《ネジ、これは一つで20ガルズ*1の価格で取引されます》
ニッケルか何かで出来ている錆が一切浮いていない白いネジが落ちていたのでそれを拾う。
状態が良かったおかげか、ほぼ当時のまま遺されている地下世界では地上の遺構よりも多くの素材が手に入れることが出来た。
機械内の基盤や先ほどのネジ、
歩いて止まって部屋らしい場所に見ては見つけてを繰り返すうちにリュドミーラが呟いた。
「……ちょっと重い」
蒐集物を背負う意味合いでリュドミーラが荷物運び担当であるが、流石に欲をかいて入れすぎたかもしれない。
「大丈夫?ごめんね…」
「いい。とりあえずまだ大丈夫だけど…」
と大きく膨らむナップザックを見ると説得力が薄れてしまう。
『リュドミーラの役割だ。持とうと思うなよ?』
「…分かりました」
心を見透かされたみたいで釘を刺してくるシグルーン。
万が一の戦闘で中遠距離役が重い荷物背負っては近接役の邪魔になりかねない訳だが。
『…しかし、それでもリュドミーラは体力がなさ過ぎる。走り込みも半分でバテるし、これでは置いてけぼりになってもおかしくないぞ?』
「無理だわーー!!常時時速10kmを保って20km走るって無理!!」
『…少なくとも倍の速さは無いと駄目だが?』
「ちくしょー!!」
シグルーンの練習メニューは流石にキツイと思っていたけど、今は片手間でやれるので何だかなぁ…と思う気持ちだが。
「……頑張って」
「ううぅぅ〜〜…」
こればかりは仕方がないと思う。
苦虫を噛み潰したようにイ〜〜!!と言いながらも肩のベルト位置を直しながら、背負う。
これもポジション的に大事な仕事である事を自覚しているからこそ。
『…機を見て撤収しよう。少し探っただけでもこれだけの収穫だ。もう1日潜るのみにしておこう』
「りょーかい…」
とは云え、量の多さから見ると今回はこの辺で撤収して、また明日潜る事をすればいい。
1時間後を目安に引き返せば昼前には帰ってこれるだろう。
そう考えて辺りを見回し、出来るだけ綿密なマップ情報を作り、練り歩いていく。
(しかし暗いな…)
照明の類は使えるのだろうか?
あればとは思うけれど、幾ら超構造体とは云え、電気を通すケーブルやその他の部品は劣化する可能性がある。
なまじ使えても焦げて火を吹く…なんて事になりかねない。
次はもう少し明かりを増やして持ってくるべきかな…。
《反応を感知。左47度の方向です》
エレナの声に反応し、僕等は其々の武器を構える。
「…………」
若干粗くなった自分の鼻息だけ耳元に撫で伝わる様に聴こえる。
猫が耳の可動を様々な方向へ動かしたり、蛇が舌で動くものの正体を感知するように、神経を音や視界にあるライトの先へと集中。
どうやら反応の先は曲がり角の1m程度の場所に居るようだ。
《接敵まで後10m》
息を殺す様に静かに。
《8m…》
後数秒でその顔を見る。
《……5m。会敵》
丸いライトの端に一つの影が映る。
「……g84b@94pe…hlt5djr、g84b@94pe」
人型で、何かを背負って居るそれは、ぎこちない動きをするロボットの様な物だった。
「何…あれ?」
左肩から手の先は腐り落ちたのか、部品が見え隠れしている。
所々、サビや生体部品にもカビらしき物が浮いているが、それよりも。
「………
背中にある大きな瘤状のそれは、幾重も触手を這わせ、鼓動と連動するように蠢き、その人型…【自動人形】の身体を侵食している。
『……人思いに殺ってやれ。其れが情けだ』
「…………」
依然、声のする自動人形は恐らくずっとアレに侵されながらも、定められたルーチンをずっと行い続けたのだろう。
可哀想。
そう感じながらも脅威の排除を考えるのは人間の身勝手な感情なのだろう。
「……ああ。分かった」
ゆっくりと片足を引き摺って此方へと向かう自動人形へ、銃口を向ける。
驚異的な制圧能力と膂力は銃を所持していても並の人間では太刀打ち出来ない。
何故ならば基本プログラムに格闘術と銃口から弾道予想が可能だからだ。
