こういう世界観で、みたいなのを語っていたら本番に辿り着く前に一区切りついちゃった
「ひっ……!……あっ……も、申し訳、あ、有りません、ご主人、様……。」
膝の上の少女、チラチラとこちらの顔色を伺うので、白い頭を撫でて宥めようとしたが、怯え竦んでしまった。
動きを止めて、少女、カナリアの出方を待つ。
恐る恐る、咄嗟に閉じた赤い瞳を開けて、私の手が宙で止まっているのを見てとると、叱られたように縮こまり謝罪し始める。
今度は、カナリアの目線より下から手を差し出す。
エスコートを求める淑女のように、手の甲を上に、私から触れるのではなく、カナリアが近寄るのを待った。
オドオドと、私の手と顔へ視線を彷徨わせて、やがて、意を決して私の手を取った。
小さな両手で恭しく引き寄せて、こちらを伺いながら、遠慮がちに、指先にチョンと頬で触れる。
少しだけ、表情を崩して、おもねる目で私を見上げて、私がされるがままなのを確かめて、小さく、小さく、頬擦りする。
生家で飼っていた犬を思わせる仕草、カナリアのような少女が、そんな振る舞いをするのにたまらなくなって、外套の中、膝に座らせたカナリアを思わず抱き寄せる。
ピクリと身体を震わせたが、多少強ばったくらいで、ほんのり体重を預けてくれる。
少しづつ頬擦りへの遠慮が減って、私からもカナリアの頬を撫でる。
ビクビクと私の動きに怯えながら、それでも撫でる手を受け入れて、少しずつ、カナリアの身体から力が抜けていく。
カナリアの体温がポカポカと高くなったのに気付いて、頬から手を離す。
思いのほか残念そうなカナリアに、出来るだけ足を伸ばさせて眠りやすい体勢を取らせる。
微睡む目のカナリア、背をトントンと、彼女が眠りに落ちるまで、ゆったりとリズムを取る。
「おやすみ、カナリア……。」
「……ぇぁ……にゅ……ぉやすみ、にゃさいましぇ……ごしゅ、じゅ、しゃ…………むぃ………………すぅ……んっ……すぅ……。」
眠りについたカナリアに風が当たらないよう外套の前を寄せて、勢いの弱まった焚き火に枝を追加した。
それから、カナリアの額に指先を添えて、安眠の呪いを一つ。
今は他に人が居ないとはいえ、これからも来ないとは限らないし、なにより、少しでも眠って体力を回復させないと明日の移動に差し支える。
それなりに上がってきたとはいえ、まだまだ地上は遠い。
いくら私が抱えて移動しても、疲労は溜まる一方だろうし、ましてや、カナリアは幼さの残る少女だ。
加えて、傷は一つも無いだろうが、あからさまに痩せ細った体躯は、普通の子供よりも貧弱だろう。
白い髪に白い肌、そして赤い目と神の気配、冥府の神による死にながら活きる祝福か、癒しの神の生きるものを生かし続ける御業か、豊穣の神の永遠に蘇り狩られ続ける刑罰か、神官では無い私に判別はつかないが、この娘のこれまでを想うと、なんて残酷な仕打ちなのかと嘆かずにはいられない。
生まれさえ違えば、噂に聞く姫御子のように、皆から愛される幸福に満ちた生を送れたのではないか、伝説の死なずの騎士のように、今なお語り継がれる英雄に成れたのではないか、少なくとも、それなりの町の、普通の家に生まれていたのなら、教会に歓迎されて、巫女や聖人を目指す道があったはず、なのに……。
カナリアはきっと貧しい村の子か奴隷の子だ。
時折産まれてくる不死の呪いを宿した子、王族に産まれたなら、貴族なら、騎士なら、市民なら、特別な力を持った、特別な子として、育てられたはず。
これが小さな村の産まれなら、まず間違いなく捨てられる。
人の、捨て切れない動物的本能か、髪も目も珍しい色だが、珍しいだけで加護が無くとも稀に産まれると知られているのに、それだけで忌むべきモノとされて、排斥される。
老いた神官や出世街道から外れた者が派遣される程度の村なら、そこから教会に保護されるだろうし、そうでなくても数少ない良識のある村ならより大きな村に連れていくくらいはする。
まだましなのは子供は金になると覚えた村だろうか、珍しければ高くなる、その程度の知恵は働かせて、死んではいない状態で巡りの奴隷商に売り払う。
奴隷商とて商人、よっぽどの馬鹿でないかぎり、しっかり育てて貴族や騎士に買値とは桁違いの高値で売り付け、あるいはコネを繋いで販路を広げていくだろう。
