※この作品はR-18です。

やっぱ呪術界ってクソだわ 自主規制解除版   作:TE勢残党

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久しぶりにレア回です。
なお今回、人によって非常に不快と感じられる描写が含まれている可能性があります。注意の上閲覧してください。


#48.5 "舞屋レアの日常(前編)"

 福岡都心から車で約1時間、文字通り山のふもとのような立地に空閑家の本邸はある。

 

 一般にイメージされる地方都市ほど栄えていないが、イメージされるほど限界集落でもない、どこにでもある普通の田舎だ。

 

 ただ、「詔勅六家」に属する他の家柄、五条・加茂・禪院(いわゆる御三家)が京都に、守矢(長野)と雨宮(山梨)が東京に接続しているのと違い、九州に所在する空閑は歴史上一貫して中央権力から遠方にある田舎だった。

 

 そのためか、土地柄として旧弊的な雰囲気が漂っており、一方で空閑家の方針としては「使えるもの、新しいものは積極的に取り入れる」ことを徹底しているため、家内は独特の雰囲気が醸成されている。

 

 呪術界では、「空閑家は伝統を大事にしているため保守派に属する」という言説と、「空閑家は近現代の戦闘ドクトリンに忌避感を持たないため呪術師らしくない」という言説が併存している。

 

 その答えが、この家内の雰囲気にあった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 正月。

 

 御三家は貴族然としたやり取りを含む格調高い慶春会を開催している一方、福岡に所在する空閑家では、地元なりのやり方を踏襲した祝い方が一般的だ。すなわち、本家とされる家に集結し、酒盛りをするのである。

 

 徹とその家族は一族の中で総本家に当たるため、こういう祝いの場ではホスト側だ。徹自身も年末から準備に追われる。本家の息子、次期当主候補として一族の人間に顔を見せることはもちろん、普段は関わらない遠縁の人物まで100名を超える者たちが一堂に会する。

 

「若殿。あけましておめでとうございます」

 

「増崎さん、おめでとうございます」

 

「どの」というより「どん」に近い発音で挨拶をしてきたのは、分家筆頭とも言われる増崎家の当主、増崎宏貞だ。数年前、徹と共に戦い、そして命を散らした戦友「増崎宏美」の父にあたる。

 

 コミュニケーションの基本は「認知」だ。一族の棟梁を継ぐものとして、全員の顔と名前、仕事や呪術師としての役割、本家から見た関係性は一目見ただけで即答できることが求められる。「よく知らないオッサン達」で済ませていいのは、家を継ぐ気のない人間だけだ。

 

 増崎家や舞屋家のように有力な分家のメンバーはもちろん、どんな末端出身でも、最近生まれた子供や結婚相手として一族に入ってきた者などなど、全て把握し、先手を打って挨拶をして回る。

 

 同じ家の人間は自分の手足同然。隅々まで把握しているのは当たり前のことだ。彼らはいざとなれば当主のために命を捨てる兵隊でもある。これが企業の元で働かせたいだけであれば金と待遇で十分カバーできるが、命を懸けさせるだけの忠誠心を維持するためには、このような前時代的やり取りが結局のところ最も有効なのだった。

 

 一方玄関では、朝から何台もトラックが行き来し、大量の荷物が搬入される。4桁単位の年賀状に始まり、関係先……特に呪霊対策契約を結んでいる地場大企業からのお歳暮の山が玄関近くの空き部屋を埋め尽くすのがこの時期の恒例行事と化していた。

 

 空閑家は九州の呪術師として最高位の家柄。すなわち九州一円の呪霊対策を一手に纏める立場だ。それはつまり、空閑家に嫌われたら事実上、呪霊対策が不可能になることを意味している。

 

 創立当初からの付き合いである九州七社会を筆頭に、どこの企業もご機嫌取りに必死だ。会社によっては呪術師との橋渡し……つまるところ接待を専門とする部署を用意している所すら存在し、必然、送られてくる品物も企業としての威信をかけたものになる。

 

これもまた、当主として何処から何が来たか覚えておいて然るべき御礼の品を各方面に送り、また各企業などへ赴いた際に嬉しがって見せなければいけない。

 

贈り物選びは貴族のたしなみだ。好みや偏りはあってもいいが、ある程度手広く知識を持っていないと恥をかいてしまう。贈られてきた物の価値を正しく判断できないようでは笑いものだ。

 

「こいはお祝いの品ですたい。大したもんじゃ無かばってん」

 

「とんでもない、熊本のメロンはハズレなしと言います。ありがたく頂きます」

 

増崎家当主、増崎宏貞が恭しく差し出した立方体の桐箱には、真冬だと言うのにメロンの焼印が入っている。静岡の最高級品には1歩譲るが、熊本県もメロンの産地として知られる。その最高品質の一品であろう。1玉と緩衝材だけだろうに、ズッシリとした重さが徹の腕に伝わった。

