※この作品はR-18です。

黒川あかねさんが昔うっかり濡れ場でイカされてしまったウワサ   作:ふりーじ屋/家庭内禁書

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黒川あかねさんが昔うっかり濡れ場でイカされてしまったウワサ

 次の話は、鈴木忠志さんから伺った、実際にあった話です。

 ある時、富山県利賀村の国際演劇フェスティバルに、とある暗黒舞踏のカンパニーが参加しました。そのカンパニーは、公演期間中も訓練を欠かさないようで、ある晩は、若いダンサーたちが、一晩中、河原に立って、木になりきるように命じられていました。そこにときどき女性の主宰者がやってきて、若いダンサーのすねを蹴ります。当然、ダンサーは痛がるわけですが、そこで一言、

「木は痛がらない」

 と言って、その主宰者は一人、宿舎に帰って行ったそうです。鈴木忠志さんは、厳しい稽古や俳優訓練で有名な方ですが、

「さすがにオレでも、あんなことはしないよ。見てて、怖くなっちゃったよ」

 と笑っていました。

 スタニスラフスキー・システム、メソード演技と暗黒舞踏は、対極にあるようですが、それが変なふうに突き詰めると、同じところにたどり着いてしまうのが面白いところです。いや、面白がってばかりはいられません。怖いところですね。

 

(平田オリザ『演技と演出』第六章――演出とは何か?)

 

 

CONSOLATION, n. The knowledge that a better man is more unfortunate than yourself.

〔慰め:名詞 自分よりすぐれた人が自分より不幸である、という認識〕

 

ILLUSTRIOUS, adj. Suitably placed for the shafts of malice, envy and detraction.

〔輝かしい:形容詞 悪意、ねたみ、中傷を向ける先としてちょうどいいところへ位置している〕

 

(アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』)

 

 

 

 

 

 この話がいまになって妙にしつこいウワサとして浮上してきたのは……いちおう名前を伏せておきますが……“彼女”が日本映画賞で新人賞をとったからでしょうね。本来ならもっと前にスキャンダルになっていてもおかしくなかったのですが、さしずめネタをつかんでいた人が……ほぼ確実に彼女がすぐ株を上げると当てこんで売るならそのとき……とか、欲をかいてネタを出し惜しみしたのか、あるいは自殺未遂で騒がれたとき様子見していてそのうちタイミングを見失ったのかと。

 

 そんなこんなのあいだにネタがじわり漏れて尾ヒレがどんどんついて……どこの業界でもリーカーは話を盛ると決まっていますし、この業界ったらウソが売るほどありますし……なべてこういうネタは水物ですが、こうなるともう腐っちゃったようなものです。

 

 でも、腐っても鯛、とも言いますよ?

 

 ……じらしがすぎましたね。

 

 

 

 当時、彼女は某映画で濡れ場を演じることになっていました。相手が、俳優の……有名人どうしですから、どちらか伏せたなら残りも伏せなければ無意味ですね……“彼”は、若いころから長年あちこちの作品で活躍してきた実力派でした。女グセの悪さが足を引っぱっていまいち大成しきれていないポジションでもありました。セクハラぐらいの問題だったとしたら“あぁ……”で済んでしまうヒトです。

 

 ただ、実際に撮影する前の打ち合わせ段階では周りの誰もあんなことになると想像もしませんでした。当人たちでさえそうだったと思います。

 

 彼女のほうは嫌な予感どころかそもそも目の前の演技でいっぱいいっぱいになっていて、まったく余裕がなかったふしがあります。彼女、演劇界隈で実力派のホープとしてすでに高い評価をもらっていたようですが、カメラを前にした仕事となると明らかに不慣れなようすでした。同じ芝居といっても勝手が同じなのは根っこのところだけで枝葉は違って、この商売に重要な見た目について目立つのは根っこより枝葉のほうです。あぁ、演技には真剣に取り組んでいるようでした。ただ、劇団っていう限られた人間集団で時間をかけて芝居を作りこむというノリが、つまり身内だけのときのノリが抜けていなくて、例えば……ギャラの8割を事務所にもっていかれているとか、劇団に映像作品のノウハウを知っている人が少ないとか、マネージャーが上司から数字の件で詰められててパワハラのようでこっちまで困るとか、お父さんよりも年上の男性とのそういう行為は演技であっても抵抗があるとか……はっきりした言葉でこういうのグチるほどうかつではありませんでしたが、ふとした言動や動作の隙間にそういう雰囲気が漏れてしまっていました。

 なるほど女優としての表現力はあるのですが、その力が処世術についていってなくて持て余している印象でした……まぁ若さを考えれば許されるかな、ぐらいの……人が入れ代わり立ち代わりの映画の現場では、ちょっと居場所をつかみかねていました。あとマネージャーさんがガチャガチャつめられてて気まずそうだったくらいでしょうか、あれ見せられるまでの彼女の印象は。

 

