※この作品はR-18です。

東方銀翼伝 side story ~轟アズマ争奪戦!~   作:命人

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 明日は大事な宴会なのに、寝込んでいる場合ではない!


Chapter1 ~宴会前夜~

 相も変わらず平和な幻想郷。ここ最近は大きな異変もなく平和と言えば平和だが、こんな時は気も緩みがちである。この平穏な時に俺は……

 

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

 風邪をひいていた。まったくもって情けない話ではある。

 

 体調が悪いということは白蓮も知っており、こうやって布団を敷いて眠るようにと言ってくれていたが、そうもいかないのだ。

 

「私達のことはいいですから体を治すことに専念して頂戴な」

「しかし明日は……」

 

 明日はここ命蓮寺で宴会を開催する。お酒の飲めない白蓮に代わって俺が企画したのだが、主催者がこんなザマではどうしようもない。白蓮が立ち去ると俺はのっそりと部屋を抜け出した。

 

 何としても今日中に体調を回復させねば。

 

 

 

「賭けにはなるが……」

 

 フラつく足取りで俺の幻想郷での移動手段かつ武器にもなるというまさしく相棒たる銀色の翼をした戦闘機「アールバイパー」。ソイツが眠る格納庫にたどり着くと、コクピットに乗り込む。明らかに様子のおかしい俺をここ命蓮寺で住み込みでエンジニアをしてくれているにとりが引き留めてきた。

 

「そんな状態でどこに行くつもりさ?」

 

 暖かくして体を休めるのが一番ではあるが、ここ幻想郷には非常に優秀な病院がある。そう、月の住民が営む永遠亭だ。あそこならたちどころに風邪を治す薬とかもあるかもしれない。

 

「永遠亭だ。何としても明日には元気にならないと」

 

 そんな俺の思惑を多少は汲み取ったのか。にとりは深くため息をついた。

 

「アズマのことだ。どうせ止めても無駄だろう? 永遠亭ならアールバイパーに座標軸を登録しているから自動運転で向かうといい。途中で凶暴な妖怪に出くわしたら戦おうとせずに逃げること。いいね?」

 

 朦朧とする意識の中、どうにか指示通りにアールバイパーを起動。操縦桿を握らずとも銀翼はゆっくりと飛翔を始めた。

 

 

 

 無事に永遠亭に到着。診察を受けようとするが、永琳さんは外出中だったようで、弟子である鈴仙がいるのみであった。風邪の症状と、どうしても今日一日で治さないといけない理由を話した。

 

「かくがくしかじか……」

「ふむ……。そういうことならこの薬ですね。ただ、服用すると激しい眠気に襲われるので、一日入院してもらいます」

 

 聞くところによると自己免疫機能を一時的に強化する薬らしく、その間に体内のウイルスを撃退する作用があるとのこと。ただ、体の機能をほとんど免疫に持っていくために深い眠りに落ちてしまうのだという。

 

 原理はこの際どうでもいい。いろいろ説明されたがほとんど頭に入らない。宴会は明日の夕方。それまでには目を覚ますことが出来るので、薬を服用することにした。

 

 ベッドに移るとその上で薬を服用。たちどころに眠気に襲われ、そして深い眠りに落ちた……。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(そしてあくる日……)

 

 日の出とともに俺の意識が覚醒する。おおっ、体が軽いぞ! さすが永遠亭の薬だ。だが、直後に体の異変を感じる。胃袋がグーとなる音。これは……腹だ。腹が減ったんだ……。這いつくばるように病室を出ると鈴仙を探す。

 

「ウドンゲ、腹が減りすぎて死んでしまう」

「そう言うと思って朝ごはんを準備しておいたわ」

 

 鈴仙曰く、体に過負荷をかけていた状態なので体力もより早く消耗してしまうようで、空腹を訴えるのは想定内であったらしい。お盆の上にそれらしきものがある。本来はあの病室まで持っていくつもりだったのだろう。だが、俺は待ちきれずにここまで来てしまった。

 

「いただきまーす!」

 

 食った。それはもうガツガツと。あまりお行儀がよろしくないとも思ったが、そんなことを意識する猶予もない程に腹が減っていたのだ。味噌汁、とろろご飯、醤油のかかった目玉焼き、牛乳……。