けれど、よっぽどの馬鹿は何処にでもいて、カナリアは多分そういう所の奴隷だ。
たどたどしい言葉遣いから最低限の丁寧な言い回しを教えられたのが分かる。
そうして、馬鹿な奴隷商が、馬鹿な探索者に、価値も分からず二束三文程度で満足して売買し、むしろ馬鹿だから儲けを不意にしたのも気付かず喜んだに違いない、そんな馬鹿の取引がされた。
その上、馬鹿だから意気揚々と実力に見合わない深さまで下りて、死なないカナリア以外は食い殺された。
カナリアを見つけた時、分かりやすく逃げた背を討たれた死体が転がる中、虚ろな瞳で空を見つめて、蜥蜴に腹を食われていた。
かろうじて残る布切れに、少女の身分を知って、せめて最期の慰めにと、私の出来うるだけの火力で、灰も残さず荼毘に付した。
しばし、黙祷して、魔力の動きに気付く。
周囲の気配を探りつつ、魔力を観察していると、少女が形成されていった。
骨肉に臓腑、剥き出しの筋に皮膚が毛髪が生えて、瞬く間に痩せ細った少女が現れた。
少なからず動揺する私とは違い、無感動に、淡々と、私が差し出す予備のシャツを受け取り、前の主人たちの死を認め、私を新たな主人と受け入れる。
カナリア、道先の危険を知らせる古臭い手法、その為の奴隷であると、自ら告げた少女。
捨てられ、売られ、唯一手にした役割に固執する少女、カナリアと呼ばれホッと安堵する少女に、私は、一体なにをしてやれるのだろうか。
眠気覚ましのただただ苦いだけの茶を口に含む。
腕の中、呪いの甲斐あってか、穏やかに寝息を立てるカナリア、その道行きを如何にして幸福なものに出来るのか、そんな答えの見付からぬ考えに取り憑かれ、今だけは苦汁こそが甘露であった。
火を絶やさぬように枯れ枝を焚べて、揺らめく火を見詰めて、堂々巡りに浸って朝を待った。
□□□□□
日の浮き沈みに合わせて明るさの変わる不可思議な迷宮にて、カナリアを気遣いつつもどうにか、また日が沈む前に地上に辿り着けた。
幼い少女を抱えて迷宮を出る姿に訝しげな視線を向けられつつ、カナリアの、主人の手を煩わせるわけにはいかないから歩くという我儘をあしらって、日暮れの街へ歩を進める。
この、俗世の欲望が押し固められた、迷宮街フロイントリヒカイトでカナリアのような少女を歩かせるなど、結果が分かりきった愚行をする必要は無い。
少なくとも私の奴隷である事が知られ、ひと一人くらいなら火だるまに出来るスクロールか魔道具を用意しなければ話にもならないのだから。
不満気なカナリアに、持ち帰ったタグの持ち主たちは、まさか無防備に歩かせていたのだろうかと、底辺がまだ下がる気配に呆れが強まる。
やがて辿り着く探索者ギルドの前、私のような家督を継げない元貴族な子息子女、殺ししか能の無い故に落ちぶれた傭兵もどきたち、村や町の力自慢、夢見がちな少年少女、運良く顔の割れていない山賊盗賊、命からがら逃げ出したあるいは支給された粗末な武具を盗んだ脱走兵、雑多な連中を辛うじてゴロツキチンピラ程度に繋ぎ留めている総本山が此処だ。
迷宮街の俗称通りに迷宮が有るから作られ、迷宮が有るから生き続けるこの街の心臓部、ただの食い詰めたちを労働者に仕立てる為、国から市民から探索者から大小様々な厄介事を肩代わりしたり押し付けられている大変哀れ、もとい、大変名誉有るギルドである。
常の通り、美女美男な受付担当に群がる同業たちを尻目に、馴染みのオッサンの下へ向かう。
娼館に通えるくらいに稼げる探索者からは途端に人気を集める受付担当、その内の一人なオッサンに依頼のあった素材、その他金になる素材や拾い物、そしてカナリアの元持ち主たちのタグを渡し、カナリアの取得を報告する。
カナリアを抱えている事へのからかいをあしらい、順番待ちの札を受け取り、併設された食堂へ。
幸いと言って良いのか間違い無くからかってくる友人や厄介な絡みをしてくる輩はおらず、それでも顔見知り程度の連中の軽口に丁寧な挨拶を叩き込みつつ、空いている席を陣取る。
適当に卓を清めて、丁度手の空いたウェイターに軽食と茶、果実水を注文する。
落ち着かない様子のカナリアを手慰みに撫でて時間を潰す。
早々に撫でられる事に慣れたようで、私が好きに頬を突いたりするのも受け入れ、私の手を遠慮がちに寄せて頬擦りするカナリア。
