※この作品はR-18です。

俺の通う漫画喫茶がセックスし放題なのだが?   作:音有五角

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 スパイス程度ですが、エロなしのシリアス回です。高城ティアラの真実が明かされます。伏線からして雰囲気出ているでしょうが、それなりにダークな内容になります。メインストーリーはこれでほぼ消化した形ですね。

 次回からは、またR18を更新予定です。


第七章「復讐への招待状」

「店長さん、すごいエッチしてますね。個室に二人も連れ込んじゃって♡」

「おい。また盗聴したんじゃないだろうな」

「なんのことですか?」

「とぼけやがって……まあ、いい」

 

 夜の十時。しれっと個室に入って来た雫に、俺はため息をつく。しっかり制服なのだが、仕事は暇なのだろうか。サボり魔め。羨ましい限りだ。それで金が貰えるんだからな。

 

 俺は借りた漫画を読みながら、雫に目をやらない。が、それでもわかるくらい彼女はむうう、とむくれていた。

 

「店長さん。あの二人みたいに、抱いてくれないんですか?」

「さすがに、今日はもう気分じゃない。そう何度もセックス出来るか」

「……高城 ティアラ」

「なに?」

 

 急に高城の名前を呼ばれ、俺は漫画から顔を上げる。すると雫がふふふ、と笑みを浮かべた。

 

「やっと見てくれましたね」

「あいつを知っているのか」

「有名ですよ。正確には、高城 クイーンの方が」

「もしかして、姉の名か? しかし、ひどい名だな……」

 

 キラキラネームどころじゃないぞ。よりにもよってクイーンという単語をチョイスしたのか。

 

「聞かせてくれないか」

「なにをです?」

「姉の高城 クイーン。殺されたと言っていたぞ。この店がなにか絡んでいるんじゃないのか」

 

 雫はんー、と首を傾げる。

 

「しゃべってもいいですけど。店長さん、大丈夫ですか?」

「なに?」

「このお店……怖いですよ。今みたいに女の子と遊んでいれば、なにもないですけど。そういう裏側へ踏み込もうとすると……ね?」

 

 笑みを浮かべる。だが、その目は笑っていない。

 

 雫も只者ではないのだろう。だが、俺は首を縦に振った。

 

「構わん。話すんだ」

「好きなんですか?」

「なにがだ」

「高城 ティアラのこと。うふふ。そうじゃないと、わざわざこんなリスクのあることを知ろうとする理由、ないですよ?」

 

 俺は高城のことを思い出す。見たことがないくらいに大きな胸。それでいて引き締まっている体。可愛らしい顔。中出ししたセックス。3Pもした。

 

 たしかに、情でも芽生えたのかもしれない。所詮はここで会っただけの、遊び相手のはずなんだがな。

 

「好奇心だ」

「では、そういうことにしましょう。事件は凄惨です。高城 クイーンはここの常連だった。けど途中から、男の財布を盗み出すようになった。一度成功したからか、癖になったんでしょうね。この漫画喫茶内で噂になるほど、彼女は一度遊んだ男からスリをするようになりました」

 

 パパ活かなにかで、似たような事件を聞いたことがある。それと同じような性質ということだろう。

 

「これはおそらく、の話なのですが。気づいた男が彼女に暴行。打ちどころが悪かったのか、それでお亡くなりになったんです」

「待て。まさか、店の中で起きたのか?」

「そうですよ?」

 

 ごくり、と唾を飲む。

 

 警察、救急車――呼べるのか。この店は。やましいことだらけだぞ。

 

「どうしたんだ」

 

 恐る恐る、聞く。すると雫はため息をついた。

 

「もみ消しました。高城 クイーンは行方不明、ということになっています。世間的には」

「……何故、妹のあいつは事件を知っているんだ?」

「さあ? それはわかりません。お客さんの中に、お友達でもいたんじゃないですか? 事情はあまり、聞かなかったそうですよ。実際、盗難に激高して殺した、というのが真実とは限りません。ありえない話じゃないですが、少し無理がありますしね」

 

 たしかに。いくら盗難が許されざる行為だからといって、そんな思いっきり暴行を加えたりするだろうか。違和感がある。

 

 ……犯人と高城 クイーンは、知り合いなんじゃないのか。怨恨の線なら、強い暴行を加えたという行為はしっくりくる。

 

