※この作品はR-18です。

元いじめられっ子TS美少女ぼく、ぼくをいじめていた一軍イケメン男子が雑魚ちんぽだと知り、(性的に)いじめ返すことを決意する   作:虫野律

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学園ラブコメ(笑)

 朝、いつものように独りで教室の入り口をくぐると、正体不明の不穏な気配を感じた。

 視線を走らせてその発生源を探ったけれど、見つからない。勘違いだったのかな。

 自分の席に着いた。隣──口羽の席には誰もいない。彼はお休みだろうか。

 何を言いたいのかも人生においてどう役立てればいいのかもよくわからない授業を黙々とこなしていき、そして帰りのSHR(ショートホームルーム)が終わると、自分の席に座ってスマホをいじっているぼくに話しかける影があった。

 顔を上げると、朝比奈がぼくを見下ろしていた。彼女は柔和なほほえみを浮かべた。

 ぞくっとした。

 怖い。何でだろう、と考えるなり、目が笑ってないからだ、と答えにたどり着いた。

「ちょっといいかな? 柚ちゃんに相談があって」朝比奈は前に話した時と同じような優しげな声色で言った。

 しかし、有無を言わさぬ迫力があった。元より、弱みを握ってでもいない限り人に逆らう勇気なんて持ち合わせていないぼくに、断るという選択肢はない。

 う、うん──おびえながら顎を引いた。

 朝比奈は、「ありがと」と口元だけで笑みを深めた。

 

 

 朝比奈はぼくを体育館裏に連れていった。敷地と道路を隔てる高い塀と体育館に挟まれた土の隘路(あいろ)は、日が遮られて仄暗く、ひやっと涼しい。

 そこには音瀬や一軍グループの女子たちがいた。

 心臓がびくびくとおびえていた。

「そ、相談っていうのは──っ」

 ぼくの言葉は朝比奈が胸ぐらを掴んできたことで中断させられた。目に鋭い角が立っていて、激怒していることが見て取れた。

 がんっと体育館の壁に叩きつけられた。一瞬、衝撃で横隔膜が麻痺して呼吸が止まった。「──かはっ、げほっ」むせる。苦しい。

「お前──」朝比奈は、ぼくのことを〈柚ちゃん〉と呼んでいたはずだけれど、そう口にした。「昨日、海斗とヤったんだってな」

 その言葉でぼくは事情を察した。ここにいる女の子たちは皆、ぼくに嫉妬して、ぼくを排除したくて集まっているんだ。

 ああ、みんな敵なんだな、と理解する。

「……」

 けれど、何と答えたらいいかわからず、ぼくは沈黙を返すことしかできない。

 ちっ。朝比奈以外の誰かの舌打ちが聞こえた。

 朝比奈は忌ま忌ましそうに続ける。「せっかく人が優しく忠告してやったのにさ、何、シカトしてんの?」

「ご、ごめん」

「謝るなら初めから海斗に擦り寄るんじゃねぇよっ!」朝比奈が喚くように言った。「お前みてぇな最底辺が近づいていい男じゃねぇんだ! それくらいわかれよ!」

 びくっとして反射的に目をつぶると、胸に痛みを感じた。音瀬がぼくの胸を乱暴に、まるで握り潰さんとばかりに鷲掴みにしていた。

「や、やめて──」

 しかし、音瀬はぼくの懇願なんて聞こえていないかのようにぐにぐにと胸を揉みしだきながら言う。「この胸で誘惑したの? なぁ、教えろよ」

「ち、違──いっ」

 ひときわ強く握り潰され、痛みで顔が歪んだ。

 音瀬はひどく冷たい目でぼくを見ていた。そこら辺の虫の死骸か何かを見るかのようで、あまりに恐ろしく、ひっと息が止まった。

「気持ちよかったか?」音瀬は無表情で聞いてきた。

「……」ぼくは口をつぐんでいた。今この状況でそんな質問に答えられるわけがない。

 音瀬のてらてらと赤く輝く唇が動く。「おどおどして、本当はうちらのこと見下してんだろ? 海斗の本命は自分だって心の中で嗤ってるんだよな?」 

「そんなことな──」

「くそがっ!」

 音瀬に押され、また背中を壁に打ちつけた。「てめぇのその胸、切り刻んでやろうかぁ? それともその男好きのする顔、焼くかぁ?」

「それよりさ、あそこのあれ、切り取っちゃおうよ」朝比奈が、先日ぼくの相談に乗ってくれた時のように明るくて優しい口調で言った。「もう十分使ったでしょ? ね、だから取っちゃってもいいよね? 柚ちゃんのクリトリス」

