※この作品はR-18です。

崩壊系異世界でお人好しが生き延びるには   作:グリーヴ

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幕間 

 

 

中央都市群と呼ばれる首都機能を持った大都市は、大陸中の開拓都市から集めた資材や素材からあらゆる物を製造する工業都市(ファクトリー)と経済を生業とする金融街(シティ)、そして芸術や文化を伝え、広める芸能界(カルチャメディア)と、様々な社会的役割を担っている。

 

開拓都市がかつての人類の遺産を掘り返す目的であれば、中央都市群は遺産管理と復元を行う目的があると言われている。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

近年、増えつつある異世界からの住人達によるストライダー契約にほとほと呆れ返っている。

 

上層部に位置するアース人達は命じるのみで、実務に当たっているのは原住民族であるヒューマンや知能指数の高い獣人と守銭奴な小狡賢い小鬼(ゴブリン)ばかりである。

 

一部ではエルフを雇っている所はあるものの、基本的に風来坊めいた性格が災いしていきなり来なくなって辞職するバックレ野郎と聞いている。

 

故にまだまともな獣人と小鬼位しか居ない訳だが。

 

「部族間の書式や統計の取り方が異なり過ぎる事から、都市同盟基準を確立し、後々のインボイス制度締結の為にも重要と考えられます」

 

そう空気の読めない者が新しく入ってくると、辟易した気持ちになってしまう。

 

〔阿賀之藤治郎(アガノ・トウジロウ)〕

 

先日、行政書士枠としてストライダーの一員としてやって来た若者で、バッチリとヘアトリートメントで固めた髪の毛とハーフフレームの眼鏡とスーツ姿という、如何にも四角四面な男だ。

 

「……阿賀之くん。君はこの状況を理解しているかね?」

「私も1年2年の歳月で叶う事だとは思っていません。しかし今行えば次の年でも進展はあると考えられませんか?」

 

それを状況的に理解していないと言っているんだ。

 

比較的働けている獣人も今の仕事で手一杯であるし、小鬼に関してはあまり利権を与えると吸い付くさんと躍起になって折角の制度が台無しになりかねない。

 

「課長。このプロジェクトの草案は既に纏めてあります。どうか一読を」

「………ふぅ…」

 

ただ口先八丁だけではなく、資料という形で纏めてくれた事は嬉しい限りだし、仕事をしながらならばとても優秀な人材だと思う。

 

とりあえず、渡された資料を数ページ捲り、ある程度内容を読んでから少し一考を挟んで答える。

 

「よく出来ている。流石に都庁で行政書士をしていただけあるみたいだ…」

「ありがとう御座います」

 

ただ読み進めてみれば分かることだが。

 

「何故インボイス制度が向こうの日本でも賛否両論の嵐か知っているかね?」

「ええ。ただでさえ確定申告でも書かねばならない書類が多いとか、個人情報がすぐに調べられるからとかでしょう?しかし事業主たる者がまともな書類も書けず、払うべき税金を払うのが可笑しいと反対する行為こそ可怪しいと思いますがね?」

 

これは昔からある事だ。

 

小麦の製粉を生業とする業者はその依頼料として20分の1を得る権利があったと聞いているが、其れをギッたとか多く懐に入れた等の誹謗中傷も存在する。

 

つまり、相手の事情を鑑みずに勝手に評価したり内容に茶々入れる事を生業とする者だろう。

 

だが…。

 

「……とりあえず次の議題に提出しておこう」

「ありがとう御座います」

 

そう言って笑顔で自分のデスクへと戻っていった。

 

此処で優秀な人材のやる気を削ぐ真似も宜しく無い。

一応受理しておく体に受け取り、いつか使うつもりで塩漬け案件に回しておく。

 

まだ若い彼には幾つか事業者への短期出向を検討しておくとして。

 

「………またか」

 

役所前に集まっている団体を窓越しから見て、呆れ返った。

 

日本でも珍しくはなかったけれど、この世界でもプロ市民団体というカテゴリーは存在するみたいだ。

 