 いっぽう彼のほうは、濡れ場より前の彼女との共演シーンも含めて、仕事を淡々とこなしていました。役者としても女としても、そのときは彼女にただの共演者以上の関心を向けていなかったようです。濡れ場の段取りを確認しはじめたときも触るふりで済ませようとして、逆に彼女から「そこまで遠慮していただかなくとも……」と言われていました。

 

 話が前後しますが、その映画は明治・大正の日本を舞台としていました。彼と彼女は、役柄の上だと伯父・姪という設定でした。つまり濡れ場が近親相姦になります。難しいですね、どう演じたら観客にそれらしく納得させられるのか私にもよくわかりません。しかも彼女からすると自分のひいおじいさん、ひいおばあさんの世代の人間を演じることになって、さらに台本などの資料が余白の多い……というか現場任せ、投げっぱなしのスカスカの……シロモノで、彼女は明らかに苦戦していました。

 いまの彼女の評判を聞くと、たくさん資料を集めて獺祭のように並べて眺めて整理してプロファイリングして役作りをするようですね。もし……この役どころが実在の人物だったとかで史料や先行作品など役作りに使える材料がもう少しでもあったなら……当時の成り行きもまた違ったかも、なんて。

 

 濡れ場は撮影が迫ってきた段階でも苦戦しそうな雰囲気が漂っていました。ただ彼も彼女もプロですから、準備のうちに苦戦させてくる原因をおおまかにつかんでいたようです……「きみがそこまで熱くコッテリした演技をするなら、僕は冷たくアッサリした演技をしたほうが対比が効くんだがね、そうしないと」「もっと抑えるべきでしょうか……演劇畑は演技が大げさ、くどい、ってよく言われてしまうから気をつけろ、と皆さんから聞いていたつもりなのですが」……濡れ場において、彼女は伯父から迫られてまず拒むけれども、それから拒みきれないとわからされてあきらめ、流され、という筋書きで……彼女が拒絶もあきらめも堕落もオーバーに演じてしまいがちだったようです。

 

 あるいは彼女の体が、抱かれる仕草をオーバーに見せてしまっていたのかもしれません。彼女は衣装として白く薄い布の長襦袢(ながじゅばん)を着ていました。わかりますね? 浴衣みたいな形をしている真っ白な肌着です。時代物ですから下着としてブラやショーツは出せませんので。それで彼女は長襦袢の下にニプレスなどを張って隠して撮影するしだいでした。未成年の肌をじかに映さないほうが、という配慮からも長襦袢を着せて布1枚かぶせてしまうと都合がよかったのでしょう。

 それが、彼女にそういう姿をとってもらうと……肩や腕を軽く振って伯父役の手を拒絶してみせる仕草一つだけで……か弱いというのが伝わってきてしまうんです。背丈は人並みより少しあるぐらいに伸びていましたが、骨が先に成長していて肉が追いついていなくって、いかにも女の子という、手足や肩が棒切れみたいに細くまっすぐな印象でした。それが長襦袢の白い薄布ごしに浮き沈みしていて、暗がりに白い動きが引き立つし、見ているだけでもどんどんその印象が深くなって、何度か見ているうちに彼女がなにか身動きする前から線の細さがにじんでくるのです。これがもっとふっくらした大人の女性だったら色気が出ていたんでしょうが、当時の彼女からは痛々しい感じが強く出ていました。大人がやれば気配りができる人だなぁ、って振る舞いでも、子どもがやるとお利口すぎて不自然になっちゃうことがありませんか? ああいうギャップに似ています。

 そう、あのころの彼女はまだ半ば子どもみたいなものでした。いやらしく撫でられるふりをされただけで、犯されてしまったように本気で感じられる。感じてしまう。そういうMagical thinking(呪術的思考)って子どもにはありふれていることでしょう?

 

 そういう彼女に向かってくる彼の手が、またいやらしくてですね。世間ならともかく俳優としては立派なおじさんで、枯れ気味の肌をまとって血管を浮かせた手の甲やら指のふしやらが、彼女の白い襦袢のうえを、素肌のようになめるように行き来すると……なめらかに手入れされた爪先がまた意味深でして……彼の手にかかったらしい女は、若い女優とか歌手とか女子アナとかもいまして、あれでどんな手管を使ったのかという野次馬根性が起きなかったか、と問われたら、なんとも答えに困るところです。

 

 

 

 事前の段階で演技をだんだん詰めていくと、いやらしくも痛ましいムードが増していきます……近親相姦で手籠めというシーンですから、いやらしく痛ましくなかったら困るのですが……役作りの助言という体で、彼が近親相姦と言うか虐待についてもっともらしいことを講義していました。「子どもが親から……厳密にはこの役だと伯父で、つまり保護者というべきか……そういう大人からひどいことをされたとき、ほとんど決まって、自分が悪いと考えてしまう」「……なぜですか……?」「きみの家庭は円満のようだね、だが……まともな親だろうがおかしな親だろうが、子どもは親に頼らなければ生活がままならない。そこだけ見ればペットみたいなものだ。そういう、自分が依存せざるを得ない相手が悪いとかおかしいとか狂ってると考えるのは、ひどい認知的不協和だ」「でも、どうして親は、そんな子どもを……」「もし悪い飼い主だったらペットが気に入らなかったとき捨ててしまえるが、悪い親は子どもが気に入らなったときでもそうそう捨てられない。それに耐えられ――」とかなんとか。

