ウエストランズ都市防衛隊駐屯地
物々しい雰囲気の最中、防護服に身を包むサイボーグ化された兵士達は各々の装備を点検し、使えるように確認を行う。
都市防衛隊。
各開拓都市にて市営で行われている準軍事組織であるが、その規模は単純戦力でも正規軍に迫る潤沢さを誇っている。
彼等の目的は一つ。
起動状態にある遺構【第5スヴァルトアールヴァヘイム】への対応である。
が、未だどの様な遺構かも分からない場所故に、現状ドローンによる遠隔操作とレーダーによる情報取得を優先している。
《地下都市内の情報は?》
《現在、円柱状の都市構造と判断されますが、全容は不明。大凡十数kmの広大な空間に点在しています》
《なんてことだ…広すぎて調べるのにどれほどかかるんだ…》
探査型ドローンによる撮影が続けられるも、その巨大な空間が近郊に存在していた事に驚く。
一つ一つの円柱状の建造物が何を目的としているのか?
時折信号の乱れが起こり、動きが止まりそうになる不安を覚えながら、調査を進める。
「……遺構内に入ったストライダーは居るか?」
「あっ…!〔堂ヶ島〕主任!?」
緊迫した空気に一つ、声が響いた。
「すみません。この様な事態…我々も想像していませんでした…!!」
「今はいい。其れよりも…」
「あっ…!ハイ!!」
部下の1人が1枚の紙を取り出し、堂ヶ島の前へと置く。
目は口ほどに語ると述べて濃紺のサングラスを着けるオールバックの中年男性が記されている情報から一つ口を開いた。
「〔宮本シンノスケ〕。一族復活目的に作ったストライダーのチームか?」
「ええ。氏族継承は現人類総意でもあります。第6条でも記されている通りに…」
「………」
堂ヶ島の口が固く閉じる。
その意味が何を示しているのかと、問おうとするも。
「部隊の配置を急げ。人命優先だが必要となれば武力行使も辞さない」
「……はっ!!」
それ以上は問うな。
と言わんばかりに釘を刺され、否応なしに了解をすることとなる。
「……後」
「はい…」
踵を返して準備の整った部隊へと指令を下そうとするも、直ぐに呼び止められる。
「…一つ頼みがある」
「何でしょうか?」
「1人召集を掛けて欲しいだけだ」
「【ウエストランズ最強】の一角、〔鋼刄アラマサ〕を」
「………天井…じゃねぇよな?」
「開くとは思うんですけどね…」
目で見るには広大な場所であっても、限りがあると思いながら昇り続けて1時間ほど。
正直、想定外な出来事に遭遇していた。
「……開きそうか?」
「…手で触れる範囲では繋ぎ目は無さそうです。もしかしたら直径向こうとこっちとなのかな…」
「おいおい嘘だろ?」
今、僕らは建造物の天辺に出ようと一番上まで昇り切った。
気分的には屋根裏部屋的な場所に居るイメージだけど、此処から先があるのかどうかは分かっていない。
ただ、押しても引いても…いや、引くにも引くこと自体が出来ない事は良く分かっている。
叩いてみたり、殴ってみたり、なけなしの手榴弾2発を効果範囲内で爆発させてみたりするも、まぁ煤が出来ただけで終わりを告げる。
「そりゃ超構造体に穴とか出来る訳ねぇよな…」
と、実際はちょっぴり期待してたんじゃ?って思ったけれど此処で言うのは止めておこう。
さて、どうしたものか…。
「……〚ぎゅるるる〜〛しまったな」
時刻的に夜の6時。
シグルーンとリュドミーラの事はとても心配であるが、まだ彼女達が無事なのを祈りたい。
と言っても腹の虫が治まらない事には仕方がない。
「……ちなみに食料は?」
「………おめぇさんには食えねぇモンなら…」
「食えないもの?」
一体何なんだろうと思って見てみると。
「ほら。【義体用エナジーオイル】」
「確かに食べるには適してないですね間違いなく」
黄色い油が入った試験管状の液体が中で揺れ、揺蕩うに波打つ様を見る。
どうやら彼の食事は其れで済むみたいだ。
「………すまねぇが向こうに向いててくれねぇか?」
「……えっ?」
どういう事だろうか?