ただ私としてはプロ市民のプロはProfessionalではなく、プロパガンダとか、プロレタリアートの方が意味的に合う気がする。

 

金で雇われたと言うには杜撰と言うか、プロフェッショナルとは思えない理由だが。

 

「……はい、中央区生活課ですが…はい。当方はそのような件でのコメントは差し控えさせて頂いてまして…はい…失礼します」

 

と、向こうから電話が入ってくれば此方も塩対応で当たり障りないお断り文で対応する。

 

これこそ税金の無駄と言うものだ。

 

こんな厄介事しか無い世界で市民団体が躍起になるのはよく分からないが。

 

「中央の治安が良いし、公務員的ポジションの我々の給与も下手な外資より高給で設備が整った官舎付き…」

 

開拓都市の殺伐とした雰囲気ではこうも言ってられない。

 

高い壁に覆われ、下層と中層はスラム街となっているサイバーパンクと北斗の拳が入り混じったポストアポカリプス世界で私のような非力な者が居ても食い物にされかねないだろう。

 

前職のブラックさに感謝するとは思っても見なかったが、とりあえず良しとしよう。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大陸南側に位置する開拓都市、【オーシャンズ】

 

宮本が居る西側の【ウエストランズ】とは異なる大海原が眼下に広がる碧いオーシャンビューの開拓都市である。

 

但し、海岸線の大半は旧世界の廃墟が水没した都市であり、その上に海上油田施設の如く、人工の島や半島が形成されている。

 

その中で、まだ建設途中の島に安全を考慮したヘルメットとツナギの作業着、そして踏み抜き防止とつま先を怪我しないよう鉄板入り安全靴を履いた1人の男がクレーンの操作で鉄骨を運ぶ。

 

〔七火陣(ナナビ・ジン)〕

 

宮本と同期ストライダーであり、鳶職の経験から建設業への転向をする事となった4児の父親である。

 

「鉄骨を下ろすぞ?」

『りょーかい』

 

彼が今しているのは新しいプラント、ヘックスタイプのプラットホームを造り、橋で繋いでいく建設プランを行っている。

 

本人もまさかこのような仕事に派遣されるとは思っても見なかったが、建設と言うビルドアップが好きな自分に合っていた事は間違いなく、日々楽しく仕事をしていた。

 

「ん?休憩の時間か?」

『だな。安全確認ヨシッ!』

 

楽しいとはいえ工期という時間制限や労働基準遵守は付き物であり、悪戦苦闘の毎日を送っていた。

 

そんな中で唯一食事はプラント中央部の食堂にて、提供される付近で穫れた海獣類*1を捌いて作る定食等で、部位によっても味が違うなど、悪食を生業とするストライダー達の永遠の研究テーマである。

 

「おっ、今日は肉か…!?」

「海牛って海上を走ってる哺乳類系海獣を獲ったんだってさ?」

「ウミウシ?」

「軟体動物の方じゃないぞ?ガチで牛だ」

 

モゥと鳴く牛が海の上を走る姿は想像し辛く、ジンの顔は渋く歪むのみ。

 

一体どんな生物なのかと考えるも、この都市にやって来てから数ヶ月間、不思議な事ばかりが続く故に保留せざる得ない。

 

ただ。

 

「んっまっ!?」

 

サーロインと思われる部位を丁寧に焼いたステーキ丼は焦がしたソイソースとよく合い、下に敷き詰められたガーリックライスとも相性抜群。

 

これには働く男たちも喜びに満ちるのであった。

 

「最初は休み以外で都市に行けないのはなぁ…って思ってたけど飯美味いのはいいなぁって思うようになったぜ」

「ああ。最初ディストピアみたいな固形食渡されるのかと思ったが、毎日違うメニューの日替わり定食と固定メニュー十種ってのは本当にすげぇって思うわ」

「其れは言える」

 

隣の席に座る同僚の〔阿左美(アザミ)〕と共に食堂のレベルの高さを同意し合いながら、1時間の昼食時間を終えて作業再開へと向かうのであった。

 