 なんだか妙に含蓄を感じる語り口でした。彼、バツイチですが子どもは……少なくともおおっぴらにしているとかウワサでささやかれているとかの子どもは……いないはずなんですけど。児童虐待ってこの業界はぼちぼち見受けられますので、彼が子どもだったころ、ひょっとして。

 こういう因果がなくってただ彼女がかわいそう、ってほうがスキャンダルとして収まりいいんでしょうが。

 

 彼の助言が役立ったのかどうかはさておき、少しずつウソが真に迫っていきました。

 彼の年季の入った手や指に押さえつけられたり撫でられたりしていて、彼女の白い薄布1枚隔てた肌や骨が震え……震えてるのは筋肉や腱のはずなのですが、鎖骨やら肋骨やらがびくりとするときに目立って……痛々しさのなかに蠱惑的な空気が醸し出されるようになっていきます。そろそろ私たちが止めるべきだったのかもしれませんが、彼女はあくまで【演技】と言っていました。演技の範囲と思っていたのか、演技という体裁にしてもらえなければ耐え難かったのか。

 となると私たちはなんとも……いいえ、どうにかできたはずなのですが、早くも、いわゆるwillingly supend disbelief(疑いを棚上げ)というような状態で、彼女がどこまで演技でどうなっていくか気になって……すっかり観客の気分にさせられていた気がします。

 知らず識らず私たちも呪術的思考に引きずりこまれてしまったのですか……役者ってそう引きずりこむ仕事ですから……これは現場の煮詰まったところに立ち会っていないと信じられないでしょうが。

 

 いっぽう彼は共演者です。彼女の【演技】に合わせていかなければ、むしろ張りあっていかなければ、役者として何十年もの大先輩である沽券にかかわります。そうでなくとも演者どうし張りあってしまいがちなのが役者のサガです。放っておいたらチキンレースみたいにエスカレートしていくなんてありがちです。

 こういうときを見極めストップをかけるのが現場責任者たる監督の役目なのですが……間が悪いことに助監が仕切らなければならない日で、ほら、客寄せのための名ばかり監督でほかの仕事でも忙しくって助監に投げがちなパターンの、こういうとき助監では……まぁ、私が言えた立場ではありませんので。

 

 

 

 濡れ場は彼女が迫られて拒んで……あの刺すように鋭く、しかし細くもろそうな悲鳴のどこまでが【演技】だったのでしょうか……押さえつけられ、くちびるを奪われるところから始まる手はずでした。シーンでは、古めかしい和風のお屋敷の人目につきにくい一角で、照明もしぼられていて、すでに犯罪的な絵面でした。公開された本編とは……あれでさえ物議を醸しましたが……比べ物にならないほど。

 どこまでが実際だったのですか、どこまでが私の邪推ですか……? 確かに言えるのは、その濡れ場が濃厚なキスから始まったというところからです。

 キスはケダモノめいた衝動と、近親相姦らしきためらいと、後ろ暗そうな湿り気を帯びて彼女に詰めよります。だんだんキスが深くなっていって、彼女の息が荒くなっていきます。そうこうしているうちに、抵抗する【演技】でもがく手足が汗ばんでか、長襦袢の白く薄い布が彼女の肌にところどころ張りついていきます。丸出しよりもむしろもいやらしい。隠していると余計に目立つって場合がありますね。もっとあとの話になりますが、ニプレスや前張りもちゃんと隠すべきところをほとんど隠していて、かえって反応を浮き上がっているようにも感じられました。

 キスの合間の吐息が乱れて、乱れ具合で先に進んでいくことがわかります。ポルノ映画でもないのに、彼女がほだされていく、と【先】をわからせるのです。チラチラ見え隠れする震えに恐怖と熱が混ざっておかしな色になっていく。

 

 画面のうえでは、彼・彼女の濡れ場は竹の衝立を隔てて撮ります。それゆえカメラや私たちから見ると、薄暗いなかに連子窓のような透け感のある衝立の向こうで2人が絡んでいます。見えにくくしているので【演技】は【本当】よりもオーバーにするのが通例です。このシーンに以外にも言えることですがスクリーンに投影されるとき奥行き感が薄まるので、もうバタバタ格闘しているぐらいの勢いで動かないとお客さんに伝わりません。

 ですけれど、それにしたって汗や表情、息遣いが、逃げようとして抑えこまれる手足、首や肩の震えが、生々しく目に焼き付いています。演じるのが薄暗かったり連子ごしだったりといっても、演技にごまかしが効くようにはならないのです。

