」
芳澤は逆らう気力はないらしく、詳細も聞かずに了承の返事をよこした。
家族や友人などの周囲からの孤立、大会での結果も振るわず、特待生の優遇制度と人との会話を拒む態度も相まって陰口を叩かれる始末だ。
それなりに弱っているのだろう。
「今日の18時から、俺と吉祥寺のバーに行ってもらう」
指定された時間より幾分か早いが、明智が選んだ場所だ。
何があるか分からないので少し早めに行っておきたい。
「それから、毎日つけているスケジュール、あれはもう良い。その代わりに書いていたページを全て処分して、残りには遺書を書いてもらう」
「私は...死ぬんですか?」
「俺は殺すつもりはないし、自殺させるつもりもない」
もし芳澤が明智によって、廃人化された際にあの手帳の中身があると厄介だ。
俺に繋がりそうな物は処分しておかなければならない。
「さっきのバーと何か関係が...?」
「ああ。だが、その事についてその内説明してやる」
スケジュールを付けなくて良いと聞いて少し表情がマシになった気がするが、遺書や唐突な行動に対して不穏なものを感じたのかすぐに元に戻った。
「まずバーに行ったら、ある人と会ってもらう。お前はただ隣で座っておけば良い」
黙って座らせておくのは不信がられるか。
いくつかセリフを用意しておかなければならないな。
「いや、やっぱり何言かは喋ってもらう。そうだな...」
どうするか。
どのような会話の流れになるかが分からないため、結構難しそうだ。
「一つ目は『あなたの雇い主と話がしたい』、二つ目は『それならそれで、あなたの計画を白紙にするだけです』だ。あとは臨機応変に頼む」
おそらく明智はこちらが何故正体を見破れたかを見極めるために最初はシラを切るだろう。
それを越えるためにある程度、強行的な発言を芳澤にさせておきたい。
「廃人化って...。よくニュースになってるあの、廃人化ですか?」
「そうだ。俺たちが会うのは一連の事件の首謀者のうちの一人。探偵王子こと、明智吾郎だ」
信じるかは分からんが説明するだけしておこう。
本番でビビられると計画が狂う。
「明智さんが、そんな...」
明智さん、か。
テレビで見る人間に対しては、少し親しげな表現だな。
「なんだ、知り合いなのか?」
「はい。父の仕事の関係で...」
人選を間違えたか?
明智が初見の人間を持って行きたかった所だが、こうなっては仕方ない。
「なぜ、明智さんが廃人化事件の首謀者だと思うんですか?私にはとても...」
「まず、思う、じゃない。これは確定だ。理由だがお前に言っても分からんだろうさ。なにしろ廃人化自体の手口も怪盗団の改心と同じく、魔法みたいなもんだ」
実際、俺も明智がどうやって廃人化を起こしているのかは分からない。
丸喜みたいな感じだろうか。
「そういう超自然的な現象に付き合う方法は一つ、小さなことを気にしないことだ。だから、お前は黙って俺に従っておけば良い。当日の打ち合わせを始めるぞ」
俺の回答に少し不安げな芳澤の視線を浴びながら、当日の打ち合わせと演技指導を芳澤に施して行った。
学校が終わり、家に帰った後、準備をして再び芳澤と吉祥寺で落ち合う。
芳澤はどこか落ち着きがなく、視線も自分の足元の方に向けてウロウロさせていた。
「準備はいいな」
「...はい」
自信なさげな芳澤を見て、思わず舌打ちが出た。
命がかかっている自覚がないのか?
何のために遺書を書かせたと思っているんだ。
「俺の目を見ろ」
しょうがないので芳澤の認知を書き換えることにする。
掛ける内容は三つ。
明智への敵愾心、俺が芳澤にした事を忘れさせる、そして自分が芳澤かすみだと思わせる。
コレで多少マシになっただろう。
「行くぞ。打ち合わせ通りに行かない可能性の方が高い、その時は適当に俺の話に合わせろ」
「はい、分かりました」
先ほどまでのオドオドした様子はなく、目には自信が溢れていた。
これが芳澤すみれの思う芳澤かすみということだろう。
少し歩いて、目的のバーJazz Jinに到着する。
扉を開き、店内を見渡す。
壁はレンガ調の意匠が施され、机や椅子のデザインも相まってレトロで落ち着いた雰囲気を漂わせている。
そんな店内の端の方、目立ちにくいであろうテーブルに明智はいた。
テーブルの上には何か飲み物が置かれ、グラスの中は三分の一を残す程度になっていた。
やはり、かなり早く来ていたようだな。
これでは、落ち着いて飲み物さえ注文できない。
明智の方に靴音を鳴らしながら近づいていくと、向こうもこちらに気付いたようで視線をテーブルの上から、俺の方へ向けた。
その視線は当然、俺の隣にいる芳澤に流れていき、明智の表情は驚きと敵意を無理やり押し込めた表情へと変わって行った。
「先日はどうも、明智さん」
俺は軽く手を挙げ、気さくに声をかける。
さあ、勝負だ名探偵。