10/29
放課後、昨日と同じように、芳澤に能力をかけ直すため屋上で芳澤を待つ。
以前の経験から分かっていたが、やはり能力には効果時間の制限がある。
丸喜の様にかけっぱなしとはいかないようだ。
パレマクリアによれば持って半日程度らしいが、明智とバーに話に行った際は夜に能力をかけて、朝には解けていた事を考えると中々正確な予想かもしれない。
『薬物に耐性がつくみたいに、能力に耐性がついたりはしないのか?』
『体が慣れて効きづらくなるような事はおそらくないであろう』
長時間のかけっぱなしにしておく事はあまり経験がないため、不明なことが多い。
この機会に色々試して置きたいが、それで精神崩壊でも起こされたらどうしようもないし、またの機会にしておいた方が良さそうだ。
『何かの弾みで急に解けるようなことは考えられるか?』
『まあ、無くはないだろうが、自分で抜け出すのは容易ではない。小娘は自分で望んで姉に成り代わった。そこが揺るがない限りは大丈夫であろう。外部からの働きかけは例外だろうがな』
芳澤の父親もきっと細心の注意を払って芳澤と接することだろうし、そこまで警戒するような事ではないか。
あまり認知していないが友人関係も同じような対応だろう。
丸喜がかすみに変えていた時も、俺がレイプするまでは特に問題なさそうだったし、レイプ以上に精神を揺さぶる事態なんてそうそう起きる事じゃない。
そんな事を考えていると、屋上の扉が開き、緊張した面持ちの芳澤がこちらに歩いてきた。
肩は強張り、拳は握りしめられ僅かに震えている。
それでも一歩一歩と慎重に歩む様子は、何かを探し求め、危険な旅路を歩む旅人のように見えた。
「来たか」
「はい...。今日もお願いします」
芳澤の瞳を覗く。
俺を遠慮がちに写すその瞳は、恐れと期待が入り混じり、胸の内に溢れる感情が今にも溢れ落ちて来そうだった。
特に確認する事もなかったので、そのまま瞳同士を交差させ能力をかける。
数瞬した後、芳澤の瞳が入れ代わる。
「あれっ、先輩?どうかしましたか?」
「いいや、なんでもない」
「私、先輩と何か話そうとしてたような...」
キチンとかすみに入れ替わった様子の芳澤を尻目に屋上を後にした。
毎回この様やり取りをするのも面倒だな。
かと言って必要以上に関わるつもりもない。
明智を倒すまでの間、正気を保ってくれればそれで良い。
家に帰った後、奥村、佐倉からチャットが入っていることに気づいた。
次回のターゲットが決まったらしい。
なんとターゲットは新島冴。
新島真の姉だった。
なんでも明智からの提案らしい。
とうとう動き出したか。
それにしても、新島真の姉にパレスがあるとは意外だった。
明智によれば証拠の捏造という不正をしてでも怪盗団を捕まえようとしているらしい。
会ったことはないが、俺のイメージでは検察なのもあって厳正な人間で不正などしなさそう人物だったが、そうでもないのかも知れない。
明智と怪盗団達は明日パレスに向かうらしい。
場所は裁判所。
尾行しようとも思ったが、明智に発見される可能性を考えて見送ることにする。
明智が怪盗団を仕留めに掛かるのは、おそらく気が緩みやすいオタカラを確保したタイミング当たりだろう。
10/30
午後、奥村、佐倉から報告が届く。
パレスへと侵入したそうだ。
佐倉からは追加で明智の携帯に盗聴アプリを仕込んだ事も報告を受けた。
二人によれば、11月20日に学園と佐倉家に対して強制捜査が始まるらしい。
捜査が始まれば、証拠は捏造され、本物の怪盗団だろうが無実であろうが逮捕されることになる。
佐倉家が捜査の対象と言うことは案外警察も何も掴んでいないということは無いのかもしれないが。
ここから明智はどう動いてくるだろうか。
考えられるのは大きく二つ。
一つは20日までにパレスを攻略させず、司令塔である雨宮を逮捕する。
二つは良いタイミングで裏切って背中を刺して殺す。
一つ目の問題点は、どうやってパレスの攻略を防ぐか。
プライドの高い明智は嘘でも自分のミスを演じようとは思わなそうだし、それが致命的なものであれば尚更だ。
そして、20日までかなり時間がある。
タイムリミットまで足を引っ張り続けるのは、現実的じゃない。
二つ目の問題点は、殺した後の事だ。
雨宮を殺したとて、他のメンバーは戦える状態にあるかもしれない。
囲まれれば危ういだろうし、パレスでは逃げ切ってもその後は現実世界で弔い合戦が始まるかもしれない。
それも佐倉の盗聴と明智の動きでおいおいわかっていくだろう。
楽しみな事だ。
明智が吠えづらをかくところも、怪盗団がどのようにして対処するのかも。
それをどう利用するのかも。
自然と笑みが浮かぶ。
「明智が必死こいて誇らしげに描いた策も、怪盗団が仲間同士知恵を出し合うであろう反撃の作戦も、全て俺の掌の中で転がしてやる」
明智は雨宮達に正体を見破られていることを知らない、怪盗団は身内に裏切り者がいる事を知らない。
俺の中に冷笑が広がっていった。