 

 

…………

 

 

 

高く昇っていた太陽も海岸線の向こう側へ沈む時刻になり、鳴り響くベルの音と共に作業員達がタイムカードへスタンプを押していく。

 

午前八時から十二時、一時から四時半までの九時間近くを最低4回の休憩挟みながらの作業を終え、其々の宿舎へと帰路につく。

 

「げっ、風呂の時間遅番じゃねぇか…!?」

「しょうがねぇさ。シャワー2度浴びるしか無い」

「はぁ…」

 

疲れを癒やす大風呂も100人単位で入れば最後は垢まみれの底がヌル付く状態になる。

精神衛生上宜しくはないが入れるだけでもまだ良い方と妥協策として入る前と後で2度石鹸での洗浄を行うライフハックをするしか方法は無かった。

 

仕方がなしとジンと阿左美の2人は、順番になってから多めに買い込んだ石鹸とタオル、金ダライを手に持って浴場へと向かう。

 

「……そう言えば、今度の休みはどうだ?行きつけの"嬢"の店紹介するぜ?」

 

脱衣所にて、ニヤケ面を向けながらジンへ誘いの言葉を射るも。

 

「いや、止めとく。変なもん感染(うつ)されるのも溜まったもんじゃない」

「何だよ!クラミジアやらはこっちじゃ完治できるんだぜ?」

「其れでもだよ。後俺は既婚者だ馬鹿」

「テメェが言わねぇ限りバレねぇよ。九の世界(コッチ)の事は口外規制されてっからさ」

「そういう意味じゃない」

 

父親としても操を決めた夫としてもたとえ違う場所に居ようともそのような不貞行為には手を出さない。

 

そう決めたジンの意思は固く、呆れた表情で先へと風呂に向かって歩いていった。

 

「わーったよ!じゃあせめてキャバ…いやっ!?パブならどうだ!?おーーい!!」

 

暖簾に腕押しの言葉が浮かぶ状況を表している中で阿左美は追いかけながら次に来る休日への交渉をするのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

彼、〔山本一臣(ヤマモト・カズオミ)〕は悩んでいた。

 

「貴方の慧眼を高く評価しています。我が【アトラスミリタリーセキュリティ】での新規事業開発部の一員として迎え入れたく存じ上げます」

 

その理由を説けば、眼の前に居る初老を迎えようとしていたスーツ姿の男から述べられた、所謂"引き抜き"の交渉である。

 

「貴社のベンチャービジネスには幾つか欠点があります。1つに即効性を有するべき事業であるのに未だ情報規制がされている異世界事業参入は時期焦燥。利益が出る前に損失で焦げ付きかねません」

 

まず1つと人差し指を前へ出し、口を開くと、カズの所属する会社状況を分析し、その欠点を話す。

 

「次に2つ。未だ各都市とのインフラ整備が間に合っておらず、規格も統一されていないローカルルールに満ちている状況でベンチャーが出るのは最悪な選択です。目先の利益率に引っ張られましたか?」

 

続けて話すのは、開拓都市の状況。

 

都市同盟が締結されたとはいえ、独自色の強い部分は多く、抱えている諸事情も少なくはない。

 

下手に手を出したならば過去の公共事業失敗談と同じく、投資費用も回収出来ぬまま破産手続きを行なった事例も多い。

 

そして薬指が伸びると、男は口上を語る。

 

「3つ目。今の会社に愛(・)着(・)あ(・)り(・)ま(・)す(・)か(・)?(・)」

 

其れは今働くサラリーマンに向けた永遠のテーマと言うべき問い。

 

サラリーマンとして働くことを決めていた者以外、学業を主としていた少年青年時代には様々な夢を抱いていただろう。

 

スポーツ選手、芸術家、音楽家、シェフやパティシエ等、メディアの紹介文や映画等のサブカルチャーでも色々な物から影響を受けて一員となりたい一心に目指していただろう。

 

しかし、壁にぶち当たり、意欲を失くしていけば、妥協として大手でも就職に励む事となり、慣れないながらも覚えながら働いていく。

 