混み合い具合の割に早めに届いた注文、カナリアへ給餌しつつ私も食べ進める。
不死の加護のおかげなのか、粗食というか何も与えられていない可能性すらあり得る痩せ方だが、消化器官に問題は無いようで思いのほか健啖な様子を見せる。
とはいえ顎の筋力も心許ない有様なので、細かく千切ったパンをスープに浸けて、具材も解して潰して、出来るだけ柔らかくした物を口へ運ぶ。
物足りない顔すら見せたカナリアのため、追加で注文した麦粥も食べ終わり、私の飲む茶に興味を示したカナリアへ一口試させて、意外に何も入れない茶の苦みを気に入ったカナリアと共に食後の一服を楽しんでいる頃に札番号を呼ばれた。
「……は……?カナリアは奴隷登録されていない……?」
「ああ、お前さんが持ち帰ったタグ、そのパーティからすら申請されてもいないから手間取ったが、お嬢ちゃんの容貌、年の頃、それでカナリアって名前の奴隷は居ねえな。お嬢ちゃん、カナリア、以外の呼び名は無かったんだろ?」
「!は、はいっ!親には呼ばれませんでしたっ!私を買って売った人も、名前も無いのか、って面倒そうにしてましたっ!」
「……そうかい……。はぁ……ともかく、登録が無い以上、お嬢ちゃんは奴隷じゃあ
「!!」
奴隷の細かい制度には詳しく無かったが、賊やら後ろ暗い奴らに流されないように、少なくとも正規の奴隷という者たちは存外に手厚く管理されているそうだ。
そもそも奴隷になる者の多くは犯罪者だそうで、余計に、何処の誰が何時何故奴隷になったか、誰が購入して働く先は何処なのか、といった事柄は確実に記録されるとのこと。
つまりはカナリアを売買した奴隷商は明らかに不正規の犯罪グループに間違い無く、この後にでも軽く聞き取りをしようと、カナリアの処遇を決めるやり取りの中で触れた。
カナリアのこれから、常識的に考えるならオッサンから紹介状を受け取り孤児院に連れて行くのだが……。
腕の中から私を見上げるカナリア、吊り橋効果とか言ったか、それとも刷り込みか、私から離れ難いと瞳を不安で揺らしている。
すっかり懐いた様子だが、情が湧いたのは私も同じだな。
別に、カナリアを孤児院に預けたところで会うのが困難というわけでは無いのに、むしろ探索で家を空ける事が多い私の所よりも寂しさを感じないだろう。
暮らし振りについても、孤児院一つ養えるくらいには稼ぎが有る上に、探索者として、魔術使いとして、戦士として、子供たちの指導役の名目で幾らでも目を光らす事が出来る。
それでも、私はカナリアと暮らすことに多大な魅力を感じていた。
「カナリア。」
「は、はいっ!ごしゅ……フラム、様……。」
「カナリアはどちらが良い?私の家に来るのか、孤児院に行くのか。」
「!!よろしいの、ですか……?私が、選んでも……?」
「むしろ、君が決めなければならないんだ。カナリアは奴隷ではなかった。つまり、君の行く末は君自身が選び進むしかない。」
「そ、れは……。」
「おいおい、少し厳し過ぎだろ……子供相手に何言ってんだ……。」
「オッサンは見た目の割にお人好しだな?確かに子供の内にそんな選択は早々しないが、カナリアはそうではなかった。不運なことではあるが……仕方ないことだ。」
「にしたって、だ。それぞれの選択肢、それを選んだらどうなるかくらいは言えよな……。」
「それは、そうだな……。あー、っと……。」
孤児院に行くなら、まず加護の有る時点でかなり幅広い選択が出来る。
教会主体の所なら間違い無く聖女候補として大切に育てられ、カナリアの素質次第ではあるがゆくゆくは聖女でなくとも高位神官の道が約束されている。
貴族主体の所なら運が良ければ養子として貴族に成る道や、貴族子女の護衛あるいは侍女として取り立てられたり、まあ、妾や愛人なんて可能性もあるが、加護持ちならばまず悪い扱いは受けないだろう。
各ギルドによる共同経営の孤児院も、加護の有無に関わらず迷宮街で暮らしていくなら悪い選択肢ではないはずだ。
この街の発展の為、常に人材の育成へは投資が行われており、その一環として孤児院も利用され、様々な職人への弟子入りや商店の見習いへの斡旋、当然、探索者ギルドもかかわっているので、探索者育成の制度も充実している。
なによりカナリアと同年代の子供たちが居ることも重要だろう。
