※この作品はR-18です。

崩壊系異世界でお人好しが生き延びるには   作:グリーヴ

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第一話 契約書はよく読む事

 

 

2ヶ月前

 

 

僕の父は横須賀にて製造業を行っている中小企業の社長である。

 

主に新素材の樹脂ネジで、この耐久性は通常建設現場等で使われる足場工事のボルトの数倍を有し、軽さは4分の1ということもあり、足場工事を生業とする会社のみならず、簡易的な橋などの設計にも利用されている。

 

しかしそんな樹脂ネジのパイオニアである筈の父の会社も。

 

「分かってるんか?〔宮本〕さん?」

 

時代錯誤な姿のヤクザによって差し押さえられそうになっていた。

 

父、〔宮本タダノブ〕はどうしてこうなったのか知る由もない。

 

指の間に溜まった黒いカスは、長年機械を扱った者が出来てしまう洗い落とせない油シミによるもの。

其れはただ一心に会社を大きくしていきたい為に出来たものだが、ヤクザ達には関係の無いこと。

 

「良いかい?アンタの"ビジネスパートナー"が金を持ち逃げした事はまぁまぁ同情するよ?まさか銀行に融資してもらった金ごと持っていくとは思わないし、其れはそれでひでぇ話ってのも分かる……が?」

 

テーブルの上に、ギラリと光る刃が刺さる。

 

「だからって俺等には関係ねぇ。借りた金返さにゃぁ此方だって都合悪いんだよなぁ…」

「で、でも…私は銀行と相談して、返済計画を練った所で…」

「その返済計画に穴んボコ空きすぎって訳だよ馬鹿か!!」

「ひっ…ひぃぃ…!?」

 

父が頭を掴まれ、テーブルへ叩きつけられる。

鼻が折れ、黒壇のテーブルに赤い血が水溜まりとなって広がると、その目の前には刃が見えた。

 

「はよ言えや?工場欲しがってる人は沢山居るからな?ウチとしても売ってくれれば返済した事にしてやるさかい」

「あ…ぁぁぁ……」

 

売れば助かる。

しかしその後、工場で働いている従業員はどうなるのだろうか?

 

今や全ラインが機械化されており、長年の勘や経験など学習したAIが担っている。

他の工場でも働き手は飽和し、国外も情勢不安定の中で海外就労等もってのほか。

 

売るも地獄、売らぬも地獄。

 

どちらがマシかと思えばどちら共に地獄以下でしかない。

 

であればどうすれば良いか?

 

優秀なれど決定的に決める事が出来ない父が下手な事を言う前に僕は意を決して口を開いた。

 

「あのっ…!!」

「んっ?何だ坊主?大人の会話にしゃしゃり出るんじゃねぇよ」

 

ヤクザにギラリと睨まれ、喉を思わず鳴らしてしまう。

 

「し…〔シンノスケ〕…!?」

 

しかし、今危機的な状況に迫っている父がいる以上、このまま終わる訳にも行かない。

 

「……僕の将来が決まりそうな時に僕の言葉を遮る権利はありますか?」

「はぁん?生意気言ってんじゃ「馬鹿静かにしろ」…アニキ…!?」

 

僕の前へと体格も3倍ありそうな巨人が前に立って脅しをかけてくるが、アニキと呼ばれた男に制止される。

 

「…良い度胸だ。話くらいは聞いてやるよ」

 

興味をいだいてくれたか、アニキは巨男を後ろに下がらせ、僕に目を向ける。

 

時として勇気は必要。

 

深く息を吸い、吐いて深呼吸を行ってから目を見開き、述べる。

 

「借金の返済が出来ればこの工場は売らなくて良いんですよね?」

「ああそうだ。金のアテでも有るのか?」

 

ある訳が無い。

 

だが、見つかりそうな事だけは分かっている。

 

「……僕は今年の3月で中学校を卒業します」

「あん?」

「ですので、春秋に行われる開(・)拓(・)都(・)市(・)冒(・)険(・)者(・)の募集を受けられます」

「…………死ぬ気か?」

 