「犯人はどうした」

「ふふふ。どうなったと思います?」

 

 ……ルール違反どころじゃない、犯人の大いなる過ち。話の流れからして、とんでもないことを想像したくなる。だが、冷静に考える。店側の一番の願いは、大事にしたくないことのはずだ。だとすると……。

 

「出禁にしたか」

「正解です。話はそこで、おしまい。殺人犯は出禁になったといえど、今日も元気にお空の下を歩いていると思いますよ?」

「高城は復讐のためにここへ来たんだぞ。会員登録の時に本人確認をしているはず。情報は持っているだろう」

「お店側が協力すると思います? メリット、ないですよ」

 

 どうでもいいが、こいつ盗聴しているからめちゃくちゃ事情に明るいな。まあいい。筒抜けなのは気になるが、とりあえずそれは置いておく。

 

「妹だと知っていて、何故入店させる。厄介事だと思わないのか」

「出禁にしていますからね。店内でなにも起きなければいい、ということなのでしょう」

「じゃあ、あいつは無駄足か」

「店長さん、本当にこだわりますね。やっぱり、好きなんですか?」

 

 俺は舌打ちをした。

 

「黙れ。良心が痛んでいるだけだ。実際、ひどい話だろう」

「そうですね……もしよければ。店長さん、会ってみます?」

「なに?」

 

 唾を飲みこむ。雫は胡乱とした表情で、それを告げた。

 

「ここのお店の、店長さんです」

 

 

★

 

 

 個室で一人になり、携帯を見た。相変わらず、高城 ティアラからはメッセージがうるさい。俺は電話をかけた。

 

「あ、竜さん? ねえねえ、写真見た? 新しいネイル、可愛いと思うんだけど、竜さんはどう思う――」

「高城。何故お前は、復讐しようとする」

 

 ええー? と、高城は声を上げた。

 

「そんなの、決まっているよ。たった一人のお姉ちゃんだった。それを殺されたの。許せないに決まっているでしょ?」

 

 こいつが真実を知ったら、復讐の対象はこの店にも及ぶのだろうか。

 

「まあ、家族は大事だな」

「うん。わたしにとって、たった一人の家族」

「たった一人?」

「元々、母子家庭だったんだけど。おかあさん、途中で男と逃げちゃって。おねえちゃんがなにも出来ないわたしの面倒を見てくれたの」

 

 ……財布の盗難、という話が脳裏をよぎった。やはり、金に困っていたのか。

 

「でもね、高卒でもない、仕事も長続きしない、ダメダメなおねえちゃんが、まともに食べていけるはずがなかったの。殺されちゃう、一月くらい前だったかな。あの漫画喫茶の存在を知ったの」

「……それで。どうしたんだ」

「どうも出来ないよ。どうしたらいいかわからないもん。その頃には、わたしもようやくバイトやって少しお金を稼げるようになっていたけど……それまでは、そうやって売ってきた体で、わたしは面倒みられたの。それを止めようだなんて、出来ると思う?」

「すぐには無理だろうな」

「でしょう? で、そうこうしている内に……お姉ちゃんは、殺されたの」

「何故だ」

「ん?」

「何故、死んだではなく。殺された、と断言できる」

 

 高城は心なしか、悲し気な声を出した。

 

「……男」

「男?」

「お姉ちゃんには、男がいたの。そいつが怪しい。絶対、絶対に怪しい。あいつ。あいつ意外にありえない。ありえないんだから」

 

 ブツブツと呪いのようにありえない、と繰り返す高城が恐ろしくなり、俺は慌てて声を上げた。

 

「高城」

「なあに? 竜さん。えへへ、嬉しいなー。今日はたくさん、わたしのこと知ろうとしてくれるね」

「……また、電話する。いいか」

「もちろん! また遊ぼうね、竜さん」

「ああ」

「それと……」

「なんだ?」

「そ、その、あの、中出し……気持ち良かったね♡ えへへ……」

 

 意外と羞恥心はあるのか、電話越しでもわかるくらい、モジモジとそんなこと言った。ノリノリでヤッていたが、一応は女としての節度はあるのか。

 