 例えば、俳優の訓練とかワークショップで、あえて真っ暗闇の部屋で演技をすることがあります……といっても体の手や足やお腹に、せいぜい10個ぐらいでしょうか、豆電球を着けて、着けたまま点灯させて、重いものを持ち上げたり、パントマイムみたいに持ち上げるまねをしたりします。はたから見るとレーザーポインターよりささやかな明かりの粒だけが暗闇の中でちょこちょこ動くだけなのですが、それでも本当にものを持ち上げているのか、それともただのパントマイムか、素人目でも割とあっさり見抜いてしまいます。見抜ける原因は認知のクセみたいなもので訓練してない人でもだいたいわかってしまう。逆にプロは、そこでいかにふりを本当らしく見せるよう動けるかを訓練するのです。そういう訓練をじゅうぶんに積んだ人だと、鑑賞者に見せられるものとか聞かせられる音とかが制限されていても無制限の時より本当らしく感じさせてみせることが……ああ、全部演技であってほしいのです、彼女に見せられていまこうしてお聞かせしていることが。

 

 彼女の抵抗に対して彼の愛撫はじりじりねっとりと進んでいきます。振り払われても気にせず、絡みついて、撫でさすり、つねりあげ、彼女を汚していきます。あの枯れかけた手が声なくも雄弁に言い聞かせています。セックスで感じにくいという若い女のうちのいくらかに、敏感すぎて快楽を感じられないというタイプがいますね、子どもがピーマンのような野菜の青臭さを嫌うような……あれって子どもの味覚が大人より敏感なせいらしく……彼の手つきはそれに合わせたようです。こちらのような年ごろからするとじれったいような……子どもにピーマンを食べさせるため青臭さを薄くするよう冷凍したり油っぽくしたりするような……とたとえるには、いやらしすぎでしたが……。

 まるで自分のことのように言うんだな……と、お思いでしょうね。こういう若い女優の心持ちは、私も知らないわけではありませんので……。

 

 やがて彼の手が彼女の胸に触れていきます。気負いもなにもないように鎖骨や肋骨など敏感なところをくすぐり、マッサージというにはほんのわずかに遠慮がちに乳房を包んで持ち上げて、ゆらゆら揺らしはじめます。ブラさえしていないところにバストを父親ほどの歳の男からもてあそばれて、彼女もたまりません。大きく息を乱すなかにかぼそい声を漏れ聞こえさせ、タブーの緊張と興奮を彩るようです。彼女は役の設定で処女だったのですが、それと不釣り合いに艶めかしい声をしきりに漏らしています。

 彼の顔が彼女の胸元あたりに近付いて、いちばんデリケートな場所をめがけてキスをしかけているようになります。彼女が身もだえて逃げ惑いますが、やがてしおれたような悲鳴とともに、乳をねぶられ、胸元や首筋、そして頬までが上気していきます。長襦袢の白が彼女の紅潮を引き立ててしまっています。嫌がりつつも感じて、ほだされて……という演技が本当に見えてきます。

 嫌がる演技、というのはプロの演技と素人のそれをわける一つのポイントです。よろこんでいるように見せる演技は素人でもよくしますよね、もらいものとか合コンとかナンパとか面接とか営業とか、生活の潤滑油として必要です。逆に、本心で嫌がっているかはともかく、相手に「私は嫌がっている」と解釈してほしい……嫌がっているという【体裁】ではなく……という演技、素人さんならしないのです、不要ですもの。それをいきなりやろうとすると……学校の演劇部とか、モデルやアイドルがじゅうぶんに稽古する時間もなく映画やドラマに出演させられたとか……「嫌がっている」って【意味】を躍起に見えるほどしっかり伝えようとしてしまいがちです。それが素人の観客にもぎこちない演技と感じさせる原因となります。じゃあ演技のプロはどうするのか……いろんな人がいろんなことをおっしゃっているのですけど、例えばスタニスラフスキー・システムだと、俳優自身が嫌な思いをした記憶を引っぱり出して自力で嫌悪の感情を引き起こせ、とか言うわけです。スタニスラフスキーから俳優というものは技能労働から感情労働になったようで……。

 

 ……ええ、余計なことをぐだぐだと、言い訳がましいですね。彼女のあれがすべて演技だった、だから私たちが止めなかったのは悪くない、とは……さすがに言えません。

 

 濡れ場が続いてしまいます。

 彼の手は彼女のくびれ、太ももへ下りていって、長襦袢の裾をめくりあげていきます。彼女の足は太もももほっそりしていて、それが暴かれて、デリケートなところに男の手が容赦なく押し当てられていくのです。むず痒いのかもどかしいのか、彼女は涙声とともに顔を左右に打ち振ります。そしてだんだん荒くなる息にまざって嬌声のようなものが漏れ聞こえてきます。どこまで演技なのか、どこから本当に感じてしまっているのか、ともかく彼女の薄布1枚まとった体がもだえて、のけぞったりうずくまったり、肌もしだいに濡れて髪が乱れて張りついて、抵抗してみせるのですが、彼の愛撫に押し流されていきます。いつしか彼女の手足が震えながら宙を掻くようになります。限界を知らせるかのようで、誰もがそれを知って、しかし彼が無言のまま限界の先に追い詰めていく。

 

『くぅ……んん……っ!』

 