其れがサラリーマンであり、会社という場所で如何に経済を生み出すかと努力するプロでもある。

故に、愛着というものは言い換えればどれだけ会社から愛されているのかという指数にもなり得る。

 

男は問う。

 

山本一臣という人物に。

 

「……私は…その…」

「今すぐに答えなくても結構です。貴方の歳で辞職され、直ぐに転職出来た会社であれば相応のしがらみがあるでしょう」

 

直ぐに答えが出るほど未練がない訳ではなく、曇る表情から察して考えるだけの時間を提示する。

 

「すみません…」

「では3日後、もう一度…後…」

 

一言謝る一臣へ、男は追記として。

 

「私は貴方を知った上で評価しています」

 

と述べた上で部屋のドアを開き、一臣の帰宅を促した。

 

 

 

…………

 

 

 

「…で?PMC(民間軍事会社)に就職するんですか?役員待遇で?」

「正確に言えばPMSCs(民間警備軍事会社)です。あくまでも警備が目的ですから」

「マーセナリーと変わらないですねソレ」

 

中央都市群のオフィス街にあるベンチャー【アリアケ】の異世界支所には一臣ともう1人、〔李黑(リー・ヘイ)〕という横浜華僑出身の帰化中国人の2人で賄っている。

 

尚、仕事は未だに無く、調査という名目で中央都市群の流行や政情等の資料製作程度しか無い。

 

「しかし、何で山本さんを?なにか言ってましたか?」

「さぁ…?強いて言えばルーレットの玉が落ちる所を見極めるのが得意くらいですけど…」

「それやべぇ才能ですよ?」

 

一度歓楽街のカジノで100ガルズチップを1枚賭けた所、100枚に化けた記憶が懐かしく、怖くなって行っていない事も思い出しながら。

 

「まぁ私には分不相応という物です。Mr.〔アンダーソン〕の見込み違いかも知れませんし…」

「それもそれで失礼極まりないですけどねぇ…」

 

スカウト役の男、〔アンダーソン〕の口振りからは自身の評価があまりにも過剰だと考え、現実的な判断をする。

 

「断るんですか?」

「正直私が警備業務ってのは務まらない気がしまして…アンダーソン氏には申し訳ないですが辞退の連絡を入れました」

「勿体無いけど…ワタシとしては嬉しい限りです」

「そっ…?そう?」

「ただでさえ女の子も居ないし、冴えないおっさんとの仕事なのに居なくなったら1人寂しくなのでとてもキツイです」

「あら…そう…」

 

人柄とかそのへんでは無かった様子でさめざめと答える様子に少しばかり残念な表情を取る。

 

李の酷い発言には流石のカズにも哀愁漂う雰囲気に落ち込むも、致し方ないとため息混じりに吐いては咳を鳴らす。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

子供の頃から両親に言われ続けた事がある。

 

人(・)を(・)殺(・)し(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)と。

人(・)を(・)騙(・)し(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)と。

人(・)に(・)優(・)し(・)く(・)す(・)る(・)の(・)で(・)す(・)と。

 

自分は思わずキョトンとしてしまったが、それをお首に出せれば何か良からぬ事が起きそうだと思い、口を噤んだ。

 

父親はとある教団の司祭。

母親はその教団の祈り女。

 

まぁ言うであればカルトが入った宗教団体に属しており、私はその二世と言うことになる。

 

初めはそれなりに受け入れていたりするけれど、年々募る心という物はあり、次第にある感情が芽生えた。

 

これを人間は"疑問"と言う。

 

疑問は募れば募るほど拭い切れない墨の様な物。

1つ垂れて拭ってを繰り返せばたとえ小さなシミでも段々と大きく広がり、やがて全てを飲み込む黒と化する。

 

本当に興味本位で虫を殺した。

 

最初はそこら辺にあった木の枝でアリの行列を通せんぼして遊んでいたが、徐々に堀を作ってみたり、土で埋めたりとエスカレートしていくと、遂には如雨露で水を汲み、アリの巣へ洪水をしてみた。