「あの美人なお姉さまとの3Pも、すごく良かった。これからも、竜さんとしたいなあ」

「ああ、そうしよう。だから、お前も約束しろ」

「んー?」

「これからも俺に抱かれろ。いいな」

 

 わああ、と高城は嬉し気に声を上げた。

 

「やったぁ♡ わたし、これからも竜さんにメチャクチャにされるんだ♡ 嬉しい♡」

 

 甘い声が、何故だか今は、切なく聞こえた。

 

 電話を切る。そしてもう一度、電話をかける。だが、高城にではない。

 

「雫」

「はい、なんでしょう? 店長さん」

「お前らの上司に会わせろ」

 

 高城には真実を知る権利がある。それをコソコソと隠しているのは、気に入らなかった。

 

 

★

 

 

 受付の奥へと案内され、帳簿や鍵が管理されているスタッフルームへ案内される。雑多なもので、様々な備品がごちゃごちゃと置かれている。客の目に届かないところを綺麗にしないのは、なんとも接客業店らしい所業だ。さらに奥に扉の前には若い男の店員がいた。

 

「荷物検査します」

「なに?」

「携帯とか。そういうの、ここで置いていってください」

「好きにしろ」

 

 盗聴対策か。変な気を働かせなくてよかった……のだろうか。ここまでするという緊張感が、これからすることの危険さを物語っているようにも思える。俺は今、完全な手ブラ状態だ。果たしてそれは正解か、不正解か。両手を挙げる。男は服の上からペタペタと触った。

 

 にしても、この男。知り合いだっただろうか。声に聞き覚えがある。

 

「あの」

「なんだ」

「ありがとうございます」

「なに?」

「俺、雫の彼氏で」

「あ?」

 

 どおりで、聞いたことがある声だと思った。

 

「あなたに寝取られたの。その、すごく興奮して。へ、へへへ。俺、あれから、何度もあの時のことを――」

「早くしてくれ。俺は急いでいる」

 

 気味が悪い。壊れた男の性癖など知ったことか。まあ、この件に関しては完全に俺が悪いのだが。

 

 男はへへへ、と笑いながら「この奥です」と言った。

 

 俺は扉を開けて中へ入った。狭苦しい部屋だった。面接室、にしても狭い。まるで取り調べ室のようだ。真ん中に四角いテーブルが置いてあり、対面に椅子が一つずつ置かれている。物はそれ以外にはなにもなく、そのせいでどこか不気味な雰囲気があった。

 

「こんにちは。雫ちゃんから、話を聞いていますよ」

 

 椅子に座る男が、手を開いて着席を促した。

 

 イメージとは違った。三十代後半くらいか。細長い男であった。ひょろりとしていて、手足がやたらと長い。顔も細長く、針金のような男だ。肌は白く、髪はショートで耳もおでこもはっきり見えていた。ニコニコとした笑顔を浮かべており、胡散臭い。なんというか、マルチ商法とかそういうのをやらせたら板につきそうな男である。

 

 近くには誰もいない。彼一人だ。てっきり怖い兄ちゃんの一人や二人、現れると思ったが。にしてもこいつがここの店長か。どうにもしっくり来ない。どちらかといえば頼りなさを感じる印象だ。雫から聞いた話を残虐な指示を出せる器とは思えん。が、まあいい。見た目で判断するのはよくない。

 

「あなたがここの店長か」

「ええ。いつも当店をご利用、ありがとうございます」

「……本当に、そう思っているのか」

「ええ。あなたのような客がいると、ウチは繁盛するんです」

「???」

「豪快に遊ぶでしょう、あなた。よくあるパパ活やデリヘルの類でもない。それに加えて二人まとめて相手したりする。女の子達は誰もが楽しそうにしている。そういうのを聞きたいという客が多いのでね、ええ」

 

 まさか客の前で堂々とそんなことを言うとはな……。

 

「ですから、雫ちゃんとの件も黙認ということです。ははは、あなたは面白いですねえ。プライベートでも、おモテになるので?」

「……」

 

 バレていたのか。黙認、という言葉のチョイスが、遠回しに俺をどうにか出来るということを伝えているようで、うすら寒くなる。

 

 だが、隙を見せてはダメだ。

 

