元いじめられっ子TS美少女ぼく、ぼくをいじめていた一軍イケメン男子が雑魚ちんぽだと知り、(性的に)いじめ返すことを決意する 作:虫野律
力業でねじ伏せるエピローグ
いろいろな話をした。
好きな食べ物やお店、ミュージシャンのこと、初恋の人のこと、子供のころのエピソード、楽しかったこと、悲しかったこと、勉強のこと、将来のこと。
やがて上月から返事がなくなり、代わりに穏やかな寝息が聞こえはじめた。寝入ってしまったようだった。
いっぱいがんばったもんね──ぼくはそっと彼の髪を
上月の胸に頭を乗せて心音を聞きながらぼくは、常夜灯に照らされた優しい暗闇をぼんやりと眺めて考え事をしはじめた。
──ぼくは上月を愛しているのかな。
──依存しているのではなく、本当の意味で愛せているのかな。
ぼくは自分の心を見つめて、この愛が本物である証拠を探していた。
上月を愛おしく思う瞬間は、たしかにある。彼のためなら何でもしてあげたいとも思う。彼のためならどんな苦痛にも耐えられる。彼の腕に抱かれると心の底から安心もできる。彼に愛をささやかれると天にも昇る心地にもなる。愛してると伝えずにはいられなくもなる。
今だって──、
「愛してる……」
上月の寝顔を見るだけで、心がそれを言葉にしたがってならない。愛してる、愛してる、と口の中で繰り返す。
けれど、ぼくは自分の心を信じられない。結局のところ、どこまでいってもぼくはぼくのためにしか生きられないようにも思う。それは自分への愛でしかない。
上月を愛している確信が持てない。依存して執着しているだけだと言われたら否定できない。
でも、ぼくはそれを否定したかった。この優しい気持ちが、〈愛してる〉が本物であってほしいと願わずにはいられなかった。
心の中の宝箱を開けて彼の言葉を思い出す。
『俺はずっとお前と一緒にいたいと思ってる』
と上月は言ってくれた──ぼくも同じ気持ちだった。嘘じゃない。
『たとえエロいことができなくても』
とも言っていた──えっちなこと大好きなくせにかっこつけちゃって、と笑みが零れる。大好き。
『「死んで生まれ変わっても世界が変わっても世界が滅んでもずっとずっと」俺は柚を、柚だけを愛しつづける。約束する』
何それ、と思う。完全にプロポーズじゃん、馬鹿じゃないの。聞いた瞬間は、うれしすぎて心臓が止まるところだった。責任を取るべきだと思う。別に死んでいないけれど。
どうして君はぼくの言ってほしいことばかり口にするの? ぼくを喜ばせてどうしようというの?
そう思って上月の美しい寝顔を見やる。当然、答える声はない。
これからも上月と一緒に生きていきたい。
心からそう願う。彼と愛し合って暮らしていけたらどんなに幸せなことかと思う。
ぼくは、上月の愛で満たされた自分の細いお腹に手をやった。
いつか上月の赤ちゃんを生ませてもらえるのかな。そうだったらいいな。
ぼくは、将来生まれるかもしれないぼくらの赤ちゃんの名前について考えはじめた。そして、その候補が男女それぞれ四つ挙がったところで、唐突に、まるで天啓のように突然にひらめいた。
ああ、そうか、簡単なことだったんだ。
愛への懐疑を晴らすことはできなくても、愛を真実にすることはできると気づいたのだ。
その時、
「眠れないか」
上月の静かな声がした。
「うん」彼の胸板に懐いたままぼくは、ささやくように首肯した。「考え事してた。でも、もう解決した」上月に話したくて、けれどきっと、「上月君、眠いよね?」
「いいや、そうでもない」
「そう? それなら少し付き合って」
上月がうなずくと、ぼくは一度呼吸をし、口を開いた。「あのね、ぼく嘘ついてた。本当は上月君のこと好きかわからないの」