 強いて言えばこんな感じの声をこもらせて、彼女が胴を不自然にねじって痙攣させて、幾度か呼吸かするとがっくりと脱力します。抵抗のかけらだったのか、それとも達してしまったのか。胸にキスしていた彼の口が彼女の口に移り、舌と舌が絡み合う音がこちらまで聞こえてきます。

 彼女はもう抵抗らしい抵抗もできなくなったようです。

 

『い、いけませ……わたし……くひっ、ひんっ! おじさま……はぁぁっ、んぅぅぅっ……!』

 

 彼女の『おじさま』で、それが濡れ場だと思い出させられます。そうでなければ彼女がレイプされていたことになっていたと思います。映画の撮影なのに、おかしな話ですが……しかしほんの一握りの役者は、やってのけるのです。

 俳優に限ったことではありませんが、演劇というものは鑑賞者に伝わるイメージを、そのイメージってものを乱暴にまとめると、劇中でなにが起きた【ことになっているか】を、さらにそれに伴う登場人物の喜怒哀楽も、コントロールする必要があります。そのコントロールがきかなければ、鑑賞者の感情を呼び起こすことが不可能、と言っていいでしょう。ところで起きたことにするには、現実以上の説得力がいる場合がほとんどです。殺陣で現実以上にわかりやすく斬ったり斬られたりしなければならないようなものです。ドラマツルギーから少しだけ話がズレますが、香料なんてもっと極端で、例えばブドウの匂いがする香料を開発してテスターに本物のブドウと匂いだけかがせて「どっちが本物?」って択一で選ばせて100%香料が選ばれるところが製品化へのスタート地点なのだそうです。偽物が本物以上に本物らしくなければならない、そこから改良が始まる。

 

『ふぅっ、ぇうぅぅっ……んぅっ、ん、うぅぅぅぅっ……!』

 

 彼女は声を押し殺しています。歯をかちかち鳴らしていた気もします。本来ならここでカット入れたってじゅうぶんすぎるぐらいなのです。これだけ撮れば彼女が犯されたことになるはず、少なくとも観客にそう伝わるはずだったのです。

 

『んんぅ! ん……くっ!』

 

 けれど奇妙な勢いを孕んだまま続いてしまうのです。彼女がきゅっとくちびるを結んでいても、中身はぐすぐす煮立ってしまっているように肌がゆらゆらして、くちゅり、なんて水音まで耳にこびりついています。

 

『ぁ、は、ぁ……っ……んん!? んぅう……ッ!』

 

 彼女の息遣いと表情だけで、どこをどういじられたのか、私には思い浮かんでしまうのです。彼女のあそこを見たことがないのに……指で押しこまれて、こりこりに充血したところをつままれ、ひくり、ひくりと震わされ……彼女がいくら押さえつけようとしても声や吐息や汗や痙攣となってあふれだしています。

 

『ん、ぐ……い……っく、ひぐっ、んふぅうう! い、ぅうん……っ! ぁ、う……ッ!』

 

 台本どおりであればそろそろほだされて受け入れる頃合いですが、彼女は拷問にあっていながら口を閉ざしたままの囚人のように苦しみながら喘ぎ喘ぎしつつ拒絶しつづけます。どれだけ手足を振っても腰をひねっても意地になった彼に差しこまれ、そこから無理やり押し入れられ、広がらされていきます。

 

『ぃ、や……ま、まっ……んんんッ!』

 

 彼の愛撫がいよいよ勢いづいて、彼女の髪や長襦袢も振り乱れるなか、連子ごしに床板かなにかがぎしり、みしりと悲鳴のような軋みをあげます。

 

『ぁ……ゃ、めぇ……も……っお、っ……!』

 

 そのとき彼女がついに挿入されてしまったのだ、と私は思っています。向こうで床を叩いたりする音や彼女の押し殺した涙声や嬌声が演技とまったく思えなかったのです。彼女のボブカットもぐしゃぐしゃに乱れ、長襦袢はしわまみれのめちゃくちゃになってしどけなくへたりこみます。その光景をありありと目に浮かべてしまいます。強姦されているらしき女の子に対してひどく不謹慎なのですが、私はどうにも興奮を禁じ得ないのです。

 あれだけか弱かった彼女がオンナに、淡々としていた彼がオトコに、乱暴だった行為が欲望と快楽まみれに塗り替えられていって、もう見せるのを止めてほしいと思っているはずなのに目も耳も背けられないんです。これまで夢想だにしなかったりこれからも居合わせないに違いない、これっきりの感覚です。ひょっとしたら現場で見た誰かが……その場ではないにしても思い出して……オナニーしてしまっているかも。

 

 

 

『っ……っっうぅー……ぅ……!』

 

 いつのまにか、彼女の手足が彼の背中に絡みついています。自分が犯されてどうしようもない無力感と悲哀のなかに、快感に似ているけれどもっとおどろおどろしく、抗いがたい感覚が湧き上がってきて彼女を呑みこもうとしているのです。それに身を任せてしまえばいっそ楽になれるのかもしれません。

 

『ん、ぅ、あッ……は、あッ……あ、ああっ!』

 

