※この作品はR-18です。

東方銀翼伝 side story ~轟アズマ争奪戦!~   作:命人

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 汗から悪い「気」が出ているからと、強引な治療を雛と衣玖から受けていた轟アズマ。

 だが、その悪い「気」に直接あてられてしまった衣玖はアズマを天界へさらってしまおうとする。


Chapter6 ~破られたセーフゾーン~

 非力なひとりの人間の男が妖怪に襲われて、今まさに身も心も「食べられ」そうになったその時、突然俺が横たわっていた机が吹っ飛んでいき、衣玖に直撃した。その衝撃で俺達は思わず転げ落ちる。俺を襲っていた二人はさっと立ち上がり、息が上がりながらも向かい来る脅威に鋭い眼光を向けていた。

 

「私達のお楽しみ……ゲフンゲフン、治療を邪魔するのは誰っ!?」

「誰であろうと空気を乱す行為は褒められたものではありませんね」

 

 本音が出てるぞ雛。だがこれ以上は明らかに一線を越えそうであったので助かった。それにしても誰が助けてくれたのだろう?

 

 その相手を目の当たりにし、二人は思わず怯んでしまった。そう、厄神やリュウグウノツカイの妖怪など比べ物にならないほどの鋭い眼光の持ち主。日傘をこちらに突き出し威嚇するのは幽香であったのだ。

 

「結局訳の分からない理由を持ち出してアズマ君をさらって、イタズラするのが目的だったのね?」

 

 問答無用の弾幕の嵐。このままではこちらに被害が及ぶので、先程まで俺が寝かされていた机を立てて、盾の代わりにする。迎撃したりする二人のフリルな少女は無視して、俺は這いつくばるようにこの場から逃げた。

 

 汗がどうのこうのとか言っていた。それに衣玖のあの豹変ぶり……。いったい俺の体に何が起きているというんだ!?

 

 

 

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(その頃永遠亭……)

 

 蒸し暑い調合室で月のウサギとそのお師匠様がせっせと薬を調合していた。

 

「ウドンゲ、その薬草をすりつぶして! それからあっちの溶液と撹拌して熱を持ったらそっちの粉末を……」

 

 テキパキと指示を出していく月の頭脳。何を作っているのか、それは轟アズマの体に起きてしまった「副作用」を中和するものであった。かなりのペースで調合が進められているが、日は既に沈み、宴会開始までに間に合わなかったことが分かる。

 

 だからこそのこのハイペース。

 

「大丈夫かなぁ……」

「なんだかんだ言ってあの子は住職サマ譲りの真面目な性格だからそう簡単に流されはしないわ。さあ口より手を動かして」

 

 黙々と調合を進め更に時が流れ……。

 

「お師匠様、出来ましたね!」

「あとは命蓮寺に赴いて彼にこの薬を投与する。それで全てが元通りよ」

 

 大惨事を迎える前に間に合ってくれ……。その思いを胸に二人は永遠亭から勢いよく飛び出した。

 

 

 

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 ひぃひぃ……。それにしても酷い目に遭った。どうにか回収した服を着こみながら振り向くと、今も弾幕ごっこが繰り広げられている。

 

 あのまま幽香さんの介入がなかった場合はどうなっていたのだろうか?

 

 邪魔……もとい助けが来なかった場合の展開が脳裏をよぎり、俺はブンブンと頭を振る。いかんいかん、そんなことになったら白蓮に合わせる顔がなくなる。

 

 まとわりつく煩悩と格闘しているとやたらと青白い顔をした早苗を見つける。グッタリしており飲み過ぎたのだなというのが容易に想像ついた。同じ卓にいたのだろうか、アワアワと慌てふためいているのは秋姉妹のお姉さんの方。

 

「小さいグラスのビールを一気にあおったかと思うと『この幻想郷では常識にとらわれてはいけないのです!』とか言い出してお酒飲めないのにガブガブと……」

 

