覚悟とは、犠牲の心じゃない的なお話。
ニンジャは多種多様な仕事を請け負う職業であり、業界は常に優秀な人材を求めている。
上位の会社ほど優秀なニンジャを数多く抱えているものだが、その中でも断トツの№1ニンジャ会社『ヘリオトロープ』の人気は№2を大きく引き離しての独走状態だった。
優秀なのは勿論の事、女性のみで構成されているので社員数こそ他の会社よりは少ないが、依頼達成率とお客様満足度は負け知らず。
他の会社はあらゆる手を使いつつも№1の座を諦め、日々の努力とニンジャとしての誇りを忘れずに堅実な営業に力を入れている。
その中で、唯一№1になることを諦めきれない№2の会社の社長は苦々しく思いながらテレビのニュースを見ていた。
「くそっ! 忌々しい『ヘリオトロープ』め!」
テレビに映るのは『ヘリオトロープ』所属ニンジャと一緒に肩を並べて映る有名女優。その結婚報告だった。
誕生日に分身の術による一人オーケストラで盛大に祝ってもらっただの、その後ベッドに流れるように誘われて朝まで抱かれただの。
その女優のファンだった業界№2の会社『エボレウス』の社長セブン・サルーファの怒りは頂点に達していた。
お相手のニンジャは見た感じまだ10代だろうか? 最近テレビでもよく見るようになったアイドルニンジャだ。
若くて可愛くてチャラチャラした、それでいて年配のファンも多くいる『ヘリオトロープ』の稼ぎ頭の一人。業界№1の人気会社だけに、若い稼ぎ頭が大勢いるのだ。
「わしの方が先に好きだったのに!」
社長自身も若い頃はニンジャとして活躍し、今も筋骨隆々に鍛え抜かれた身体をしているのだが、ここ数年は業界№1に本気で上る気力は内心では落ちているのに嫉妬心だけはいっちょ前にあるものだからみにくく肥え太った不健康な体型のおっさんである。
「なんとかして『ヘリオトロープ』の上に行きたいが、実力でも社員たちの総合力でも勝てる気がせん。
どうすれば良いか……」
まともにやり合ったら勝てない。ならばどうするか? セブン社長は考えた結果、ついに人としての道を外れた方法を思い付く。
現代のニンジャとしては綺麗なやり方ではないが、相手の優秀そうなニンジャを若い内から潰して社員を老害の巣窟にしてしまえば何やかんやで内部分裂を起こして会社そのものが潰れるのではないか? という卑怯極まりない方法だ。
まだるっこしいし、そもそも新人社員ならば闇討ちで倒せるだろうという考えも甘い。だが憧れの女優にニンジャの恋人が出来たと言う理由で脳を壊されたセブン社長にまともな判断などつかなくなっている。
「今に見ておれ『ヘリオトロープ』!
このわしが引導を渡してくれるわ!」
がーっはっはっはっ! という笑い声とともにカメラは下からグイっとパンして場面転換。
物語は№1ニンジャ会社『ヘリオトロープ』の入り口前から始まる。
◆ ◆ ◆
「よし! タピ、レイチ。今日は新たな仲間を紹介するぞ!」
日課となっている会社の外周を軽くは知ろうかという時のこと。イコル姉さんから仲間が増えるから紹介したいと言われて今ボクの目の前にいるのは実の妹だった。
……なんでホムがここに?
「タピお姉の妹のホム・オカです♪
イコルお姉にレイチお姉もよろしくね♪」
キメ顔ダブルピースの妹は真っ赤でド派手なニンジャ装束を身に纏っている。いつ買ったんだろう?
「というかイコル姉さん。妹は今度ようやく高校生なんだけれど」
「あぁ、安心しろタピ。
ホムはアルバイトだからな。平日の放課後と土日にちょろっと出てもらうだけだ」
「どもっす! いや~、聞いてはいたけどイコルお姉にレイチお姉って無茶苦茶美人さん&キュートじゃないですか♪
私もタピお姉が一番好きってだけで、お姉ちゃんが増えるのは大歓迎なんで遊ぶ金欲しさにアルバイトに応募しました♪」
正直な理由をありがとう。マイシスター。
「わ、わわ私が姉!? タピさん聞きましたか!?