 彼女は女優で、快感に流されることなど許されません。その冒涜的な感覚からどうにか逃げだそうとしています。しかし彼女の体はそうさせてくれません。むしろその感覚をもっと味わいたいとばかりに彼を強く抱きしめて、自分から腰を使っているようでもあります。

 連子ごしでもわかりやすいのは、狂おしく腰を跳ね上げさせたり、背中を弓なりにさせたり、といった不随意らしき動作です。その合間に彼の背中や手足が駆り立てられて鈍い音があがって、悲鳴にも似ている呼吸やら、びちゃびちゃ失禁か嘔吐かといった粘っこい滴りやらが、途切れとぎれに散らばります。狂騒と言ってもいい痴態にこちらはいい加減に胸焼けしてきたのですが、おさまる気配がないどころか、むしろ深まっていくようです。

 

『う、うっ……うぅうっ……ち、が……わたし、は……っ……ぁ……』

 

 2人の会話らしき言葉はこちらまで届かずマイクもすり抜けています。演技の向こうで、彼女は本当に泣き出してしまったのかもしれません。それでも彼は止まることがなく、彼女の手足がのたうって、水音の合間に肩や腰が震え出して、こちらまで首筋あたりが総毛立ったり歯の根が合わなくなったりの感覚に囚われる心地がしてきます。

 彼も彼女も……ひょっとして私たちも……ケダモノじみた衝動に押し流され飲みこまれています。だんだん重くなって強まっていく。そのあいだに数え切れないほど、彼女の声が乱高下したり彼女の細い手足や肩が痙攣して、おそらく下腹部も同じように痙攣しているのでしょう。繰り返し体験させられているのでしょう。きっと【演技】ではなく。

 

『ぁ……だ、めぇ……も……っお、っ……!』

 

 彼女の快楽は際限がなく彼女を燃やして、美しくも虚しい陽炎のようななにかをひたすらに生み出しているようでした。もう衝立や薄闇を隔てていても、彼女の曇って焦点のあわなくなった瞳や、人形が間違った動かし方をされているかのような手足のようすが見えます。いまでもまぶたに浮かぶのです。自身の体が奈落の底に引きずりこまれて奪われて蕩かされる羽目になって、無理矢理に恐怖が快楽と入り交じらされて、もう自分がどうなっているのかさえわからなくなる。そんな体験が彼女にもあるのでしょうか。

 彼女は彼を受け入れ、ついには絶頂にまで導かれていく。そうとしか思えません。一度や二度ではなく、数え切れないほど。

 率直な感想を言えば、彼女の体の痙攣と弛緩は、【演技】ではなく本物でした。彼女はいまにも事切れてしまいそうになりながら彼にしがみついていました。完全に彼の意のままという風情です。でも彼の責めは止まりません。長襦袢がすっかり濡れて彼女が裸身も同然というありさまから、さっきずぶずぶ沈んだはずの彼女のうめきがまた高く細くなって、これがただの絶頂などではなくもっと奥のものへ押し上げられてしまっているのでは、とさえ思わせました。

 それでも彼女は声を殺しながら、なにかを弱々しく哀訴のように……それでいてまだ足りない、もっと欲しいと求めて甘えているようでもあります……その懇願の合間を彼の期待や渇望が横切って、そのたび彼女の輪郭がぼやけていきます。彼女の濡れに濡れた体と声はどこまでもどうしようもないほど退廃的です。うっすら生臭い疲れに浸された切実さも匂ってきます。

 

『……ぉ、お、く……ぅ、ぅう……っ……』

 

 結合部が目視できていなくてもつながっていると確信してしまう。時折、深く深く達しているのか、ときどき足先を床に叩きつけたりヒザを曲げてのたうったり、どこかをずりずりこすったりする音がやけに耳障りに響きます。水音も、みちゅ、ぶじゅゅ、と粘っこくこもったように色を変えています。

 

『ふッ……く、く……んふっ、ふんあ、ああっ……うぁあ、あ……っ!』

 

 とうとうのどやくちびるだけで声を殺しきれなくなったのか、彼女は手で口を抑えるようになります。それに嗜虐心を煽られてか、彼がいよいよ躍起になって、勢いのすごい挿き抜しの音が連なっていきます。ばつんばつんと鳴るたび、彼女のすらりと細い手足がバタバタと暴れ、ぎくしゃくと曲がって、艶めかしくくねって、ピンと伸びて、がっくりと脱力します。首筋など張りつめすぎてぷつんと切れてしまうかも、と見ているこちらが恐ろしくなります。また達してしまったのでしょう。

 

『ぜぇっは、ひ、は、ぁ……ぁ、あっ……』

 

 セックスどころかシャトルランを限界でもやらされたような消耗です。思い出すだけでも気分が重くなります。言葉がなくても彼女の肉体は雄弁で、底なしの濁った快楽に突き落とされ溺れさせられているさまがありありと伝わります。息も絶え絶えで痙攣冷めやらぬ彼女の腕を引いて、彼が後ろ側から組み敷いて責めはじめます。いったいいつまで責めつづける気なのかわかりませんが、彼は息もひどく荒くさせつつ、時折彼女の腕を引いて体を起こし、むさぼるようにくちびるを奪っています。