呆れた面持ちで出る言葉に僕もそう思った。

 

「死んだらそちらに遺族手当として800万入るようにします。其れからは父次第だと思ってますが?」

 

だからこそ、この提案に乗るよう、死亡後の遺族に支払われる手当を全てヤクザに渡す。

そうなれば父への脅迫は止み、僕自身が死なない限りは手を出さない事を約束して貰わねばならない。

 

「月に22万。最低これだけは払わんと"5年の任期"には間に合わんぞ?」

「ハイ。払えるように努力します」

「………ハンッ!泣かせるね」

 

刃をテーブルから抜き、父の頭を離す。

 

「募集は?」

「昨日から始まってます」

「じゃあ早速、善は急げってな」

 

有無を言わさぬ勢いに僕はそのまま【異世界管理庁】へ向けて、車に乗せられ、走り出した。

 

そこからトントン拍子に異世界庁で書類を書き、如何なる場合であっても訴訟を起こさず、向こうの世界のルールに則って仕事に従事する事を誓わされる。

 

其れから1ヶ月、庁主催の冒険者講習を受けたり、参考書等を手に入れ、其処から数少ない情報を得る。

 

拳銃の使い方、撃ち方、整備方法。

野営手段や異世界の金銭レート、簡単な言語。

その他etc…。

 

驚く事に、最低年齢は15歳ではあるけど、上限は決まっておらず、半分近くが中高年層で占められている。

 

其処にどんな闇が蠢いているかは知らないものの、わざわざ聞く必要もない。

 

「よっ、〔ミヤモト〕」

「どうもです〔ジン〕さん」

「こんにちわミヤモト君」

「こちらこそ、〔カズ〕さん」

 

彼等は最初の講習で隣同士になり、その縁で付き合いをしている年離れた2人の友人。

 

脱色されたロングヘアと耳にピアスをし、腕や首筋にトライバルタトゥーを入れた巨漢の〔七火陣(ナナビ・ジン)〕。

中高年のサラリーマン風に見えるメガネを掛けた少々痩せぎすな男性の〔山本一臣(ヤマモト・カズオミ)〕

 

年齢はそれぞれ20代と50手前という離れに離れてはいるものの、互いに情報交換をしながら1ヶ月の間過ごしていけば互いに助け合う仲間にもなるわけだ。

 

カズさんは中途採用されたベンチャー企業で異世界で入手される希少金属はPC等の新しい基盤技術に利用出来ると考え、新規事業参入の要員として辞令が出されたとの事。

 

ただその実は、リストラをしたくとも出来ない人員を送る左遷の意味合いがあるとか。

 

一方でジンさんは、元々建設会社の鳶職。

ハウスメーカーでオーダーメイドの家を作る専門をしていたが、親方の死去と売り上げ低迷による人員整理で解雇されたとのこと。

 

今回、家等の建築ラッシュが起こっている異世界で鳶職として参加したのだと。

ちなみに3児の父で、今4人目を抱えているという。

 

少なくとも僕よりも責任重大な2人と雑談を交えて仕事場での愚痴やら知らなければ分からない話を知ったりと親交を深め合う。

 

「聞いた話によると、【アース人】ってのはその星にかつて住んでたけど、戦争による荒廃で宇宙に出ざる得なくなった種族だそうだ」

「へぇぇ…」

「んで、数百年経って帰ってきてみれば、緑やら何やら戻ってて、開拓しようって数万人規模で都市とか造ってるってさ。又聞きみたいなもんだが…」

 

何とも勝手な話と思うけど、まぁそのおかげで恩恵を得ている部分はあったりする。

 

しかしアース人って何か聞いたことがあるイントネーションだな。

うん…。

 

「調べてみると、アース人以外にも人類種に近い種族が数多く居るとか?」

「ああ。全容は分からんが……"エルフ"とか居るらしい」

「マジですか?」

 

ジンさんの信じられない情報に僕も思わず前のめりになる。

 

「ポリコレ的なヤツじゃない。トールキンとかのファンタジーなエルフだそうだ」

「面白いですねそれ。私子供の時からメジャーなファンタジー小説を見てきたので楽しみです」

「其れは良かった」

 