 

 あっという間に平らげるとようやく自らの体に活力が戻ったことを確認できた。

 

「助かった。美味しかったぞ♪」

「えっ、ええ。すごい勢いで口に運んでいたものね。ある意味惚れ惚れしちゃうくらいだったわ」

 

 お代は昨日の段階で支払っている。体もよくなっている。よし、さっそく宴会の準備に取り掛かろう。俺は永遠亭の外にとめてあったアールバイパーに向かう。

 

 アールバイパーに近寄ると外でコンパク……妖夢の半霊だったものが紆余曲折を経て分裂した後、自我を持ちアールバイパーの支援兵装になってくれた霊魂のような生命体……が待ってくれていた。その動き方から非常に心配していたらしいことが分かる。確かに彼女が最後に見た俺の姿は息も絶え絶えであったので、このように心配してくるのもわからないではない。

 

「……」

 

 だが、今の俺は元気そのもの。「もう大丈夫だよ」と一声かけ、そして「さあ行こう」と号令をかけるのだが……

 

「~~~~♪」

 

 よほど心配だったのか、妖夢の姿を取ると思い切り抱き付いてきた。俺の胸のあたりにスリスリと顔をこすりつけ、離れようとしない。

 

「ははは、この俺だぞ? そう簡単にくたばるものか」

 

 俺も負けじとコンパクの頭を撫でる。ひとしきりそれが終わると銀翼に乗り込もうとするが……

 

「……!」

 

 首を振って「イヤイヤ」と拒んでいるようだ。抱き付いたまま全然離れようとしない。

 

「そろそろ宴会の準備をしないと。ほら、コンパクにも手伝ってもらうから……」

 

 普段なら聞き分けのいいコンパクはここで大人しく従うはずなのだが、仕方ない。少し語調を強めて……

 

「コンパク、めっ!」

 

 こう言い放つと彼女はしゅーんとうなだれ、元の半霊の姿に戻った。フォローを入れるように「また後でな」と声をかけると今度こそ銀翼を飛翔させる。

 

 それにしてもあんなにコンパクが甘えてくるなんて、よほど死にそうな感じだったんだろうか、昨日の俺って……。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃永遠亭診察室……)

 

「ただいま。ウドンゲ、留守の間はどうだった?」

 

 貴方が永遠亭を去ったしばらく後、永琳が用事を済ませて帰って来た。きりりと引き締まった表情となった鈴仙は永琳不在の間に患者が一人来たことを知らせる。

 

「そう、あの轟アズマね。それで薬を処方したと……」

「はいっ! 免疫強化剤を調合して処方しました」

 

「ふむ」と軽く頷くと少し前まで薬を調合した跡に目をやる。

 

「でもどうして……? あの若さならそんなもの使わなくても風邪なんて自力で治せる筈……」

「彼は今日命蓮寺で開かれる宴会の主催者のようですよ。それで何としても万全の状態にしたかったとか」

 

 あの命蓮寺で宴会と聞いて驚きの表情を浮かべる永琳。

 

「そう、あの住職サマに代わって彼がねぇ……。本当に律儀な人。ところでウドンゲ。調合はちゃんと出来たの? この薬は結構難しいものだけれど」

「はいっ! レシピ通りに仕上げました!」

 

 そう言って調合書を見せる。

 

「そう、ちゃんと人間用の方を調合したようね。それで朝ごはんを食べて帰って行ったと」

「はいっ! 食欲も旺盛でした。とろろご飯やみそ汁、牛乳をたらふく」

 

 永琳の表情が曇る。

 

「ちょっと、とろろご飯に牛乳ですって!? これはちょっとマズいかもしれないわね」

「ほえ?」

 

 調合も完璧、反応も予想通り。何故問題があるのか鈴仙は師匠に指摘されるまで分からなかった。

 

「食べ合わせが悪いのよ。あの薬の後にヌルヌルした食べ物や乳製品はマズいわ。しかもいい感じに精のつく食べ物だし……。あの副作用が出るわ」

「えっ!? もしかして命に係わる……」

「いえ、それはないんだけれど……」

 

 ぼそりと副作用について鈴仙に教える。

 