幼少の頃の同年代との交流は中々得難いもので、その上、友人の作り方や人付き合いのコツなど、私自身思い返してもあの頃だからこそ学べたことが多いのは事実なのだ。
私とオッサンで語る孤児院についてを真剣に聞くカナリアに、集中を邪魔しないよう可愛がりたい気持ちを堪える。
さて、私の所に来るのなら……。
困ったな、自分で思い浮かべても碌な事が無い。
それなりに大きな家を買ってパーティを組む連中と暮らしていて、カナリアの個室は用意出来るが子供一人ではむしろ広くて不便かもしれない、私は結構掃除が苦手でよく小言を貰いながら片付けを手伝って貰う有り様、料理は出来なくはないが迷宮で振る舞ったものが多少材料の分マシになるくらいで他の連中も似たような腕前、そもそも、迷宮探索で家に居ないことの方が多い、その間、カナリア一人で広い家で過ごさなければならないのだ。
「そ、それでも……私、わた、し、は……。」
「…………そんな、カナリアと暮らす、なんて口が裂けても言えないような、カナリアに寂しい思いをさせてしまう毎日が待っているだろう……。」
「ぁ、ぅ……。」
「それでも私は、カナリアが待つ家に帰る暮らしをしてみたい、そう思ってしまうんだ……。」
「……ふぇ……?」
「健気で可愛らしいカナリアに、幸せに過ごして欲しい、そうも考えるけれど、私は、私自身の幸せの為に、君の幸せを削るような事を願ってしまう。」
「私っ!私はっ……!フラム様のあったかい腕の中が好きですっ……!フラム様のご飯、ここで食べたご飯の方が美味しかったですけど……それでも!もっと食べたいのはフラム様ですっ!いっぱい、いっぱい優しくしてくれて、あんなことして貰ったのは、フラム様が初めてで……私からも、フラム様へお返しに、いっぱいしてさしあげたくて……!」
「カナリア……。」
「それに、フラム様が帰ってきてくださる家なら、きっと、私一人でも寂しいとは思わないですっ……!もし、寂しくても、フラム様を待つ寂しさなら、私、幸せだと、そう、思うんです……!だから、フラム様、私を、フラム様の家に置いて、いただけますか……?」
「もちろんだとも、カナリア。むしろ、私の方こそ、カナリアに、私の家に来て欲しいんだ。」
「!はいっ……!私で、良いのなら、喜んでっ!フラム様っ……!」
きっと、カナリアの無知に付け込んでしまったのだろうが、カナリアの笑顔に、この娘の幸せの為、私に出来る全ての事をしようと、カナリアを抱き締める腕に力を込め改めて決める。
どの道、カナリアが自衛出来るような準備が整うまでは一人にするつもりは無かったのだから……。
「あー……お熱いのは良いがよ、ご両人?場所と時間くらいは弁えてくれや。」
「何の話だ、オッサン……?」
「……?」
オッサンの言葉には、カナリアと顔を見合わせ疑問を浮かべるしかなかった。
失礼にも肩を大きく竦めて、これ見よがしにため息をつくオッサン、だがベテランの受付担当らしく必要な手続きを如才なく用意している。
まずは身分証明としても探索者登録を私のパーティに所属する見習いという形で行うが、一つ些細なけれど大切な問題があった。
「それでだな、お嬢ちゃん、登録する名前なんだが……カナリア以外でも良いんだぜ……?」
「?えと、それは、どういう……?」
「オッサンは、カナリアの名が囮としての呼び名なことを気にしてるんだろ。」
「!……その、変えた方が、良いのでしょうか……。」
「あっ……い、いや、そういうワケじゃあ
「だから、そのままでも良いんだ、カナリア。」
「そ、そう、なんですか……?フラム様……。」
ショックを受けたカナリアに慌てふためくオッサン、はっきり伝えた私を睨むが無駄にロマンチストなオッサンの自業自得だろう。
そもそもカナリアは、鉱夫たちの命を救う為のものであって、決して粗雑に消費されてきたわけでは無いはずなのだ。
何よりも、どんな理由であれ、何も与えられなかった少女に、初めて与えられたソレを奪うのは躊躇いがあった。
「それに私のフラムも元は渾名だからな。」
「!そうだったのですか……!」
「ああ、偶に居るんだが、親類と同じ名を付けて渾名で区別するんだ。私はエドガー・バイイという名だが、これは伯父上の名を頂いたんだ。伯父上の子供には父上の名を贈っていたり、伯父上の名も若い頃に槍の名手として活躍したからエドガーを名乗り始めたそうで、元は父の名つまり私のお祖父様の名だったそうだ。私は火の適正があったからフラムだな。」