 ああ、面倒くさいモードになっちゃったのか。で、体の方が耐えきれなくなって現在に至る……と。

 

「あっ、アズマさん。この幻想郷では……」

「もういい、喋るな。あんたはよくやったよ。さあ、白蓮さんのところへ行こう!」

 

 ヨイショと早苗を背負うと白蓮の待つセーフティゾーンへと歩みをすすめる。既に宴会会場はカオスに包まれており、ちょっとした弾幕ごっこが発生したりそれを引き留めんとする少女が出てきたりと大変なことになっていた。

 

 とても俺一人で全部をどうこう出来るレベルではない。でも今は早苗を助けないとね。今の彼女は俺の背中に顔を埋めてすぅすぅと寝息を立てている。

 

「おっきな背中~♪ おんぶおんぶー。むにゃ……」

 

 小さいころの夢でも見ているのだろうか? 俺は父親でも兄貴でもないがとにかく今は守らなければならない対象である。重たいとか背中にたわわなモノが当たっているとか気にしている場合ではない。俺も気合を入れて歩みを進めた。

 

 ようやっと宴会会場の最奥、ソフトドリンクとお菓子のたくさん置かれたセーフティゾーンが見えてくる。ここはお酒の飲めない白蓮が酒に潰れた皆を無慈悲なる酔っ払いから守ってくれる場所だ。

 

「聖様、早苗さんが……あれ?」

 

 だが、この「聖域」を守る彼女の姿が見えない。白蓮がお酒を飲むとは考えにくいのでお手洗いにでも行っているのだろうか? あるいはイタズラが過ぎる誰かを南無三しに行ったか……。とにかく泥酔した早苗を一人でそのままにするわけにはいかない。

 

「しゃーない、白蓮が戻るまで俺が介抱するか……」

 

 こんな時だというのに保護者は何をしているんだと一瞬憤ったが、あの神様達の顔を思い浮かべるとこれも仕方あるまいと肩を落とす俺なのであった。

 

 

 

「ほら、水を用意したよ」

 

 とにかく水分を摂らせて頭を冷やして貰おう。差し出したコップを受け取った早苗は無言でゴクゴクと喉を鳴らす。紅潮しきっていた頬が若干の落ち着きを見せたものの、彼女の両眼は未だにトローンとしていた。

 

「この幻想郷では……常識にとらわれ……」

「『常識にとらわれてはいけない』という常識にとらわれているぞ?」

「はれ……? 常識が常識でだから幻想の……」

 

「もういい、今はおしゃべりする気分じゃない」と諭すと、もう一杯の水を勧めた。これも大人しく両手でコップを持ちつつゴクゴク。一気に飲み切ると「ぷはー」と気持ちよさそうな声を漏らした。

 

「うーん、やっぱりお酒でおかしくなっていたみたいです……。まだポワーンとしますぅ」

 

 立ち上がり元の会場に戻ろうとする彼女の腕を俺は引いて引き留めた。「なら休め」と口にして。

 

 ふらふらと再び座り込んだ風祝はまるで俺に寄り掛かるように倒れこみ、コテンと膝の上で横になってしまった。横たわりながらこちらの顔を見上げてくる。

 

「アズマさんが潰れていた私を助けてくれたんですね♪」

「早苗がお酒を飲めないの知ってたからね。まさか自分から暴走するとは思わなかったが」

 

 ばつが悪いのか、テヘヘと小さく舌を出して笑ってごまかそうとする緑髪の少女。空いていた俺の片手を両手で優しく包むように掴んできた。

 

「やっぱりお酒には飲まれちゃいますね。あのままだったら大変なことになっていたかもしれません。そんな私を助けてくれたアズマさんはまさに王子様です」

「呑んだくれの酒臭いお姫様なんて嫌だぞ?」

 