「あっ、それは……」

「今日の宴会、荒れに荒れるわね……」

 

 

 

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 宴会の詳しい日時を告知したり、食材を集めていかなければならない。まずは紅魔館の皆にお知らせだ。銀翼を駆って霧の湖を抜けると赤レンガの屋敷に到着。門の前では美鈴が仁王立ちしており、しっかりと侵入者ににらみを利かせていた。

 

 急いでいるので、彼女に伝言を依頼しよう。アールバイパーから降りると門番の名前を呼ぶ。

 

「……」

 

 赤毛の妖怪は門の前で仁王立ちしたまま微動だにしない。近づくと「すぴー、すぴー」と寝息のようなものが聞こえてきた。ああやっぱり、寝てるよこの門番。それも目を開けたままだというのだから器用である。目を覚ますように呼びかけ、ようやくこちらの存在を認識したようだ。

 

「……ごめんなさい。ぼーっとしていました」

「今日命蓮寺で宴会やるんだけど、詳しい場所や時間はこの招待状に記したよ。人数分あるから配ってほしい」

 

 それだけ言うと足早に紅魔館を後にするが、美鈴はまだボーっと突っ立ったままである。あのままだと咲夜さんに注意され、そこで咲夜さんが宴会の情報を得て、そこから広まるといったところだろう。

 

 そのまま妖怪の山に向かい、更に上昇して天界、白玉楼と巡る。次に地霊殿に向かい、それが終わると人里で買い出ししつつメンバーを誘い、告知が終わるころにはもうお昼も過ぎていた頃であった。

 

 どういうわけか、俺が宴会の告知をすると皆が皆驚く。そりゃそうだ、お酒を飲めない白蓮が宴会を開く筈もないので、命蓮寺で宴会だなんてことは俺がいないと考えられないことなのだ。

 

 あまりの衝撃に思考停止を起こすのか、みんなボーっと呆けるのだ。俺がこうやってアクションを起こしていなければ命蓮寺はいずれ孤立していたかもしれない。頑張って企画してよかったと思っている。

 

 

 

 大体の少女に告知を終えて買い出しも済んだ。命蓮寺で準備を進めようとした矢先、アールバイパーの魔力レーダーが異常な魔力を観測、すさまじい勢いで接近しているらしいことが分かる。

 

「速いっ……!」

 

 不意の一撃に備えて臨戦態勢を取るが、その正体は鴉天狗の新聞屋であった。このツインテールのブン屋は……念写するほうか。

 

「あの戒律に厳しい命蓮寺で宴会ってだけでオドロキなのだけど、アズマがここに至るまでにどんな考えを持っていたのかをぜひとも密着して取材を……」

 

 足早に追いつくとやいのやいのと騒ぎ立てる。

 

「密着も何も準備はもうすぐ終わるぞ」

「だからぁ、いろいろと聞きたいことが。あの、中に入っていい?」

 

 よくねーよ! コクピットに張り付くと無理矢理開けようとする。そんなことされてはたまったもんじゃないので何とか振り落とそうと機体を揺らすがまるで効果がない。

 

「これ以上仕事の邪魔をするなら容赦しないぞ!」

 

 いよいよダメそうだと悟ると、レイディアントソードを取り出そうとするが、それよりも速く別の鴉天狗が急接近してきた。文までやって来たよ。ああもう、事態がややこしくなる!

 

「アズマさんは私が独占取材するんですっ!」

「そんなのずるいよ! 私だってアズマのことをもっと知りたいもん!」

「そんなだから素人なんですよ! あくまで新聞のネタだというのに、自分が知りたいだなんて……おかしくって笑いが出ちゃいますよ」

「なんですってー!」

 

 わわっ、こいつら弾幕決闘しだしたぞ! 天狗同士の本気の決闘だなんて巻き込まれたらひとたまりもない。足早に俺はこの場を後にした。

 

 

 

 どうにか巻き込まれる前に逃げきれた。なんか皆様子が変なんだよなぁ。そんなにこの宴会の企画が衝撃的だったのだろうか? もっともあの鴉天狗二人は平常運転にも見えるけど……。

 