 

ワタワタとひっくり返って溺れる様子は何か心の中に火が灯った。

 

そうとなればアリだけでは物足りない。

 

蝶、カマキリ、カナブン、カブトムシ。

 

薬を注入して安らかに死んでからバラバラの状態に変えてマチ針で刺し、標本を作るのが段々と趣味になった。

 

ただ、父はそれを気に入らなかった。

 

『殺生を好んでするお前には悪(・)魔(・)が(・)宿(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)!(・)?(・)』

 

標本は焼かれた。

 

背中に赤く熱された焼きごてを押さえつけられた。

 

何処か知れぬ場所に閉じ込められ、飢えに苦しんだ。

 

あの時でも虐待行為に当たるだろうが、配偶者による暴行等の条例はまだ出ておらず、家庭内暴力で両親共にである以上、ただ受け続けるしか無かった。

 

後に知ったけれど、母は教祖と肉体関係を結び、父は入会希望者から若く美しい女を修練と称したセクシャルハラスメントを行っていたとのこと。

 

故に、私の心はただ1つ決めていた。

 

両(・)親(・)を(・)殺(・)し(・)て(・)真(・)の(・)自(・)由(・)を(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)る(・)。

 

その為に、考えられる限りの罠を使い。

 

互(・)い(・)を(・)殺(・)し(・)合(・)わ(・)せ(・)た(・)。

 

意外とすんなり出来てしまい、頭は良かったけど考える事には能無しだったわけだ。

 

お陰で、自由を得た。

 

そう思っていたが、社会がそれを許さない。

 

人を殺す事は重罪であり、行えば10年以上は刑務所に入るだろうし、もっと重くなれば無期懲役もしくは死刑宣告を出されかねない。

 

そうなれば困るのは私の方だ。

 

人生は長いようで短く、喧騒と狂乱に満ちている物で、変に厄介事を集める様な行為は宜しくない。

 

であれば?

 

人を合法的に殺せる仕事に就けば良い。

 

そう思うだろうが、殺生を嫌った両親から食べされられた豆素材の固形食以外は身体が全く受け付けず、茹でてさっぱりさせた肉も吐き気を催すした。

 

その為、身長174cmの長身で体重44kgという酷い体型で、エネルギー飲料と固形食しか食べれず、横隔膜の無気力さが増して胃下垂を起こしていた。

 

「あんちゃん大丈夫かい?」

「ええ、はい。大丈夫です」

 

ふと我に返り、返事をする。

 

今、私が居るのは"異世界"と呼ばれる場所。

 

遺構と呼ばれる過去の建物群を新たに開拓する事が今の所の目標としている世界で、ホモ・サピエンスに近いヒューマンや獣人、その他種族がユーラシアと北南米大陸を重ねた位の巨大な大陸に点在しているとか。

 

それを考えると流行り病が蔓延するのも早そうだ。

 

「考え事でもしてたのか?もしかして酒場の姐ちゃんをどうかしたいとか?」

「ええ、そんな所です」

 

適当に言ってしまったが、まぁ良い。

 

「かぁ〜!若いっていいねぇ!!昔あんたくらいの頃でも女の二人や三人、ブイブイいわせて相手にしてたもんだぜ!」

「そうですか」

 

そんな分かりかねる話をし続けられて10分。

 

私は遺構の中で突撃銃(AEK-971)を携えながら今回組むこととなった四十代の男と探索をしている。

 

男にはどうやら目的があるのか、入るや否や迷いなく目的地へと向かう足取りがあった。

 

「こっちだあんちゃん」

 

男は持っている自動小銃(ウェンチェスターM1carbine)を構えながら、通路の角を注意して進む。

 

接(・)点(・)に(・)は(・)注(・)意(・)せ(・)よ(・)。

 

ドア、曲がり角、土砂等の身を隠せる存在。

 

これらがある場所には何かが潜めると言い、遺構探索で注意すべきと教わった。

 

「そろそろ着くぜ?」

 

