「お名前、聞いてもいいですか」
一緒に横になりながら、女の子は聞いて来た。
「島部 竜」
「竜さん、ですか。ふふふ」
なにがおかしいのか、女の子が上機嫌そうにそう言う。なんか距離感がおかしいような気がする。なにも言っていないのに、添い寝しているし。
「私は高城 ティアラです」
「すごい名前だね」
「キラキラネームなんです」
不幸な女だ。
言うか迷ったが、他に頼れそうな人間はいない。俺はこの子に色々と聞いてみることにした。
「俺さ、ここに来たの、実は初めてで」
「え? え? そ、そうなんですか?」
高城が困惑した声を上げる。
「ここ、一体なんなんだ? 普通の漫画喫茶……じゃ、ないよね」
「そうですね。いわゆるハプニングバーに近い場所だと思います」
「ハプニングバー」
「知っていますか?」
「まあ、存在だけは」
男女がバーに入って、あれやこれとする施設である。行ったことはないが、まあわかる。
「男性は普通の漫画喫茶と同じように有料ですが、女性は無料なんです。時間経過によっては食事も無料になります」
「ああ、なるほど。そういう仕組みか」
一気にこの施設のシステムが見えてきた。脳裏には、あの中年男と若い女の子のパパ活カップル(まあ断言は出来ないが)がよぎる。
「生活に困った女の子とか、小遣い稼ぎたい女の子を体よく集めているわけね」
「そうですね。あ、でも私は違いますよ?」
「別に目的があるのか」
「はい。探している人がいるんです」
「? そうか」
よくわからない女の子である。何故、ここが人探しに適していることになるのか。
まあ、どうでもいい。この子の事情に深く踏み込む意味なんてないだろう。
「それにお金稼ぎが目的、という人ばかりではないですよ。ここにはたくさんの人が集まります」
「まあ、だろうな」
あの若いカップルの声とか、不倫っぽい声もあったし、性癖の集いもあるのだろう。あとは俺達のように、意気投合(?)してそのままエッチしたとか。まあ、このケースはハプニングバーに近いのかな。
「それにしても、かなりグレーゾーンなお店だね……公式ホームページではさも普通の漫画喫茶であるかのように掲載されている」
「建前としては、普通の漫画喫茶なんですよ、ここは」
「まあ、それもそうか」
「それと、トイレとか廊下でしていたら、注意されますよ。あくまでも個室とブース内だけです」
「一応、性行為の容認はしていないっていう体なのか」
しかしその小賢しさだけでは、しらばっくれるのに無理があるだろう。セックスは男女が勝手にしたことと言い切れるかもしれないが、女の子を無料にしている時点で状況証拠が出来ている。女の子側には裏事情を明かしているから、そこから足がつく可能性もあるだろう。ともあれ、現場を抑えさえすればいくらでも取り締まることが出来そうだ。それに、どうせこの手の施設のバックヤードには、反社会的勢力が関わっているだろうし。
このお店、そう長くはないかもしれない。
だけど……。思わぬ掘り出し物ではある。ギリギリのラインまで攻めれば、刺激的な遊びの一つや二つ、出来そうである。
「まあ、今日のところはとりあえず寝るか……って、君はいつまでここにいるんだ?」
「え? お、お邪魔ですか?」
高城が震えた声を出す。やれやれ、と俺はため息をつく。
「金を出せってことか?」
「え? そういうわけでは。ただ、一緒に寝たいだけですよ。添い寝です」
「俺と?」
「はい」
「変わっているな。会ったばかりなのに」
添い寝をして、この子にメリットがあるというのか。いや、ないだろう。やはり信用出来ない。寝ている間に金をとられる可能性もある。
「悪いが、部屋を出てくれないかい。君は無料なんだろう」
「はい……そうですか。わかりました、出て行きます」
しょんぼりと肩を落としながら、高城は着替える。
「ぁ、あの」
「なに」
「れ、連絡先……」
「は?」
「教えて、ほしくて。ダメ?」
まあ、そのくらいはいいだろう。つーか、いきなり口調崩してきたな、別にいいけど。俺は携帯を取り出し、メッセージアプリを交換する。高城のアカウントのプロフィール写真は、某有名会社のマスコットキャラクターであった。というか全体的にピンク色。そして目の前にいるのに、わざわざ「これからよろしくね、竜さん♡♡♡ とても素敵だったよ……♡」とメッセージを送ってきた。可愛いつもりなのだろうか。偏見かもしれないが、この手のタイプ、ちょっとメンヘラっぽい気がする。
★
翌朝。俺は時間を更新して、一日この漫画喫茶を観察することにした。幸い、仕事は明日からだ。朝早くに出れば出社は間に合う。
さすがに午前中から盛っているカップルはなかったが、午後になると喘ぎ声がブースから聞こえるようになってきた。