「そんなことは、どうでもいいだろう。俺は高城に真実を教えたい。そして復讐するチャンスを与えたい」

「実を言うと、私としても、協力したくないわけじゃないので、あなたの提案は嫌というわけではない。高城 ティアラが復讐に燃えながら店内をうろついているのは、どうにも気味が悪いので。彼女、おそらく当店が関与しているの、感づいているような気がするんですよねえ。いやはや、困ったものです」

 

 それに関しては、警戒しすぎな気がしないでもない。正直、高城は頭の良い方でない。自力で考えが巡るタイプではないだろう。

 

 だが、あの復讐心は本物だ。現にここへやってきて、姉の話になると濃い怒気を出す。

 

 高い金を作ってちゃんとしたところへ依頼を出せば、ここの闇なんてあっという間に暴かれるだろう。だから、この件は遅かれ早かれ、決着をつけなくちゃいけないのだ。

 

「なので、好意を寄せているあなたを通して、情報を提示するのは一つの手段だとは思いました。自力で調べて真実に辿り着くよりは、穏やかに話が進みそうですからねえ」

「なら、話は早い。情報を渡してほしい」

「ですが、妙ですねえ」

「なに?」

「あなたにどんなメリットがあるというのですか。色男も、あの大きな胸にはやられるということですか?」

 

 雫と似たようなことを言いやがって。

 

「いいか。お前達はなんとも思っていないようだが、高城ティアラは被害者だ。遺族なんだ。なのに、お前達は真実を隠し、彼女を騙し続けている。だが、彼女には真実を知る権利がある。違うか」

「違わないですが、知ってどうするんだ、という疑問もあります。彼女の場合、その先にあるのは復讐でしょう? どの道報われないじゃないですか」

「それを決めるのは俺達じゃない。復讐したっていいんだ、別に」

「ほう?」

「遺族の気持ちは、遺族で決めるものだ」

「……だから、復讐するチャンスを与えろと。真実を与えろと、そういうことですか」

「そうだ」

「いやはや、正義心ですか。増々理解が出来ない」

 

 ……たしかに、高城に情でも芽生えたのかもしれない。だけど、なんだろうな。ムカつくんだ。この店のやり口が。高城の闇が刻々と深くなっていくのが。

 

 こんな事件を隠したままでいるのは、気に入らない。俺はここで遊びたい。女とセックスがしたい。それだけだ。それだけのはずだ。

 

「まあ、いいでしょう。あなたにも色々あるのでしょう。こちらをどうぞ」

 

 書類が渡される。ぞっとした。男の今の勤務先の住所まで、びっしりと個人情報が整然と記入されている。

 

「やらかした男ですからね。身柄は自由にしていますが、こんな感じで「上」に目をつけられている状態です」

「……いいのか、それを俺に渡して」

「ええ。願わくば、高城 ティアラには大事にしないでほしいですがね」

「お前達も復讐対象になるかもしれんぞ」

「その時はその時です。その備えはすでにしてあります」

 

 ……まあこうして、情報を譲渡したタイミングもわかっているわけだしな。しかも高城程度の女の子一人、反撃したところで出来ることは限られている。

 

「それから。情報の譲渡は店内にてお願いします。約束、守っていただけますね?」

 

 男はニコニコとした表情でそう言った。だが、その笑顔の奥にある魂胆はどす黒い。首を横に振った瞬間、俺は事件と同じように消されるかもしれない。あるいは、この男のように監視されるのか。

 

「わかった」

 

 そうとしか言えなかったが、店長は俺を開放した。交渉は成立した。あとは……高城がどうするかだ。

 

 

★

 

 

「えへへ。竜さんだあ♡ でも、もうこんなところじゃなくて、お部屋に呼んでくれてもいいんだよ♡」

 

 高城が個室へ入るなり、俺の胸へ飛び込んでそんな甘い声を出した。俺の股へ向けて手を伸ばしたが、そんなことをしている場合じゃない。そもそもこの個室も今は盗聴されている可能性が高い。

 

「高城。今日は話があるんだ」

「ん? なあに」

「お前の姉の話だ」

 

 瞬間、高城の表情が強張った。

 

「……どういうこと?」

「事件の真相だ。これを見ろ。お前の追っている男は、こいつじゃないか」

 

 バッグから書類を出す。顔写真を見た瞬間、高城はその一点をひたすら見つめていた。そしてボソボソと、怨念のように言葉を吐く。

 

