なぜだかこの二人、じっくりと書きたくなる…
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・キス
湯気の立ち込める温かい浴室。
前より少し狭くなったけど、綺麗な浴槽を見るたびに立て直してよかったと思う。
お湯を浴びてから、ゆっくりと体を湯船に沈めていく。
「ふぅ~」
深く息を吸い込み、そのまま吐いて肩まで湯に浸かる。
魔理沙の趣味だろう、花の匂いのする入浴剤で気分もゆったりと落ち着いていく。
「……はぁー」
嘘だ。全然落ち着かない。
まだ夢を見ているのかもしれない。
ザバザバと顔を洗い、温かいお湯で柔らかくなった頬を摘まむ。
当然痛みが走り、夢ではないのだとしっかり自覚できた。
私が魔理沙を見間違えるはずは無いので、当然妖怪たちの悪戯という事もない。
なら、やっぱり夢でも嘘でもないのだろう。
「……ふふふ」
口から怪しい笑みが漏れてしまう。
――……好きだよ霊夢。
きゃーっ!
バシャバシャとお湯を被り、口角の上がる顔を、上がりそうになる悲鳴を無理やり押し留めた。
今にも泣きそうな顔で、必死に縋るような視線で、恥ずかしさを押し殺した紅潮した頬で。
全部愛おしい彼女が伝えた一生懸命の想いが嬉しく、その後に茹った頭でたどたどしく言葉を返した己のなんと情けない事か。
可能ならばもう一度やり直したい。いや、やっぱり一秒でも長くこの関係を途絶えさせたくないので、やっぱりやり直しはしなくていい。
いつからこんなに大きな思いを抱えていたのか、もう覚えていない。それくらい自然に、私の中で魔理沙は大きな存在だ。
私には家族がいないけど、家族と呼べる唯一の存在。
母のように温かく、姉のように優しく、妹のように愛らしく、妻のように一生を添い遂げたい相手だ。
それが手に入るならと何度夢想したことか。
私がもし、男性だったら。もし、もっと勇気を持っていたら。
思うたびに傷んだ心が、今はすべて喜びに包まれている。
まったく。人生、捨てたものではない。
理性では諦めかけていたことが、ふとした時に転がり込んできたのだから。
私は今、間違いなく浮かれている。
きっとそう、今日が人生最良の日。
お風呂を出たら、もう一度ちゃんと想いを伝えよう。
たどたどしく伝えた際にも魔理沙は太陽のように笑ってくれたが、あんなのではまったく伝えきれていない想いが私の中にある。
何にも例え難い、私一人の想いの大きさには到底足りない。
念入りに体を磨き過ぎて、少し赤くなった手足を湯船でゆっくりと伸ばす。
まだ忙しなく動く鼓動に、いい加減慣れて欲しいのに震える手足に、ゆっくりと温度を取り戻しながら私は何度目かの深呼吸をした。
▽▲
普段よりも長湯をし過ぎた。
随分待たせてしまっているかもしれない魔理沙を思い、髪もまだ濡れているままペタペタと足音を立てて居間に向かう。
うっすらと静かな明かりにゆらゆらと揺れる影はなんだか落ち着かなく、いつもの事なのについ深呼吸をしてから襖に手を掛けた。
「あ、霊夢ー」
すーっと音を立てて開かれた襖の先では、湯飲みにお酒だろうか、透明な液体を入れて少しづつ呑んだ形跡。
お風呂の影響ではない上気した頬とトロンとした目で、魔理沙が酔っ払っているのは察した。すこしアルコールの匂いがする。
ふぅーっと息を吐く魔理沙は少し浴衣を着崩しており、上から羽織っていた赤い半纏を暑そうに脱ぎ散らかしていた。
うっすらと汗ばんだ肌がなんだか煽情的で、知らず、喉の渇きからか、喉が鳴ってしまった。
「……待たせ過ぎたかしら」
「うーん、待ったかも。んふふっ。あ、お酒頂いてるぜー!」
へらへらと力のない笑みを浮かべ、湯飲みをくるくると手の中で回している。
「好きに呑んで良いわよ」
手ぬぐいで髪を乾かしながら、魔理沙の隣に座る。
一緒に呑もうと思っていたのか、湯飲みはふたつ置かれていた。
「一緒に呑みたかったの?」