 とんでもないこと言いだす早苗の額を軽く小突いた。今のやり取りがおかしかったのか、一度「ぷっ!」と笑いのダムが決壊すると、早苗はくすくすと笑いだした。急なことではあったが、その笑いに声に俺もつられてしまった。

 

 男女のなんてことない笑い声が「聖域」に響き渡った。何ともばかばかしくて素敵な会話のキャッチボール。

 

 一通り笑い終わると疲れたのか、飲兵衛姫はすぅすぅと俺の膝の上で寝息を立ててしまった。

 

「やれやれ……」

 

 見回りの役目があるのだが、白蓮もいないこの最後の砦をもぬけの殻にするわけにもいかないし、さっきから腕にスリスリと頬ずりしてくるんだから離れるに離れられない。

 

 気持ちよさそうに俺の膝の上で寝息を立てる早苗の髪を優しく撫でながらも、宴会がちゃんと進んでいるかを案ずる俺であった。

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのだろうか? 酔っ払いの介抱をしていると甘ったるい声がこちらに向かって語り掛けてきた。

 

「あらあら、魔住職サマの居ぬ間に浮気とは随分な方ですわね。やっぱり若い子がいいのかしら? くすくす……」

 

 こいつは……邪仙か。年頃の男女が二人揃えば即浮気とか滅茶苦茶なことを……。まあここで熱くなっても意味ないし、このわからず屋の為に丁寧に説明してやろう。

 

「俺は今回の宴会が滞りなく進むかを見て回っているだけだ。でも今は見回りで見つけた泥酔した子の介抱が優先。お前が期待しているようなことは何一つ起きていない。……納得したか?」

 

 が、そんなのお構いなしに俺が早苗に鞍替えしたこと前提で勝手に話を進めていく。

 

「わたくしではなくてその巫女の小娘ってのが癪に触りますが……。ところで悪の大王サマはこの席がお気に入りだったというのにどこへ行かれたのでしょうね?」

 

 そうだよ。「聖域」にいる筈の白蓮が、お酒が飲めない我らが住職サマが「聖域」を離れるだなんてことはあり得ない。こいつまさか……! 俺は早苗の頭を折りたたんだ座布団に優しく乗せると、薄ら笑いを浮かべる邪仙に食って掛かる。

 

「貴様、びゃく……聖様に何をした!?」

 

 しかし、いやこの場合は「案の定」か、俺が伸ばした腕をするりとかわすとニタニタと笑いながらこいつは続ける。

 

「あらやだ、いくらわたくしでも魔住職サマに直接『毒』を盛るだなんて無謀なことはしませんわ。あんなに強いんですもの。直接手をかけるなんて自殺行為ですわ。おぉ怖い……」

 

 狼狽える俺を見て本当に楽しそうに薄ら笑いを浮かべてやがる。コイツの言う事が本当なら、毒(おそらくテキーラのような高濃度アルコール飲料のことだろう)を白蓮以外の誰かに盛ったことになる。

 

 誰に盛ったんだ? 早苗さんか? いや、彼女が泥酔した理由は自分からガブガブ飲んだだけなので違うだろう。というよりコイツが関わっていたら静葉さんが何かしら言及している筈。ではいったい誰を……?

 

「とにかく、わたくしは悪の大王サマに変なものは盛ってませんわ。さて、困り顔も飽きてきたのでもう少しヒントを。やはり……轟アズマは似ていますわね、あの魔住職サマに。正義感にあふれて、誰にでも優しく接しようとして、自分ではない誰かが苦しむ姿を見ることが何よりもの苦痛で……。だけれどその本質は邪悪一色のあの魔住職サマに……」

 

「黙れ!! 白蓮のことをこれ以上悪く言うと……」

 

 無意識下に俺はこの青い仙人の胸ぐらを掴んでいた。こんな状態だというのに顔色一つ変えない。こちらを小バカにするように小さく「きゃっ」と小さく悲鳴を上げるだけだ。

 