 

増崎家周辺では育ちすぎてラグビーボールのようになった大玉のメロンをかなりの安値で手に入れられる程度に流通しており、重さと大きさが重要で、かつ携行可能な程々のサイズ感が求められる「手土産」として選ばれることもよくある。

 

なお、これはあくまで(次期)当主への挨拶がてら手渡される手土産であって、本命の祝いの品は別口で準備されている。こういう形式が大事な部分を省略せず現代まで受け継がせるのが、空閑家の家中を空中分解させないノウハウであった。

 

 そうして昼頃までに親戚が出揃うと、いよいよ酒盛りが始まる。空閑家の場合、会食と言うほど格調高い訳ではないし、ドレスコードなどもない。集まる際は私服だし、特に集合時間の指定もされないのが通例だ。それでも正午前には事前に出席の連絡があった者たちが全員揃い、広間で食事会となる。

 

「では、頂きます」

 

 この場で、慶事などの報告が一通り行われる。結婚や子供誕生、元服などはここで報告されることになる。会の仕切りはもちろん現当主だ。

 

 それが終わると、いよいよ無礼講となる。

 

 空閑家の場合、畳敷きの広間にローテーブルを並べ、そこに料理を満載する。

 

 一般に想像される重箱のおせちではなく、地元民が「鉢盛」と呼ぶオードブル形式の大皿料理だ。これは空閑家の特色というより、福岡県南から熊本にかけての一部地域で残っている伝統である。

 

 このあたりでは年末年始にはスーパーに「鉢盛コーナー」なるものが生まれ、予算別3000~10000円の大皿料理を2つも3つもビニール風呂敷に包んで車に積み込む光景を見ることができる。

 

 中身については、一般的にはから揚げやエビフライやポテトサラダなど「普通のお惣菜」が詰め込まれることが多く、特にこれといった作法はない。

 

 新しいものを積極的に取り入れる空閑家らしく、机上に盛られている料理もローストビーフだの刺身だのエビチリだの、家中の人間のリクエストに基づいて雑多だ。

 

 その一方で、親戚一同で集まって鉢盛を肴に酒を酌み交わすという伝統的な九州の在り方は堅守する。

 

 京都のように座る場所ひとつから厳格に決まっているわけではないが、家長が口をつけるまでは料理を食べ始めてはいけないとされる。

 

 こういうチグハグさが、呪術界における空閑家の相反する評判を形作っているのだった。

 

「若、明けましておめでとうございます」

 

「ああ」

 

 平然と未成年飲酒が行われるのは九州の常だが、空閑家にも一応「子供に酒を飲ませたらいかん」という決まりは存在する。ただし、この文脈における「子供」の定義は未元服者と無役者だ。

 

 当然ながら、昨年の時点で元服を済ませている徹はさっそく手元のコップに焼酎を酌されていた。先のメロンと同様、分家筆頭・増崎家の当主が仕入れた、人吉のさる蔵元が作った逸品である。術師としては今一つでも、財力だけなら本家を凌ぐとも言われる増崎家は、こういう部分で存在をアピールすることに余念がない。

 

 前年の正月は、徹の次期当主指名祝いを兼ねて普段より盛大に行われた。今年は例年通りに戻ったため、親戚たちもスーツや着物ではなく私服で集まっていた。呼ばれたメンツも一族郎党に限られ、100人以上いるとはいえ「身内の集まり」の域は出ていない。

 

「……」

 

 徹は一瞬心の中で葛藤したが、なみなみと注がれたそれを一息に飲み干す。なお、米焼酎の酒精は概ね40度、ウイスキー等と同等である。呪術師として極めて頑健な身体を持つ彼らだからこのような無茶ができるのであって、普通は一口だけにとどめておくなどの「配慮」がなされることは注記しておく。

 

「かぁ~! 流石若殿、よか飲みっぷりですたい!」

 

「術式ん強か、酒も強かなら空閑は安泰よ。こん先もお役目ば続けらる」

 

 それを見て、注いだ本人である増崎家当主をはじめとする一族幹部の面々が歓声を上げる。そうして上座、当主の隣に座らされた徹の近くに現れては口々に徹を褒め称えていく。

 

 空閑家は特に、名門一族では珍しく仲が良いことで知られる。それは術式と血筋に裏付けされた厳格な階級制度がもたらす安定だ。

 

「お役目ち言えば」

 

中でも年嵩の術者が、ニヤリと笑って徹の方を見る。

 

「今度()()ん産まれたち言うけんね。一番大事なかこつがよう出来とる」

 

60代ほどのこの男が言う通り、徹には最近、レアとの間に第一子が誕生していた。

 

