元いじめられっ子TS美少女ぼく、ぼくをいじめていた一軍イケメン男子が雑魚ちんぽだと知り、(性的に)いじめ返すことを決意する 作:虫野律
泣きじゃくるぼくを通路の脇にあるベンチに座らせると上月は、隣に腰を下ろした。そして、落ち着くまで背中をさすってくれた。
「ありがと、もう大丈夫だよ」
ぼくはほほえんだ。「ごめん、ちょっとメイク直してこさせて」
そう言ってぼくは、女子トイレへ小走りに向かった。
女子トイレにも、もうすっかり抵抗がなくなっている自分に苦笑した。
トイレから戻ると、上月はいじっていたスマホをポケットに仕舞って立ち上がった。
「次はどこ行く?」
と尋ねられ、
「ううんと……」
どこがいいかな。君と一緒ならどこでもいいよ、じゃ駄目かな。
ふと、夏空に夕暮れの気配を感じた。
「時間はまだ大丈夫か?」
上月が聞いてきた。スマホを見ると、時刻は十八時を過ぎていた。けれど、ぼくは首を横に振った。
「ぼく、門限とかないから」
うちの両親はぼくに興味がない。他人に迷惑を掛けなければ、つまりは自分たちに不利益をもたらすようなことがなければ、ぼくが何をしようと、どうなろうとどうでもいい。そんな人たちだ。だから、このまま朝帰りしても文句は言われない。
複雑な表情──哀れみや悲しみ、そして苦しみをたたえた顔で上月は、「そうか」と答えた。「じゃあ、もう少し一緒にいてくれるか」
「うん、ずっとでもいいよ」
ぼくらは雑踏する駅前の喧騒を離れ、閑静な住宅街に入った。この住宅街にある寂れた公園を目指していた。「静かなとこでゆっくりしたい」と上月が言い出して、「それなら公園にでも行く?」とぼくが答えたからだ。
やがて目的地の公園に着いた。ささくれ立った木製ベンチが一基だけあり、遊具としてはブランコと滑り台、小さな砂場があるだけのこぢんまりとした公園だった。
子供の影もなくてとても静かだったけれど、どこからか夕ごはんのしょっぱいにおいが漂ってきていた。
上月がベンチに座った。触れそうで触れない距離にぼくも腰を下ろした──やっぱりくっつきたい。
ぼくはお尻を浮かしてずらした。ぴたっと密着するように上月にもたれる。すごく落ち着く。
空が夜に沈んでいくのをぼんやりと眺めていた。
ふいと上月が口を切った。
「今日はいきなり誘って悪かったな」
「ううん」
いったん口を閉ざしてから上月は、「……聞きたいことがあるんだ」と言った。
妙に畏まった口調にぼくの体にざらついた緊張が走った。上月の大きな手に自分のそれを重ねた。「……何」
「この前のことがあってからずっと元気ないだろ?」上月はその無骨な長い指をぼくのそれに絡めた。「俺の見えないところで朝比奈たちにまた何かされてるんじゃないか?」
彼の手がもたらす温かさがぼくの心を穏やかにする。「ううん、何もされてないよ」と答えた。
「けど、何かに悩んでるってのは合ってるんだろ? 教えてくれないか」
「……」ぼくは答えられない。
悩んでるよ、君がぼくを騙してるんじゃないかって。
でも、それを口にしたら最後、この関係が終わってしまうかもしれない。
だから、ぼくは誤魔化すようにほほえんだ。
「えへへ♡ 心配してくれてたんだぁ♡ うれしい♡」そして、上月の手を自身の双丘の間に引き込んだ。「でも、大丈夫だよ。ぼく、今すっごく幸せだから。上月君と一緒にいられて──」
「嘘だな」
上月の冷然たる声がぼくのまやかしを切り裂いた。
「う、嘘じゃないよ?」ぼくは足掻いた。
ほら、とワンピースのスカートの中へ上月の手を導き、彼と密着することでほんのりと濡れた秘裂に押し当てた。えっちなことで思考が乱れてどうでもよくなってくれたらいいな、という魂胆だった。「ぼ、ぼく、君といるとずっと発情してるんだよ?♡ 本当に幸せで幸せで──」
ぼくを見つめる上月の顔がぼやけていて、自分が泣いていることに気づいて言葉に詰まった。
ああ、もう駄目だ、誤魔化せないや。
ぼくはうつむいた。
「言いたくないか」上月の優しい声がつらかった。「何をそんなに怖がってんのか知らねぇが、俺はお前のことを助けたいだけなんだ」
その優しさがぼくを不安にさせる。失う恐怖が際限なく膨らんでいき、首を圧迫する。息苦しい。
ぼくがだんまりを決め込んでいると、上月はとても悲しそうな表情になった。涙は見えずとも泣き声が聞こえてくるかのようだった。
「なぁ、柚」上月がぼくの手を握った。「そんなに俺は信用できねぇか──」
「……」彼の目を見ることができない。
上月は手を放した。「まぁそうだよな、信用しろってほうが無理な話か」
諦念の色の濃い口調だった。
彼のシルエットが儚く揺らいだ気がして、このままではぼくの下からいなくなってしまう気がして、その恐怖が言っちゃ駄目だという自制心を踏み越えてしまった。
ぼくはとうとう核心に手を伸ばした。
「上月君はぼくのこと、好き?」