「うん!」
にこーっと笑みを浮かべて心底嬉しそうな姿。
いつもポヤポヤと周囲に向けている顔を、今は私だけに向けていると思うと、心臓に重圧を感じ胸がぐっと詰まった。
「っ! そう。珍しいわね、ひとりで先にお酒呑むことなんてあんまりないでしょ」
「うん、なんか落ち着かなくてさー」
手に持った湯飲みを回し、グッと呑んでうはーっと息を吐いている。
お酒の小瓶から自分の分と私の湯飲みにも同じように注ぐと、手に持ちながらこちらに掲げて「ん?」と不思議そうな顔。
じーっと見つめすぎてしまっただろうか、照れながら目を見つめ返していると、先に向こうが逸らして「ん、ほら乾杯しようよ」と小さな声で誘ってくる。
黙って受け取り、湯飲みをカツンと合わせて一口。
「……これ、どこにあったお酒?」
「戸棚にあったぜ」
なんだかいつもよりも甘い気がする。
注いでくれた人が違うからか。一緒に呑む人がいるからか。
「美味しい」
なんて、思ってもなかなか口に出て行かないんだけど。
「廊下寒かったね。お風呂はあったまった?」
「うん。あ、入浴剤も良い匂いだったわ。ありがとう」
「んふふふ。どういたしまして!」
いつもよりは酔いが浅いのか、目はトロンとしているのにすこしはっきりと受け答えが出来ている魔理沙が相変わらずテレテレと頭を掻きながら笑顔を浮かべる。
普段はあまり解かない三つ編みがおろされて、片方だけ少し長い髪の毛。
しっとりと濡れていて、行燈の光に照らされている金色は柔らかい輝きだ。
「そろそろ雪、積もるくらい降るかなぁ。今年は秋が短かったけど、もう年の瀬も近いね」
「そうねぇ。年末の準備というか、今年も永遠亭のお餅配りに並ばないと」
「兎たちのお餅は美味しいからなー」
「こ、今年も一緒に過ごすでしょう? もちろん、いつも通りじゃないだろうけど」
「えー、うふふ」
口元に手をあててクスクスと笑う姿はいつも通りなのに、なんだか妖艶に見えてしまうのは色眼鏡だろうか。
「んふふふふ」
なんだかもじもじとしてから、魔理沙がそーっと肩に寄り添ってくる。
遠慮がちに触れてくるのを可愛らしく、触れたいと思っていたのが私だけじゃなかったことを感じて嬉しくなる。
どきりと心臓が跳ねたが、悟られないように平然とした顔を装って触れた方の腕で魔理沙の腰を抱き寄せてこちらに寄り掛かる様に力を入れる。
「……霊夢あったかいなー」
されるがままにこちらへもたれ掛かってくれたので、膝に魔理沙の上体を乗せて、腕の中に閉じ込めるような格好だ。
見下ろして、お風呂で決心していたようにそれを口にする。
じーっと見つめてくる金色の瞳が、笑顔を浮かべて少しにんまりとした半月。
「私の方が好きだよ、ずっと好きだったと思う」
「……いや、私の方がずっと前から好き」
「そんなことない。だって、生まれる前から好きだったもん」
真剣な瞳が見上げてきて、じーっと心の奥までキラキラの光が満たされていく。
嘘を言っているようには聞こえない。
「でも気が付いてなかったのかも。その、そういう意味ではないと思ってたし……」
「私は、ずっとそういう意味で好きだったわ」
いつからか、なんて。覚えていないくらい昔から、ずっと。
「んふふ、あーっ。嬉しいけど恥ずかしい……」
酔いの赤み以上にさっきよりもずっと顔を赤くしながら、瞳に涙を溜めながら、腕の中の魔理沙が腕を伸ばしてくる。
その手が私の頬に触れ、ゆっくり撫でる。
「どれくらい我慢していた事か、魔理沙は知らないでしょうけど」
「我慢? 霊夢は我慢してたの?」
「そりゃ、そうでしょうよ。あんた変に妖怪とかにも……。いや、それはいいわ」
座卓に置いていた湯飲みを取り、一口で飲み干して一息つく。
ずっと心臓は高鳴っており、少しも落ち着かない。
「なんで我慢してるの?」
「……だから、それはいいって」
「我慢、しなくていいのに」
頬に触れていた手がそっと輪郭を撫でるように動き、すっと離れていく。