こころなしかカズさんも目をキラキラと輝かせて満面の笑みを見せる。

 

僕らが向かう場所にエルフが居るのか分からないけれど、少なくとも此処に居るよりは会える可能性はあるかも知れない。

 

とりあえず。

 

「そろそろ夕食どうですか?」

「あっ、そうだな…」

「今日は私が奢りますよ。なんたって経費で落とせますから」

「そりゃいい」

 

正直金欠気味の僕や余裕のないジンさんと比べても、一応企業勤めのカズさんなら大丈夫だろうと思いつつ。

 

「……って大手ハンバーガーチェーンかぁ…」

「美味しいじゃないですか?中でも高い方の店でしょ?」

「まっ…まあな」

 

食べるのはファストフードでもスローフード的なコンセプトのハンバーガー。

 

厚切りのトマトとハンバーグ、レタスにピクルスとケチャップマスタードはふんわりモチモチのバンズによく合って美味しい。

 

「この店の使用している材料は異世界で契約栽培してるそうですよ?」

「小麦粉も?」

「恐らくは…?」

 

国際情勢の問題からすれば異世界で契約栽培をすれば運搬費用や向こうの国の顔色次第より遥かにメリットがあるだろう。

 

そうなれば、いずれは向こうの異世界で定住を考える団体や企業も出てくる可能性が浮上するだろうし、その為の人員も増える事間違いない。

 

やる事がまるで他国でチャイナタウンを作り、そこを中心に金回りを良くする行為そのものでは?と思ってしまうがそれを指摘するのはあくまでもその国の住民のみだろう。

 

「何時かは向こうの世界に移住をする人達も出そうですね」

「其れはどうだろうな?」

「えっ?」

 

ジンさんがポテトに添え付けのケチャップを付けながら呟くように口を開く。

 

「拳銃の講習。サバイバル知識。果ては体力テストも含めて振り落とししてるだろ?其れだけでも"何か"あるとしか言えねぇぞ?」

 

何かある。

そう言われると確かにと納得出来る。

 

安全が保証されているならば拳銃なんて要らない。

安心が保証されているならばサバイバルも考えない。

 

だが其れ等が必要なのは間違いなく、必要なのには理由がある。

 

「任期5年間。終えた奴の生(・)存(・)率(・)は(・)4(・)8(・).(・)2(・)%(・)だってさ」

「48っ…!?」

 

つまり10人の内6人は任期中に死亡する計算になっている。

僕はとんでもない所に志願したみたいだ。

 

「明日の最終決定で行くかどうか決める。今なら間に合うぜ?」

「………いいえ。僕も結構崖っぷちなので」

「そうか…」

 

明日の面接で辞めるか行くかを決める事が出来る。

此処で逃げたって何も無い以上、しゃんとして向かう事がまだマシかと思っている。

 

「さて、では追加をしますか?恐らくチェーン店のハンバーガーは食べ納めになると思いますし」

「んだな。じゃあ注文お願いしますわ」

「ご厚意感謝します」

 

恐らくこれがこの3人が揃って食べる最後かも知れない。

 

徹底的に腹一杯まで食べ、後悔するほどになりながら。

 

運命の明日に向かう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「このガントレットはウェラブルデバイスとなっており、意図的に取り外す事は出来ない設計になっています。入浴などで裸になる場合、ブレスレットに変換が可能で、ワンプッシュで元のガントレットに戻すことが出来ます」

 

任期中はずっと着ける事となる完全防水仕様の頑丈なガントレットが支給される。

 

此処に、自身の情報を含めてアプリケーションや電子マネー機能その他ツールが入っている。

 

これが自身の生命線であり、異世界冒険者の証と言える。

 

「ガントレットの操作方法は講習で習いましたね?」

「はい。一通り出来ます」

「では、ミヤモトさん。それを着けた時から貴方は異世界にて冒険者として向こうのパイオニア活動を行うこととなります。日常的に生存の危機に陥る危険な仕事ですが、宜しいですか?」

