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調査資料1 宮本シンノスケについて
宮本シンノスケは関東圏でも有数の高偏差値を誇る有名進学校を卒業後、父親の借金返済の為にストライダーとなる。
身長は158cmと同年生より若干低く、クラス内のテスト平均では中の上程度の成績である。
部活動はバドミントン部に属しており、ラケットでシャトルを打つスピードはそれこそ銃撃戦を思わせる代物であり、その経験から臆する様子無く戦う心構えが出来たと考えられる。
好きな物は本人曰く、祖母が漬けていた梅干しのおにぎり。
今は亡き祖母の味を瓶の中残り少ない梅を舐めるように大事に食べつつ再現を行っている模様。
性格面では、真面目さと実直さに優れつつ、緩むときは緩み、弾ける所は弾ける等、ハッキリとした精神面を持ち、クラス内では一足先に大人の風格もあったと聞き込みでの情報。
「……私が言うのも難ですが…。一回だけ
そう心境を吐露するのは、シンノスケの父親〔タダノブ〕氏。
彼から聞くのは息子の事について。
とある機関から新人を中心に実態調査を行い、今後【分離主義者】との接触、加入等の敵対勢力への参加が懸念される者と分別する事が目的である。
「……怖い?」
「えっ…ええっ…。6年前…あの子が3年生に上がった頃です」
昔の事を話す為、タダノブはしどろもどろに過去の出来事を述べていく。
「あの子は元々、フルコン空手を習っていたんです」
「フルコン空手…ですか?」
フルコンタクト空手と呼ぶ、寸止めを行う普通の空手とは違う、当てる前提の空手だ。
小学生にやらせるのか?と思っていたが。
「妻と離婚して、仕事で忙しい時にあの子がやりたいと願っていたので…少しやらせていたんです」
あまり押しに強くない性格もあってか、息子の願いを困惑気味に受けた事を容易に想像できる。
「師範代曰く、技などの飲み込みの速さは同年代の子供より早くて、びっくりしたとか…私はあまりそう言うのが得意でないので…」
バドミントンでも県大会常連と聞いていた為、スポーツに関しては相当秘めた才能があったのだろう。
その経験で、今のストライダーをやり続けられている訳だが。
「……ただ、ある日…」
少し自慢げに話していた口調に陰りが見え始めると、その重さがこちらに伝わってくるように答え始める。
「上級生が下級生に虐めをする。そんな話は珍しくないって聞いた後、あの子が顔を腫らして帰ってきたんです」
顔を腫らす。
フルコンであれば珍しくは無いが、虐めの話を聞くとあまり思わしくない雰囲気がある。
「最初、まさかと思いまして…道場の方へ連絡を取ろうとした時、警察から電話が掛かってきたんです。内容が…『息子さんの過剰防衛について』って…」
「過剰防衛…?」
最初の説明から、宮本シンノスケの虐めの事かと考えたが警察からの内容に一つ恐ろしい物を感じた。
「…近くの署へ行くと、刑事が物々しい顔で私を見て…言ったんです」
『息子さんは、道場に属していた中学生3人を殴る蹴る等の攻撃を加え、顔面の鼻骨や前歯数本を折り、眼球陥没と鼓膜破裂、更に上腕骨、肋骨、腓骨、中足骨等の複雑骨折……これらを1人で行った模様です』
その言葉を聞き、その惨状を想像すると、明らかに過剰防衛と言えた。
辺り一帯は返り血や何やらで飛び散っているだろうし、再起不能…空手をやり続けるどころか日常生活にも支障が出るだろうと考えられる怪我を負わせた。
そう考えれば、確かに恐ろしいの言葉が頭に浮かぶ。
「聞いたんです。どうしてこんな怪我をするまでって…そしたら…」
『周りは見て見ぬふりをし続け、一度止めるように口を出したらしく、その際に顔面殴打されたのでしょう』
つまり、父親が見たという顔の腫れはその時に出来た跡だった。
『其れから、周りから止められるまでの10分間…尋常じゃない怪我を負わせたとの事です』
怒りからか何なのか。
当時の担当刑事も傷害現場と表現するには過小だと述べているほど物凄かったらしい。
「当時の中学生はそれこそ体格は大きく、シンノスケよりも経験を積んでいた。それを…」
フィジカルで勝てる相手ではない。
一対多数という不利の重なる状況で運良く勝てたなんて誰も言うことは無い。
化け物。
初等部の少年達もそう言ったと報告書には記載されている。
「……息子を信じたいです。あの子は…心優しく、聡明で真っ直ぐな子だから…」
それ以来から暴力的な事は一切なく、フルコンタクト空手を辞めてバドミントンに転向。
警察でも、被害者側の素性の悪さや、目撃談から宮本シンノスケの不起訴処分となり、民事裁判でも体格の劣る相手を複数人で袋叩きにする行為こそ断罪させられるべきと無罪判決が下された。
