「・・・はっ!?」
『光の戦士達』のリーダーにして、人類の希望と呼ばれる勇者であるライルは、仲間であるサーラの剣によってずっと失っていた意識をようやく取り戻した。
「勇者なのにずっと眠っていたんかい」と言えるかもしれないが、ライルを今の今まで眠らせていたのは、剣聖と呼ばれたサーラの斬撃。普通なら死んでもおかしくないほどに容赦のない攻撃だった。
死なないだけでも「流石勇者」と賛辞を受けてもいいだけの奇跡である。
「ここは・・・」
ライルは周囲を見回して困惑する。
彼が目を覚ましたのは、うす暗い部屋のような空間だからだ。
「確か僕はサーラに・・・うっ?」
徐々に意識がはっきりし、サーラに背後から斬られたところまで思い出しかけたところで、ライルは自分の体がベッドに鎖で括り付けられていることに気が付いた。
「な、なんだ!?どうしてこんなことに・・・??」
すっかり困惑し、鎖をじゃらじゃら言わせていると、そこにフッと人の気配を感じ、ライルはそこへ視線を移す。すると、無表情で立っているアイラがそこにいた。
「アイラ!丁度良かった。今どういう状況なのか説明してくれないか?何このプレイ?」
ライルはアイラに説明を求めたが、アイラは僅かに目を細め、少し考え込むような素振りを見せてから、やや間を置いてから口を開いた。
「勇者様、落ち着いて聞いてください」
神妙そうな声で言われ、ライルはピタリと動きを止めて話に耳を傾ける。
「まずここは憲兵団の留置所。あなたが寝ている間に、サーラ、アリエス、レーナは帝都で騒ぎを起こしたのちに逃亡。勇者様は責任を問われて勇者特権を凍結され、逮捕、拘束されています。勇者特権に関してはこのまま剥奪されるかどうかの瀬戸際で、まぁはっきり言って大ピンチです」
「・・・・・・・・・・は?」
目を点にしているライルに、アイラは躊躇いがちに続けた。
「そしてシュウと聖女フローラは帝都から逃亡で行方知れず。あなたがサーラに斬られて気を失ってから今までかかった時間は・・・16時間です」
シュウとフローラ、この二人の名を聞いてライルの意識が猛烈な速度で覚醒する。
二人の逃亡。そして、自分はその間16時間も眠ってしまっていたこと。
そしてよくわからんがサーラ達の暴走の末に、自分は破滅の危機。
ライルを刺激する情報のオンパレードに、もはやこんなの落ち着けという方が無理だった。
「どういうことだーーーっ!アイラ説明してくれっ!!イミワカンナイ!!どうしてこんなことになってるんだよっ?!」
体を拘束する鎖を鳴らしながら、ライルはアイラに食ってかかる。
アイラはふぅとため息をついてから、ライルが落ち着くのを待って答えた。
「多分説明しても理解しきれないと思いますので、これから実際にあったことをご自分の目でご覧いただきます」
「は・・・?どういうことなの?」
唖然とするライルに対し、普段無表情なアイラがどこか誇らしげな態度で微笑を浮かべて言った。
「こんなこともあろうかと、独自に編み出しておいた魔法があるのです。私自身が目で見たものを、映像化して他者に見せることが出来る魔法をっ!」
アイラはここで目を瞑ってしばし小声で詠唱する。十数秒経過したところで、カッと目を見開くと・・・アイラの目が強く光りだし、彼女が見つめる近くの壁に何かを映し出した。
「何それキモイ・・・って、あれは・・・!」
壁に映しだされたのは、16時間前・・・ライルがサーラに斬り伏せられた直後だと思われる映像だった。
「私が見たものをそのまま映し出しています。見とけよ見とけよー」
新魔法の披露でテンションの上がっているアイラに促されるまま、ライルは映像を見続けた。
周囲を巻き込むような大技を使ってでも、シュウを捕えようとする凶行の数々。(これはライルもやろうとしたが)
シュウに対する愛や昏睡逆レイプ(?)の告白。
レーナの真実。
それらを見て、ライルはあまりのことに開いた口が塞がらない。
何これ?どこからツッコめばいいの?と言う感じだった。
サーラ達がオーバーキルから総攻撃に遭っている様を最後に『 ~ Fin ~ 』という文字で締めくくって映像が終わる。
「この後、シュウと聖女フローラは帝都を脱出しました」
アイラの補足説明を、ライルはプルプルと震えながら聞き、そして激昂した。
「っていうか、どうして見ているだけで止めなかったんだよ?!」
アイラは現場にいながら、一切シュウとサーラ達の悶着に干渉しなかった。そこをライルを怒ってる。当然といえば当然だが・・・
「映像見てましたか?あのイカレた女達の凶行を。あそこに介入するなんて自殺志願者です」
アイラの反論もまた、もっともだった。
が、自分の知らぬ間に一瞬にして全てを失いかけているライルが、それを大人しく飲み込めるはずがない。
「だからって!おかげで『光の戦士達』はパーティークラッシュの危機になったんだぞ!!」
「もうクラッシュしました」
「まだ何とか出来るはずだ!今すぐ、今すぐ僕を解放しろぉぉぉぉぉ!!」
力いっぱい叫んだライルは、ここでふとあることに気が付いた。
「あれ・・・?僕は捕まっているのに、どうしてアイラは自由にされているの?」
見るとアイラはライルと同じ部屋にはいるが、ライルと違って拘束されているわけではなく自由に動けるようになっている。
「私は帝都で暴れていませんから事情聴取だけで済んでいます・・・というのもありますが、いろいろと勇者様達とは別に私は私でコネを持っているのです。そのコネを使って今、どうにか自由に動けています。今こうして勇者様と面会出来ているのも、そのコネを使ってです。ですが、長い時間はいられません」
ここでアイラはずいっと顔を寄せ、神妙な声で言った。
「いいですか勇者様。勇者様はこれから騒乱罪を軸としたあらゆる犯罪の容疑者として、憲兵団の取り調べを受けることになります。その次は聖騎士団からも引き渡し要求がされており、この両方からの取り調べだけで何年かかるかわからない状態です」
「・・・は?」
容疑者?勇者である自分が容疑者・・・?
ライルはアイラの言葉の意味が理解できなかった。
「そしてまともにいけば裁判でも有罪。それをこれから私がコネなどを使って強引に何とかし、勇者様の自由を掴み取ります。いいですか?取り調べには何を聞かれても黙秘、絶対に罪を認めたりしないでください。何があっても、です」
反論したくても出来ない有無を言わせぬ雰囲気がアイラにはあった。
ライルが思わず頷いた瞬間、バァン!と部屋の扉が乱暴に開かれる。
「時間だ」
現れたのは憲兵だった。
「それではこれから大変でしょうが、どうか私を信じて待っていてください」
アイラは入れ替わりに部屋をサッと出ていく。ライルは返事をする間すらなかった。
「さぁて、取り調べの時間だぜぇ?かわい子ちゃぁん・・・」
「へへっ、その前にいろいろと身体検査しなくちゃなぁ・・・」
憲兵達(?)が舌なめずりをしてライルを見下げる。
ライル自身は状況を理解する間もなかったが、彼にはこれから地獄がやってくるのだった。