下手に当てないようにとすれば容易に避けた後、頑丈なマニュピレーターによって頭がスイカ割りになるだろう。
だから狙うのは。
指切りで3回、引き金を絞る。
ストック越しに伝わる重く鈍い感触は人を殺すに充分過ぎるだろう。
マズルフラッシュとハイダーから漏れる大きな音は小さくとも様々な物を貫く重い鉛玉を亜音速で飛ばし、ブニブニとしたゴム状の瘤へと当てる。
「4g@73333!!!?」
自動人形の声帯部品からとてつもない断末魔が響き、その場の床や壁を打ち震わせる。
痛覚。
一応あるらしい感覚は、ボロボロになった自動人形の身体を無理矢理動かし、次の宿主候補として此方へと飛びかかる。
『…遅い』
だが此方も反撃の手は緩めない。
シグルーンは弓を引き、3本纏めてつがえた矢を放つ。
矢が2本、鋭い先端が入ったのは腐り落ちそうな生体部品と瘤の部分。
「散開!!」
「うわっ!!?」
矢を受けて尚も体勢を崩さずに飛んできたソレを避ける為に僕は横へ跳び、シグルーンは前転回避、リュドミーラは滑って退避する。
着地点が僕の真ん前だった事で隊列を三方に分け、射線に入らぬよう確認してから発砲を開始した。
「意外と硬いな!!」
元の素材のせいなのか、瘤の表面が相当弾性を誇っているのか、45口径弾頭では全く意味を成さない。
(M14持ってくれば良かったか…!?)
遺構の中が通路だったりすれば短機関銃の方が取り回しに優れているものの、貫通性能から考えれば自動小銃の方に分がある。
完全にチョイスミスだと思うものの。
『【パルスグレネード】を使う!』
「パルス?ぎゃっぁ!!?」
こういう時、冷静な判断が取れるシグルーンは強い。
青白いラインが光る180ml缶ジュース大のアイテムを腰元のチェストリグから取り出し、安全ピンを抜いて投げる。
レバーも取れ、おおよそ2秒程度の間中空の中にいると。
青白い電流がソレの半径2m間を覆い、目に見えるほどの電圧が襲いかかる。
「■■■■■■■■!!!!」
辺りを掻き乱さんとする断末魔が響かせ、ソレの動きが止まる。
今ならば充分に対処出来る。
「グレネード!!」
安全ピンを抜き、投擲。
緩く弧を描いて敵対象の足元へ数度音を立てて転がる。
「………!!?」
予想より体勢の整えるスピードは早かった。
しかし、それでもレバーが抜けてから5秒には遅く。
けたたましい破裂音と共に、爆風と大量の破片による攻撃をモロに受け止め、対象のボディがバラバラに散らばったのを見た。
《……対象沈黙。破壊を確認》
流石に【M67グレネード】の衝撃波には耐えられなかったようだ。
ただ、まともな状態と比べようが無い程破損していたから何ともいい難いが。
「……やった?」
「それやってないお約束だよ?」
溶けた鉄ぶちかましても殺られなかったエイリアンを思い出し、決め手の過冷却による崩壊的な手段も考えながら、短機関銃を構え、ゆっくりと近づく。
「………頭部確認」
首から下は無く、瘤も隣で中身を流失させながら焼け爛れている。
数発、撃ってみるも全くの無反応であった為、絶命したことを確認出来た。
「………」
昔、セルロイドの人形が置かれている博物館で見た記憶が蘇る。まるで古代ギリシャの大理石像のヴィーナスみたいだと思いながら飽きずに閉館時間まで見ていた。
つまり、あの時が初恋の感情だったのだろう。
「………」
もう何も無いだろう。
そう考えてスリングベルトを締めて短機関銃を胸元へと固定、頭部を両手で拾ってみる。
「ちょっ!?シンノスケ!!?」
リュドミーラから制止の声が聴こえるけど今は流しておく。
見た目からはさほど損傷は見えない。
《簡易検査中……。頭部の汚染度17%と推定。タイプは中距離防御護衛型自動人形【
「………ちょっとセンスが問われる名前だね」
ボディとか見た辺り、何かスチームパンクなデザインだったから其の辺を意識したのかな?
「……大丈夫そう?」
《相談次第と考えられます》
なるほど。
となるとツールショップのオーナーなら誰か整備可能な人を探してくれそうかな?