また、漫画喫茶の正体がわかった上で辺りを観察すると、なるほど。店内のシステム、そしてルールというものが、徐々に浮き彫りになってきた。
まず、マンガコーナーやドリンクバーと、ところどころに単身の女の子が手持ち無沙汰でうろついているのが見受けられる。こういう待機中の女の子がいるのを見ると、漫画で読んだ出会いカフェってやつにも、システムが似ているのかもしれない。
ただ、ここの特徴はそれに加えて、様々な目的の人間が来ることにあるだろう。例えば、カップルが入店して――入口で入店手続きをしているの見たから、まあカップルだろう――個室で盛っているのも見た。しかもそのカップル、露出癖があるようで、個室の窓は隠していなかった。廊下でセックスするのはNGだが、そういうのはOKということなのだろう。また俺と同じように、吹き抜けバースの上から除き込んでいるのも、たまに見受けられた。それに関しても暗黙の了解がある、ということなのだろう。
あとうろうろしていると、時折女の子側から声をかけられる。女の子の目的も様々なようだ。
セックスし放題な漫画喫茶、と評すると抜きゲーみたいな話だが、その内情が見えてくると、ただのエロエロ施設というわけではないようだ。様々な欲望が渦巻く、混沌とした場所である。
まあ、ともあれ。刺激的な場所であることには変わりがない。使いようによっては、楽しめそうではある。さてどうしたものか。
「ごゆっくりどうぞ~」
愛想の良い店員がそう言いながら、ドリンクバーの補充作業をする。
少し、驚いた。というのも、店員は若い女の子だからだ。高城とあまり変わらないくらいだろう。だけどこちらは人形のように華奢で、スレンダーなタイプだ。制服越しではあるが、きっとしゅっと引き締まった肢体であるに違いない。
にしても、なんでわざわざこういうお店でバイトをしているのか。謎だ。普通の漫画喫茶とかのが、絶対に良いと思うのだが。
ジロジロと見ているのが、バレたのか、店員が不審げにこちらを見やる。
「えっと、どうされました?」
まずい。変な奴に思われているのかもしれない。俺はとっさに言い訳をする。
「ああ、いえ。すいません。実は私、漫画喫茶の店長でして。ライバル店というか、同業者の視察をかねて、利用させてもらっているんです」
苦しい言い訳かもしれない。よくわからないが、店長というポジションにしては、俺は若すぎる気がしてならない。
「はあ、なるほど。ふふふ、バイトの動きもチェックしておられるのですか?」
が、言えば意外となんとかなるもの。不審に思わなかったのか、店員は少し打ち解けた様子でそう言ってきた。
「まあ、はい。職業病みたいなものです」
「どうですか、この漫画喫茶は」
「清潔で良い所なんじゃないですか」
「本当に。そう、思っていますか?」
どこか気まずい空気が流れる。そしてそんな空気を読む気など毛頭ない、吹き抜けバースからの喘ぎ声が始まった。俺達はより気まずくなる。居心地が悪くなったか、会話が妙なところで途切れてしまったから、立ち去ることも出来ない。
店員が、くすくすと笑う。セックスを嘲笑っているのか、モジモジとした俺を嘲笑っているのか。まあ、どちらでもいい。だけど、この子に少し興味が湧いて来た。
「どう思っているんだ」
「なにがですか」
「ここが、こういう場所だっていうことに」
この世界に、踏み込もうとし過ぎか。そう思ったが、単純に好奇心が勝った。この女の子がなにを思って、ここで働いているのかと、そういうことに。
「エッチだなって。それだけですよ。うふふ」
店員の作業が終わる。仰々しく頭を下げて、慇懃に挨拶をしてきた。
「ごゆっくりどうぞ……店長さん」
同じような挨拶であったのに、何故だか、空々しく聞こえた。
★
0時。夜も深くなってくる。眠る人への配慮があるのか、この辺りになると喘ぎ声もあまり聞こえなくなってきた。
個室で横になり、ネットサーフィンをしていると、外の気配。あの女の子の店員が、廊下を掃き掃除していた。俺は扉を開ける。
「やあ」
「あら、店長さん。どうかなさいました?」
「パソコンの調子が悪くて」
大嘘であった。
「見てくれないか」
「伺いますね」
店員が無防備に個室へと入って来る。俺は個室の扉を閉めた。
「……店長さん?」
俺は店員の背後に回り、制服越しに胸を両手で揉み上げた。下からすくい上げるように。店員はひゃっ、と短く悲鳴を上げた。
「て、店長さん!? な、なにを」
「ほら、ここ、こういうお店だろ。だから」
「私は店員ですよ、ダメですから!」
「あれ、そうなの」
「当たり前ですよ!」
「まあでも、細かいことはいいよ」
「お、お仕事がありますから! 離してください! 大体、こんなの、レイプじゃないですか……!」