「……」上月は
「ぼく、ずっと独りぼっちだったから愛してくれる君に依存してるだけかもって不安だった。君を好きな気持ちが本物であってほしくてずっと〈好き〉の理由を探してた」
「見つかったのか」上月がぽつりと聞いてきた。夜の静寂に消え入るような低い声だった。
「ううん」ぼくもしっとりと答える。「がんばって考えてみたけど、結局わからなくてさ──」
上月の左腕がぼくの肩を抱いた。少しだけ、不安そうに震えていた。
ぼくは上月の右手を手に取った。「ねぇ、上月君、愛してる」
「好きかわかんねぇんじゃねぇのかよ」上月は困惑するように問うた。
それがおかしくて、くすっと微笑が洩れた。
「わからないよ。でも、愛したいのは本当。それでね、ぼく思ったの、〈好き〉が本当になるまで、自信を持って君に『愛してる』って言える日が来るまで君とずーーーっと一緒にいればいいって。そうすれば、今の曖昧な〈好き〉も未来の本当の〈好き〉に繋がって嘘じゃなくなる。だからね、ぼくは君を愛してる。これはもう嘘じゃない、本当の〈愛してる〉なんだよ。ねぇ、愛してるの、上月君」
「──ははっ」上月はあきれを含んだ笑い声を発した。「めちゃくちゃな屁理屈だし、すげぇ力業」
「嫌なの? ぼくと一緒にいるの」
ここで嫌だと答えたら、眠っている間に包丁で刺し殺そうと思っていた。そして、ぼくも上月の亡骸の横で彼の血で濡れた包丁を心臓に刺して死ぬ。そう心に決めていた。けれど上月は、
「嫌なわけねぇだろ」
と軽やかに笑い飛ばして死の運命を回避した。
ぼくはこっそりと胸を撫で下ろし、「えへへ♡」と相好を崩した。「じゃあさ、結婚してくれるってこと?♡」
この問いにノーと答えた場合も当然、死である。
「俺でいいのか?」
「いいに決まってるじゃん♡ 上月君じゃなきゃ駄目なの♡ 上月君はぼくじゃ嫌?」
「さっき言ったとおりだよ。いつまでもお前と一緒にいたい。断る理由なんてねぇよ」
「えへへ♡」顔がふにゃっとなる。「上月君、好き、大好き、愛してる♡」
「おう」上月は照れくさそうに答えた。「俺も愛してる」
ぼくはもう我慢できなかった。
むくっと上半身を持ち上げ、
──ちゅ。
唇を重ねた。
驚いた顔の上月を見つめて言う。「ファーストキスは君に奪ってほしかったんだけど、えへへ♡ 我慢できなくてぼくからシちゃった♡」
上月は場都合が悪そうに鼻の頭を掻いた。「わりぃ、ずっとシたいと思ってはいたんだけど、シそびれてタイミングがわからなくなってた」
かわいい♡
「もうっ」ぼくは、にやけながら唇を尖らせた。「意気地なしなんだからっ♡」
「ごめんて」
ふふ、と微笑し、「いいよ、赦してあげる──でもね、これからはぼくがちゅーしてって言ったらいつでもどこでもスるって約束して」
「ああ、約束する」
「やった♡」うれしくて舞い上がってしまう。「じゃあ今シて♡ いっぱいいっぱいシて♡」
上月は上半身を起き上がらせ、ぼくと位置を入れ替えるようにして上になった。
彼のにおいのする枕に頭を沈めて下から見る上月も、やっぱり世界一かっこよくて、どきどきと胸が高鳴る。
「愛してる」上月はぼくを見つめながらはっきりと言った。
とどめを刺された心地だった。高揚しすぎて心がぐらぐらで、
「ぼくもっ、愛してるっ」
変に早口になってしまった。恥ずかしくて頬が熱くなり、目を閉じた。すると、
「んっ♡」
唇に柔らかい感触。
一度離れ、ぼくが瞳を開けるとすぐにもう一度、今度は深く甘く繋がる。
ぼくは再びまぶたを下ろした。
この甘やかなまどろみが
(了)
お疲れ様でした。以上で本作は完結です。
お付き合いくださり、ありがとうございました。