 こいつは薄ら笑いの仮面をかぶっているのではないかと勘繰ってしまうくらいだ。

 

「やんっ、ケダモノ♪ これ以上悪く言うとわたくし何されちゃうのかしら? せーが、怖いわ~」

 

 俺はふざけて怯えている演技をする青娥の瞳の奥がギラリと光ったのを見た気がした。何か仕掛けてくる、しまった! だが、思考回路が危険信号を出したころには時既に遅し。サッカーボールくらいの大きさをしたどす黒いエネルギー弾が俺の腹で炸裂した。

 

「ぎゃあっ!」

 

 爆風に飲まれ、数メートル吹き飛び地面に突っ伏す。

 

「襲われると思って思わず弾幕使っちゃった♪ でもこれって正当防衛ですわ。かわいそうに、お腹にポッカリ穴空いちゃった? くすくす……」

 

 思えばアールバイパーもないのに仙人に戦いを挑もうとした時点で無謀な話なのである。傷の方は……あれ、大したことないぞ。吹き飛ばされた衝撃で頭が朦朧とするが、致命傷を受けた感じはしない。

 

「そんなに怖い顔しないで頂戴。最初から怪我なんてさせるつもりはありませんわ。だって、死んじゃったら轟アズマを本当の意味で魔住職サマから奪ったことにならないから……ね」

 

 要は俺を殺した後でキョンシーにして白蓮から俺を奪ったところでそれは「青娥だからこそ出来た芸当」であり、完全勝利とは言えないということらしい。青娥は能力抜きで女子力だけで俺を白蓮から奪い去り、屈服させたいようなので、俺が死んでしまってはダメということらしい。

 

 なるほど、命の危機は去ったが……こんな人を道具扱いするような奴はこちらから願い下げだ!

 

 恐らく白蓮本人ではなくて彼女と親しい誰かに「毒」を盛っている。それで白蓮は「毒」を盛られた誰かを介抱するために「聖域」にいないということだろう。「毒」の犠牲者が出たものの、それは白蓮ではない。

 

 ん、待てよ……? こいつは一体何のためにこんな回りくどいことをしているんだ? アルコール禁制の「聖域」には飲兵衛は近づきたがらない筈。あるとすれば早苗のように潰れてしまった場合くらいだろう。

 

 そして「聖域」を管理する白蓮を介抱の為に追い出すことで「聖域」でまともな思考を行える者は誰もいなくなる。そして待ち構えていた青娥……。しまった、最初から俺を狙っているんだ!

 

 俺がそのことに気づいた頃には奴の姿は見えず、左右に目をやり探すが見当たらない。そうしていると背後から……

 

「うふふ、大正解♪ わたくし、轟アズマが欲しいのですわ。今日はいつにもまして素敵なのですね。首筋からも男らしい素敵な香り……」

 

 首筋に時折息を吹きかけながら優しく腕を回し、さらに片脚を絡めるように背後から抱き付いてくるので動けない。もちろん白蓮クラスの素晴らしさ……もとい破壊力を持つ「凶器」による責めも執拗に背中を襲ってくる。

 

「お前の魂胆はバレバレなんだよ。このっ、このっ……!」

 

 とても心地よいがこんな見え見えの罠にかかるほど俺も馬鹿ではない。理性が吹き飛ぶ前に振りほどこうとするが、柔く巻き付いているように見えてなかなか振り落せない。ジタバタともがいていたら一瞬だけ腕の拘束が緩まった気がした。今しかない!

 

「ええい離れろ! 俺もアールバイパーもお前の好きにはさせない!」

 

 俺は片腕を掴み取ると、エイヤッと振りほどいた。

 

 俺が青娥の片腕を掴んで振りほどいた後、バランスを崩した邪仙は崩れ落ちるように転ぶと上目遣いでこちらを見てくる。ふんっ、そんな目で見ても俺は流されないからな!

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