「じゃあ、
「はっ?へっ??」
ん?何か変な事を言ったかな?
「ちょっと待って!?今コッチに危害加えてきたでしょうが!?其れを……まさか使うの?」
「使えればって思っただけだけど?変?」
「何時何か起こすかも知れないのを使うのは私嫌だけど!!?」
まさかリュドミーラから拒否反応が出るとは思わなかった。
一応話せば分かるとは思うけど…。
「シグルーンはどうなの!?」
『……私は別に構わん。アレは【インフェスタント】。寄生生物だが、本体の瘤を潰せば問題はない』
「……そうなの?」
『そして、ヤツは"無機物"にしか寄生出来ず、有機体に寄生しようとして痛みで悶え苦しんで宿主が死ぬか、諸共死ぬかのどちらかだから寄生された後は心配いらん』
「後の心配って随分と物言いに含みがあるわね?」
あらゆる穴に入って出し入れされるだけだから大丈夫。
まぁ流石に死ぬけど。
「……ちょっとごめんね」
ということでザックに取り付けた袋の中に頭部ユニット?を入れる。
何だかこれも見たことあるなぁと思いつつ。
「さ、行こう」
「了解」
『うむ』
今日の所は此処で終いにしよう。
また明日、銃器を更新して潜る事にする。
同遺構内
「んで?ソイツの特徴は?」
「顔は優男の砂糖顔系っス」
「分かんねぇよ」
宮本達がインフェスタントと戦う最中、熱光学迷彩ドローンによる追跡を行っていたコーヴァルドー一行は【第5スヴァルトアールヴァヘイム】へのはしごを降り立つ。
「しかしコーヴァルドー兄貴。奴等どうやってぶち殺しますか?」
「ふむむ…。まだ未発見の場所だ。事故を偽装するのが手っ取り早いし疑われても白を切れるだろ?」
「確かに」
コーヴァルドーの提案に部下の一人が同意し、頷く。
どうやって宮本達を処分するか。
その算段を練りつつ、渡り通路である足場を歩いていく。
「…しっかし、おかしな所だ此処は…」
とコーヴァルドーの太い眉をひそめ、怪訝そうな顔で辺りを見渡す。
全身を義体化した事で、視力6.0を誇る暗視機能を搭載した義眼からその全容の一部を把握。
しかし、その異様な広さと不気味な空気感は内蔵された武装や体格も平均の倍に作り変えられたその身体でも、不安を拭うには至らない。
「……あの宙に浮いている箱状の物は部屋だろう。似た物を別の超構造体で見たことがある」
「ウエストランズでこんな大層なもんあったとはな…。まだ根城にしとくほうが良いみたいだ」
同じく警戒をするブルーナイトは幾つも重ねてきた経験からこの遺構に利用されている技術に心当たりがあり、黒い真四角の巨大な箱を部屋だと断定する。
経験値であればブルーナイトの方が高く、実力も上だ。
コーヴァルドーは率直な評価をしつつ、何故自分とこうして組んでいるのかと言うのを今でも不思議に思っている。
こと、何かの拍子で郎党解消や離脱等も珍しくない中で、3年間変わらずに続いている事は家族やら一族形態以外では珍しい。
(一度それとなく聞いたが、それとなく返さなかったな…)
深い事情でもあるのか。
そもそも人の生き死にが普遍的な世界では何らかしこりの1つや2つ持っていてもおかしくはない。
そう考えて、何れなにかの機会にもう一度聞くことを決意する。
が。
「…?」
最近コーヴァルドーは足裏に新たな感圧センサーを仕掛けている。
地雷原に入る機会があった為、そのまま使っていたが、妙な反応を把握する。
「……動いてる?」
それは有り得ない。
頭に1つその言葉が浮かぶも、もう1つある事が浮かぶ。
「…ブルーナイト」
「どうした?」
「お前さん、確かそのヘルメットの光学センサーで電力設備とか把握出来たよな?」
「……ああ」
「じゃあ頼む。杞憂で終わりたいが」
ただ気になっただけでは頼まないであろう。
そう短くもない期間組んでいるコーヴァルドーの頼みを聞き、ヘルム内のセンサーを起動。
人間が感じ取るには不可能な超音波と磁場探知の可能な高感度センサー2つの併せた物を放出。
コンマ数秒というスピードで感知最大の2km先まで延ばし、帰ってきた反応を分析、数値化された。
「………っ…!?」
閉じていた目を見開き、何が起きているかを理解した。
「コーヴァルドー!!
