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あれから怪盗団と明智たちは順調にパレスを攻略しているらしい。
明智も怪盗団の信頼を得るために、積極的に行動しており、普段よりも攻略の進捗が早いようだ。
そして、オタカラが目の前に迫り、後は予告状を出して最終決戦に臨むのみとなった時、明智から待ったがかかった。
明智が言うには、新島冴が怪盗団を警戒している今、普通に予告状を出してもオタカラが実体化しない可能性がある。
そのため、強制捜査がギリギリまで迫り新島冴の心に余裕が無くなった時に予告状を出し、慎重を期すべきだ、と言うのが明智の意見だ。
おそらく、遅延工作だろうが真っ当な意見でもあり、始末に負えない。
流石は探偵王子だ。
怪盗団は明智の意見を採用し、予告状を18日に出すことに決めた。
明智の策が発動するのは、19日という事だろう。
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今日も今日とて、芳澤に能力をかける。
「今日もお願いします...」
芳澤の顔を伺う。
良いのか悪いのか分からないが、幾分か以前より顔色がマシになっている。
瞳を合わせ、能力をかける。
「...先輩?」
「新体操の調子はどうだ?」
芳澤の顔が曇る。
「それが、ちょっと...。私が至らないばかりに...」
意識が姉になった所で、新体操の練度や才能はすみれのままだ。
すみれの能力が低いとは思わないが、やはり姉の方が才能があるのだろうか。
「この間も、大会で1位が取れないようなら特待生を取り消すかも、なんて言われちゃいました」
鴨志田やら、校長やら、怪盗団やらで学園のイメージが傷ついた今、優秀な学生をアピールして信頼とブランドを取り戻そうと必死なのだろう。
「特待生がそんなに大事か?」
芳澤が特待生に固執する理由は特にないように思う。
姉妹二人を新体操の選手に育て上げたのだし、金銭的な理由での問題はなさそうな気がする。
「そうですね。特待生自体にはそこまで固執してません。変に特別扱いされてちょっと迷惑してるくらいです。でも、私の能力が足りないばかりに、特待生を取り消されてしまったら両親に申し訳ないし、なにより死んだ妹に合わせる顔がありません」
芳澤の表情にはほんの少し笑みが浮かんでいるが、その裏に隠された悲しみと後悔が透けて見えるようだった。
この状態でも精神が安定しないとなると、いよいよコイツを始末しなければならないかもしれない。
いつ爆発するかわからない爆弾をいつまでも手元に置いておくわけにはいかない。
手放そうにも、芳澤にはマズイ秘密を握られている。
俺も弱みを握って首輪をつけているが、やけになられると不味い。
「そんなに自分を追い詰めるなよ。俺はよく知らないが、新体操は芸術性を競う競技なんだろう?演者がそんなじゃ、できるものもできないだろう」
「そうかもしれませんね。でも、歩みを止めるわけにはいかないんです」
芳澤は小さく笑った。
「妹のため、か」
「はい。あの子の、私達の夢を叶えるまでは止まれません」
芳澤は頑なだった。
芳澤の言葉を聞きながら表情、声色を観察する。
痛々しいほどの決意、そしてそこに宿る脆さ。
「他にやりたいことはないのか?年頃の女子高生だろう。たまには息抜きでもすればいい」
「私には、そんな資格なんて...」
「芳澤、お前は過去に生きすぎなんだよ。将来なんてどうでもいいって思ってるんだろう」
「過去、ですか」
芳澤は首を傾げる。
「そう、過去だ。きっと昔は良いことがいっぱいあったんだろう。楽しいことがいっぱいあったんだろう。それに比べて今は苦しいばかりだ。練習だって辛いだけだ。だから過去ばかり見てる。将来に対して投げやりでいられる」
芳澤は少しだけ目を見開いた。
その反応を見逃さず言葉を続ける。
「夢を叶えた後の事は考えた事があるか?無いんだろう?夢を見ている割には希望がない」
芳澤はしばらく黙り込んだ。
眉間に皺を寄せ、何かを考えているようだった。
「でも、私はあの子の分まで...」
「頼まれたのか?本人に?それとも親やコーチだとかにか?」
その問いに芳澤は答えられなかった。
目を伏せて、沈黙を続けた。
「...。私が、決めたんです。すみれが亡くなった時、私が二人の夢を叶えようって。もし私が何もしなかったら、あの子の存在が、死が、無意味になってしまうんじゃないかって」
「故人の想いを汲んで行動する、それ自体はとても尊い行いだろうさ。けどな、お前の人生を妹の為だけに使え、なんてのも別に誰からも望まれてはないとは思うんだよ」
芳澤は視線を上げ、俺の顔を見つめた。
「別に、妹との夢を諦めろ、なんて言いたいわけじゃないが、もう少し未来のことを考えてもいいんじゃないか?」
「...先輩って厳しいんですね」
芳澤は小さく微笑んだが、その表情には複雑な感情が混じっていた。
「楽になる道を考えてるだけさ」
「楽になる、ですか?」
「そのまま放っておくと、死んじゃいそうだからな」
芳澤は冗談だと思ったのか、先程までとは違う混じり気のない微笑みを見せた。
「大袈裟ですよ」
「そうかもな。まあ、もう一度考えてみると良い。何のために夢を叶えるのか、なぜその夢を追いかけることになったのか、叶えた後はどうするのか、とかな」
芳澤は小さくうなづいた。
「少しだけ、考えてみます。でも、私が今まで頑張ってこれたのはすみれがいたからです。その気持ちだけは、信じていたいんです」
「それでいいさ」
表面上は穏やかに見える笑みを作りながら、芳澤に微笑みかけて屋上を後にする。
丸喜の真似事。
上辺だけの慰めと理解。
反吐が出る。
きっと能力をかけていなかったら、もっと強硬に反発されていただろう。
もう少しだけで良い。
明智が俺に敗れ、黒幕が怪盗団に倒され、怪盗団が俺に膝をつくその時まで、壊れず、便利な人形になってくれればそれで良い。
その後のことはどうなろうが構わない。