「な、る、ほど……??」
これくらい聞き流せば良いものを真面目に一生懸命咀嚼しようとするカナリアが可愛らしくて、つい、必要でない事も口にしてしまう。
「つまり、せっかくだからカナリアも、好きな名を付け加えても良いんだ。そうだな、例えば、アプロディーテとか、ウェヌスかヴィーナスなんかはどうだ?」
「?どういう意味なのですか……?」
「三つとも愛と美の女神を示す名だな。」
「!?そ、それはっ!恐れ多いのでっ……!で、ですが……フラム様に、名付けて、いただいても、よろしい、でしょうか……?」
「私が?」
「は、はいっ!ぜひっ!あっ、で、ですが、先ほどのような名前は、避けていただけると……!」
「確かに、今のカナリアは可愛らしさが強いな。けれど、将来はきっと美の女神に相応しい成長をすると私は思うのだが……。」
「ぁぅっ……!そ、そのお言葉は嬉しいですがっ……!もっと、別の名が良いですっ……!」
「そうか?なら……うーん……。」
美の女神の名を挙げたのはカナリアに似合いそうだと思った以上に、神の名はそれくらいしか覚えていなかった。
他に思い付くのはブランシュかルージュだが、せっかく付けるのだから流石に色を名にするのは安直過ぎる。
なら花の名前をと考えて、一つ思い浮かんだ。
確か、不死の花言葉を持っていた、結構美味しかった実を付ける花の名、独特な見た目も嫌いではなかったそれを口にだす。
「……アマランサス……カナリア・アマランサス、アマランサス・カナリア……アマンサ……エイミー……?」
私が贈るのだから愛されたで良いだろう、エイミー・カナリア・アマランサス、語の響きの良し悪しは私には分からんが、中々良いのではないか。
「カナリア……エイミー・カナリア・アマランサス、で、どうだ……?」
「えと、アマランサスとはなんですか……?」
「植物だな。パンにして食べる分には特にクセは無いが、実としては潰れる食感が面白くて、粟に似てたがより弾ける感じが強くて、それに、カナリアは茶の苦みを楽しめたからな、あの味も気に入るんじゃないかと……。」
「!良い名前ですっ!フラム様っ!」
「そうだろう、そうだろう……。」
「……まあ、当人同士が良いってんなら止めねぇがよ……。」
オッサンが食い気の張った子供を見る目だが、仕方ないだろう、私だってアマランサスの花言葉に照れる所があるのだから……。
「んじゃあ、その名前で登録しちまうからな。手数料は、お前さんの換金分から天引きで良いよな?」
「ああ、それで頼む。ついでに、カナリア用の諸々を揃えるからな……口座から金貨三枚、一枚分は銀貨で引き出しを頼む。」
「おい……いや、まあ、過保護なのに変わりねぇが、それくらいが相場か……にしても、そういうの以外にも注ぎ込むつもりだろ……。」
「……大丈夫、自衛と言えるくらいには自重するとも……。」
「!?あ、あのっ……!フラム様っ……!ま、まさか、とは、思うのですが、えと、私、銀貨で三枚とかでしたよ……!釣り合いが取れていないです!」
「……オッサン、女の子の奴隷の最低価格って、幾らだった……?私が潜ってた数日で、飢饉か戦争でもあったか……?」
「…………記録の上でなら、銀貨十枚もあった……ただし、ここの迷宮が発見される前後、帝国の暗黒期とか呼ばれる大昔の話だよ……。」
さりげなく博識さを披露されたが、つまるところ貨幣の価値が違う頃の話というわけで……。
私も一人の男子、当然、その手の奴隷に興味津々な事もあった。
というか、今のパーティにその当時購入した元奴隷が居たりする。
その娘の値段は金貨十枚である。
なんの技能も無く、奴隷としての教育もまだな、口減らしに売られたただの村娘、商人への貸しがあったから売って貰えた格安価格、それでも金貨で十枚なのだからカナリアの異常さが良く分かる。
幼さすら売る相手を選べば値が跳ね上がる要素だろう、素人の私では高級娼館に卸される娘と比べて金貨五十枚か百枚かとしか言えないが、そもそもカナリアは加護持ちなのだから、値が付けられないような事もあり得るのだと思い直す。
……そう考えればカナリアの護身用魔道具はもっとこだわっても良いのでは……?