「はっ??」
「全員元来た道に向かえ!!閉じ込められるぞ!?」
ブルーナイトの言葉には依頼したコーヴァルドーも内容を知らされていない部下達も突然の事に豆鉄砲を食らわされた鳩の様に目を丸く、動きが止まる。
自身が想定していた事よりも大きくなっていたとは考えてもおらず、一瞬反応が遅れてしまう。
「あ、兄貴!?早く!!?」
「お、おうっ…!?」
ただ、一番そばに居た部下(報告後、頭を潰されたが、全身がアメーバ状の擬態型ミュータント)から声を掛けられ、停止していた思考を取り戻す。
こうなってしまえば早く出なければならない。
遺構が起動した場合、どうなるのか彼等は知っている。
「急げ急げ!!」
決死行と言う言葉が合う状況は、歴戦のストライダーも顔を歪めて逃げ惑うしか無い。
それでもまだ入口に近い位置にいた事で、脱出には充分時間があった。
「お前等早く昇れ!急げ!!」
コーヴァルドーの言葉に必死な表情で部下達がはしごを昇る。
但し、これは先に通すことで詰まらない為と、この先の安全確保をするカナリア役であるが。
「……ん?がっ!?」
突然、足場が消失。
「…っ…!?コーヴァルドー!?」
0.01秒だけ宙を浮いたかと思えば、引力に引き摺られるまま巨大な装甲服を身に纏うサイボーグが自由落下を始める。
「おっ…!?おぉおお゛お゛〜〜〜〜!!!?」
ブルーナイトが手を差し伸べようとする間に、決定的なまでの距離感の離れように手も足も出ず、目で見えぬほどの奈落へと消え失せていった。
「あっ…兄貴!!?」
「………」
これでは如何なるサイボーグでも助かりようが無い。
航空機動型のエクゾスーツであれば垂直離着陸機の様に飛ぶことも出来たが、其れを所持出来るコストも用意出来る
「………すまん」
唯一、自分に出来る事は残された部下達の処遇を出来うる限り良い待遇で終わらせる事。
チーム継続を考えるか、別のチームへ異動を考えるか、どちらにせよ。
(足掻いて出てこいなんて自分らしくない感情だな)
自身でも掴めない心境の変化を感じつつ、遺構からの脱出を行う。
10分前…
《……警告、遺構内にて一部区画に起動状態を確認。速やかに脱出を行って下さい》
「……はっ?」
エレンからの警告音が響く。
其れが何を示すのか数秒考えた後。
「嘘だろ?」
その言葉通り、施設内の照明が点き始める。
ライトが無ければ把握出来なかった遺構全体図が目に見えて判明する。
「……塔?」
リュドミーラの呟きに僕もそう感じた。
円柱。
そう形容出来る巨大な塔が幾つも目に付く限り十数本乱雑に建てられ、其れが塔というより棟…つまり。
『……集合住宅か…!?』
この遺構は地下に眠るマンション群、その類似建造物群となる訳だ。
僕らが足場と思っていたのは渡り廊下で、宙に浮いている部屋らしい黒い箱は、備品等保管庫だった可能性がある。
『急ぐぞ!?多分
「や、"ヤツラ"?」
普段から冷静なシグルーンが顔に幾つも冷や汗を流し、焦りを覚えていた。
其れがどういう意味なのか。
其れを知る前に。
「…えっ?」
僕の下の足場が消えた。
『……!!!?」』
シグルーンが手を伸ばす。
僕が見た光景は、パーティーゲームでもよく見る落ちるブロックに落ちていくプレイヤーキャラにそっくりだ。
シグルーンが何かを叫んでいるも、リュドミーラが必死に引っ張って行く姿を見ると少し安心した。
「………ごめん」
どうして謝っているのかその時は考えつかなかった。
ゆっくりと自由落下が始まり、スローモーションに見えていた情景も徐々に現実へと引き戻されていく。
身体中風を感じながら、引かれる様に僕は落ちていった。
見える限り、渡り廊下が無くなって円柱に仕舞われていくのを確認しながら。