見下ろした顔がその手で隠され、隠しきれない顔の大部分がより赤く色づいている。
「……私は、したいようにしてるぜ」
指の隙間から見上げる金色の瞳が。
「だから、霊夢もしたいようにしてくれて良いのに」
なんだか期待しているように濡れているのを見て、意図せず喉が鳴った。
「……わかってて言ってんの?」
「……」
しんと静まり返った部屋の中で、私の心臓がどくんどくんと煩く鼓動を伝えてくる。魔理沙に聞こえてしまうんじゃないか、そう思うほどに大きな音だ。
お互いに無言のまま、ようやく口を開いた魔理沙が、目を逸らしながら恥ずかしそうに告げる。
「……な、何回も言うのって恥ずかしいんだけど」
“いぢめたくなる”ようなそんな様子に、私は自然と顔を寄せた。
息がかかるほど間近で見つめると、自然に目を瞑る魔理沙。
そのまま近づくのを止められず、ついに私は唇を落とした。
――その、頬に。
「……」
目を開き、そうっと自分の頬に触れている。
私はもういっぱいいっぱいで、じーっと様子を見ながら、今にも頭が爆発しそうなほど熱を持っていた。
「んふふ、……んっ!」
「……っ」
にっこりと笑った顔に、ついに我慢が出来なくなって唇に触れる。
目を瞑りながら唇を落としたので少し勢いがついてしまった。固い、前歯の感触まで伝えてくる。
柔らかく少し濡れている、より濃い魔理沙の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
ちゅっと水音を立て、勢いよく離れた。
「ご、ごめん」
なぜか謝罪が口をついて出た。
「い、いや……」
魔理沙も赤い顔のまま混乱しているみたいに目を白黒させていて、少し時間が経ってから自分の唇を触っている。
「ちゅ、チューした……」
「だ、だって……」
「うふ、ふふっ。あーっ! ちゅーしてくれたっ」
ふわりとまた、大人っぽい笑み。
「ふふ、私もしたかった……」
言いながら手が私の頭に伸び、優しく引き寄せられるのを感じる。
目を瞑り待ち構えている魔理沙に、そのまま二度目の口づけを落とした。
何度目かの胸の高鳴りに我慢しなくても良いという言葉が脳内に反芻されている。
暫く室内では声を発するものはいなかった。
▽▲
「……そ、そろそろ寝ますか」
「そ、そうね」
すっかり耽ってしまい、息継ぎをするように空気を求めたのはどちらからだったのか。
室内は風呂上がりも相まって、お互いの発する熱ですこし汗ばむほどだ。
ぎゅっと握られた手が熱い。
すでに溶けかけた理性のまま、整えた寝所に魔理沙を運ぶ。
驚いたような声を出して最初は少し抵抗していたけれど、すっかり腕の中で大人しくなって素直に運ばれてくれた。
本当に軽い。いつも一緒にご飯を食べているのに、なんでこの子はこんなに小さなままなんだろう。
魔理沙を布団に横たえ、その横に私も体を入れる。
「……っ」
なんとなく、魔理沙がぎゅっと身を固くした気配を感じる。
目を瞑り、なにかを覚悟したような顔。
「っふふ」
なんだか、私だけが緊張しているのではないとわかって笑いが零れた。
「安心して、今日はこれ以上のことをしないから」
言っておでこにちゅっと音を立てて唇を落とすと、ようやくそうっと目を開けてこちらを伺う金色の眼。
「きっとこれから先もずっと一緒にいられるんだから、焦る必要なんてないんだし」
それは自分に言い聞かせているようでもあった。
我慢をしなくてもいいと言われても、私と魔理沙には体力の差もあるし、なにより今日の今日でそんな、最後までなんてそんな。
「……し、しないの?」
そうして余裕を見せていたのに、この子は容易く私の理性をまた溶かしてくるのだ。
袖を握り、先ほどの熱が引かない染まった頬で、潤んだ瞳で。
「……っ」
ごくりと喉が鳴り、うまく返答は出来なかった。
次回こそ多分本番編
なんか本番も含めると2万文字超えそうです。