 恐怖で歯の根が合わず、奥歯のぶつかる耳障りな音が鳴るばかりで言葉にならない。

「いいね、それ」音瀬が端整に並んだ白い歯を見せた。「場所が場所だからバレねぇだろうし、里桜、冴えてるじゃん」

「でしょー」なんて朝比奈も笑う。

 グループの子が、「わたし、カッター持ってるよー」と軽い調子で言った。彼女はスクールバッグからそれを取り出し、カチカチカチと刃を伸ばす。刃に日差しが反射して白く光った。

 グループの子たちが両脇からぼくの腕を押さえて引き倒した。背中とお尻に湿った土の感触がした。音瀬が仰向けに倒れ伏すぼくのショーツを引きずり下ろし、ごみのように地面に放った。

 グループの子の一人と音瀬がそれぞれ左右の脚を押さえつけ、開脚の状態で固定する。

「ぁ、ぁ、ゆ、ゃだ、ゆる、ゆるし──」

 ぼくの声は、カッターナイフを持った朝比奈の、「あら、柚ちゃんってきれいなパイパンなんだね」という声と重なって押し潰された。「切りやすくて助かるよ」

 にこっ。教室でよく目にする、日常の象徴のような穏やかなほほえみを浮かべた朝比奈を見て、それが恐ろしくて恐ろしくて、

 ──ちろちろじょろじょろろろろろ……。

「あはははっはははっ」朝比奈の、心底楽しそうな甲高い笑い声が響き渡った。ひぃ、ひぃ、死ぬぅ、と彼女はお腹に手をやって肩を揺らす。

 ぼくは失禁してしまっていた。太腿の間におしっこの水溜まりができてスカートを濡らしていく。

「うわっ、きったね」音瀬が顔をしかめた。「うち、割と潔癖なんだよ。えぐいって」

「愛菜かわいそー」「柚ちゃんひどーい」これらの嘲りが誰の声か聞き分ける余裕はなかった。

 朝比奈がぼくの秘唇を押し広げた。「じゃ、やるね」

 その冷淡な声が、言葉が、ぼくの恐怖を爆発させた。

「やぁっ、やだぁっ! いやだやめてっ!!」ぼくは全力でもがいた。

「ちっ、うぜぇ」音瀬が不快そうに吐き捨てた。「泣こうが喚こうが、ぜってーやるんだからおとなしくしてろ」

「やだやだやだぁぁっ!! 上月君助けてっ!!」涙で視界がぐちゃぐちゃだった。「上月君っ!! 助けてっ、ひっく、こうじゅきくんっ、たすけてっ! ぅぐっ、だすけてっ!」涙声でひたすらに叫んだ。「こうじゅきくぅんっ! たすけてぇっ! こうじゅきくんっ! こう、じゅきくぅっんっ!」

 恥も外聞もなかった。ぼくが最後にすがりつけるのは上月だけだった。声が届かないとわかっていても名を呼ばずにはいられなかった。

 しかし、「うぐっ、ううむむむっ!」口を塞がれ、それも叶わない。ぐっと固く目をつぶった。

 ああ、もうやだ。こんなことばかり。女の子になっても結局これだ。もうやだもうやだもうやだ……苦しいよぅ……上月君……。

 ──おいおいおい、これはいったいどんなプレイだよ。

 上月の声が聞こえた気がした。目を開けて辺りを見ると、彼が、よく一緒にいる男子と共に体育館の角の所からこちらを見ていた。

 ぼくは、憮然として緩んだ拘束を振りほどいて声を上げた。

「こうじゅきっ、くんっ、たじゅけ──」

「もうっ、みんなやめなって!」

 今さっきまで聞いていたものとはまるっきり雰囲気の違う声色の言葉を耳が捉え、「え……」と思考が停止した。

 声の主は朝比奈だった。彼女は周りの女の子たちから庇うようにぼくを抱き、「怖かったよね、もう大丈夫だよ」と優しげな表情で、茫然自失のぼくに声を落とした──しかし、目だけは、余計なことはしゃべるな、しゃべったらどうなるかわかってるな、と鋭く威圧している。

「ちっ」音瀬は一瞬だけ、しまった、というような顔になったかと思うと、ぱっと立ち上がった。「冗談だってば。本気でそんなことするわけないでしょ」こちらも言葉遣いが全然違う。「ちょっと悪乗りしすぎちゃったみたい。うち、テンション上がると駄目でさ、ごめんね」