目的地は近いらしい。

 

幸いにアノマリーや遺構のシステムには当たらず、消耗も少ないまま、辿り着くと。

 

「……これは?」

 

そこにあったのは頑丈そうな扉。

どれほど長く存在していたのか判別出来そうに無いほどの錆の浮き、この遺構が発見されてもそのまま硬く閉ざしていたらしく、開かれた様子が無かった。

 

「この中にものすげぇ宝が眠ってる。俺はそう睨んだ」

 

確かに。

 

このメガストラクチャーの中では相当貴重な物品が回収されており、全く開かれたことの無い部屋なら尚更有ってもおかしくは無い。

 

だが問題なのは、遺(・)構(・)の(・)頑(・)強(・)さ(・)をどうすべきか。

 

「厄介な事にこの扉、ブリーチングテープでも駄目だったんだ…」

 

ブリーチングテープ。

見た目は養生テープの様な物だが、特定の物に貼り付け、信管を取り付けると、ドアブリーチングに変わる特殊形状爆薬である。

 

一般的に遺構の扉を爆散させる目的だが、それすら破壊出来なければ此処で指を咥えているしか無いが。

 

「あんた、"道具"は持ってきたよな?」

「………ああ」

 

其処で私が雇われた。

 

私は両親を殺害後、ふと目に止まった工業高校へ進学を決める。

 

特にこれと言って理由は無いが、溶接加工や自分の手で何かを製造するという技術が欲しかったからと思っている。

 

お陰で在学中、特殊な物の切断やら加工が上手くなったことは間違いない。

 

男の要請を聞き、私は扉の観察を始める。

 

幾つかの遺構の扉や外壁等の構造は調べてみたが、技術大国日本でも再現するには難しい素材が使われている。

ドアブリーチングされた跡も残っているが、歯が立たずに焼け焦げだけが残されていた。

 

「ロック、外せそうか?」

「やってみよう」

 

穴1つでもあればと思ったが、そんな希望は無く、どうするべきかを考えると。

 

(…一部が腐食している)

 

足元1つ、何か強酸性を浴びたかのような跡がある。

 

これならいけるかも知れない。

 

「少し離れていてくれ」

「あっ、ああ」

 

一度安全の為に男を離れさせる。

 

詰め込んでおいたバッグから熱切断用のバーナーや鋸を取り出し、弱くなった部分へ熱を加えてみる。

 

ビンゴだ。

 

化学反応による青い火花が飛び散り始め、切断が容易に行われる。

それでも親指大の穴が出来るだけだが、今はそれで十分。

 

次に胃カメラなどと同じ技術で作られたスネークカメラを取り出し、中へと挿し込む。

 

最大50m先まで延ばせる新型で、先にはステンレス製3本爪マニピュレータがあるので鍵を捻る動作もつつがなく行える。

 

此処で電子パネル操作を可能にする電気を放ち、パネルの電源を起動。

ロックが解除された。

 

「おぉ…」

 

男の驚嘆が漏れると、この仕事にちょっとした達成感を得られる。

 

「中は何だ?」

「確かめてみる」

 

カメラを操作するレバーで映し出された画面を見ながら右へ左へ首を振って内部を探る。

 

見つけたのは棺桶をイメージする長方形の物体。

 

小さく青白い光が木漏れ日のように淡く放っている所を見ると、棺桶状の物体は何らかのカプセルで、未だに稼働している事を想定する。

 

「トラップの類は無いようだ」

「そ、そうかっ…!!」

 

カメラを回収しながら男へ向けて述べていると、我先にと忙しない様子を見せ始める。

 

どうやら目的の品だと確信したみたいだ。

 

「早く開けろ!早く!!」

「まぁ待て。無理矢理開けてもシステムに反応してって事にもなりかねない」

「っっ…!!」

「慌てなくとも逃げることは無い。息を吸って落ち着け」

「………ふぅ…」

 

セキュリティに引っかかって失敗した話を考えれば落ち着く事もまた1つの才能だと思っている。

 