あなたの妹さん、この私をきちんと実年齢で姉と呼んでくれましたわ♪」
「だね。レイチちゃんはボクよりも小さいけれど、妹はノリで言えば体育会系だから先輩は立てるから」
そういうところは結構真面目な我が妹。そんな妹に喜ぶ大親友のレイチちゃん。ツインテールがピコピコ動くのが可愛い♪
属性的にはイコル姉さんの好みとは真逆ではあるものの、“妹”というものが総じて好きだから、自分を姉として慕う子は大好きだったりする。
「うんうん。それじゃ三人が仲良くなったところで朝のジョギングを始めるとしようか。
私は社長から呼ばれているので先に走っていてくれ。すぐに追いつく」
何だかソワソワした様子のイコル姉さん。
社長に呼び出されるだなんて何かやらかしたのかな?
「それじゃレイチちゃんと、ついでにホムも行こっか?」
「勿論ですわ! この“姉”である私が華麗なニンジャらしいジョギングをホムちゃんに教えて差し上げますわ♪」
「レイチお姉、よろしゃっす♪」
準備運動を終えて、三人揃っていざ走り出してすぐのことだ。ネバつくような悪意を肌に感じてボクらは立ち止まり周囲を警戒する。
これまで鍛えに鍛えたニンジャ感覚でなければ気づけないほどに巧妙に隠された殺意。
「タピお姉、これって……」
あ、アルバイトニンジャの妹に分かる程度の殺意だったか。でも注意は必要!
「ホムはボクの後ろに! レイチちゃん、この悪意の源がどこか分かる!?」
「いえ、これは相当に手練れのワルニンジャのようですね。
ここまで悪として洗練されたニンジャ殺意なら、会社からイコルお姉さまたち幹部ニンジャの方々が出てきてくれてもいいはずなのに」
つまりこれはボクらを狙ってニンジャ結界で周囲に察せられないようにしている、ということか。
ホムを庇うようにレイチちゃんとボクで背中合わせに周囲を索敵する。
「そこだっ!」
一瞬の空気の揺らぎ。触手を伸ばして気配のヌシを攻撃する。
勿論、相手がニンジャなのだから手加減など一切しない一撃。だけど敵はそれを避けてボクらの前に飛び出してきた。
「さすがは『ヘリオトロープ』のニンジャだ。
新米とはいえ、わしの会社でも上位に匹敵する攻撃の鋭さ。流石じゃわい!」
メタボな脂肪まみれながら、その下の鍛え抜かれた筋肉と練り込まれた殺意からして手練れのニンジャだろう。
「わしの名はセブン! 業界№2のニンジャ会社『エボレウス』の社長!
お前たち『ヘリオトロープ』の新人を殺して内輪もめを起こし、なんやかんやで会社そのものを潰すために、まずはお前たちを殺させてもらう!」
……確かにこの人は強いと思う。けれど頭が悪そうだし、これならボクら三人でも勝てそうな気がするけれど。
「タピさん、ホムさん。お気を付けくださいまし!
『エボレウス』のセブン社長と言えば現場からの叩き上げで実力は本物でありながら、社長としての能力がないために会社内でも疎まれている老害としてネットでも有名なアホですわ!」
「でも私たちなら勝てるんじゃないかな?
ほら、タピお姉ってば最近物凄く強くなっているし、そこに私の火遁術とレイチお姉の治癒と拷問を交えて遅滞戦術に徹すれば、イコルお姉もそのうち来てくれるだろうし」
「じゃあ、普通にボコろっか。
暴力は全てを解決するって、前に別の班の人から教えてもらったんだ」
ボクら三人は話し合った結果、敵のセブン社長をぶん殴って倒す方向で今回の騒動を止めることにした。
だけど、これが拙かった。仮にも相手は歴戦のニンジャ。新人のボクら三人でまともに戦えば勝てるからといって、まともな戦いをしてくるとは限らないのだから。
「がーっはっはっはっ! 数の暴力でわしを倒すだと!?