「プライバシーポリシーってのあるだろ?」
「あっ…あぁー…」
成る程そういうことか。
恐らくあの液体を入れる場所は弱点になるかも知れない訳だ。
であれば見ない方が相手との信用的に大事だと思われる。
「……どうですか?」
「…あっ…あぁ。大丈夫だ、うん」
プシューと空気の抜ける音が聞こえる辺り、内部に入れる必要があるみたいだ。
でも、それ以上は考えないでおく。
「さて…」
こっちも小腹満たしに何かあったか探ってみる。
……クサヤチョコにトゥインキー。
何で良くわからないラインナップなんだろうか?
「トゥインキーは分かる。腐らないで有名だし軽くカロリーも取れるから軽食としては悪くない…でも」
クサヤチョコ。
過去の企業が創り出したという見た目と食べる前の風味はただのミルクチョコレートだが、口に含むとめちゃくちゃクサヤ臭が充満し、チョコの柔らかさと相まって思わずNice boat.*1しちゃうやつだこれ。
とは云え。
「……ウボァー…」
カロリーや栄養素的には良い方の食べ物。
これを食べてギリギリのラインを保つ事も必要だよね!って思いながら口にするが。
やはり口にするにはちょっとばかりキツイ。
誰だよこんなチョイスしたのって思い返してみると。
〔リュドミーラ〕
『デュフフフ…(暗黒微笑)』
帰ったら空手チョップ御見舞いしてやるぞ。
「ねぇ…?大丈夫か?」
「あっ、はい……ん?」
コーヴァルドー氏の声がなんだかおかしい。
女の子…だいぶ幼い感じの声が聴こえた気がするんだけど…。
「あっ…あれ?やっばっ!?」
ワタワタとサイボーグの巨漢が腕を振って慌てはじめ、数分経って。
「……おっ…オホン。最近はヘリウムガスとかあるんだろうな…」
「…………」
此処は言わざるべきだろう。
「…ってのは嘘で、声帯機能の不調かなこりゃ」
「……ですね。修理の必要あると思います」
そうだろうな。
ちょっと可愛い女の子の声が出ちゃう事だってあるんだよね。
ターミネーターだってお母さんの声とかジョンの声とか真似て電話出るからねうん。
「………さて、どうする?」
「………何処か開けられる所があるかも?」
「ってことは…」
後ろを振り向き、並んでいる部屋の数々を見る。
「……全部見るのかこれ?」
「最悪、一つ一つ虱潰しですね」
「ぎゃぁぁ…」
頭を抱えるのも分かります。
そりゃこんな数の部屋のどれか一つとか何かギミックでもあるのか?と思うと頭が痛くもなるわけだが。
其れでも、出る方法が無い以上仕方がない。
先ずは手前にある部屋だが、やはり変わらずカプセル4つだけが置いてあるだけ。
スイッチの類は見当たらない。
「一応昇る道すがら中は見たけどよ?そんなもん見当たらねぇぞ?」
「分かってます。ただ見逃した可能性も示唆して…」
言葉を綴ろうとした瞬間だった。
全身が総毛立つという言葉通り、僕の身体から鳥肌が立つ。
何も無いハズの場所で、起きるかどうかも分からないような空間で、僕は感じたことのない感覚によって無理矢理理解させられる。
口の中の唾液を飲もうとしてもえずきを覚えて痛い。
声を出そうとしてもか細く、何を言おうとしたかも忘れてしまった。
「おい、どうした?」
気付いていないのか?
今起こっているのはただ自分の錯覚なのだろうか?