「………は(・)い(・)っ(・)!(・)!(・)」

 

もう戻る事は出来ない。

 

少しばかり重いガントレットを左腕にはめる。

昔あったゲームの主人公もこんなウェラブルデバイスを着けていた気がした。

 

「……歓迎します。では"よい旅"を」

「……行ってきます」

 

次に渡された初期装備と書かれたウエストポーチを背負い、職員から扉の先へ促されながら、僕はそのドアノブを回し、開ける。

 

広がるのは、だだっ広い空間に僕と同じく応募してきた同期となる人達。

これから彼彼女等と共に、向こうの世界で開拓を従事する。

 

そう思うと少しばかり浮き足立ってしまう。

 

「よっ、やっぱ来たか」

「あっ、ジンさん」

 

いつも通り、ジンさんの姿を見ては若干落ち着きを取り戻せた。

 

我ながら現金な人間だと思う。

 

「すまねぇな。ホントは一緒の所に行きてぇが…」

「良いですって。ジンさんは鳶職の腕がありますし、開拓者として大事な要素を持ってますから」

 

ジンさんやカズさんは別枠として向こうの世界へ向かう。

特殊技能である鳶職のジンさんは勿論のこと、向こうの世界で新規事業を行っている同僚の会社へ入る事が決まったカズさん。

 

そう考えれば仕方がない。

 

「それも大事だか……一番大事なのはな…」

 

そう言って巨腕が僕の肩を回して抱き寄せる。

 

「……"ココ"だ」

 

僕の左胸を中指で軽く叩く。

 

「どんな世界でも、自分で決められるたった1つの部品だ。失くすなよ?」

「………ハイ」

 

開拓者(パイオニア)として重要なのは技術や資金だけではない。

どうすれば良くなるかを考えてやる気を見せる事。

 

自分が生きる為のフロンティアを創る事こそ、大事な要素だと彼が高らかに言っていた。

 

僕は其れを思い出す。

 

「じゃあな。来年までには会えるように頑張ろうぜ!」

「ハイ!絶対に会いに行きます!!」

 

ジンさんが拳を前へと出し、僕もそれに倣って拳を出して軽く叩く。

 

フィストバンプというハイタッチ等と同じ友情表現だ。

 

ジンさんを見送り、僕は他の人達と一緒にこの広い空間の中でその時を待つ。

 

《ゲート開放まで残り5分》

 

そうだ。

今のうちに渡された装備品を確認しなければならない。

 

ポーチを開けて、中を見る。

骨伝導タイプのイヤホンはただ耳に嵌めるだけで使える周囲の音も拾えるらしい。

後は講習でも習った拳銃だが……これはベレッタM92だ。

 

でもピカティニーレールや銃本体の色合いが違う所を見るに、どうやら米軍向けに造っていたM9A3というタイプになる。

 

後は同拳銃の予備弾倉が5つと頑丈な樹脂素材のホルダーに入ったサバイバルナイフが1つ。

 

必要最低限とはよく言ったものだ。

 

これで自前で荷物を用意する事は禁止されているからキツイ。

 

《ゲート開放まで残り1分》

 

そうこうしている間に心の準備が整わないまま過ぎてしまった。

 

急いで耳にイヤホンを嵌め、ガントレットの起動をする。

 

《おはよう御座いますユーザー。貴方を〔宮本シンノスケ〕として登録しました。宜しくお願いします》

「うん!よろしくね!!」

《では早速、ゲートが開かれます。多少揺れますのでご容赦願います》

「えっ?揺れる??」

 

《ゲート開放。ジャンプ開始》

 

このアナウンスの直ぐに僕の身体が浮いたと思えば、瞬く間に景色はすっ飛ばされたかの様に跳んではぐるぐると廻り、驚く暇も聞く隙も与えられる事無く。

 

「…ふえっ!!?」

 

目(・)の(・)前(・)に(・)広(・)が(・)る(・)海(・)原(・)へ(・)真(・)っ(・)逆(・)さ(・)ま(・)に(・)落(・)ち(・)た(・)。

 

 

 

 

to be continued…

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