東方銀翼伝 side story ~轟アズマ争奪戦!~ 作:命人
この混迷した状況を前に、アズマは……。
いや、諦めるのはまだ早い! 永琳が取り落とした中和剤入りの矢がどこかに落ちているはずだ。これを使えば全てが元通りになるはず……。
地面を這うように体勢を低く構え、俺は意を決して戦場へと飛び込んでいった。
飛び込んで数秒……。そこには後悔する俺の姿があった。ヤバい、ヤバすぎるだろコレ。弾幕のバトルロイヤルなど一般の人間が入っていい領域ではない。
不意に俺のすぐ横で早苗さんが思い切り地面に叩きつけられていた。見上げるとあの紫が次の一手に出んとしている。
「早苗っ、オーバーウェポンを使え!」
早苗は外の世界のSTG「サンダーフォースV」の自機をモチーフにした飛行バイクに跨っていた。武装ももちろんその作品の物を使用する。オーバーウェポンは装備された武器に過負荷を与えることで一時的に強力な攻撃を繰り出す技であり、多用はできないがここぞという時に頼りになるものだ。
俺の声で我に返る早苗は
しかし相手が悪い。紫は一瞬怯んだくらいで既に立ち直っている。再び攻勢に出るかと思ったが俺の姿を確認するとたじろぐ。
「アズマさん、アールバイパーもなしにこんなところに飛び込むなんて自殺行為ですよ? 一体どうしたのですか?」
「説明は後だ。とりあえずこの危機的状況を脱するぞ!」
無理やり俺は早苗の戦闘バイクに乗り込むと飛翔させた。
一人乗りの飛行バイクに無理に乗っているために非常に窮屈である。そんな中、俺は永琳が混戦の最中に落とした矢の話を告げた。
「俺の体に起きた異変を治療する薬が仕込んであったらしいんだ。それを見つけて俺に使わないと被害がどんどん大きくなってしまう」
探すのを手伝ってくれと俺は手を合わせて懇願した。
「他でもないアズマ王子の頼みです。大船に乗った気分で……」
だから王子って呼ぶのは……うわぁ! ツッコミ入れてる場合じゃないぞ。あれだけ混戦状態だった他の少女達であったが、今は統率が妙に取れている。例外なく早苗を標的にしているようだ。まさか……
「風祝がアズマ君をさらおうとしているわ!」
そうだよコイツら、みんな俺を目当てに戦っているんだ。その俺が早苗と一緒にいるということは奪還せんと襲い掛かるのは当然の流れ。
「アズマはさとり様の嫁……じゃなかった、婿ーーー!」
地獄カラスが一際激しく突進してきた。遠くでさとりが止めているようだがお空の耳にそれが届くことはない。
「かわせない! やっぱり一人乗りだから機動力が落ちてるわ」
くそっ、恐れていたことが……。そのまま
「あっ!」
「うにゅ?」
遅れてサトリ妖怪が近寄ってくるが、何もかもが遅すぎたようだ。
「そんなことしたら轟アズマが落っこちるって分からなかったの?」
「さとり様、ごめんなさい……(しゅーん)」
「今することは轟アズマの救助よ。あのまま地面に叩きつけられたら……」
「急ぐ!!」
だから行動に出るのが遅いんだってば! 俺は悲鳴を上げながら重力に吸い寄せられていき……そして命蓮寺から少し離れた池にドボンと落ちていった。
地面に叩きつけられるという最悪の結果は免れたものの、夜の池は非常に冷たい。
冷たい水が容赦なく衣服に染み込み重石となる。それでも俺は沈むまいと必死にもがきもがき……そして水面から顔を出した。
「ブハッ、ゼェゼェ……」
新鮮な空気を肺に取り込むと、立ち泳ぎの要領で少しずつ泳ぎ、そして岸辺までたどり着いた。ズルズルと這いつくばるように陸に上がる。ふと見上げると心配そうにしていた白蓮が出迎えていた。
「アズマさんっ! よかった、無事のようですね」
タオルを手に白蓮が近寄ってくる。まずい、白蓮フェロモン汗の影響を受けたら……
「それにしてもずぶ濡れではないですか。すぐにお風呂に入らないと風邪を引いてしまいます」