うん、そうだ、それこそ私の普段使いの、深層でも通用する代物でも……
「お前さん、そりゃあ幾らなんでも過剰に過ぎるからな?ここら一帯焼き払うつもりか……?」
「……わかった……自重、しよう……。」
「頼むぜ?まったく……ほら、金貨二枚、銀貨十枚、確認してくれや。」
「??えと、あの……?」
私とオッサンのやり取りで自身の価格などに困惑しているカナリアをよそに、受け取りを済ませて財布としても使っている袋に入れる。
カナリアへ探索者としての最低限の注意事項、殺すな盗むな暴れるな犯すながオッサンから伝えられ、件の奴隷商人もどきの聞き取りの為に個室へ。
カナリアが幼い事に配慮してくれたのだろう、聞き取りの担当は物腰柔らかなベテランの御婦人なギルド職員だった。
思いの外カナリアが辿った道順を覚えていて、迷宮からの位置関係でおおよその地点が把握出来て、後はカナリアを連れていた奴らの目撃情報で何処まで絞れるかといった具合いだ。
これ以上は出来ることもないので聞き取りはあっさり終わり、担当の御婦人にカナリアが可愛がられ、別れを惜しまれつつギルドを後にする。
私の家は、ギルド、迷宮、どちらからも同じくらい離れて、迷宮街の一般市民の住宅地からは遠く、探索者向けの職人通りや商店は近い、探索者にとってはかなりの好立地だ。
もっともパーティの連中からは、やれ酒場が遠い、やれ賭場が遠い、やれ馴染みの店が遠い、などと言いたい放題だが、まあ、家を持つ探索者は、ギルドの近くが良いだの、迷宮の近くが良いだの、娼館の近くが良いだの、各々こだわる所が違うのだからそんなものなのだろう。
私に言わせれば、ギルドから家まで、家から迷宮まで、それぞれの通りに屋台が立ち並ぶ最高の立地なのだ。
あちこちから香る食欲を誘う匂いに目を白黒させるカナリア、お構い無しに常連となった屋台を巡り、何時もの品からカナリアが興味を見せた品、時間の進みが遅い袋があるのを良いことに限界まで買っていく。
旺盛な食欲に噛む体力の追い付かないカナリアに様々なものから少しずつ、一口にも満たない分をゆっくり味わうのに合わせて家路を進む。
数種類の肉に魚や果実、私が普段食べ無い菓子の類、一通りは味見出来た頃に家の前着いた。
お互いに争いの火種を作らないように、やや過剰に家同士の間隔を取った探索者向けの住宅地、その一角、敷地を囲む塀は私やパーティの魔術使いだけでなく馴染みの魔道具職人にも防衛用の仕込みを依頼した自慢の防壁で、屋根裏部屋込みで地上三階地下一階建ての一見なんの変哲もない邸宅に魔術と構造そのものでこれでもかと防犯対策を施したのが私の家である。
ただ、カナリアにとっては、そんな、なんの変哲もない邸宅、の見た目にすら圧倒されるようだ。
呆然と家を眺めるカナリアを抱えて門を通り、玄関をくぐる。
そこで久々にカナリアを降ろして告げる。
「カナリア、今日これからは、ここがカナリアの家だ。部屋は、ゆっくり選んでも大丈夫だ。なにせ私を含めて六人パーティに、キッチンなんかを抜いた居室が十部屋だからな。物置きに使う必要も無いから掃除するだけの部屋があるんだ……。その内の一つがようやく埋まるが……暮らしてみて、こんな部屋が欲しい、となったら遠慮なく言ってくれると助かる。」
「!?え、あ、あの……!あのあの……!?私っ!奴隷……では、なかった、のでした……で、ですがっ……!こんな立派なお屋敷に、なんて……!えと、そうです!外でも充分ではないでしょうかっ……!?」