言語化出来ない感覚を表現出来れば良かったが、其れを語れるほど僕のボキャブラリーも無かった。
「あっ……」
「大丈夫か?もしかして何か持病とか?」
「………」
話さなければ。
そう思って口にしようとしたがまるでマナーモードみたいに声が出せない。
奥歯が鳴る。
カタカタと。
「おいっ…!!」
コーヴァルドーの苛立ちが分かる。
でも必死に何かを伝えようとしても伝えることが出来なくなるのがここまで厄介とは思わなかった。
だから。
「…はっ…?」
コーヴァルドーの後ろ10数m先に現れた"ナニカ"を見つけ。
「んっ?がっ!?」
あらん限りの力を込めて巨漢の防弾服の袖を引っ張り。
《発射》
赤い閃光を避けた。
赤い閃光が目に見えたと思えば、こちらの火器では決して傷一つ付けることの敵わない超構造体製の壁に熱を持ったどデカい孔を開けることとは思わなかった。
「…はっ…?へっ?」
幸いにして怪我という怪我はしていない。
左腕ユニットも若干の動作不良はあれども、今回限りであればある程度許容できる範囲ではある。
ただ問題なのは今自分を引っ張り、閃光の魔の手から逃れさせた"少年"の事だ。
「…ねぇ、大丈夫ですか?」
後から気付いたけど言葉遣いが変になっていた事を忘れていたけど、そんな気にする暇はなかった。
「……大丈夫です」
彼、宮本シンノスケは無事であった。
軽くスキャンをしてみても、若干服の表面が焦げている程度で済んでいたので、少し胸をなでおろす。
《敵性対象を確認。兵装…【
宮本のガントレットから発された声から向こうの敵性対象情報を得て、ぞわりと首筋に寒気を感じる。
セーフガード。
危険度で言うならば特異点級。
かつて遺構の重要拠点を守っていた自動人形の最上位兵器であり、化け物中の化け物としてストライダーのみならずこの世界で住む者達の畏怖の対象である。
《装填完了、発射》
《敵性対、攻撃を開始。回避行動を》
なに馬鹿なこと言って…。
「こっちだ…!!」
復活したのか、彼はそのまま空いた穴へと飛び込む。
赤く熱された断面を素早く、外へと脱し、また下へと落ちていく事となりかねないと思っていた。
「……あれ?」
出たのは広々と真っ平らな空間。
別の場所へと来てしまったのか?と思いながら辺りを見回すが。
「急ごう。向こうは厄介なんでしょ!?」
「あっ…ああ」
呑気に状況を確認出来るほどの余裕は無い。
直ぐに立ち上がり、足を踏み出す。
《このまま5km道なりです》
「長いな…!!」
《感知完了。この一帯は階層都市と思われます》
「都市!?」
ガントレットの声からはこの場所は都市だと言う。
では自分達が居た場所は一体何なんだ?
「遺構が起動状態って言ってたから…」
「まさか動いてる?幾ら何でも動いてればわた…俺達が気付かない訳が…《動いているのは柱では無く、都市自体が動いていると考えられます》……はっ?」
つまり、自分達が昇っている間に上側がガチャガチャ動いていたってこと?
どんなに遺構と言うものが危険性が高いとはいえ、おかしいのでは?と考えていると。
《…回避》
「もう来た!?」
先ほど同様、赤い閃光が放たれ、私達のすぐ横に当たった途端、爆発が起こった。
「ぐおっ…!?」
「っっっ…!!?」
強烈な重力子線の攻撃は超構造体と思われる床を貫き、副産物に爆発を引き起こす。
これを耐えることが出来る代物などこの世にあるのだろうか?
そう思いながら、唯一命中精度だけは良くない事を理解し、一つ案を思いつく。
「バラけて建物に入るぞ!」
「了解!」
ををを
固まっていれば捕捉される方が大きい。
左右にバラけ、出来れば向こうへ向かってほしいけれど。
《…分離確認。最優先目標を義体ユーザーへと変更》
やはりこっちを先に来やがった。
当たり前だと言われればそうなんだが!
「ちくしょう!!」
相手は恐らく高感度センサーを所持している。
と言うことはたとえ建物内に入ったとしても狙われる率はそう変わりない訳だ。
とはいえ、建物は超構造体製。
如何に化け物と言えども反応が消えっ…!!
〚思惑が叶うことは早々無く、重力子の閃光が薙ぐように建物を倒壊させたのだった〛
逃げるだけでは駄目だと考えたのはこの廃都市に入ってから。
何処をどう行こうとも相手はこちらを把握して迫っている。
コーヴァルドー氏が逃走した先にセーフガードが入り、重力子射出装置による砲撃がビルを倒壊させた。
つまり、逃げるだけでは相手に滅ぼされる。
であればどうするのか?
