※この作品はR-18です。

俺の通う漫画喫茶がセックスし放題なのだが?   作:音有五角

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エッチなしのシリアス回。意外と書きたいことが出て来たりして、予定より長引いています。



第九章「天秤」

 ――今日は〇〇号室だ。

 

 メッセージの通知を見る。

 

 だけど、返信はしなかった。

 

 何故? だって、わたしは……復讐しに来たから。

 

 きっと、わたしは人殺しになるから。

 

 もう、それくらいしか、道がないように思えたから。

 

 それなのに、竜さんと約束をして。

 

 その約束に、胸がときめいたりして……。

 

 そりゃ、竜さんはびっくりするくらい、タイプなんだけど。

 

 それ以上に、なんだろう。

 

 上手く、言い現わせないけれど。

 

 こうやって、メッセージを送ってくれることにも、とても喜びを感じて。

 

 そう。つまり、また会いたいなって。そう思えた。だから……だから? わたしは、どうしたいのだろう。竜さんが繋いでくれた希望。与えられた情報。

 

 結論から言えば――犯人は、ある意味悲惨な末路を辿っている。

 

 普通の生活を送っている? とんでもない。彼は暴力団の下っ端をずっとやらされて、今は怪しげな商法の勧誘を片っ端からしている。

 

 かわいそうに。なにかあったら、切られる立場。下っ端だけ捕まって、肝心の上は捕まらない。そういう風に奴らは出来ている。

 

 でも、そんなことはどうでもよくて。

 

 お姉ちゃんの殺人を隠蔽したのは、許せないけど。

 

 一番許せないのは、なにもかもを滅茶苦茶にした、あいつだから。

 

 それなのに……。

 

 哀れなあいつに報復することに、虚しさを感じてもいた。

 

 

 ★

 

 

 部屋とバイト先を行ったり来たりするだけの、そんな毎日。わたしは姉と同じで、そんなにしっかりしている人間じゃない。仕事もころころ変えたりして、自由に生きている。目標? やりたい仕事? そんなものもない。ただ、毎日をなんとなく生きている。それだけ。

 

 だから、復讐は生きる糧でもあった。

 

 なにもかも、人生が悪いのをあいつのせいにして。

 

 そうして、復讐をすればスッキリすると思っていた。

 

 その後のこと? そんなもの、考えていない。

 

 死んでもいいし、どうなってもいい。

 

 わたしは、そんな程度。そういう風にして生きてきた。自分の人生に価値なんて感じていない。

 

「……疲れた」

 

 夜道。ふらふらと歩く。バイトで疲れたわけではない。ただ、考えるのに疲れた。

 

 わたしはこれからどうしたいのか。どうありたいのか。竜さんに……会いに行くのか。

 

 色んな考えがぐるぐる回る。わからない。どうしたらいいか、わからない。そんな風にして、考えて、考えて。あの漫画喫茶の近くまで来た。

 

 竜さんのメッセージには返信していない。でも、今日は来ているらしい。

 

 ……会って、どうすればいいんだろう。エッチするの? 何事もなかったかのように? なんだか、違う。しっくりこない。

 

 わたしとあの人は、ただの遊び相手……。

 

 わかっている、そんなこと……。本当は、その程度の関係。

 

 だから、わたしがこうやって会いに行くのは、違う。約束を果たすのは、なにか納得がいかない。

 

 ……どうして? どうして、納得がいかないって、思うんだろう。わからない。難しい。わたしは踵を返した。瞬間――覚えのある顔と、すれ違った。

 

「あ。あなた……」

 

 わたしは目を丸くした。竜さんと一緒にいた、あの美人なお姉さまだったからだ。

 

 

★

 

 

 お姉さまはとても不器用な人だった。三島 凛、というらしい。

 

 顔を赤くして、照れたように「一緒にごはんでも食べにいかない?」と誘われた。

 

 ……竜さんと、どういう関係なのだろう。わたしなんかよりもずっと、ずっとしっかりしてそうな人だった。ビシっと着こなしている、かっこいいスーツ姿。スタイルの良い後ろ姿。スーツ越しだけど、胸だってかなり大きいことがわかる。むうう、完璧人間じゃないか。わたしには眩しい……。収入とかも安定していて、すごいんだろうなあ。

 

「あの」

「ん?」

「竜さんと、どういう関係なんですか?」

 

 つい、口に出してしまった。三島さんは目を丸くして、答える。

 

「ただの同僚よ。で……ま、まあ、成り行きで遊んでいる。それだけ」

「かっこいいですよね」

「え?」

「竜さん」

「……そうかもしれないわね。多分。多少。ちょっと」

 

 ごにょごにょ、と三島さんは歯切れ悪く言う。美人なお姉さまだけど、可愛い。こういう感じなんだ、この人。

 

「で、一番かっこいいところは、やっぱり……」

「なによ?」

「おチンチン。すごい気持ち良い」

「わー、わー!? あなた外でそういうこと言うんじゃないわよ!」

「え? だって、そうでしょ? お姉さまも、そうじゃないの?」

「うっ」

「すごかったでしょ?」

 

 三島さんは言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にした。

 

「す……すご、かった」

 

 ごにょごにょ可愛い。お姉さま、絶対にモテる。

 

 

 ★

 

 

