さて時は戻りシュウ達の逃走劇である。
シュウはオーバーキルを通じてセレスティアから渡された回復薬を惜しみなく使い、ホワイトキングを回復させて帝都の中を再び駆け出していた。
全力で駆けている馬上では魔法でフローラの意識を回復させることは出来ないので、一先ずは落ち着けるところまでと急ぎホワイトキングを駆るシュウ。
だが、恐ろしいフローラの意識がない内がチャンスであるとばかりに、教会の聖騎士団も必死に制止に入ろうとする。
「止まれ貴様・・・らぁっ!?」
しかし、シュウ達の行く手を遮ろうとする聖騎士達は、誰もがどこかしらから現れるトンプソンの構成員に襲撃され、その動きを阻止されることになった。
「な、なにをする貴様らーっ!」
「ぐあーっ!?」
オーバーキルのみならず、トンプソンの構成員は元冒険者や元騎士など戦闘経験者が多く、現役の聖騎士とて不意に襲われれば一たまりもなくねじ伏せられてしまった。
というか、不意打ちなどの泥合戦になればトンプソン構成員の方が有利ですらある。
「貴様ら、どうなるかわかってるん・・・ぐあっ!?」
「教会が黙っていな・・・ぎゃあああああっ」
聖騎士からしてみれば、トンプソンとは互いに良感情は抱いていなくとも、帝都の勢力バランス的に直接の衝突だけは絶対起きるはずの無かった相手であり、トンプソンからの襲撃はまさに寝耳に水。
突然の事態にろくに状況の把握も対処も出来ぬまま、聖騎士達は次々と制圧されていった。
「てめぇらには日頃からムカついてたんじゃあ!!」
「いつもお高く止まりやがって!」
「俺のモノをしゃぶれ!このドぐされがぁっ!!」
トンプソンの構成員の中には、普段教会の威厳の振りかざして街中で偉そうにしている聖騎士団のことを気に入らない者が多い。
セレスティアの命令によって、トンプソンの構成員達はシュウの帝都脱出をサポートするよう動いているが、ここぞとばかりに聖騎士達に日頃の鬱憤を晴らしている者が多かった。
熱が入りすぎて余計なことまでしている者までいた。
「・・・ナンデ?」
馬上から聖騎士団がトンプソンに襲撃されているのを眺めながら、シュウは首を傾げる。
自分の行く手を阻むと思われていた聖騎士達が、何故かトンプソンに襲われて阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。トンプソンが自分を助けてくれているのだけはわかるが、理由がもうさっぱりわからない。
「ま・・・いいか」
シュウはこの日だけで様々な超展開を迎えており、既に精神は限界に到達しかかっている。
だから考えるのをやめた。帝都内は既にちょっとした内戦状態に陥っていると言える状況だが、きっと自分の知らぬ何か大いなる意思が働いている結果なのだろうと適当に考えて終わり。
その大いなる意思が、もろに自分に関するものであり、とても大きな借りを作っていることなど気付くはずもない。
『逃走ルートはこちら!』
『この先1km左折』
『おいでませ郊外』
『この先抗争中。右によれ』
トンプソンの構成員達は、予めルート上の聖騎士達の排除した上で、シュウに見えるように札を掲げて逃走ルートのガイドをした。
考えることを放棄したシュウは「親切な人達が助けてくれている」程度に思い、その異様さに気付かない。
かくしてシュウは、トンプソンの手厚い・・・手厚すぎるヘルプを受けて順調に帝都を脱しつつあった。
・・・が、最後の最後にシュウの前に立ちはだかる影があった。
「・・・来たか」
クレウス・アドネイド。
セレスティアの父である彼は、顔中に引っかき傷をつけながらも、大剣を片手に堂々と進行方向上に立っていた。
「親として、一度だけでもティアの選んだ男を見定める機会が欲しい」
ウィンクの折檻を受けていたクレウスは、そう言って一時的に解放してもらっていた。
浮気をぶちかましておいて「親として」などと普通言えるセリフではないが、クレウスの真剣な表情に圧されたウィンクは「わかったわ・・・ケツにディルドーはそれが終わってからでいいわ」と、それを許可した。
「悪いな、ここでお前は終わりだ」
クレウスは虚ろな目でぶつぶつと呟きながら、大剣を構える。
荒くれ冒険者時代、クレウスはこの得物でどんな強固な表皮を持つ魔物も両断にしてきた。彼は今、その魔物達と同じようにシュウを真っ二つにしようと考えていた。
「すまん!ティアの男をテストしようとしたらぶっ殺しちまったわ~(すっとぼけ)」
などと言って婿候補をつい殺害してしまったという超展開に持っていき、その混乱のどさくさでウィンクの怒りが覚めるのを待とうとしていたのだ。シュウをテストする気などさらさらない。
流石にトンプソンの構成員もこれはイレギュラーで、止めるわけにもいかずに困惑していた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
クレウスの必殺剣『斬岩両斬剣』を繰り出すときの動作であった。
これによって繰り出される強烈な一撃は、剣風だけで対象を真っ二つに出来るだけの威力があり、正しく「必ず殺す・・・必殺技」である。
カッと目を見開いて、クレウスがシュウを睨みつける。
「殺る!」
クレウスは大剣を持つ手に力を込め、攻撃モーションに入ろうとした。
「くらえぇぇぇぇ!!我が最速最強究極超必殺剣、斬岩両ざ・・・わっぴ!」
グシャッと、クレウスの必殺技が発動する前・・・否、技名を叫んでいる途中でホワイトキングの蹄がクレウスの頭を粉砕する。
ホワイトキングは通常の馬より遥かに大きい。故に走行速度も遥かに速い。
クレウスは迫るシュウ達に対して通常の馬の速度で計算してしまい、ものの見事に技の発動タイミングが遅れてしまった。
「おいあのオッサンなんで出てきたんだ?」
「さぁ。馬鹿じゃねーの?」
ギャラリー達はただ現れて踏みつぶされただけのクレウスを見て、しらけた目を向けていた。