「……こいつだ。こいつ、たしかにこいつ。こいつが、全部、全部、こいつのせいで」

「高城?」

 

 高城は憎しみで目を見開きながら――涙を流していた。異常な光景だった。怒りと悲しさ。同時に混載して、表情が滅茶苦茶になっている。俺は高城の肩を揺らした。

 

「しっかりしろ。高城!」

「どうして、竜さんがこんなのを持っているの。というか、そもそもこれはなに」

 

 きっ、と高城が見上げて来る。さすがに警戒し出したか。まあ、それが正常な反応だ。

 

「ここの店長から貰った。懇意にしているからな」

「……へえ。すごいね、竜さん」

 

 低い声。背筋がぞっとする。だが、臆してはいけない。俺の使命は真実を告げること。そして、男の情報を与えることだ。

 

「事件はこの店で起きたんだ。だが、この漫画喫茶は事を隠すために事件を隠蔽した。その反応だと、お前の勘は当たっていたようだな。この男がその事件の犯人で、店はなにかやらかさないかと、自由にしながらも監視対象にしているらしい」

「これ、住所?」

「ああ。そこにそいつは住んでいる」

「……」

「お前が探し求めていた情報だ。これをどうするかは、お前次第だが」

 

 高城は再び、涙を流した。涙声になりながら、俺を見上げて訴える。

 

「わ、わたし……竜さんが、よかった」

「なにがだ」

「処女……こいつに、奪われたから」

「なに?」

「家に、こいつが、押しかけてきて……おねえちゃんのこと、バラすぞって、脅されて。援交女だって。どうしたらいいか、わからなくなって。ひどい、奴で」

 

 バラバラ、と高城は書類を落とす。俺はその体を抱きしめた。

 

「わかった。わかったから」

 

 ここでそんなことを言うな。この場所は、お前に味方したわけじゃない。ずっと黙って、隠し続けた店なんだ。

 

「竜さん。処女だったら、わたしのこと、好きになった?」

「なにを言っている。どちらでも変わらん。俺は別に処女好きではない」

「嘘だよ。処女だったら、竜さん、絶対興奮してくれていた……」

「どうだかな」

 

 高城が泣き止むで、抱きしめる。数分が経過して、高城は俺から離れて書類を集め出した。

 

「これからどうするんだ」

「決まっているよ」

 

 そうして書類を集めた彼女の表情は、毅然としていた。

 

「復讐。行ってくるね」

 

 ……ああ、わかっていたさ。俺はそのためにこんなことをした。なのに、何故だ。なんで、不安になる。胸が痛むんだ。まさか俺は……止めたかったのか。こいつの復讐を。

 

 何故そんな考えが浮かぶ。大体、そんなものは傲慢だ。こいつは遺族だ。遺族の気持ちや決断を、他人の俺が口を挟むべきものではない。決まっているじゃないか。それなのに……行ってくるといった高城の決意が、苦しい。

 

 だが、行くなとは言えない。いや、言ってはならない。代わりに、言った。

 

「約束。守ってくれるか」

「ん?」

「これからも俺に抱かれろと、言っただろ」

 

 高城は書類をぎゅっと抱きしめ、顔を赤くした。

 

「えへへ。うん……♡ これからも、ね」

「ああ。それから」

「んー?」

「メッセージも。あまり返信出来ていないが、うるさいお前は嫌いじゃない」

「そうだったんだ♡ これからも送っちゃおうかなー」

「そうしておけ。飽きるまでな」

 

 復讐は止められない。彼女の姉は殺された。そしてその犯人は代償を払いながらものうのうと不正に、この世界をうろついている。

 

 証拠があれば、店を潰すのを覚悟で警察に提出出来たが……しかしそのための手段と材料がなさすぎる。そして敵も強大すぎた。殺人事件を一つ隠蔽出来る反社なのだ。俺一人で、一体なにが出来るっていうんだ。

 

「行ってくるね、竜さん」

 

 個室を高城が出て行く。後ろ姿。なにかを言う、最後のチャンスだった。

 

「ああ。またな」

 

 それだけ言った。高城は手を振る。バタン、とドアが閉まった。その音と後ろ姿が、何故だか印象的になる。鮮明に、強く。

 

 その後。高城との連絡は、途絶えた。

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