 それにしても汗かいちゃったよ。早いところ命蓮寺に戻って水浴びでもしよう。

 

 

 

 ふぅ、サッパリした。風呂場ですっかり汗を流した俺は体を拭いて着替えを済ますと宴会会場へと向かう。その途中の廊下で白蓮とすれ違った。

 

「急に外に出ていったと思ったら全然連絡もよこさないで……。心配しましたよ」

 

 そういえば何も告げずに丸一日命蓮寺を出ていたのだ。すまないと軽く詫びると

 

「ご、ごめん。でも今日の宴会は絶対に成功させないといけないから」

「そんな肩肘張るものでもないでしょう? でも治ったようなので何よりです。机のセッティングなら私がやっておきましたので、食べ物やお酒を配置して頂戴な」

 

 結局白蓮にも手伝ってもらう形になったか……。まずは飲めない人や飲み過ぎた人が休憩するスペース及び白蓮さんの席は……このあたりでいいな。お菓子とソフトドリンクを主に置いておく。確か早苗さんは飲めなかったからね。

 

「なるほど、聖様の席付近が避難所になっているのね。まあ私はそっちいかないけど」

 

 途中で一輪をはじめ、他の命蓮寺メンバーも加勢してくれた。皆なんの気兼ねなしにお酒が楽しめるとあって浮足立っているようだ。

 

 セーフティゾーンを設定すると、あとはバランスよくおつまみやお酒を置いていく。ストックの飲み物を冷蔵庫に入れる。よし、こんなもんでいいだろう。

 

「よし、そっちも配置したね? それじゃああとは皆が来るのを待つだけだ」

 

 少々気合い入れ過ぎた気もするが、せっかくの機会、無駄にはできない。

 

「はやく始まんないかなー? たらふく飲みたいわ」

「お食事も魅力的ですよねー」

 

 早くもワクワクし始めるムラサと星に釘を刺す白蓮。

 

「いいですか、あくまでコミュニケーションツールなのであってガブガブ飲むものではありません。特に星ちゃんはその傾向が強いのでより気を付けるように」

 

 そんなお小言も耳に入っているのかいないのか、いよいよ招待した少女達がわんさとやって来た。

 

 ああ、緊張してきた……。汗が一筋タラりと垂れる。早く俺も喉を潤したい……。

 

 

 

 がやがやと人が集まり熱気がムワっと伝わってくる。響子や一輪があちこち回ってグラスに飲物を注いで回っているようだ。それが一通り終わるのを確認した俺は目だけを一瞬白蓮に向ける。静かに彼女はコクリと頷くので、俺は咳ばらいをしたのちに、グラス片手に乾杯の音頭を行う。

 

「本日はお忙しい中、このような妖怪のお寺に足を運んでくださり誠にありがとうございます。お寺という場所ではございますが、我々も幻想郷の一員としてより皆さんと親密になっていきたいという思いを込めて、本宴会を企画するに至りました。仏教には戒律というもの、たしかにありますが、それ以前に我々は幻想郷の住民であります。その幻想郷のルールに則ったうえでの……」

 

「スピーチはいいから早く飲ませて欲しいもんだねぇ!」

「お酒がぬるくなっちまうよぉ。はやくー!」

 

 いかんいかん、乾杯の音頭はこんなかしこまらない。鬼二人にどやされてしまった。あとは流れに任せて乾杯してしまおう。グラスを掲げて最後に言い切る。

 

「とにかく、来てくれてアリガトー! かんぱーい!!」

 

 返ってくるのは数倍の大きさとなったカンパイの掛け声。グラスが軽く当たる音、おそらく乾杯の音があちこちで響く。あー、緊張して変な汗が……。俺も冷たいビールを飲んで落ち着こう。手にしていたグラスに注がれた黄金色のお酒をグイと飲みほした。

 

 喉から腹にかけて清涼感。フウと一息つく。さて、上手く盛り上がっているかを見て回らなければならない。潰れてる人を見かけたら救助しないといけないし(特に早苗さんは要注意だ……)、俺は席を立ちゆっくりと見回りを行った。

 

 

 ついに始まる宴会……。

 

 

 さあ、失敗できないぞ。何としても成功させ、命蓮寺をよく知ってもらうんだ……。

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