唯一の手段は1つしか無い。
いや、手段というより。
「………持ち合わせはこれだけか…」
持っていたEMPグレネードは2つ。
その他
単発で撃てば何とかなるだろう。
そんな希望的観測が通じる相手ではない事は承知だけれど、今の僕は正直。
「…ああっ…!!クソッ!?」
フル装弾された弾倉をセットするのも覚束ない程、手の震えが来ていた。
ガチャガチャ音を鳴らして、ようやく左右反対だと気が付き、装填が出来るようになると自分への苛立ちと様々な感情が渦巻いている。
これでは駄目だ。
精神論で勝てる相手ではないが、精神的に参っている状態では勝てる訳が無い。
最終的に鼓舞出来る事が重要であるが、今の自分に其れが出来ていない事にも腹が立つ。
《…落ち着いて下さい》
「………ッ…!」
僕の状態を見て、エレンから叱咤が入る。
《ゆっくりと深呼吸です。脈拍や心拍数の急上昇で不慮の事故や防げた怪我も増えるケースがあります》
「………ああ」
エレンから言われた通りに僕は大きく口を開き、ゆっくりと深々と息を吸う。
意外と空気に匂いらしい匂いは無い。
吸い込んだ空気が肺の中へと入り、血流に酸素として全身に回し、老廃物たる二酸化炭素混じりの息を吐く。
ラジオ体操の最後と同じ様に動かした身体を落ち着かせるための行動は徐々に頭へ上っていた物が抜けた気がした。
「ふぅ〜…すぅ〜…ふぅ〜…」
呼吸法は大事だと〔師匠〕から教わった。
武を学ぶ時に必ず扱うのが呼吸法であり、空気中に漂う【マナ】を体内に効率良く得ることで筋組織や心身の回復を促すという。
「………よし」
何時になく、身体中に力が巡っている気がした。
元から人よりは体力とか自信はあったけれど、もう少しだけ速く走れるし、持続力もだいぶ上がった気がする。
軽く屈伸をし、自分の中で出来る限りのシミュレーションを行う。
「……行こう。サポート頼む」
《了解…。何としても倒しましょう》
無茶苦茶だな。
そう思いながら、EMPグレネードのピンを抜く。
レバーは手の平側に握り込み、何時でも投げられる様にセットする。
チャンスは一度きり。
どの様な状況であっても投げる事だけは絶対に行わねばならない。
賽は投げられた。
投げたくなくても時間は動く。
止まりたくなくても無情に進む。
足を踏み出し、僕は走り出した。
『離せ!!私は今からシンノスケの所へ向かわねば…!!』
「だから駄目だって!?今の状況で二重遭難したらどうすんの!?」
普段持たないような重機関銃やら対物狙撃銃やら背負って再度遺構の中へと入り込もうとしているシグルーンを羽交い締めにしつつ私とて言いたいことはあれどもとりあえず抑える。
私達はシンノスケとはぐれた後。
接続が切れた状態の塔?(電波塔のてっぺんって感じの所)で立ち往生していたら。
「……死にたくなかったら引っ付け」
と青い鎧姿のストライダーが馬型のメカニロイドに搭乗しながら出てきた事には驚いたけど、直ぐに出そうだったので有無も言わさぬ思いでへばり付きながら翔んで脱出出来た。
まさか足からブースターで翔ぶとは思わなかったけれど。
何とか出たと思いきや。
「動くな…!!武器を捨てて腹ばいになれ!!」
まさか歩兵戦闘車とかから銃口向けられるとは思わないじゃない?
「……随分と雁首揃えているな?」
「黙っていろ〔ブルーナイト〕!!貴様のストライダー資格を剥奪されたくなければ大人しくしろ!」
「……ふむ。仕方がないな」
とブルーナイト?と呼ばれた青騎士の男性が馬ロボから降りて武器らしい
素直に従う辺り、身の程を知るというのかなんなのか…。
コチラもとりあえず持っていた銃やら何やらを降ろした。
「よし、確認が出来た。向こうのテントに入れ」
と言うことで私達はそのままテント内へと入る。
銃やら何やらは向こうで預かるらしく、何がなんだか分からない内に軟禁状態になっていたが。
「…行クゾ…!!」
「どっから持ってきた…!?」
「連中…ムコウノ"てんと"ニ武器…置イテイタ」
「だぁぁぁ!!!??」
どうしてかすぐ隣のテントから拝借したらしいどデカい銃器背負ってシンノスケの所へと向かおうとしている。
その気持ちは大いに理解できるけど私達が行った所でどうにかなるとは正直思えない。
「落ち着け。コチラも1人置いて行ってどうこうも出来ん所なんだ」
「…シ…シカシ…」
止めに入ってくれたブルーナイトさんにシグルーンも不服そうな顔をするけど仕方が無く用意された椅子へと座る。
「幸い、我々は入り口付近に居たからこうして戻ってこれた。だが中腹まで落ちた2人に関してはどうも言えん」
「それはどういう事ですか?」
「そのままの意味だ。
其処まで言う程なのか?
「極め付きはこの遺構内に厄介な物がある噂が立っている」
「…噂?」
一呼吸、置いた後に口を開く。
「……【セーフガード】。超構造体すら我が物顔で破壊出来る兵器を所有する戦術自動人形が居る」