 三島さんが連れてきたのは、お寿司屋さんだった。だけど、回らない奴だ。高いんじゃないかと思ったが、それほどでもなかった。お酒とかおつまみも出る、大衆的なお店だった。職人さんがいる真ん中をぐるりと囲うようにカウンターが並んでいて、ものすごく賑わっている。こんなお店あったんだ。なんかこういうところを知っているっていうのも、ビジネスウーマンらしくてすごいなあ。

 

 三島さんの隣に座って、職人さんににぎりをオーダーする。基本、こういう形で寿司が来るようだ。

 

 回る奴しか行ったことないから、なんだか、それだけで新鮮だ。

 

「二人って、なにかあった?」

 

 三島さんが、ハイボールを飲みながらそんなことを言った。わたしはお酒が苦手だから、ソフトドリンクでウーロン茶を飲んでいる。

 

「竜さんとってこと?」

「そうよ。つーか、あいつがなんか様子変なのよ」

「そう、なの?」

「やりづらいったら、ありゃしないわよ。急に仕事に打ち込んだり。かと思いきや、心ここにあらずという感じでやらかすし。あの漫画喫茶にも行っているようだけど、なんかノリ気じゃなさそうというか」

「はあ……」

「……あと、あなたのことを聞くと動揺する」

「わたし?」

「だから、なにかあったんじゃないかって」

「……」

 

 そんなこと、あるのかな。あの竜さんが、わたしのことを心配するのかな……。

 

 辺りは騒がしい。仕事終わり。酒もあいまって、大声でみんな会話している。

 

「お姉さま」

「なに?」

「お話、聞いてくれる?」

「それは……悩み事?」

 

 声のトーンでそう判断したのか、そんなことを言う。わたしは頷いた。

 

「すごく、すごく暗い話になるの。それでもいい?」

「いいわよ。話してみなさい」

 

 三島さんは大人な包容力を見せて、そう言った。その表情はほんの少しだけ、お姉ちゃんに似ていた。

 

 

★

 

 

 わたしは全てを話した。復讐のこと。竜さんとのこと。

 

 そして今、迷っていること。

 

 殺人というキーワードが出てきて、さすがに三島さんは驚いたような顔をしたけれど。真剣に、最後まで聞いてくれた。

 

「あなた、本当に島部が好きなのね」

「うん」

 

 迷いなく、頷く。三島さんはふう、と息をついた。

 

「だから、見返りを求めている」

「見返り?」

「そう。恋は一方的ではいられないでしょう? 見返りがないと、ただの片思いになっちゃうわ」

「うん」

「だから今のあなたは、二つの天秤で揺れているの。なにもかもを捨てて、復讐をすること。それか、島部のところへ行くか。でも、島部のところへ行くあなたは、恋人としてのあなたじゃない。あくまでもあの漫画喫茶での、遊び相手として。だから、二つの天秤が釣り合っていない。復讐に傾いている」

「……」

「そう思うと同時に。どこかで、見返りを求め始めている。島部が、あなたの想いに答えるんじゃないかって。それだったら、天秤は傾く。島部の方にね。違う?」

「……」

「でも、そう思える確信がないから。小さな可能性しかないから。だから、どうしたらいいかわからなくなっている」

 

 わたしは三島さんの顔が見れなくなった。頬が熱くなる。竜さんのことは好きだ。でもそれが、こんな形で言い現わされると、とても恥ずかしい。

 

「竜さんって、彼女いる?」

 

 問いかけに、三島は笑った。

 

「絶対いないでしょ。じゃないと、あんなチャランポランなことしないわよ。あなたみたいな可愛い女の子をもてあそんだりもね」

「わたし、竜さんに好かれたいのかな」

「今の話を聞く限りでは、そういうことだと思うわよ。どんなに好きな人でも、好きになってもらっている実感がないと、やっぱり好きになりきれないじゃない?」

「お姉さま、やっぱり大人」

「え? そ、そう? あ、あははは……実体験っていうよりは、ドラマとか小説の受け売りなんだけど(ボソボソ)」

「なにか言った?」

「独り言よ……」

 

 何故か、三島さんは少しだけ落ち込む。なんでだろう。お酒入っているからかな。

 

 

★

 

 

「美味しかったー! ご馳走様でした、お姉さま」

 

 三島さんはおごってくれた。器が大きい人だ。素敵。大好き。

 

「いいのよ。ただ……なんだか、心配になったわね」

「なにが?」

「なにがって、あんなダークな話聞いて、はいそうですかで見送れると思う? 不安になるじゃない」

「大丈夫。わたしは元々、ダメ人間だよ」

「全然大丈夫じゃないわよ。ねえ、あなたとりあえず……」

「とりあえず?」

「……島部に会うのは、ダメなの? 話し合いなさいよ」

 

 たしかに問題を解決するのは、そういうことなのかもしれない。

 

 でも、ダメだ。会ったら、それはわたしが竜さんを選んだことになるから。

 

 わたしは首を横に振った。三島さんは残念そうに柳眉を曲げる。

 

「そう。そういうと思ったけど……じゃあ、こうしなさい」

「なに?」

「わたしにあなたの連絡先を教えて。そして、どうしても復讐の道を選ぶとなった時。その時は、必ず連絡をしなさい」

「……もし仮に、わたしがその約束を守ったとして。そんな連絡を受け取ったお姉さまは、どうするの?」

「決まっている。止めるわよ。だって、明らかじゃない」

 

 三島さんはまっすぐに見据えて、そう宣言した。

 

「それが、島部の意志でもあるのだから」

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