「庭はほとんど用途が決まっている。大部分は鍛錬用で、他は、観賞用、研究用、趣味用の菜園だ。だが、ふむ……丁度、裏手が売りに出されたそうだからな、カナリアの為の離れを一棟作るのに、そちらも買い取って良いかもしれないな……。」
「!?!?えと……!えと……!?わ、私っ、お部屋を使わせて頂きたいですっ……!!」
「ふふっ……そうか?遠慮しなくても良いんだ。一棟丸々使ってみたくないか……?」
「!よ、良かった……フラム様も、冗談を言うのですね……。」
「ん?冗談のつもりは……まあ、良いか……。そうだな、広くて落ち着かなそうなら、私の部屋を一緒に使うか?今は散らかっているが、広さは二人部屋として使っても問題ないはずだ。同じ理由で二人部屋なのが居るからな。」
「!フラム様と……!えと……よろしい、のですか……?」
「パーティの連中と仲良くなれればそっちに移っても良いしな。」
「えと!その……!私、フラム様と寝るの、楽しみ、ですっ!」
ワクワクでいっぱいのカナリアの笑顔、その頭をワシャワシャと撫でて、カナリアに帰宅の挨拶の概念が無くてもおかしくない事に気が付いた。
ならば、カナリアに教えなければならない、これからの日常の何気ない大切な事、その一つ目を……。
「カナリア、帰宅の挨拶は知っているか?ただいま、おかえり、だ。」
「!!……ただいま……おかえり……。」
「家に帰ってきたら、ただいま、帰ってきた者を迎えるのが、おかえり、だから、カナリア、おかえり。」
「!!は、はいっ!ただいまっ!です!フラム様っ……!えと!おかえりっ!です!フラム様!」
「うん……ただいま、カナリア……。」
「えへへへ……。」
交わした挨拶を噛み締めてはにかむカナリアをひと撫でして、再び抱え上げる。
ワタワタと抵抗するが、迷宮からの帰還に初めての経験、きっと気分が落ち着いたらそれらの疲れが一気に襲うだろう。
そうならない内に私の自室に向かう。
家主の権限で確保した、階段を上がった直ぐの部屋が私の部屋だ。
清掃の呪いで汚れを落として、部屋着に着替え、カナリアのシャツも部屋用のものに替えて、私は数日振りの、カナリアは初めてだろうか、ベッドに潜り込む。
何故か顔を赤くしているカナリアだが、既に疲れが出たのかもしれない。
少しの間カナリアを撫でて、毛布越しにお腹を一定のリズムで軽く叩いて眠りを促す。
あっという間にフニャフニャ言い出したカナリアにおやすみを告げて、安眠の呪いに疲労回復を促す呪いを掛けて、私も間もなく眠りに落ちた。
カナリア用に買い揃える必要のある物を考えながら、ふと、こんなに目覚めの朝が待ち遠しいのは、何時以来だろうかなどと、そんなことを考えながら眠った。
健康的に、肉付きの良くなったカナリアと交わる夢を見てしまい、翌日寝ぼけてまだ眠っている様子のカナリアへ、額に口付けて愛を囁いたのは決して誰にも言えない……。
「!…………す、すぅ……すぅ…………ぁぅ……。」
アマランサス:終わりのない愛、粘り強い精神、不滅、不老不死
アマランサスって美味しいんだろうか……ググったくらいじゃ分からん
ヨーロッパの気候では粟はモチ種だと育ち辛いそうだから、食べた事のあるプチプチ食感の方なはず
筆者は語学も地理も壊滅的なのに、フラムはフランス語圏の産まれ、迷宮街があるのはドイツ語圏、みたいな必要もない上に順守出来るか分からないそんな設定を付けてしまう
ただリョナっ娘にエロエロな目にあわせてしまいたかっただけなのに、たどり着けない
もう一個、人類を捕食する人外に転生して生き残り美女と異種姦するヤツも前置きが長くなって完成しない
もっと頭空っぽにただ可哀想な娘を別ベクトルで可哀想な目にあわせたいだけなのに……