「……ただその後…一つ噂があったんです…」
その噂は、
無論、宮本シンノスケには当時アリバイがあり、疑いはすぐに晴れたとの事。
次第に不良の間では【リトルビースト】と異名を付けられた。
「あの…シンノスケが何か?」
「いえ。我々は庁からの調査員で、素性や身辺調査が仕事なんです。これくらいならちょっとヤンチャだと思っていますよ?」
「そ…そうですか?」
父親には嘘をついておこう。
生まれる場所や時代が百年前位だったら良かっただろう。
もう少し別視点から調査してみて、追加の情報収集に当たるべきだ。
「シンノスケ…今どうしてるのかな?お米とか送っては居るんですが…如何せんあの子は相談とかそんなにしないので毎度驚く事が多くて…」
「……我々も向こう側の協会から出てくる情報だけですので何とも言い難いですが…」
話によるとジャンプ先が指定座標から遠く離れたBランク以上推奨エリアに落ちた話や、向こうでウルク=ハイの集団を殺したとかCランクまで直ぐに上がっているとかは言わないでおこう。
「……元気にしてますよ。もしかしたらお孫さんにも恵まれるかと」
「ハッハッハッ…そうですか………えっ?」
「では、失礼します」
「えっ?ええっ?孫?どう言うこと??」
まさか向こうで女性と懇ろになっているとは知らないらしく、疑問形のままになっているタダノブを無視しながら彼の会社から後にした。
「うーん…こりゃオーバーホールせんと難しいな」
「オーバーホールですか…」
半分瓦礫に埋まっていた装甲車を何とか出して遺構から出た後、ツールショップ【フォーチュン】のオーナーと系列店舗のカーショップの整備士に見てもらっている。
「ガワは兎も角、エンジンや排気口を直すには仕方がない。むしろこれだけまともな形で掘り出されたって所が運が良い」
普通ならニコイチパーツにされるか、設計図代わりに分解される方が多いらしく、オーバーホールで使える事のほうが少数の場合がある。
「それに、下から
「ありがとうございます」
「礼は掘り当ててからだな」
オーナーからエールを貰い、僕は修理を任せてショップを後にする。
そう。
あの装甲車のすぐ下にはハッチが見つかったのだ。
装甲車が蓋をしていたまま存在していたその入口(もしくは出口)が何処へと繋がっているか分からない。
遺構名【第5スヴァルトアールヴヘイム】
名前からしてドワーフが住む世界らしいが、会ったことは今の所無い。
映画などで出てくる感じのずんぐりむっくりの姿をしているのだろうか?
《…今だ、此方でも確認が取れていません。その為…ある種の伝説的存在として語り継がれています》
「そうかぁ…」
観測出来ないとそもそも存在するのかすら分からないからなぁ。
と、もしかしたらファーストコンタクトが自分になるかもしれないと思いつつ、一度帰路につき、明日直ぐに向かう。
…………
翌朝
『…掘り起こされている。恐らく野犬の類だろう』
「それって…」
『ヘルハウンド。ヘカテーの猟犬とも言う』
掘って埋めた場所は見事に穴ができており、遺体の一部である手足が食い千切られ、持っていかれた内臓だけ遺された胴体が目に入る。
『群れで狩りをしている。柔らかい内臓や腕などは子にくれるため持って行く習性がある』
「どうしますか?」
『また取りに来るだろう。喰われることも自然の摂理だ』
そのへんは中々凍えるような冷たさを感じるも、シグルーンなりに食われることも致し方ないという部分は同意出来る。
蛆やアリなどに食べられる事も少しずつ腐って消えるのも別段珍しくない世界故の考えなのは間違いないし、間違ってもない。
とりあえず慣れるしかない中で、流石にスプラッタな状況を見ては朝食べたツナサンドと再会中のリュドミーラを見る。
「……大丈夫?」
「……もう、胃液しか…出ない…」
とても年頃の女の子が発する音とは思えないそれを聞かぬように配慮する事も必要だ。
「行けそう?」
「………行く」
無茶しているかもしれない。
此処で止める事も考えたけれど、リュドミーラの意思の硬さは知っているし、あまり無理に止めることも良くないだろう。
「分かった。でもヤバいと判断したら直ぐに引き返すからね?」
「うん…」
先ず、外部に発信するビーコンをセット。
これをするのとしないのでは状況が大いに変わってくるので忘れずに行う。
次にハッチを開こうとするが。
「…フギギギッ…」
『密閉性の強い扉であろう。我々では開けられん』
流石に取っ手を掴んで開けることは難しく、押しても引いてもウンともスンとも言わない。
鍵で回すのか?
それとも取っ手のギミックで回すのか?
