「な・・・何をバカなことを言ってるんだティア。そんなわけないだろうが。親に向かって言う冗談ではないぞそれは」
クレウスは若干どもりながらも、苦笑いを浮かべながら言い繕った。
だがセレスティアは止まらない。
「私は知ってるんだ。パパは冒険者時代同じパーティーだった斥候のくノ一や、ハーフエルフの魔法使いとまだ切れてなくて関係が続いて」
「わーーーーーーーっ!!」
慌ててセレスティアの口を塞ごうと近づこうとするのを、ガシッとウィンクがクレウスの首根っこを捕まえて阻止をした。
「ウィ・・・ウィンク・・・?」
クレウスは振り向いてウィンクの表情を伺いたかったが、恐怖心がそれを阻害して硬直してしまい、微動だにすることも出来ない。
そのリアクション、そしてセレスティアの口にした浮気相手にも心当たりがあったがために、ウィンクはセレスティアの言っていることが真実であることを確信した。
「クレウス・・・どうこうことなの?」
ウィンクの問いに、クレウスは「違うんだ」と言おうとしたが、あまりのウィンクの迫力に口を噤んだ。
「ティアが言ったことは事実なのね?」
裏付けを取られたら、どう誤魔化してもいずれバレる。クレウスは涙目になりながら「ごめんなさい、どうしても情が捨てきれなくて」とだけ謝った。
次の瞬間、ウィンクより遥か大柄なクレウスの体が力いっぱいぶん投げられ、勢いよく壁に叩きつけられた。
ガシャアアアアッ
クレウスが打ち付けられた壁にヒビが入り、振動で天井からパラパラと埃が舞い落ちる。
ベティ含めた荒事に慣れた使用人達一同は顔を真っ青にして硬直し、セレスティアは無表情・・・と見せかけて僅かに笑みを浮かべながら、クレウス達を見つめている。
「てめぇクレウスぅぅぅぅ!!あの女達とは切れたって言ってたよなぁぁぁぁ!!?これで浮気何回目だおらぁぁぁ!!」
普段は言葉遣いがしっかりしているウィンクが、セレスティアと同じような口調で激昂した。
普段は落ち着き払った態度を崩さないウィンクが、悪鬼羅刹のような表情で刺すような殺気を振りまいている。
怒りがゲージを振り切り、一切の精神的余裕を失うとウィンクはこのように豹変する。
クレウスも使用人一同もそれがわかっているため、ウィンクがこうなったときは萎縮して誰もが動けない。
ガスッ
ウィンクの前蹴りがクレウスの顔面を捉え、クレウスの鼻がへし折れた。
「今度やったらきっついお仕置きするって言ったよなぁ?返しとイボ付きのディルドーでてめぇのケツを掘ってやっかぁ!?雌にしてなれば他の女に発情しなくて済むようになるかもだしな!あとドングリを20個くらいケツに詰めてやんよ!中で虫が湧く恐怖に怯えて震えて眠れ!ハイクをよめぇぇ!!」
「ま、ままま、待ってくれ!ケツ、ケツだけは・・・っ」
クレウスの懇願を聞かず、ウィンクはクレウスの髪をむんずと捕まえ、そのままズルズルと引きずっていく。
向かっていく先は「お仕置き部屋」という札の掛かった部屋だった。
その部屋に入ってしまえば、当分は帰ってこられない。そして出てくるときは新たなトラウマを刻む時であることを知っているクレウスは、半泣きになりながら誰かに助けを求めようと視線を巡らせる。
「フッ」
クレウスの目に、ゲス顔で笑みを浮かべるセレスティアが映った。
「・・・ハッ!」
次の瞬間、クレウスは唐突にセレスティアの狙いに気付く。
「諮ったなティアーーーーッ!!」
セレスティアの思惑に気付いたクレウスは叫ぶが、その口はウィンクの手によって塞がれる。メキメキ、ミシミシと顎から音を立てながら、凄まじい握力で締め上げられ、呻き声すら上げられずにクレウスは「お仕置き部屋」に連れ込まれた。
バタン・・・
扉が閉まり、「お仕置き中」の札がかかる。
セレスティア以外の誰もがクレウスを憐れんだが、「もういい加減学習して浮気すんなよ」という思いもあるために複雑だった。
シン・・・と、僅かな時間沈黙が場を支配したが、それを破ったのはセレスティアだった。
「じゃあ、そういうわけでオーバーキルはすぐに私についてこい」
何事もなかったかのように言うセレスティアに、躊躇いがちにオーバーキルの男が訊ねる。
「お、お嬢・・・ほんとにいいんですかい?その・・・事が事だけに、あとでとんでもないことになるかもですが・・・」
オーバーキル達は事前にセレスティアからシュウ救出について話をされていた。自分の大切な人のために、どうしても力を貸してほしいと。
両親は反対するだろうが、どうにか黙らせると。
話を聞いたオーバーキル達は慕うセレスティアの頼みに対し、どうにか力になりたいとは思ったが、まさか父親の浮気をネタにして両親を争わせ、セレスティアを止めるどころじゃない状況にするとまでは考えなかった。
セレスティアはクレウスの浮気について以前から知っていた。
特に告げ口するつもりもないし、男なんてそんなもんでしょくらいにしか考えていなかったが、何か有事の際に使えるかもしれないとネタとして温存していたのだ。
自分の目的のためなら父親の下半身事情すら利用する、セレスティアはそんな恐ろしい女だった。
そのために父が雌にされたとしても、それはそれで仕方がないとすら思っていた。
「私が懲役くらおうが、ダーリンのためなら構わねぇよ。行くぞ!」
こうしてセレスティア・アドネイドという嵐のようなとんでもない女が、愛するダーリン・・・シュウのために動き出したのであった。