 それをふりほどくまねを彼女がすると、彼の責めはさらに激しく粘着質になって、彼女に押し入ってきて容赦なく苛みます。彼の下でもだえる彼女が衝立の下半分に隠れても、彼女が乱れていくさまが思い描けてしまいます。彼女のあられもない……しかし鬼気迫る……姿に魅入られたように、衝立に視線を吸い付けられたままになります。

 

 それらがどれほど続いたのか、時間が飛ばされてしまったかのようにあやふやです。延々と彼女に襲いかかる責めは、連子ごしでこちらがこれだけ息苦しくなったのですから、実際に体験した彼女はどれほどの責め苦だったでしょう。やがて彼女がほとんど沈黙したように静かになります。苛烈な責めを受けて歪むことがあっても女優らしい気品をたたえていた彼女の顔が、すっかり悦楽に染まってだらしなく緩んでいます。彼女の体も、もう自分の意思で動かせない、とでも訴えるようにぐったりとしています。

 それでも彼の責めは続きます。もはや意識も朦朧としている彼女に対して、彼は長襦袢の襟をはだけて胸をあらわにしたようです。彼女は抵抗どころか、彼の手が乳房を揉みしだくのに合わせて腰をくねらせています。乳房が、あの手の中にすっぽり収まるボリュームと形で、その先端が……もうニプレスがあってないようなぐらいに……いやらしくピンとしこりたっていて、彼女がどれだけ興奮しているのかがわかります。彼はその先端を指のはらでこすり、つまみ、しごき、押しつぶして、またもてあそんでいます。

 彼女はもうほとんど意識もないなかで、乳房をいじられるたび胸やお腹をぴくぴく震わせ、くちびるから吐息かヨダレかを漏らします。

 さらに彼が彼女の体を抱き起こし、長襦袢を引き裂きかねない勢いでめくって、後ろから抱きかかえます。

 その体勢でまたも責めはじめます。彼女は彼のヒザ上に乗せられ、後ろから抱きすくめられて胸をもみくちゃにされ、耳やうなじを甘噛みされています。体位が変わったのが効いたのか、いま目覚めたようにもだえています。身体をくの字に折って、どこにそんな力を残していたのかと思うほど必死に逃れようとして、彼を押し留めようとするあの細い腕が筋張って見えるほどです。

 

『か、はっ……ひゅ、ふっ、きゅ、ぅ……っ!』

 

 けれど彼の手がお腹や下腹部を這いまわって、あそこらしきところまでかきまわされます。彼女の体が震えたり震えなかったり不規則なのが、本当に耐えられるギリギリのラインなんだ、という印象です。彼の手が彼女の脚を強引に広げさせると、それだけでぷじゅっと水が噴き出るような音、あふれた愛液が太ももを滴っていくのまで見えるようです。

 彼女が名状しがたい声音を、艶めいた悲鳴やうめきを往復しているような声を上げます。すっかりほぐれているらしく、やがて彼の上で自分からこすりつけるように前後に揺れ動き始めます。彼女の瞳がいつのまにか奇妙にぎらついていて、行為の激しさでとうとう彼女が壊れてしまったかのようです。

 時折彼女が白目をむきかけ、体をがくんとのけぞらせます。ほとんど絶頂しているようですが、体が落ち着く間も与えられず彼から責め立てつづけられます。いっぽう彼も、手つきや息遣いにあった余裕を失って、肉欲や快楽と言うよりこの行為を終わらせるためにひたすら動いている風情です。

 その何回かの抜き差しで、彼女がまた静かに絶頂したらしく、彼の腕に爪を立てて震えだします。あまり激しく爪を立てているせいか、襦袢の白に彼のものらしき赤黒い血じみがいつのまにかぽつぽつ落ちていました。

 

 その血じみがじわじわにじんでしまったころ、彼が場違いなほど大きなため息とともに、ついに動きを止めました。そこでカットがかかっていたはずですがよく覚えていません。スタッフの誰かが「ラブホのバイトでもここまでの後片付けなかなかしませんでしたよ」とかぼやいていたのが妙に記憶に残ってしまって。

 後日、監督が「小娘の演技合戦にまんまとのるとか大人げないのこれきりにしてください」とかいう説教だか苦言だかを、わざとらしいほど多くの人に聞こえるよう彼に呈していました。それで済ませるのもどうかと思うのですが……そのように、たくさんの人が知っていたはずです、でも、みんなどうにも知ったことを信じられなかった……まるで呪われたみたいに。

 

 

 

 それよりあとのことは完全にウワサだと思います。

 例えば、彼が撮影の後に彼女を呼び出して、道具を使って彼女を責め立てて、そこで『感じて……なんか、いません……』って演技を強いつづけて、そこで使っている道具も、やれ電動マッサージ器だのピンクローターだの筆だの、なんだのと話のバリエーションが豊かです。

 

