アイラが去ったのち、ライルはすぐに取り調べを受けることになった。
手枷をはめられ、鉄球付きの足枷を引きずっているライルの様は容疑者というよりももはや囚人である。
そんなライルを取り調べ室へ迎えたのは、白髪交じりの初老の男だった。
「ンッフフフフフフフ(^ω^) 初めまして勇者ライルさん。私はイスイ。本日取り調べを担当させていただきます」
柔和な笑顔で迎えるイスイ。
だが、ライルは聞こえているのかいないのか、俯き気味でぶつぶつ独り言を言っていた。
「やめてくれ・・・そんなとこには何も隠してない、だからほじくったりしないでくれぇ・・・」
取り調べ室に連れ出される前、憲兵からあれこれいじめられたライルは、逮捕されていることの不安も重なってすっかり心が弱っていた。
「ンフフフフ(^ω^) おやおや、ウチの若いのは仕事熱心でね・・・どうしても行き過ぎてしまうときがあるんですよ。申し訳なかったですね」
そんなライルを見つめて笑みを深めるイスイ。
優しそうな人だ・・・と、ライルはイスイを見て思い、少しだけホッとする。この人なら話が通じるかもしれない、と淡い期待を抱いたのだ。
だが、ライルのような弱った人間を前にして満面の笑みを浮かべるような人間が、果たして善人であるかと言われると怪しいものだ。
実際、イスイは表情こそ笑顔だが、目は笑っていなかった。
「どうしてもライルさんのような重罪人が相手だと、熱が入ってしまうのかね。まぁ、そこは言い聞かせておきますので」
「えっ・・・」
『重罪人』という言葉に、ライルは唖然とした。
ライルは勇者だ。冒険者としての数多の功績を評価され、帝国から『勇者』の称号を得て、あらゆる特権を得ている本物の英雄。
そんな彼にイスイは『重罪人』と言ったのだ。ライルの解れた心は再び乱される。
「騒乱、動物虐待、器物破損、傷害、放火、公務執行妨害・・・ザッとでもこれだけ挙がります。文句なしに重罪人です。私ももうすぐ引退なんですが、ここまでの悪人は担当したことがない。しかもそれが『勇者』なのだから驚きですよ」
あっはっはっはと大声を上げて笑うイスイ。ライルは笑えるはずもない。
「僕はそんなことはしていない!」
「いやいやいや、サーラさん、アリエスさん、レーナさん、皆さんライルさんが率いる勇者パーティーのメンバーでしょう?彼女らが犯した罪への罰則は、あなたが全部背負うことになるのですよ。ご存じでしょう?」
「えっ?」
「ンフフフフフ(^ω^)ご存じない?困りましたねぇ」
イスイは説明した。
『勇者』には帝国からあらゆる特権が認められる。
銀行からの融資を好条件で受けられたり、国の施設のほぼ全てを自由に使用出来たり、皇帝への謁見も最優先で認められたり・・・そして何より、不逮捕特権というものがある。
憲兵時により上位貴族以上の恩恵を受ける。
だが、特権が認められる代わりに、制約もある。
その一つが、厳しい任命責任だ。
その一つが、『勇者』であるライルが率いる冒険者パーティー『光の戦士達』のメンバーは、ライルの責任の元に厳正に選出しなければならないということ。
これは『勇者パーティー』の名を悪用する者が現れないようにするためだが、万が一にメンバーが犯罪や問題行動を起こした場合、その責任を勇者であるライルが取らなければならないのだ。
特権を持つライルが率いるパーティーのメンバーは、自動的にその恩恵を受けることになる。だからそのメンバーが特権の悪用などせぬよう、人選には絶対に間違いがあってはならない・・・そのための制約だ。
「貴方が選んだメンバー、サーラ、アリエス、レーナは多くの罪を犯しました。それも今後の帝都に影響するだけのものを。事態の重さを見て、陛下はライルさんに与えた特権を凍結しました。故に、不逮捕特権も凍結。特権が凍結された今、ライルさんはメンバーが犯した罪を代わりに償わなければならない状況にあります」
「・・・」
ライルは言葉が出なかった。
イスイはそんなライルを見て「フッ」と意味深に口角を上げて続けた。
「それとなんですが、今回の事件を受けて『光の戦士達』の拠点を憲兵団が家宅捜索させていただきました」
「な・・・なんだと・・・?」
「そこで見つかったんですよ。香だの薬だの、禁忌とされている物の存在がいくつも」
「なっ・・・」
ライルの顔が青ざめる。
レーナが焚いていた香・・・そしてアイラの映像でアリエス達が言っていたシュウに盛った薬・・・ いずれも確かに単純所持すら禁止されている物である。
「ライルさんの物なのかメンバーの物なのかわかりませんが、いずれにせよ処罰は貴方が負うことになります。斬首を避けられたとしても、生涯監獄か強制労働に処されるのではないでしょうか?まぁその前に刑が確定するまで何年かかるかという」
「ま、まままま待ってくれっっ!!」
イスイの言葉に驚愕したライルは、慌てて彼の言葉を遮った。
「・・・確かに何らかの行き違いか何かで、今、僕がとても怪しい立場にいることはわかる。
本来ならば、しかるべき捜査をして、そして裁判にかけられるべきだ」
「そうですね」
キリッと真面目な表情を作って述べるライルに、イスイは頷きながら相槌を打つ。
「でも・・・それじゃあまずいんじゃないですか?」
意味ありげにニヤリと笑みを浮かべ、ライルはチラリとイスイに目を向けた。
「僕は『勇者』ですよ。魔王を倒せるとまで言われている、人類一の有望株の勇者なんです。そんな僕がこうして憲兵に拘束されているのは、いろいろとまずいんじゃないですか?僕達に期待を寄せている人達は納得しますか?それに魔王はどうします?」
イスイは黙ったまま聞いていた。
ライルは笑みを深めて更に畳みかける。
「僕がここで拘束されていて良い事は何もない。いろいろ行き違いはありましたが、その辺はどうにか飲み込んで僕を解放するべきだと思いませんか?」
ライルは『勇者』として認定されてから、その強権にただあやかってきただけではない。実際に期待に添えるだけの実績は築いていたし、これからも築くはずだった。そんなライルを問題を起こしたからといって拘束することは、人類にとって大きな損失になる。
まずは一時的なり監視付きなりの条件付きで良いから憲兵団から解放され、すぐにでも皇帝に謁見を申し入れる。そうすれば直接説得し、今の状況を何とかして貰えるのではないか・・・そんな考えがライルにはあった。
だが、そんなライルの考えを見透かしたようにイスイは笑みを浮かべると、思ってもなかった言葉を発するのだった。
「残念ですけど、前からライルさんの評判は良くありませんでしたからねぇ。ここぞとばかりに厄介払いしようとする動きのが主流ですし、もうあなたの再起は絶望的なのでは?」
「は・・・?」
ライルは思考が停止した。