唐突に問われたからだろう、「えっ」と当惑の声を発した。が、すぐに、「好きだよ、当たり前だろ」と答えた。
「それはどうして? どうしてぼくのことを好きなったの?」
「そ、そりゃあ……」と上月は一度口ごもったが、「か、かわいいからだよ」と答えた。
「そっか」ぼくはささやくような声で答え、それから少し声を大きくして、「ごめんね、信じられない」と言った。
「ああ」上月は曖昧な相づちを打った。
「だって君はぼくをいじめてたんだよ? 酷いことをいっぱいしてきたよね、酷いことをいっぱい言ってきたよね」言葉が溢れてくる。「ぼくが泣いてお願いしてもやめてくれなかったよね、怪我をしても血が出ても嗤ってたよね」
「……」今度は上月がうつむいた。
ぼくらは宵闇に包まれていた。いつの間にか点いていた街路灯のちかちかとした光だけが頼りだった。
「ねぇ、上月君」彼の太腿に手を添えた。ぼくは震えていた。「ぼくをいじめていた君とぼくを好きだと言ってくれる君、どっちが本当なの」
「……」上月は答えない。
「ぼくね、今、本当に幸せなんだよ。君がいっぱい温めてくれるから、いっぱい〈好き〉をくれるから、生まれてきてよかったって思えるようになったんだよ──でも、前の君を思うと、全部幻に思えてきて、また独りぼっちになっちゃうんじゃないかって不安で不安でたまらないのっ」また涙がまじりはじめていた。「ねぇ、上月君、答えてっ。本当の君はどっちなの、ねぇ、上月君っ」彼を揺すって繰り返した。ねぇ、答えて、上月君、と。
「……」
やがて上月は溜め息をついた。観念したような、覚悟を決めたような重苦しい溜め息だった。そして、ゆっくりと口を開いた。
「わかった、全部話す──少し長くなるけどいいか」
ぼくも覚悟し、うなずいた。
上月は言う。「俺の親父が一時期メジャーで投げてたことは知ってるか?」
「え……えっ? メジャー?」あまりにも予想外な問いにぼくは目をぱちくりさせた。「知らなかったけど……」
「ははは」と上月は軽く笑った。「ま、そりゃそうだよな。何せまったく通用しなくて一年で日本に逃げ帰ってきたんだからな」
「でも、すごい選手なんでしょ」
野球には詳しくないけれど、メジャーに行けることそれ自体が一流の
「さぁ、どうだろうな」上月はうなずかなかった。そして、続ける。「お袋が言うには、メジャーでの失敗はあの人にとって初めての挫折だったらしい。で、自分の子供をプロ野球選手に育て上げて自分を超える超一流の野球選手にしたいと思うようになった。良く言えば、メジャーでの成功の夢を俺に託したってことだ」
「悪く言えば──」と無意識に聞いてしまっていた。
「子供の私物化だ」
ぞっとするほど冷たい声だった。
「ごめんなさい」反射的に謝っていた。とてもつらい話をさせていると気づきはじめていた。
「何でお前が謝んだよ」上月は笑って言った。「そんでさ、ガキのころってよ、親の言うことが絶対っつーか、親が世界そのものっつーか、そんな感じじゃん?」
「うん」
「俺は素直に野球に取り組んだ。遺伝的に恵まれていたのか、ガキのころから
ぼくは無言で上月の手を握った。
彼は言う。
「けど、それも初めのうちだけだった。世の中、上には上がいるんだ。地元の名門チームに入った俺は、エースにはなれなかった。そこには本物の天才、正真正銘の怪物がいたんだ──」うちの二年B組のミヨシってやつなんだけど知ってるか、と聞かれ、ぼくはかぶりを振った。「そか」と小さく答えてから上月は続ける。「背はでけぇわ球ははえーわホームランは打ちまくるわ足もあるわで、もうやべぇよ。唯一の欠点はサボり癖があることぐらいか。けど、それだって人間の中で無双する分には問題にならなかった。多少サボたってあいつは最強だったし、今も最強無敵だし、きっとこれからもそうだ」
「ぼくにとっては上月君のほうがすごいし最強だよ」
「はは、ありがとな」上月は眉根を寄せて笑った。「ま、とにかく俺は二番手投手、ミヨシの下位互換にしかなれなかった。実際、めちゃくちゃ焦ったよ。リトルリーグ程度でつまずいてるようじゃ日本のプロにすらなれない。こんなんじゃ親父に失望されちまうってな」
はぁ、と上月は息をついた。
ぼくは口を挟まずに次の言葉を待った。
「俺ってさ、イケメンじゃん?」
上月は突然そう尋ねてきた。「マジでガチのエグいイケメンだと思うよな?」
「え、う、うん」突然のナルシスト発言にぼくは再び目を点にした。「とってもかっこいいよ」
「だよな」そして上月は、言いづらそうに唇を
「──っ」ぼくは息を呑んだ。
「でも、そん時の俺は〈これはチャンスだ〉と思った。俺は監督に気に入られてる、俺がケツを差し出して監督のチンポをしゃぶればエースにしてもらえる、そうすれば親父の期待に応えられる、褒めてもらえる──そんなふうに考えちまったんだ。で、俺は監督に取引を持ちかけた。『俺の体を好きにしていいから俺をエースにしてくれ』ってな」