 彼女は一度覚えさせられた快楽を呼び起こされ、しかも衆人環視でなくなったことでより激しく感じさせられ、快楽に抵抗し苦しませられる。何度も太ももを閉じようとして、隙間に愛撫が入りこんで快楽に塗り替えられてしまう。ぷしっ、ぷしっと飛沫を上げて、濡れそぼったあそこをひくつかせてしまう。身も世もなく彼にしがみつく。はしたない声を彼だけに聞かせてしまう。

 

『ぁ……だ、めぇ……も……っお、っ……!』

 

 ぐじゅぐじゅにされたところに逸物を突き立てられ、簡単に絶頂に追いこまれる。ぶちゅっぶちゅっと凄まじい愛液を漏らして泡立たせてしまう。歯を食いしばって必死に耐えようとしても、彼の腰使いに抗えない。腰をつかまれ、一分の隙間もなく腰を密着させられたまま、奥の奥を追い打ちされる。子宮口と鈴口がぴったり密着してしまう。

 

『あぐ、く、うううああっ……! ふ、深すぎ、で……うぅー……ぅ……!』

 

 さらにどろどろに煮えたぎるような精液を注ぎこまれ、絶頂で痙攣しきった膣内を蹂躙されてしまう。そのたびに彼女の体と心が快楽に屈して彼を受け入れていく。彼の愛撫や挿入を彼女の体が覚えこむまで続けられてしまうとか、彼女が拒めば拒むほど興奮してしまうように仕向けるとか。快楽を受け流そうにも、下腹から手足の指先まで熱く甘く痺れた体が彼の責めをよろこんでしまう。達しても達してもまったく癒えることのない熾火が彼女をいじめる。

 理性では嫌悪と恥辱しか感じないのに、彼に淫らなことをさせられていると思うとそれがどうしようもなく気持ちよくなる、そうされてしまう……人間なら嫌なことにも慣れてしまいます、ありがたくも恐ろしいことです……激しく動かされ、弱いところをさらけ出されこすりつけられ、彼女の中が弾けて変わってしまうまで幾度となくそれが繰り返される。

 

『んぐぅうっ、ううゔっ……! か、はぁっ、はぁっ……!』

 

 彼女から彼への愛撫も仕込まれて……その根拠は皆無ですが話では決まって口淫です……表情も舌も歯も女優としての商売道具で、それを使って奉仕させられる。きっと最初は不慣れでつたなく、何度もやらされるうちに、彼の弱いところやよろこぶことも覚えさせられる。

 彼が彼女の口内に逸物をこすりつけたり精を放ったりする。そのたび彼女は目を白黒させてもがき苦しむ。まだ嫌でたまらないのに、強引に口内をかきまわされると舌が動いてしまう。彼がもっとひどい反応を求めてきて、すがるようにフェラチオしてしまう。彼も歳に似合わぬほどたくさん射精しつつ逸物をしぶとくそそり立たせて、彼女に何度もノド奥まで飲み干させる。

 

『ぷふぁ、ん、もっ、んむぐ、んんんっ……!』

 

 彼女に口淫や手淫を仕込みながら愛撫をしていたことも。しつこく絶頂させられながら精子を飲まされるうち、敏感になった舌に精液をとろとろ受けさせられると味や匂いに反応して体を疼かせてしまう。最中に彼が彼女のおっぱいやあそこを責めて、彼女が達するのに合わせて射精した精液を飲ませたり、もっと器用なら射精そのもののタイミングまで彼女の絶頂にかぶせるとか。彼女は条件反射で彼の精を飲めば達してしまう体に変えられてしまう。そこまで冒涜的なことをするのもありえないと言えない。

 

『ぁ、ああっ、う、く、ぐぐ、ふぅううっ……! ぃ、く……っ……!』

 

 彼女は彼の責めを、心の底からはもう拒みきれなくなる。彼が拒まれるともっと執拗に濃厚に快楽をよこしてくれるので、それを肉体が絶頂という形で受け入れてしまってから、彼女が拒むのとねだるのと境目が溶け落ちてしまって、彼女自身でも求めている気になってしまう。どう反応しようが快楽で押し流され、その痴態を彼に抱かれた中で何度も披露させられる。体のどんな場所も、彼なら気持ちよくしてくれると錯覚してしまう。取り返しがつかないほど堕落させられて、抗うことさえ考えられなくなる。だから彼女は、いまでも彼の前では女優ではなく、ただの女に……。

 

 

 

 ……ウワサですよ、このあたりは、完全に。それを保証する意味もないし保証できる立場でもありませんが。

 少しは止めるべきだったのでしょうが、しかしもう手遅れです。いまとなっては、彼女に一切合切を知らんぷりしてもらうしかありません。

 そういえば彼も口をつぐんでいます。まぁ、彼に黙っている理由こそあれ喋々する理由がありません……ひょっとして、「小娘の演技合戦にまんまと」のってしまったのがよっぽど堪えたのでしょうか……男として彼女をどれだけむさぼっていたとしても、役者としてやられっぱなしなのは変わりませんし。

 

 

 

(おしまい)

 

 

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