馬鹿め! こちらはお前たちだけを殺すために対・ニンジャ用爆弾を持ってきたのだ!」
取り出したるは真っ黒な球体にいかにもな導火線の付いたごく普通の爆弾。ただし見覚えがある。
前にイコル姉さんからニンジャであっても大ダメージを受ける近代兵器として教えられたやつだ!
半径30キロを灰塵と為す凶悪な兵器。本来ならば時限装置で起動するものだけれど、あの社長は自爆する気か!?
「わしは生まれつき爆発には強い体質だから爆弾による攻撃は軽減される。
さらばだ『ヘリオトロープ』の新人ども! わしの会社が№1になったら貴様らの上司を性奴隷として飼ってやるからな! がーっはっはっはっはっ!」
……これはボクの油断が招いたのかもしれない。三人なら勝てるはず。時間を稼げばイコル姉さんや会社の他の先輩方が来てくれるはず。そんな油断。
そして実は、ボクはタイマンでもこの社長に勝てそうな気がする。それが慢心だった。
どうする? ボクの隣には大親友。後ろには最愛の妹。ニンジャ結界の影響からかイコル姉さんも一般市民も、まだ事態に気づいていないと思う。
「レイチちゃん! ホム! これからボクは覚悟を決めて爆弾による街への被害を防ぐ!」
「ちょっ! タピさんそんな乱暴な自己犠牲は納得できませんわ!」
「そうだよお姉! お姉が死んだら私はどうすればいいの!?」
二人は文句を言うけれど、誰かが犠牲にならないといけないのなら、ボクが率先して血路を拓く。
「覚悟はいいか新人ども!?
わしのスペシャル殺意マックス爆弾を食らえぇぇぇぇぇー!」
投擲された爆弾。その軌道がスローモーションに見える。あぁ、確かに覚悟は出来たよ。
「さよなら、二人とも。
来世で会えたらまたえっちしよう♪」
ボクは自分が出せる最大量の触手を出して、以前イコル姉さんから教わった技を繰り出す。
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――――――
『いいかタピ。触手を大量に出すことで“触手ゲート”を作り、時空を超えた移動が可能になる。
ただし、未熟な者がやれば何処とも知れぬ時空の狭間で永遠を彷徨うことになるだろう。
だからな、この技は私がそばにいるとき以外は使うなよ』
『あ、はい。というかそんな難しそうな技、ボクに出来ますかね?』
『ふふ♪ タピならできるさ。なんてったって私の“妹”なんだからな』
……イコル姉さんとの会話が思い出される。危険な時空を超える大技“触手ゲート”。ボクはそれを使って爆弾ごと何処か遠くへとぶっ飛ばす!
この場所で爆発すればレイチちゃんとホムだけでなく、会社や街も被害を受ける。
平和の象徴であるニンジャとして、それだけは絶対にさせるわけにはいかない。
何よりも、今回の敵はニンジャでありながら自らの欲のために破壊活動と殺人を行おうとしている。
年齢や実力、そんなものは関係ない! ニンジャはどんな困難からだって必ず守り抜くヒーローなんだ!
ニンジャとして天下を取ると決めたボクにとって、“守るニンジャ”こそがボクの目指すべき理想だ。
時間にして一瞬。しかし永劫の別れとなるであろう仲間たちへの言葉と共にボクは触手ゲートで爆弾と一緒に世界を超える。
「がーっはっはっはー! まずは一人目! さぁ、次は貴様らだ新人めぇぇぇぇぇー!」
世界から消える瞬間、ボクの耳に「大丈夫。あとは任せて」と声が聞こえた気がする。
自分がしたことなんて大した効果はなかったかもしれないけれど、こうやって稼いだ時間で誰かが助けに来てくれたのなら、ボクが命を懸ける価値があったというもの。
そうしてボクは、この世界から消失した。
お願い死なないでタピ! 次回、最終話。……勿論死にません♪