「おぉ、そげんやった。おめでとうございます若殿」

 

「おめでとうございます」

 

口々にそのことを祝福する重臣たち。だが「そのこと」に対し、お祝いの品を用意している者はいない。

 

理由は2つ。第1に、レアは徹の筆おろしを担当した「あてがい」で、正妻ではないから。公式記録上は「次期殿の戯れの結果」なので、口では喜んでも形にはされない。

 

第2に、どちらかと言うとこちらの方が割合が大きいが、産まれた子が強い術式を持っているかはまだ分からないからだ。

 

呪術師として、空閑家もまた術式至上主義にて動いている。産まれた子供が相伝、「禁縁呪法」を持っていれば妾腹だろうが何だろうが跡継ぎとして認められる。

 

逆に言えば、正妻の子だろうが術式を継げなければ跡継ぎになれない訳で。

 

レアはまず、徹を子作りに積極的にさせた(苦手意識を持たせなかった)ことや、そもそも徹に生殖能力があるのを証明したという意味で「よくやった」という認識。

 

「次期殿にはこれからもぽこぽこ産ませてもらわんと」

 

結果として、家としての総意はこの老人の言に準じる。

 

「はは……まあほどほどに……」

 

「なんね、あげな美人とセックス三昧できるとやからもっと喜ばんか」

 

「そうそう、肌ん白して、顔も可愛いし、身体もモデルんごつしとって、その上乳もこげんふとか。ウチの嫁と比べたら雲泥の差たい」

 

「次期殿、レアはあん顔あん乳でずっと現場にでよったけんが、若かもんは皆一度はレアでマスを掻いとる。あんましスカしとると良か顔されんですよ」

 

この広間には、レアを含め女性の姿はない。女性陣は裏で配膳に片付けにと仕事に追われており、こうして酒を酌み交わしつつ近況報告に興じるのは男性陣の特権であった。

 

コンプラという概念の存在しない男社会故、酒が進むと話題が卑猥な方向へと進むことも珍しいことではない。前世含めてこの手の体育会系の集まりに接点のなかった徹はこういう時、非常に対応に苦慮していた。

 

「あん娘もなまじ器量んよかけんち言うて昔はえらい高く止まってから、我々も手ぇば焼いとったとですたい」

 

「舞屋の嫁(レアの母親)にいくら言うても収まらんで、やれ学校行きたいだの術式ば究めたいだの、それ自体はよかこつばってん、その前にせなんこつが出来とらんやったけんな」

 

幹部たちは「親戚の更生した元引きこもり」を語るような、しみじみとした口調で続ける。

 

「親でもどんこんしきらんとやったら、こやちっと可哀想かばってん誰かモノにしちゃらんと治らんばいち言いよったとこでしたけんの、当主さんのご指示があったつは」

 

「次期殿のあてがいに付くう、ち聞いた時はもうびっくりしましたよ。あげな跳ねっ返りの、それもおぼこばつけてから」

 

「後家の女にやらする仕事やんけん、もし手酷く振ったりして女ば怖がるごつなったらどうすっとかち皆心配しょったな。女衆がそうにゃ言って聞かせたっちゃ聞いとったばってん」

 

彼らの言から浮かび上がるのは、徹に色仕掛けをかけるに至る以前のレアと、現在の扱いの違い。

 

「そいが蓋を開けたら、なぁ?」

 

流石ですたい、と幹部の1人が徹を持ち上げる。周囲の男たちも概ね同意見であるようで、「容姿にも実力にも恵まれたが誰のモノにもなりたがらずずっと売れ残っていた問題児のレアを、当時童貞だったはずの徹が見事にモノにしてのけた」という逸話は、皮肉にも徹の「男」としての箔付にこれ以上なく働いているらしかった。

 

「具合ん方はどげんですか。童貞卒業の一発目からあん跳ねっ返りをちゃーん躾けてモノにしたち言うこって、若っかモンは皆えらい次期殿を尊敬しとるけんが、参考までに聞きたかです」

 

「若いモンが皆欲しがっとったレアをモノにしたんやけんが、乳の揉み心地のひとつくらい教えてくれてもバチは当たらんですたい」

 

――彼らは心強い味方だが、同時に(前世の)長い時間を関東で過ごしてきた徹にとって価値観を異にする者でもある。

 

この露骨というか、出すところに出せばありとあらゆるハラスメントに該当しそうな会話を捌くことも、徹にはしばしば求められていた。




大変申し訳ありませんが、またしても前後編になってしまいました。
可及的速やかに仕上げますので今しばらくお待ちください。

なお今回、通訳なしで方言マシマシのセリフがてんこ盛りのため
きちんと意味が取れているかちょっと心配です。よろしければご意見お聞かせください。
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