店員のスカートの中に、右手を入れる。
「パンツ、濡れているね」
「っ⁉」
「言ったでしょ。俺は店長だって。店の中を観察したって」
まあ、店長は大嘘だが。
「な、にを……!」
「君、盗撮と盗聴の常習犯だろう。不真面目な店員だね」
「っ!」
そう。あの後、偶然見かけたのだが、この女の子はセックスしているカップルの覗き見や、盗撮や盗聴をしていたのだ。そういう性癖の持ち主なのだろう。それにここでなら、容易にそういうことが出来る。その上、ここの従業員ともなれば、仕事の片手間でそれが出来るというわけだ。なるほど、わざわざここで働いている理由の合点が一致する。
「で、でもでも、お仕事が」
「夜勤なんてどうせ暇だろう。何人だ」
「今、本部に、もう一人」
「なら、いいだろう。どうせ掃除もすることないからやっただけだろう」
パンツの上から性器をなでる。はあはあ、と店員の息が荒くなる。
「だ、ダメです、こんなこと、いけない、です」
「いけないことをしている君が、よく言う」
「ん、ぁ♡」
パンツの中に指を入れると、女の子が声を上げる。感度が高いのかもしれない。制服の下に手を突っ込み、ブラジャーと一緒にたくしあげる。ポロン、と手のひらサイズの可愛いおっぱいが現れた。
そのまま片方の手で揉んでやると、乳首が硬くなっていることに気づく。マンコが濡れ濡れなことといい、やはりむっつりなのではないだろうか。
「まんざらでもなさそうだね」
「違い、ます。店長さん、お願いですから、こんなこと、もう、ん♡ 本当に、ダメです」
「まあ、この時間に声を出すのは、マナー違反っぽいね」
「そ、そうじゃなくて、私、彼氏が、いるので」
おっと。これは、予想外な発言が飛び出て来る。
「なら、なんであんなことをしているんだ」
「そ、それはっ」
「欲求不満なんじゃないの? 彼氏がEDか短小とかか」
「ち、違く、て」
瞬間、少女の身につけているインカムから「雫―、こちら異常なし。現場なにかある?」と声が聞こえてきた。親しげな男の声だ。すぐにピンと来る。
「もしかして、今いるもう一人の店員がその彼氏か」
「そ、そうですよ。だから、止めて、ください」
「ほら、早く無線出てよ。お仕事なんでしょう?」
「ん、あ♡ あなたが、乳首をいじるから! そこ、弱くて……ぁ♡」
こいつ、Mっ気あるな。なんでこの状況でわざわざ性感帯を暴露する。俺は硬くなった乳首を、こりこりと指でつまんだ。女の子――雫は、腰が崩れ落ちるのを我慢するように、両手で壁をついた。
「ぁ、あ♡ 店長、声、出ちゃいます……♡」
「雫? なにかあったか?」
応答がないからか、彼氏が心配そうに声を上げる。
「声出してないで、無線に出なって」
「む、無理ですよ、こんな……♡」
「ほら、ボタン押してあげるから」
「っ⁉」
俺がインカムのスイッチを押す。こちらの音が向こうに聞こえるようになる。雫は慌てて応答した。
「こ、こちら、問題なし――ぁ♡」
マンコの中に指を入れてやると、雫が艶美な声を漏らした。
「具合悪いのか? なんか声が苦しそうだ。大丈夫か?」
優し気な彼氏の声。今君が優しくしている彼女は、見知らぬ男に犯されようとしているんだけどね。
「だ、大丈夫」
「そっか。俺、眠いからウトウトしているわ。どうせやることないし」
「わ、わかった」
無線を切る。
「雫っていうのか、君」
「店長さん、こんなこと、ひどいです」
「なら、助けを呼べばよかっただろう。いくらでもタイミングがあったのに」
「っ! そ、それは、だって、脅されていたから。秘密をバラされたら、どうしようって」
「証拠があるなんて、誰が言った?」
「そ、それは」
「残酷だね、君は。内心では、まんざらじゃないんだよ」
雫の中を、指で掻きまわす。クチュクチュクチュ、と愛液が掻き乱れる音が個室内に響き渡った。
「はあ、はあ♡ 店長、さん♡ あ、あ♡」
乳首を撫で、性器を指入れする。雫は喘ぎながら、両手で棚をぎゅっと握りしめて、快楽に耐え忍んでいた。ぶしゅぶしゅ、と愛液が性器からあふれ出す。
「お上手、です♡ こんな、こと♡ はじめ、て♡ ん、あ♡」
「君のことだから、このシチュエーションに燃えているんじゃないの?」
「そ、そんなことは……♡ あ、あ♡ 来そう、来そうです、店長♡ あ、ああああ、あ♡」
「声だしすぎだろ、店員なのに」
「す、すいません、私、もう――ん、ああああああああ♡」
ビクビク、と膣が震える。俺の指をくわえるように振動し、愛液を噴射させた。雫はその場で崩れ落ちた。頬は赤く染まっている。その端整な顔へ向けて、俺は自分の勃起した性器を突き出した。
「ほら、次は俺を気持ちよくさせて」
「は、はい……店長、さん」
雫はぱくり、と俺のペニスを口に含んだ。