とはいえ、財宝の山を見て興奮しない人間も早々に居ないだろうが。

 

「……開いたぞ?」

「…よしっ!!」

 

我先にと男がドアの隙間へ手を入れ、あらん限りの力を使ってスライドドアを開けていく。

 

強化服(パワースーツ)の力によって、開けられたドアはもう元に戻る事は出来ないだろうと思わんばかりのひしゃげ方をして機能は著しく低下させる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

無理矢理開いた事で膝が笑っているように震えて居るのを見ると、年齢に勝てない事を分からされた。

 

だが、目の前にあった物を見れば。

 

「…うひょぉ…!!?」

 

その疲労感も何処かへと飛んで消える。

 

「まじかよ…!?旧世界製の自動人形(オートマトン)だ!?」

 

棺桶の中を見るや否や、男は縋り付くように光が漏れる窓から中を覗き、その顔を驚愕と歓喜の入り混じった表情へと変え。

 

「………わりぃな」

 

こちらへと拳銃を向ける。

 

「………どういう事だ?」

「とぼけなくても分かってんだよ。てめぇが【Separatists(分離主義者)】だってのをな!」

 

なるほど。

 

それで経歴の怪しい人間の私を雇ったのか。

 

「自動人形が欲しいなら別に私には必要ない。此処までの契約金だけで十分だ」

「いやっ?てめぇが生きてられると困るんだよ?借金取りに女渡すバカが居るか?」

「…………」

 

どうやら自動人形へ性愛を感じているらしい。

困った事に、この男は私がこの遺構情報を全て出すつもりだと本気で思っていると言うことだ。

 

「ならば尚更話す理由は無いだろう?犯罪者なんだからな」

「だが何処から漏れるかなんて分からねぇだろ?」

「……」

 

本当に困った。

 

「……ふぅ…」

 

このまま静かにと思っていたが。

 

「……あんっ?」

 

腕を振るう。

ただそれだけで、2m程度離れている男の顔に横一線の切れ込みが出来。

 

「…あべっ…!?」

 

視(・)界(・)が(・)ズ(・)レ(・)た(・)様(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)倒(・)れ(・)た(・)。

 

「……そちらが向けた。だから私は殺(・)さ(・)ざ(・)る(・)得(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)」

 

既に事切れた男に向けて言い放ちながら、カプセルへと目を向ける。

 

中には防護作用のある液体に満たされ、中には異性に無頓着な自分でも分かるくらいに美貌溢れた少女が揺蕩う納められている。

 

確かに気が狂って殺そうとするだろう。

 

直ぐにパネルの操作をしてみる。

といっても古代言語を読み取り、開封するスイッチを押すだけだが。

 

「………これか?」

 

一通り見てからメインのボタンを押す。

 

すると重苦しいロックの解除音が響き、頑丈な蓋が持ち上がり、満たしていた液体を排出させながら。

 

「《…おはよう御座います。ダーナ型三女神式自動人形、〔ネヴァン〕と申します。以後お見知りおきを》」

「ああ…うん…うむ」

「《なにか?》」

「あっ…その…うむ…」

 

キョトンと細い首と可憐な顔を傾げて疑問の表情となるが。

 

「すまない。一応聞くけれど…」

 

私は一応悪くはないが、それでも1男性として必要な事を述べる。

 

「……"衣服"は着て欲しい」

 

ツンと主張する大きな二つ房と乳頭、シワ・シミ1つ無いボーンチャイナめいた滑りを持つ白い肌。

おそらく毛髪以外は体毛一本として皆無なソレは、造形者の性癖だったのだろうか?

 

兎も角。

 

「……頼む」

「《………少々お待ちを》」

 

一番最初の命令らしい着衣の所望は直ぐに果たせた。

 

尚、何故かクラシカルスタイルのメイド服なのが分からないが。

 

 

 

 

 

to be continued…

*1:
神話に登場するような巨大な敵性生命体を指す。食用が可能で海岸線沿いの開拓都市ではよく食卓や外食業界でも提供される。

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