手当たり次第動かしてみようとするも、長年動かされていなかったせいでなのか、1㎜も微動だにせず、ただ疲れるだけで終わった。
『ではこいつを使うか』
とシグルーンが取り出すのは1つのスプレー缶。
ノズルを押すと青紫色の泡が盛り上がるように噴出。
それをハッチの隅から隅を四角くなぞっては端へと付け、最後に黒い粉末を掛ける。
『離れておけ』
彼女の指示通りに一旦離れ、およそ数秒。
発泡した部分から黒い粉末が化学反応を起こし、けたたましい爆発音を起こし、重い金属が落ちる音を響かせた。
今のはドアブリーチング用の発泡爆薬。
黒の粉末は酸化と共に火花を発して着火させる着火剤なので一回分ずつ小分け包装が義務付けられている。
これらを組み合わせれば、チタンであろうともタングステンであろうとも、焼き切ってドアを破壊する事ができる。
素材が何で出来ているかは成分表見ても分からないので其処は割愛しておく。
「地底帝国へ一直線ですかね?」
「宇宙戦争でもトライポッドは地下から出てきたような?」
「ファーストコンタクトがインベーダーの可能性あるかぁ…」
そうなるとファーストコンタクトがファーストエンカウンターに早変わりとなりかねない。
慎重にかつ出来る限り早目に念入りに調べる事を頭に入れつつ、まだ見ぬ地下世界へと潜っていく。
はしごを降りた先、縁日で良く売っている折って光らせるケミカルライトを投げてみる。
ヘンゼルとグレーテルがパンくずで道標を作ったように、ぼんやりと辺りを照らしながら何があるかをある程度記してくれる便利なアイテムだ。
しかも火を使わないから可燃性ガスがあっても火花を出さない限りは安全に使える訳だ。
と転がしながら明かりのない世界を高ルーメンに優れたタクティカルライトで辺りを見回してみる。
『気を付けろ。どうやらこの下は"メガストラクチャー"と言うやつだ』
「メガストラクチャー?」
又の名を、【超構造体】。
この大陸の至る場所にどでかく埋まっている遺構で、元が何かは未だ知り得ない建造物群だそうだ。
地上に露出しているのは超構造体の一部で、掘れば掘るほどその全長が長く深く伸びるらしく、人の一生で探索出来るものは稀とも言われている。
今回は、足場の通路から手すり越しに下を覗いて見るが。
「………下が見えない」
幾つも見える楔形足場と手すりが幾重も見えるが底という概念が無い程下へと続くらしい。
試しにケミカルライト一本を折って下に落とし、光がどれほど見えたまま落ち続けるのかを時間で測ってみると。
「………1分以上経っても音がしない」
遂に光が見えなくなってもその音は聴こえない辺り、相当深い世界に繋がっていると考えられた。
「塔から落ち続ける漫画あったな…そう言えば…」
途中で見なくなったと思い出し、今度帰ったら書店巡って買おうと考える。
これで死線掻い潜る様な時でも生き延びる理由の一つに数えられる。
「下には極力注意。地道にマッピングしつつ換金出来る素材とかを集めよう」
『了解』
「ラジャー」
文字通り危ない橋を渡る羽目になっているけど、とりあえず中を探っていこう。
「…エレナ。索敵及び地図形成頼む」
《
ガントレット越しに耳元のインカムに響く声と共に、左眼のレンズから索敵情報と一部出来上がったマップを見る。
人間の耳には聴こえない超高周波によるビーコンは潜水艦のソナー同様に跳ね返ってきた波を感知してある程度の空間を感知していく。
お陰で見えない中でも僕とシグルーンとリュドミーラの位置も把握出来るので多少離れても直ぐに見つけられる。
《足場を含め、全体が超構造体製の為、崩落などの心配は皆無と考えられます。有用な素材を手に入れましょう》
つまり、僕らがタップダンスや爆薬を使っても足場から崩壊はならないという訳だ。
そこら辺安心して僕等は探索へと入る。
「……アトムゥにぃが死んだだと?それはホントか?」
「あっ、はい…。そ…そのぉ…」
「……チィッ!!「グギャ!?」」
怒りに震える男の鉄拳が報告をした部下の頭部めがけ、殴りつけられると同時にパァンと音を立てて爆ぜた。
そのさまは空気を入れすぎた風船とよく似ているが、ただ違う事は飛び散った中身が壁や床へと前衛的モダンアートに変わり果てた事である。
「あのアトムゥにぃを殺した奴を許さねぇ…!!」
周りに居た女達が一斉に悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らす様に離れ始める中、男はその身体を震わせ、立ち上がる。
全身を
「……おい、〔ブルーナイト〕。俺の
その声に反応する青い外装に身を纏った騎士はため息混じりに口を開く。
「地下の整備所だ。何時でも動かせる」
「ありがとうよ。久々に暴れまわってやる」
男は意気揚々とその大きい身体を揺らし、地下へと向かうと。
「男は生皮剥いで乾燥させてから剥製!女は孕むまでファックしてやるぞ!!!」
けたたましい床を踏み込む音を鳴らせてその着込んだ姿を見せる。
服と呼んだそれは、合金を重ねて作った複合装甲にはエンブレムとエングレーブをそれぞれ、対になるよう装飾が施されている。
背には鈍重に巨大な高周波ブレードと子どもの腕周り程の口径を持った銃を着けている。
その姿は、傍目からは巨人の鎧に見えた。
「行くぞ野郎ども」
鎧から漏れる蒸気音が威風と恐怖を与え、如何なる敵にも容赦なく斬り伏せるだろう。
男の名前は〔コーヴァルドー〕。
又の名を、斬奪と呼ばれている。