ずぶ濡れ……そうか! 水を被ったことで汗が流れ落ちており白蓮がおかしくなることは当分あり得ないんだ。思えばここ最近白蓮と近距離で対面した時、(あの一時を除けば)俺は毎回水浴びの後であった。それで異変の影響を受けないわけだ。
「……くしゅん!」
「大変、すぐに用意をしますから……。濡れたものは脱いで、ひとまずこのマントを貸しますので!」
それだけ言うとあっという間に身ぐるみはがされ、マントを手渡された。とりあえずマントをまとうと白蓮の背中に乗せられて命蓮寺へと飛翔する。
かくして異変にまみれた宴会は俺の中では幕を下ろした。
俺をめぐる乱闘は俺自身が池に落ちたことで中断され、一応の均衡は取り戻したらしい。俺という主催者を失った宴会は星が取り仕切っているのだという。白蓮は俺の為に風呂を沸かしたり着替えを用意したりと大忙しだったのだ。
さて、そんな俺は暖かい湯船に一人で浸かっている。冷えた体にはとても嬉しい。浴場は結構広いのでガランとしており少し寂しい気もするが、少し前まで色々なことがあったのだ。今は一人で休んでいたいところ。
外からは相変わらず少女達の声がやかましく響いている。まだまだ宴会は続きそうだ。
そうだ、この際だからここで目いっぱい汗をかいてしまおう。そうすることで俺の体に起きた異変を治すことが出来るかもしれない。あるいは症状を軽くすることが出来るかもしれない。
無理矢理拘束されて恥ずかしいことをされた上での体液の排出(それも永琳曰く何度も行う必要があるっぽい?)よりかは随分とマシだ。
「ふぃー……」
少女達の黄色い声が時折聞こえてくるのを除けば実に極楽極楽……。湯気が空気を揺蕩う様子をボーっと眺めながら俺はのんびりと湯船の中で体を伸ばした。
湯気で前が見えなくなることなどないように小さな窓が開かれており換気はできている。この水の微粒子たちも外へといずれ出ていくだろう。冷たい風が時々吹いて火照った体になかなか嬉しい。まったく、この黄色い声さえなければ最高だというのに……。
あれ? ってことは俺の汗も外に出ていくってことになって……こんな状態で妖怪に性的な意味で襲われたら抵抗のしようがないぞ。もっとも窓は高いところにあるし小さいのであそこから入り込むなんてことはないだろうけどね。
いやいや、それはいくらなんでも考え過ぎか。俺の汗が風に乗って命蓮寺中に広まるだなんてあり得るはずがない。それこそ馬鹿げている。俺は酷使した頭を休めるべく再び深呼吸をした。
それにしてもやかましい声だ。誰かがやらかしたのだろうか、それともまた弾幕沙汰に発展したのだろうか、声がどんどん大きくなる。
風がひときわ強く吹きすさんだのか、入口の扉がガタガタと震える。ああもううるさくてかなわない。きっと扉がちゃんと閉じられていないのだろう。
俺は一度湯船から出ると今もガタガタ音を立てる扉に手をかけた。あれ? 俺の目の前で扉が思い切り開いたかと思うと、今は外で宴会している筈の少女達の声が一際はっきりと聞こえ始めて……!
……と、コレが俺が引き起こしてしまった体液媚薬異変の顛末である。後にも先にもあんな刺激的で淫靡な入浴などそうそうないだろう。結局は永琳が中和剤入りの矢を拾い直して俺に投与することで異変は収まったものの、まあ「真っ最中」だったわけでその後の混乱も推して知るべしといったところ。媚薬効果云々の前に紫と幽々子あたりは割とノリノリだったので(「おおっぴろに人間を襲えて楽しかった」だとさ)最悪の事態は回避できたものの、宴会としては大失敗もいいところである。こうやって述懐しながら今は風呂掃除に精を出している。
どうかこれを読んでいる皆も薬の副作用には気を付けて欲しい。そして、体調が悪いのに無理をしたりしないで欲しい。これ以上の悲劇が生まれないことを俺はただただ祈るばかりである。
風呂場でのおせっせシーンはないのかって? そこは原作と同じように「ご想像にお任せします」。
今回はR-18化リメイクなので、大筋はそのままであるものの、実際に「コト」が起きたことは明記してみました。