 ここに至って、鈍物なぼくはようやく理解できた。朝比奈と音瀬は自分の評価を落とさないように、あるいは傷が最小限ですむように瞬時に行動指針を切り替えたんだ。

 音瀬が場を立ち去る気色を見せると、グループの子たちも立ち上がった。うち揃ったプリーツスカートがぞろぞろと歩を進める。

 が、近づいてきた上月に止められる。

「待てよ」よく通る声だった。上月はちらとぼくを一瞥した。「お前らにも言い分はあんのかもしんねぇが、これは見過ごせねぇよ」

 上月は、「こっち来い」と言ってぼくを呼んだ。地べたに投げ捨てられて汚れたショーツを拾い、彼の横に立った。

 朝比奈は深刻そうに眉をひそめ、音瀬は苦々しい表情でぼくを見ていた。

「何された?」上月がぼくに尋ねた。

「えと、その……」ぼくはその心中を探るように朝比奈たちを見た。

 けれど、瞳の奥に黒く燃える敵愾心(てきがいしん)を認め、さっと視線を逸らした。怖かった。あと少し上月たちが来るのが遅かったらと思うとぞっとする。体が震え出した。抑えられない。

 肩に優しい温かさを感じた。上月がぼくの肩を抱いていた。震えが止まる。ぼくは口を開いた。

「何もされてないよ。話してただけ」

 平静になって考えると、そう答えるよりほかはないと思った。ここで上月に仕返しをしてもらっても、ぼくに対する憎悪が増すだけだろう。後でまた、今度はもっと凄惨なやり方で痛めつけようとしてくるのは目に見えている。だから、

「ね、海斗、勘違いしてるんだよ」

 と言う朝比奈に、ぼくは笑顔を作って追従した。「うん、ちょっとじゃれ合ってただけだよ」

「……」上月は難しい顔で黙していた。

「どうすんの?」上月の友人の男子が、上月に尋ねた。

 上月はそれには答えずぼくの目を見据えた。「お前は本当にそれでいいのか」

 ぼくはこくりとうなずいた。

 そうか、と上月がつぶやくように言うと、場の空気が緩んだような気がした。

 上月は言う。「こいつがこう言ってるから今回だけはこのまま帰らしてやる」明瞭な声だった。「だがよ、今度また俺の女に手出したら──」そこでぐるりと朝比奈たちを見回した。そして、「沈めっからな」と底冷えのする重い声音で言った。「若い女を地獄に堕とす方法なんていくらでもあるんだぜ? そういうのが好きで好きでたまらないクズが、知り合いにもいるんだ。

 言ってる意味わかるよな? 俺がその気になればお前らは晴れておまわりの行方不明者リスト入りってことだ。

 柚に何しようとしてたか知らねぇが、そんな〈おままごと〉じゃねぇ、お前らが想像したことさえない本物の生き地獄だ。そんな目には遭いたくないだろ? 俺だってクラスメイトにそんなことにはなってほしくねぇよ? けど、俺にとっちゃこいつが一番大切なんだ──だから、これっきりにしろ」

 緩んだはずの空気が重苦しいものに変貌していた。

「わかったな」と上月は最後に念を押し、しかし返事を待たずに、「行くぞ」とぼくともう一人の男子に言って歩き出した。

 慌てて追いかける。その時、

 ──あんただっていじめてたくせに。

 ぼくの小さな背中が朝比奈のつぶやきを聞いた。

 その言葉にぼくは不安の深淵に引きずり込まれそうになる。

 ほんの数週間前まで上月はぼくをいじめていた。それなのに、今はぼくを守ってくれる。ぼくが欲しいと、好きだと言ってくれる。

 ずっと目を逸らしていた、考えないようにしていたことだった。ぼくを求めてくれる上月といじめていた上月があまりにもかけ離れていて、その言葉を信じられなくなりそうだったから。

 たしかに、TSしたり弱みを握ったりと状況に違いはある。けれど、それだけでここまで変わるだろうか。何か思惑があって優しさの仮面を被っているだけなのではないか。

 そんなふうに思うと不安でたまらない。

 彼の仮面が剥がされた時、この甘(うま)しき日々が終わってしまうかもしれない。

 怖い。

 独りきりの世界はあまりにも静かだから。

 怖い。

 手にしたはずのぬくもりが偽物だったら、きっとぼくはもう生きていけない。君に抱かれる夢にまどろむだけでは、ぼくはもう優しい死に抗えない。

 怖い。

 気づけば、ぼくは暗く冷たい水底(みなそこ)に囚われていた。

 ああ、息ができない。




これで二章完結です。
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